図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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鉱物

「なかなか難しいものだなぁ」

 

失敗した黄銅棒を溶解炉の中の坩堝(るつぼ)に入れながら言う。溶けたらまた型に入れて削るのだ。削り屑の方もまた集めているがこっちは重りとかどうでもいいちょっとした部品とかに使う。変なものが混ざっていそうだし。

 

「何がですか?」

 

水車をぼんやりと眺めていたケトが言う。この水車の回転運動で中央を固定した板をシーソーのように押したり引いたりして風を作るのである。この風は排ガスとの熱交換で予熱された後に木炭の詰まった燃焼室で一酸化炭素の多い気体にして……とちょっと面倒な過程を通って黒鉛と耐火粘土で作られた坩堝(るつぼ)を赤くなるまで加熱する。これを鉄製のはさみみたいなやつで掴んで型に溶けた金属を流し込む。一応水車の動力を使っているので共用設備であり、基本的には交代で使うことになっている。まあ制作に関わった私の使える時間は多めになっているが。

 

「いや、形を似せるのに比べて細かな精度を出すのがって話」

 

回転して削る機構は作れても、それをきちんと動かせるかは別の話だ。問題の一つは刃具(バイト)に使う素材だ。今は鋼を使っているが、金剛石(ダイヤモンド)があるなら使いたい。しかしない。気相成長とかで作れなくもない気がするが、条件を揃えることができる気がしないのでやめておく。

 

「キイ姐さん、いるかい?」

 

たまにこのあたりで見る職人が私に声をかけてくる。

 

「いるよ。何だい、問題でも?」

 

今ある分はほとんど溶けているから流し込むのにそう時間もかからないはずだ。緊急の案件なら後片付けをケトに任せて対応しなければならないが。

 

「あんたに客だ。山渡りって言ってる」

 

「おや、それは会いに行かなければ」

 

しばらく前から「鋼売り」経由で少し会えないかやっていたのだが、ここにまで来てくれたのだ。まあ向こうからしても相当大きい仕事だと見たのだろう。今の時点で銀片数千枚か数万枚か、まあ相当な額が経費として飛んでいるわけだからな。じつはこういう材料やら道具やらはかなりの高額なのである。これを「鋼売りが払う」の一言でどうにでもするのだから恐ろしい組織だ。まあそれだけの価値を数年で回収できるぐらいのしっかりと仕事はしたはず。

 

「後はやりましょうか?」

 

ケトが風量を調整しながら言う。

 

「そうだね、次待っている人がいたらそっちに引き継いでしまって。まず挨拶して、使節官と『鋼売り』の人を捕まえてから商談に入りたいから時間はある程度ある」

 

「わかりました」

 

さて、味方はいるとはいえ基本的に主導権は向う側にある案件だ。気乗りはしないがやらないと選択肢が広がらないので仕方がない。

 


 

見るからに荒事専門といった風貌で、どことなく胡散臭さを感じさせる髭の男がどっかりと座っていた。黒眼鏡(サングラス)をかければ特殊知能暴力集団の構成員であると言われても納得である。

 

「どうもだ、キイ先生。話は聞いている」*1

 

そう言って男は黒い木の箱を開ける。中には仕切りで区切られたスペースに並ぶ石。毛かなにかをクッション代わりに置いてあるのか。よく考えられている。

 

「採取地と採取場所はここに」

 

それに添えて荒い紙を男は渡してくる。文字が書けるのか。警戒度を上げる。

 

「さて、これを幾らで買うかね?」

 

私に向く値踏みするような視線。ふうん。まあ確かにそれに値する取引である必要はあるわな。見た限り鉱物らしいものを中心に集めていた。精錬できるできないとかを関係なしに、重かったり光沢があったりしたものを揃えてきたのだろう。鉱物標本としてはそれなり以上の価値があると認める。

 

「とはいえ払うのは『鋼売り』ですからね」

 

そう言うと「鋼売り」の女性が直接交渉を始めている。あ、いいんだ。なんか言い争いっぽくなっているが互いにわかった範囲でのやり取りだろうと推測する。こういうやり取りにあまり慣れていないケトは少し怯えていた。図書庫の城邦の方ではもう少し丁寧だったからな。机の上で殴り合うか机の下で蹴り合うかの違いである。こちらの方だと堂々と争うほうがいいらしい。まあ、戦うのは戦い方に慣れた人に任せよう。

 

「キイ先生はこれの価値をどう見ますか?」

 

「悪くないものかと。もしこれらの石が価値あるものであれば、今後も類似の調査を依頼することになるでしょう」

 

「偽りはないかね?」

 

私の言葉に男は言う。

 

「より本格的な調査隊をそう遠くないうちに雇いたいところですが、まだ確約はできませんね。『鋼売り』にはそういう人材もいますよね?」

 

私が「鋼売り」から来ている女性に言うと少し悩んだような辛そうな表情をしていた。そりゃまあ自分の一存では決めにくい案件だろうしね。一応測量ができる人間を連れて行って六分儀とかで位置を把握させ地図を作ってもらいながら地質調査をやってもらいたいのだが、これを私抜きでやるとなると得られる成果がどうなるかがわからない。まあ今箱の中にある分でもしばらくは十分なのだが。

*1
実際は北方平原語の方言の一つを使っており、キイが聞き取るにはきついものなので「鋼売り」の女性による通訳とまでは言わないまでも補助を挟んでいる。なお冗長になるのでここらへんの描写は省略された。

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