「ええと、炭質と石灰質の結合物が、苦土石を金属性苦土質に精錬して、それが溶け込んだことで鋳鉄内に作られる炭質の形状が変化して、打ち伸ばせるようなものになったと?」
ケトが私の書いたメモを見て、変な目で私の方に視線を向ける。
「結論から言えばね」
そう言いながら背伸びをして、バキバキになった背中を伸ばす。
「というわけで、少し考えるのを手伝って欲しい」
「その前に、僕がこの内容を完全に理解しきれていないんですが」
「はいはい」
というより、ある程度は理解しているのか。恐ろしいことだ。水準としては高校レベルか、もうちょっと上だぞ?
「まず、高炉の中で木炭と石灰石から
「高炉の中でそういうものができるのであれば、もっと知られていてもいいのでは?」
「できるための条件の一つにかなりの高温があってね。そしてこれは反応しやすいから、硫黄質や……んー、まだ分離されていないはずの基質とかを溶けた
そういえばまだ尿を蒸留しようとする人はいないので
「わかりました。つまりは
「そう。で、こうやってできた
「似たようなものは前にトゥー嬢の実験で見ました。
「そうそう。私は見てないけど」
まあ忙しくてトゥー嬢の所に行けなかったのはあるからな。いえ別にケトだけ見せてもらっていいなーとかはあまり思っていませんとも。話を続けよう。
「
「となると、
「たぶんね」
「それで、どうして
「それはね……」
私はゆっくりと息を吸って間を開ける。
「わからない」
「わかりました」
「あれ、納得するんだ」
「知らないにしろ、知られていなかったにしろ、キイさんがわからないと言うならそうなんでしょう」
「もう少し私を疑うべきだと思うよ?」
「それは他の人の仕事です。関わる全員に自分の行動を疑われるのはさすがのキイさんでも辛いと思いますよ?」
「……そうだね。ありがとう」
まあ疑うのにも思考コストがかかるからな。私だって先行研究をつっつくのにも限界があったので一部鵜呑みにしたらそこを指摘されたことがあったし、他人にとやかく言うべきではない。というよりまあ、ケトをそういう方面で心配させてしまったのは問題だよな。安易な解決策はないけれども。
「しかし、なぜわかっていないんですか?」
「んー、一概に言うのは難しいけど一つは具体的にできる様子を観察する方法がないから。あとはそれができる理由がわかったところで得られるものがあまりないから、かな」
「そういうものなんですか」
「うん。もう必要な特性を持つ金属は色々と作られていたから、わざわざ新しいものを作るまでもなかったし……」
むしろ触媒とか磁気特性とか半導体とか、そっちの方に金属系の研究が進んでいた印象がある。まあひどく雑なものだし、私の知識の最終アップデートは高校時代のものだったりするから下手すれば前世紀のものだし。
「とはいえ再現はできるよ。電気分解で作った
「それでいいんですか?」
「いいんだけど、どうやってこれを思いついた事にするかで悩んでいてね……。この合金を作り出した名誉を奪いたくはないし、
「普通にわからなかったでいいのではないでしょうか。使っている鉱物や粘土が原因かもしれない、と言っておけばそう遠くないうちにたどり着くとは思いますよ?」
「……そういうものかね」
確かに発見されるのが遅れたからと言って、その背景に複雑なメカニズムがあるとは限らない。グレゴール・ヨハン・メンデルは実験を適切に設計したことで法則を見出した、あるいは作り出したが、そのある程度は変化朝顔の品種改良の時に意識はされていただろう。歴史から学ぶべき教訓の一つは、そんな教訓を得ようとするのはたいてい徒労に終わるということだったりする。