「調子はどうだね、編集長」
そう言った私の顔を見ると、図書庫の城邦の二大新聞の一つ、「時勢」の編集長は酷く嫌そうな顔をした。まあいつものことだ。
「良いように見えるか?それと、編集長就任についてはおめでとうを言わせてもらう」
「あっこれはどうも」
最近の私の動向をちゃんと押さえているのは高得点。こういうところできちんとしているので彼はこの態度でかつ色々と面倒事に巻き込まれても生き延びているのだろう。
「それで、何の用事だ?」
「仕事の話だよ。『時勢』に広告を出したい」
私は原稿を書いた紙二枚と銀片の入った包みを置く。
「見せてみろ。……なるほど。雇い入れか」
総合技術報告編集所は聖典語の読み書き可な雑務担当者を求む。年齢、性別、経歴不問。雇用条件については応相談。あとは日付と面接のために借りている学舎の一室の住所。こういう理由でも借りることができることは初めて知った。
「ええ、ちょっと二人では仕事が回らないのでいい人を探したいなと思いましてね」
私が持ってきたのは求人広告である。あ、もう一枚の方は「総合技術報告」の原稿募集。新人歓迎、詳細は問い合わせるか連絡先を知らせたしみたいなもの。
「いやしかし、ここまで不問でいいのか?」
「……何か問題ありますか?基本的な能力についてはこの場所に来てくれれば調べられるので」
私は彼が持っている紙にある住所を指でとんとんと叩く。
「そうじゃない。あんたみたいな人間の仕事に付き合えるような人となると相当な腕が必要だろ」
そう言われて私は少し考え込む。確かに事務の人が知識を持っているに越したことはないが、書類の分類や記入なんかをやってもらうだけでも私の作業は大きく減るだろう。というかこの世界ではまだ雑用が多いのだ。かつていた世界ではキーボードを叩けば文章ができ、クリック一つでレイアウトの整った文章が出力できたがこっちではそうはいかない。まあ活版印刷のおかげで格段に手間は減ったが、まだ足りない。タイプライターが欲しいな。構造としてはブリッケンスデルファー・タイプライターと似た感じでいいかな。QWERTY配列みたいな非効率的なものを追いやれるかもしれないし、ここらへんも布石を打っておくか。
「いえ、城邦の中を走り回ったり
「ならいいけどな」
彼はそう言って文字数を数えていく。
「銀の枚数も規定通り、問題なしか」
「まとめて予約すれば安くなったりしない?」
「毎刊一定の場所を買ってくれるなら考えてやるよ」
「その言葉、覚えておくといい」
今後「総合技術報告」が大きくなればそれぐらい必要になるだろうしね。言質とまでは行かないがまあ互いに牽制ぐらいはできる相手なのだ。
「そういえば、裁判とか面倒ではありませんでしたか?」
「名誉障害の話か?あれは知人の学徒が法律学を修めていて形としては負けたがそう痛手でもない。実際『時勢』を出せなくなるところだったからな、それに比べればまだ良い結末だ」
新聞で読んだある種の名誉毀損についての争いの話だ。法務審議会が仲裁に入って新法の制定と賠償やらなんやらと色々あったはずだが、半年程度で終わったはずだ。
「学徒が代争屋*1を?」
「ああ、有能なのは保証する。今は各所を転々としているようだが、あんたに何かあったら紹介してやるよ。紹介料はそいつへの依頼額の二割な」
「……考えておこう」
まったく、こいつは嫌なやつだ。だからこそ信用できるのだが。
「この度は採用しようとした人数が少ないので、申し訳ありませんが……」
「そうか、いやすまない」
「また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。これは少ないですが、ここまで来てくれたお礼ということで」
「これは、ありがとう」
包みを受け取って帰っていく男性を見て、私は息を吐いた。ちなみに中には銅葉が日当程度には詰めてある。まあ交通費とか考えれば必要な投資だろう。
「帰して良かったんですか?対応も丁寧でしたし、悪くないように見えましたが」
「聖典語を完璧に書けるようにとは言わないが、このレベルで読めないとなると流石にな……」
私の手元には事前調査票も兼ねたちょっとしたペーパーテスト。前の「総合技術報告」の中で好きな記事を一つ選び、それについてあなたの考えを論ぜよというもの。彼は明らかに文章要素を取り違えて書いていたので弾いた。事務で流石にそれをやられては辛い。
「……ところで、私が思っているより聖典語の読み書きって相当難しい?」
「ええ。やはり気がついていなかったんですか。相当条件が厳しいので何か理由があるのかなと」
「では次の方、お入りください」
私は廊下に向かって声をかけた。