工学系の素養があるかを知るちょっとした問題が一つ。直径10 mmの丸棒が入る穴を作りたい。さて、穴の大きさは?
10 mmと答えたあなたはあまりよろしくない。ぴったりの大きさというのは非常に作りづらいものだし、完璧に棒と同じ大きさの穴であった場合完全に垂直に入れないと入らない。抵抗もそれなりにあるだろう。
もしここで条件をつけ始めたら工学系ではなく理学系に近い可能性がある。前提を固めるのは重要であるが、それは実際の製品設計にどこまで有用ですか?
ええと、私の考える模範解答ですか?9.8 mmぐらいで作って、ちょっとずつ広げていく。
「入る穴を作るだけであれば、棒の大きさと比べて十分大きければいいのでは?」
ケトが私の質問になんてことのないように言う。
「問題設定が甘かったな……」
純粋にこれは私のミスである。というわけでここに取り出だしたりますは穴の空いた板と微妙に太さの違う棒。
「こっちはすんなり入るけれども、もう一方の方は少し力を入れないと入らないのはわかる?」
「……はい」
ケトが手元で確かめた後に言う。
「この違いはどれくらいかというと……」
作った
「ざっくりと、髪の太さほどでしょうか」
ケトが補正表を見ながら言う。
「そう。逆に言えば、これだけの精度で削りすぎないように加工する必要がある」
「できるんですか?この棒を作るだけでもかなり犠牲が出ていますよね?」
ケトが目を向けるのは机の端に転がる黄銅棒。一応籠に入れて紙のラベルをつけているので再利用は可能だが、何に使うかは何も考えていない。
「そう。では、どうやればいいと思う?」
ケトは少し考え込む。その間に私はこれから先について考える。ひとまず動けばいいとはいえ、ある程度の精度がないとがたついて装置の寿命は下がるだろう。それも自動化する機械となればなおさらだ。修理のためには部品の規格化とある程度の測定装置、あとは地域に一つ万能工作機械みたいな旋盤とフライス盤とボール盤を全部まとめたようなやつを置くことができれば十分だろうか。
「横
口を開くケト。頷く私。
「精密に削るためには、この
「そうだね。それで?」
「つまり、
「基本原理はその通り。簡単だった?」
「キイさんが出した情報の中で使えそうなものを選んだだけですよ。手加減されてこれですから、十分難しいと思います」
「なるほど」
問題が手持ちのカードで解決できることを前提にやるのは受験勉強であるだとか、あるいは色々と制限がついた案件ではたまにやる案件だが常に時間の無駄になる可能性と背中合わせだからな。
「強度が怪しいので、太い軸にしたほうがいい。それと細かい回転を測定するために微妙にずらした目盛りを使う」
「えーとどこかで聞いたような……」
「前にも言ったっけ」
「ああ、思い出しました。不正な尺を使うなと僕が怒ってしまった件です」
「また懐かしいな……」
転移した場所から図書庫の城邦に向かう途中の話だ。
「ハルツさん、元気しているといいな」
「前にもらった手紙では変わりないようでしたが」
「それもそこそこ前でしょう?図書庫の城邦に帰ったら挨拶もかねて色々回ろうか」
「まだ先ですけどね」
「そう思っていると時間は早く過ぎていくよ?」
「……気をつけます」
そう考えると私もケトに向ける視線を少年に向けるそれから後輩とかにむけるそれに変えるべきなんだろうけど。いやむしろ家族みたいな感じになっているからな。長く付き合っている夫婦とかはこういう感じなのかもしれない。
「というわけでこの冬はこの横
「終わります?」
「たぶん終わらないかな……」
私は頭の中で
「基本の発想だけを伝えて、あとはこの工房街に任せるのがいいのかな」
「無責任ですね」
「これを作るだけでも相当大変だったんだよ?それに私は本職は歴史学だし……」
「……そういう人が作っていいものには見えないんですけれどもね?」
ケトが言う。うん。私も思ったよりこのレベルの旋盤が簡単にできてしまったので今更ながら驚いている。まあ詰まりそうなところは先輩がやっていた旋盤の系統研究とかで多少は知っていたからな。
「まあでもこれがあれば色々欲しいものは作れる。顕微鏡の筒をもっとしっかりしたものにして、
「ああ、目盛りの読み取りに
「いいね、在庫あったかな」
そういう類のものもあったが忘れていた。細かい改良の余地がまだいっぱいある。飽きさせてはくれないようだ。