図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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体温

寒冷地において、防寒はかなり重要である。一応この北方の地域では下着、中着、上着の分類がある。下着は肌着で、麻みたいな吸湿性の素材。中着は様々だが、私が着ているのは羽毛を詰めた綿入れ半纏みたいな感じのもの。これに上着としての外套を羽織るわけだ。下半身に穿くのも下着と中着があって、上着のかわりになるのが外套。靴も何種類かあるが、ここらへんでよく見るのは底を木で作り、小動物の毛皮で上部分を覆ったものだ。

 

っと、なんでこういう話をするか。寝るときは下着だからである。下着と言っても袖は長いし、タイツみたいなやつはくるぶしまであるし、薄手とはいえ露出はそう多くない。縫製もそこまでしっかりしているわけではないので身体のラインも出ない。蚤とか虱もあるので数日に一度は下着を交換して洗ったりするのでそれなりには清潔なはずだ。まあ裸自体はそこまで羞恥の対象にならないらしいので別にいいのだけれども。

 

「……寝た?」

 

背中ごしにケトの体温を感じながら呟くように言う。

 

「……起きてますよ」

 

小さな声。編んで作られた毛布というか布団というか、まあなんかそういう温かい防寒寝具の重さを感じる。熱源が二人分あるので中はそれなりに温かい。なお下着姿なので夜は外に出られない。暖房がついているとは言え寒いので。一応外套はそばにおいてあるので最悪それを羽織って震えながら行動することはできるけれども。

 

「この天幕の中の、他の人は寝たのでしょうか」

 

「たぶんね」

 

防音性はわからないのでできるだけ小声で。他の人を起こしたくはない。

 

「……外から、音がしますね」

 

静寂に慣れた耳をすませば、遠くから人の声のようなもの。天幕の革とかで隔てられているせいであまり聞こえないが、女性だということぐらいはわかる。

 

「まあ寝る場所を共にするっていうのは、そういう意味もあるんだろうしね」

 

私はため息を吐く。商隊における女性の割合と誰と同じ毛布になるかで揉めていたこととを考えるとまあ、夜伽の類だろうな。雰囲気からしてそういう仕事という扱いなのだろう。ケトも一応ここらへんの事情は聞いたか察したかは知らないがわかってはいるらしい。しかしさすがに男女ペアの旅人、それも商隊にとっては上の方の存在である「鋼売り」の関係者とかとなるとまあ、そういうものには混ぜられないわな。そういうわけで私たちの天幕には妻がいる人だったりそういうのに混ざらない人だったり私たちのような一緒に旅をする人なんかが寝ている。とはいえもうそれなりに夜なはずだ。これでこの後ただまっすぐ進めば良い私たちとは違って偵察やらなんやらで一日中歩き回るのだから凄い体力である。私には無理なので目を閉じて微睡みに入ってしまおう。

 

「……僕も、誘われたんですよ」

 

ケトの言葉で少し意識を戻す。

 

「へえ、そういうのもあるんだ」

 

まあ、ケトが私の隣りにいるということはそれなりに司士見習いとしての自覚とかがあるのだろうか。そう考えるともし私が誘われても断る理由はできるな。まあ雰囲気からして無理強いという感じではなかったし。そりゃまあ本当に本心からかみたいな問題はどこでもあるけど、働きたくて働く人はあまりいないので多くの人は望まない仕事をしていることになる。その中で選んだマシな仕事について、他人がとやかくいうべきではない。それに私たちは部外者なのだし。

 

「……いいんですか」

 

ここで何が、と聞かないあたり私もそれなりにこういうことへの理解がマシになってきた気がする。

 

「君の行動を私の感情で決める事はできないよ。興味があるなら行けばいいと思うし、衙堂の人に黙るぐらいはしておくよ?」

 

「そういう意味ではないんですけれどもね?」

 

んー、外した。まあここらへんの話は具体的な核心を伏せがちだからな。ケトは基本的に私相手ではちゃんとわかるよう言うはずなので、そのケトがわざわざそうしないものに突っ込む必要もない。

 

「私なら不機嫌になるとまではいかないと思うよ。……実際はそういうふうにならないとわからないけど」

 

「いえ、それならこれは僕の問題なのでいいのですが」

 

「いいの?」

 

ケトはそろそろ元の世界だったら酒が飲めるし煙草もいける年齢だ。いや、もう超えたかな?思春期は終えているはず。

 

「禁じられているというのもありますが、あまり興味が持てないので」

 

「まあ、それについては私もそうだけどね」

 

「そう、ですか」

 

意識がふわふわしている。明日には目的地につけるだろうから、冷えた身体をしっかり温めたい。

 

「……こちらを、向いてくれますか?」

 

私は眠いので口を開かず、圧力がかかる中で身体を動かす。下着が毛布とひっついて動きにくいな。繊維の形の問題だろうか。それとも上に重ねた布団のせいか?

 

「ちょっと抱きしめるようにして隙間作ってもらえない?うまく動けなくて」

 

しばらくもぞもぞした後、諦めて私はケトに助けを求める。

 

「はいはい」

 

少し呆れたような、それでも優しい声。腕の中に入る私と同じぐらいの大きさの身体。いや、どっちだろうな。私がケトの腕の中にいるのかも。

 

「そこに腕を入れていると痺れない?」

 

脇の下に入れられた手の体温を感じながら小声で言う。

 

「大丈夫です。嫌でしたか?」

 

「いいや?君がそれでいいなら、そのままにして」

 

「わかりました」

 

外からの音はいつの間にか静かになり、聞こえるのは呼吸音と拍動だけとなった。

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