図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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案件

「反応は大きく三つに別れますね」

 

「なるほど」

 

私は連絡先を記入した手整鑽孔紙(ハンドソート・パンチカード)に鋏を入れる手を止めてケトを見る。

 

「一つ目。これは多くは簡易な提案に対してのもので、悪くないものであるから取り入れていこうというものです。量地司については?」

 

「測量を行う人達だよね」

 

「ええ。そこからはキイさんの作った観測装置を試しに取り入れて見るとの話が出ました」

 

「それの製造は?」

 

「図面と試作品はあるので量地司側で注文する可能性が高いです。まあどうせこれが作れる工房は図書庫の城邦に数えるほどしか無いですが」

 

「で、全員私を知っていると」

 

商会の実験工房に入った旋盤は各種の工作機械や部品製造を行っている。ひとまず最初の方は私が手作りでミニ旋盤ができるまでを実演し、できたミニ旋盤は望遠鏡の鏡筒とか締結部品とかの製造に用いられている。螺子(ネジ)については転造ダイスの作成のための基礎研究を回してもらっている。「この部品こそが、あらゆる規格化の基本となるのです」と力説したら長髪の商者が工房を買ってきた。つまりは数十人の職人をまるごと商会名義で雇用したのである。まあもとから縁が深かったようだし、生産物をすべて買い取るみたいな契約も珍しくないようなのでその延長線上としてであるから特に問題は起きなかったらしいが。

 

「ええ。次ですが、より詳しい内容を必要とするので説明を聞きたいと言うのがありましたね」

 

「話し合いの予定は任せていい?」

 

「そうするとキイさん側での予定とぶつかる可能性がありますが」

 

「と言っても私がやることは……いや結構出かけているか」

 

実験工房に技術指導をしに行き、「総合技術報告」の縁で知り合った人たちと議論をして、原稿を書いて、添削をして、手紙にして、色々。ちゃんとした人員が欲しい。事務仕事は苦手なわけではないのだが、たぶん私よりももっと上手い人はいるので。

 

「もういっそのこと新聞の広告欄で来るならこの日に、といったようなことでもしますか?」

 

「留守中に盗人でも入ったら困るでしょう」

 

「さすがに衙堂を狙う人はいないと思いますが……」

 

「それもそうか……」

 

「キイさんの方でよければ僕が勝手に予定を入れます」

 

「いいよ。問題があれば私が謝りに行く」

 

「わかりました。ただ、こういう細かい事を僕がやる必要があるのは面倒ですね」

 

「嫌?」

 

「というよりも、移動時間が無駄だというのが大きいです。キイさんみたいにいつも考えているわけではないので」

 

「はいはい。まあ人集めは少し落ち着いたら考えよう。信頼できる人で、かつ能力も必要か……」

 

「両方ある人は大抵要職に既についていますからね。引き抜くのも容易ではありません」

 

「印刷物管理局は凄かったんだな……」

 

「間違いありません。こうやって司士として仕事をして、煩務官の恐ろしさを痛感しましたよ」

 

煩務官はこの私たちがいる衙堂で腕利きとして有名な司士だ。いつも疲れたような顔をしている。有能なので暇がないタイプだ。

 

「あとは、たぶん難しいというのもありましたね」

 

「例えば?」

 

「電波法については、利用対象に船の民が含まれるということに問題があるらしいので」

 

「……どういう問題が発生するの?」

 

「ええと、上陸時はともかく船の上で罪を犯した時に裁くための法がないんですよ」

 

「ああ、なるほど。その法を陸のものが勝手に作ることは船の民の権利を侵害することになる、と。面倒くさいな……」

 

「面倒くさいですね。それと電波はかなり広い地位に影響するので法務審議会と頭領府外交局が共同で色々やるようです」

 

「へえ」

 

「キイさんも呼ばれていますからね」

 

「わかった。予定については……」

 

「僕では無理なのでキイさんのほうでお願いします。さすがに司士の肩書があってもちょっと危ないところがあるんですよ」

 

「わかった」

 

確かに一介の公務員が他組織と色々やるのは面倒か。それなら一応編集長という肩書のある私がやった方がいい。なお私やケトの立場というのは誰もよくわかっていない。手続き上は衙堂から印刷物管理局に出向して、そこから並列して「総合技術報告」の編集長をやっているが、この編集所は衙堂の中にあるので実質私たちの立場は衙堂の司女と司士というもので……。わからないな。煩務官に少し話したが死んだ目で首を振られた。ここらへんの改革が将来的には必要かもしれないが、今はまだ手を突っ込むつもりはない。

 

「まあ詳しくはこちらに」

 

「ありがとう」

 

紙には見やすくまとめられた各案件ごとの様子。

 

「というより、これをできるのはすごいよな……」

 

私よりもケトはこの手の作業を得意としている。まだ若手なので多少無茶をしても許されるところがあるのだろう。私は年齢としては中堅に入ってきているがこの手の経験が少ないのでケト曰く普通の人前に出せないらしい。まあケトが言うなら信じよう。

 

「まあ、これでも司士ですからね」

 

「……確かに」

 

私は司女なのにこれだが、私のこれは名誉称号だから。とはいえやるべきことが固まってきている。次の報告のための草稿もいくつかあるし、面白そうなやつをまとめてそろそろ構成を考えていくか。

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