「聞き取れる?」
唸りのように響く職人たちの出す声は、たぶんなにかの文章になっているのだろうがアクセントも何も違うのでよくわからない。
「……ところどころ、ですが。神の炎、えーと、その業を見よ?血を以て……」
ケトが翻訳をしてくれる。
「北方平原語?」
「いえ、炎という語の発音からしてたぶん古帝国語に近いですね」
「儀式的な鍛冶か……」
「南の方だとこういうのも全て聖典語なのですが、ここでは衙堂の勢力が強くありませんでしたからね。古帝国の版図の境界でしたし」
髪を編み込んだ少女の持つ松明によって高炉の上から火がつけられる。そして送り込まれる空気。陽炎が見える。
「まあ、夕には最初の
場長が私たちの隣で言う。おっと、脳を北方平原語に切り替えよう。
「このままどれぐらい炉に火を入れ続けるのですか?」
「半月といったところだろう。それ以上は炉が持たん」
かつていた世界では十数年かもう少し持たせていたが、あれは改修費用の問題もあったからな。まったくカネがないのがだいたい悪い。
「……それにしても木のふいごですか。さすが鋼鉄の尾根」
「だろう?」
自慢げな場長。
「どういうことです?」
私に聞いてくるケト。
「大勢の人が踏んでも壊れないだけの質の良い木材を、空気が漏れないほどに削るためにはいい道具が必要になる。材料を知り、適切な加工をしなければ作れない」
「木は革のように柔らかくない分、動かすことで空気を押し出そうとすればそれだけ精密に作る必要がある、と……」
「そうなるね。水車で動くふいごを
「鋳るのですかな?」
「鋳ってから削るのですよ。っと、横
「噂ではな」
「それで作ります。ただ、削る工具のために必要な特殊な鋼がほしい所ですが」
超硬を作るなら炭化タングステンとかか?あるいはコランダムとか。ダイヤモンドは鋼鉄の加工には使えないしな。高温か高圧か、複雑な工程か、あるいはその全部が突っ込まれて工作機械のバイトは作られていたのだ。まず素材集め、の前に元素同定のほうが必要そうだ。
少し薄暗くなってきた頃、赤く溶けた鉄が高炉の下から流れ出し、粘土でできた桶のようなものの中に溜まり始めた。これが転炉になるものだろう。屈強な男二人が担ぎ上げるとなると重さはそれなりのものだろうな。
「送れェ!」
運んでいた人たちが離れて声を上げると、先程高炉に風を送っていたのとは別のふいごが動かされ、その先端が溶けた
「上から送り込むのか……」
私の知識にある上吹転炉はいわゆる
「それで、このまま風を送り続けるのですか?」
私は試すように言う。
「そうすれば鋼を通り越して鍛鉄になるだろうな」
「鍛鉄……槌などで打たれて鍛えられたものでしたっけ」
「そうだな。その途中で鋼となる一瞬を見逃さぬのは修行でしか身につかなかった。故にそのような道具は高値であったわけだ。しかし先々代でそれも変わった」
「
この方法自体はウーツ鋼の製法などで知られていた。不純物に起因する模様で知られるあれだ。合金の材料を混ぜて加熱し、全体が一体になるまで溶かす。しかし一度に作れる量はそう多くない。
「そうだ。よく鍛えた鉄と、炭を混ぜ炉に入れることで鋼を作る。しかし、更に先に行くわけだ」
「……あれ自体が、一つの大きな
私がそう言うと、炭素が除去された鉄の入った容器がまた高炉の近くに戻される。そして溶け出した
「上手く行けば今までと比べ物にならない量が作られる。より大きい吹込
「私が伝えた内容は、ここまでの物を作るのに十分だったとは思えないのですが」
たぶん大量の問題がある。燐や窒素による完成品である鋼鉄の劣化、あるいは寿命の短い炉や
「ああ。確かにそうだった。南方から来た商人に言われて疑い半分で初め、試行錯誤を繰り返した」
「……それでも、一年は経っていないはずなのですが?」
私が長髪の商者に転炉のアイデアを話して、そこからすぐにここに話が来たとしても試行回数は限られる。長い蓄積された経験と、怪しい博打めいた試みに着いてきてくれる多くの人材が必要なのだ。数人の狂人を引き込むことはできても、私はこの場長のように多人数を巻き込むことはできない。
「ああ、今でも完成はしていない。上手く行くためには多くの条件が必要だ。それでも、試さなければ先には進めない」
ニヤリと場長は笑みを浮かべた。