「で、これを
電気分解で得た水素を流しながら加熱。これで還元されるはず。
「さらにこれを酸で処理します」
粉末になった試料の一部を試験管に取って塩酸や硝酸や硫酸に入れ、いい感じに混ぜる。泡が出ているところを見るとちゃんと溶けているな。よし。その上で加熱。詳しくは知らんがまあこれで金属成分はイオンになるやろ。本当は
「大丈夫なんですか?」
ケトの不安そうな声。
「たぶん平気」
発生したガスの匂いは無臭。試験管を指で抑えておいて火をつけた棒を近づけたところ軽い音がして火が出たので水素。一応
「さてと、これに含まれている可能性があるのは……」
黄緑色の液体を見ながら頭の中で元素周期表を思い浮かべ、可能性があるものをリストアップしていく。まあ第四周期の遷移金属あたりだろうか?この中で有り得そうなのはチタン、クロム、マンガン、コバルト、ニッケルあたりと勘で決めつける。
これを狙った定性分析を始めよう。高校の範囲ではどれも扱わないが、小学校時代に読んだ本にあったので覚えている。こういう時に役に立つな、私の知識。科学史とかのエピソード系は人名も含めてすんなり記憶できるのだが、こういう結構無秩序に見える分野の暗記は若い頃の貯蓄でなんとかなっている。私の父も子供に古い定性分析の本なんて読ませるなよ。
まずは液体を少々スポイトで取って火の中に落とす。白金線とかを使いたいが白金らしい金属は相当値が張るし、そもそも王水めいた何かができている可能性があるので入れたくない。っと、炎色反応なし。アルカリ金属、そしてベリリウムとマグネシウムを除いたアルカリ土類金属を除外。
お次は
「これ、いいんですか?」
「まあ予想の範囲」
次はこれを煮沸して硫化水素を追い出して硝酸を入れる。黄色が強くなった。鉄イオンが酸化されたのだな。さらに塩基性にするべく水酸化ナトリウムを入れる。
「……赤いですね」
蝋板に記録をしながら言うケト。水酸化鉄(III)の赤褐色沈殿だ。これを濾過して、濾液に硫化水素を吹き込む。
「……無反応、ですか」
「ちっ、面倒な」
マンガン、コバルト、ニッケルを除外。さっきの沈殿に入っていた可能性があるのは鉄、クロム、チタンと言ったところ。まあそれ以外の可能性もあるが。とはいえチタンの反応性みたいなものを考えるとここで沈殿として現れるかが少し怪しい気がする。まあ、クロムの存在だけ示して終わりにしよう。もしなかったら?今日の実験は終わり。ふて寝しよう。
沈殿を新しい試験管に入れ、たっぷりの水酸化ナトリウムを加える。もしクロムが入っていればテトラヒドロキシドクロム(III)酸の錯体ができるはずだ。確か色は緑色。濾過して得られた液体も緑色。
「念のため、っと」
液体を試験管に移し、加熱。加水分解で酸化クロムの灰緑色の沈殿。よし。これに塩酸を加えればクロムイオンの青っぽい色が出るはず。青……青?青緑?眼の前の液体を見て私はまあ定性分析は成功ということにしようと無理やり自分を納得させた。