さすがは職人と呼ぶべきか、私の作業を見て数日旋盤を触ると彼もすぐに慣れて様々なものが作れるようになり、半月も過ぎれば旋盤の総金属化に向けて着実に作業を進めていっていた。そうしている横で私が作っているのは歯車である。基本的には鋳造で、削って調整をした後浸炭焼入れで強度を上げる。インボリュート曲線も使った、それなりの代物と自負している。
「で、ここを切り替えれば回転方向が逆になる」
ある種のギアボックスだ。普段は二つの歯車を噛み合わせることで動力を伝達しているが、途中で一個小さな歯車を挟むことで回る向きを逆にできる。マニュアル車のリバースギアと基本的な原理は同じ。というかトルク比を変えられたりするあたりも完全にそのものだな。なおちょっと強度と加工が怪しいのでギアの変更は停止してからお願い致します。
さて、どうしてこんな変な機構を作っているかというとこれがないと螺子を切れないからだ。あと歯車の比率を変えれば
『ところで、前に言っていた
私が鉄粉混じりの植物油で黒い手を拭いていると、職人が私の前に蝋板と銀色の何かを置いた。数月も改良を重ねているだけあって今では丁寧に仕上げをすれば少し曇る程度の表面性状を出せるようになった。たぶんRa換算で2ぐらい。あー、表面粗さ計はどうだろう、作れるのか?アーネスト・ジェームズ・アボットとフロイド・ファイアストーンのやつは光学系を使っていたし、アナログでどこまでできるものなのだろう。強力な光を当てて光てこ法でやるとか?っと、現実逃避をやめよう。
「これに、嵌まる太さの真鍮棒を……」
私の言葉に職人は手に持っていた棒を見せる。表面にはそれなりに綺麗な、一見等間隔に見える溝が彫られている。ああ、なるほど。実用レベルのダイスか。……手作業で行けるのかこれ?
「キイさん、これが何か説明してくれます?」
寝不足というか疲れが見えるケトが私に言う。
「いいけど、どうしたの?」
「一定の回転速度が必要だからと言われて、ここしばらくずっと頑張ってはずみ車を回していたんですよ」
なるほど。確かにこの部品は雌
「
円盤に円柱形の穴が空き、内側に
「見えます」
「穴と同じぐらいの太さの棒を用意して、そこにこの工具をねじ込んでいく。そうすると棒の表面に凹凸ができるわけ」
「……なるほど。そして、同じ工具を使えば同じ形の
「その通り。この
っと、そういえばここまで丁寧な加工にはなにか理由があるはずだ。
「……どういう工夫をしたの?」
『専用の工具を使った。刃先に角度をつけることで移動ではなく力を込めることに集中できる』
「なるほどね」
『しかし、これでいいのか?』
「というと?」
『求める
「高さはいいとして、幅を調節するためにはまあ少し工夫が要るかな。そこは任せて」
無段階変速機というほどのものでもないだろう。パッと思いつく方法の一つは円錐形の回転軸をベルトでつなぐこと。ベルトの場所を調節すれば比率を変えられるので、いい感じの場所に合わせればいい。まあすでに
『わかった』
職人はそう言って旋盤に向かっていく。さて、私も仕事をしよう。主軸の回転と