図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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報道

「なかなかおもしろい改良をしているじゃないか」

 

「あ、この(インク)の配合なら油果から取った油を数日放置して上澄みだけ使うのがいいです」

 

「いや紙に合わせてあるんだろ。なら成分は変えるべきだ」

 

何人かの印刷物管理局の局員がわちゃわちゃと印刷設備一式を見る中、新聞発行の準備をしていた青年は苦笑いを浮かべていた。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、本職の人がやってくるとは……」

 

「別に本職というつもりもないんだがね?」

 

局員の一人から声が飛んでくる。確かに誰一人として印刷機の専門家はいない。私だってそうじゃない。けれども印刷機に関して言えばこの城邦どころか世界で有数の技術者である。やはり細分化と専門化は必要かもしれないな。

 

「で、作ったものは?」

 

「これだ」

 

明後日の日付がある、裏表印刷の紙。裏写りは少ない、と。

 

「『時勢』とはなかなかいい名前だな」

 

中央に題字、上下に記事。独特だが確かにタイトルは目立つ。まあここらへんは色々試していく中で洗練されていくだろう。内容は新聞の創刊を伝え、記事になりそうなネタを募集している横で編集長が独断で選んだ面白い授業をやる講師のリストがあったりもする。ここらへんは前に作っていた冊子とノリが似ているな。

 

「どうも」

 

「定期購読は幾らだい?」

 

「月に銀1枚だ。年なら10枚」

 

銀1枚が日雇い労働者の日収2日分より少し少ないぐらいだから、まあ私のいた世界の相場と比べても数倍の範囲内か。活版印刷の面倒さを考えればかなり安いぐらいだろう。

 

「一部が銅葉2枚だから、まあそんなものか」

 

「今のところ講師から買うという話が来ているな」

 

「おや、どうして?」

 

「購読者限定で一行を銀片1つで売ると言った」

 

「賢い」

 

三行広告のようなものだろう。確かに学徒として講師を探すのは大変だったので学生新聞みたいな側面を持つのかもしれない。

 

「印刷物管理局として、月に銀片3つで3部買おう」

 

「どうも」

 

このくらいであれば普通に本を買うのと同じで出費として認められるだろう。まあ認めるのは私なのだが、出資者に対しての説明責任とかあるからね。会計報告とかもちゃんと作っておかないと。

 

「今払えばいいかい?」

 

「いや、徴収の人を回す」

 

「なるほどね。そういう人も学徒から集めてくるのかい?」

 

「そのつもりだが」

 

新聞配達で学費を稼ぐことができるようになるかもしれないのか。なかなか面白くなってくる。

 

「っと、印刷物に関することをやる以上、管理局の指示はある程度守ってもらいたい」

 

「どういう事を言ってくるんだ?」

 

「印刷を行う部屋の風通しをよくすること、長期労働の制限、あとは文字版を触ったら手を洗わない限り指を舐めたりしないこと、そんなところか?」

 

「……なぜそんな事を?もちろん意味はあるだろうが、あんたら印刷物管理局がわざわざ出てくるほどでもないだろ」

 

怪訝そうに青年が言う。

 

「鉛で病気になったなんてことになって文字版印刷に規制がかかったら困るんだよ」

 

「ああ、なるほど。なら今度文字版の鉛がもたらす病毒について書くか……」

 

一応この世界でも鉛害については知られているんだった。まあちゃんと環境を管理して問題が出る前に活字から離れればたぶん平気だが。

 

「根拠の無いことを書けば普通に流言罪で巡警が飛んでくるからな?」

 

「危ない記事を書いて学徒を路頭に迷わせるのは忌むべきことだと考えるぐらいの常識はあるさ」

 

聞屋(ブンヤ)精神が足りないぞと私の中の反社会的要素が囁くが別にいいんだよ。報道の自由とかが曖昧な以上あまり派手な事が起こっても困る。暴動で焼き討ちされるとかになってくるともう手がつけられないので、そうなる前にどこかで落とし所を見つけないといけないができるだろうか。

 

「もっと危ないことをしないと読者がついてこないぞ?」

 

少し挑発してみる。

 

「そういうのが求められるなら後追いが生まれるだろ」

 

案外真面目である。このまま行くと左派高級紙の方向になりそうだ。最初の新聞がそれでいいのか?まあ必要があれば頭領府の息がかかったプロパガンダ紙が「刮目」の肝煎りで作られるだろう。私としてはこっちのほうが趣味にあっている。あからさまに政治色を出しているところからにじみ出る成分ってありますよね。

 

「真っ当だな。いいことだ」

 

「あんたは俺にどういう物を作らせたいんだよ」

 

「そこに伝えるものがあるって事が重要なんだ。内容はその次」

 

「……なるほどな」

 

そう言って青年は私の隣を離れ、議論をするため局員の方に歩いていった。管理局のことは好きではないらしいが、職人とは気が合うらしい。面白いやつだな。まあ政治的意見が対立していても最低限の基盤があるのはいいことだ。取り返しのつかない断絶が生まれそうならその前に話し合いとかをさせる機会を設けたり、あるいは事態の沈静化のために新聞みたいなマスメディアを使うことをしたいが、実際上手くできるかは未知数なのでやってみるしかない。これと無線通信が組み合わされば面白いことにはなりそうなんだが、それはまだもう少し先かな。

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