最後の候補者である目の前の少女はかなり若いように見えた。二十歳を超えていないんじゃなかろうか?ケトはそれなりに童顔だが、それよりも年下に見える。
「……なぜ論ずる対象に通信交換の話を?」
「算学的に論ずる事のできる可能性があるからです」
彼女の論理展開自体はシンプルだ。電話をかける時、交換局に相手を複数の数字からなるある種のコードで指定するもの。単なる電話番号と言ってもいい。1000の連絡先に直接つなぐよりも、10の接続先を持つある種の装置3つを組み合わせるほうがいいという単純な発想だ。とはいえ見たところ問題はない。
「聖典語はどこで学びました?」
ケトの確認した限り文法的にもあまり問題がない文章だ。課した条件である聖典語初学者でもわかりやすいように書けというのも満たしている。
「この城邦に来てからですね。兄にも助けられました」
「兄……」
書いてもらった経歴書を見る。名前の前にある親の名前をどこかで見たことあるな……。
「あなたの兄は、印刷物管理局に勤めていますか?」
ケトが私に代わって質問を投げかける。
「ええ。そこでキイ嬢の話はよく聞いています」
「……ああ、あの人か」
確か昔少し話した時に妹がいることを話していた局員がいたな。彼自身も有能だったが、それ以上にできの良い妹がいる、と。
「……とはいえ、そういう基準で選抜を行っているわけではありません」
「もちろん理解しています。そういうものを不問として人を探されていたのですから」
あ、ちゃんと募集内容の理由もそれなりには理解しているのか。……さて、どうするかな。縁故採用はあまり趣味ではないのだが。とはいえ母数が少ないのである程度の教育を受けて能力を持っている層が偏ってしまうのは仕方がない。逆に考えれば「刮目」が身辺調査を終えている可能性もあるし、家族関係は信用できる。そう考えれば人材としてはとてもいいのだ。若いのがちょっと問題かもしれないが、まあ時間が経てばそう問題ではないし外回りの人は別で雇うのはありかもしれない。
「なぜこの職に応募をしたのですか?」
「新聞で広告を見つけたのと、兄がキイ嬢のことを推薦していたので」
「推薦というと?」
「キイ嬢の職場であれば安心して妹を任せることができる、と。あとは新しい技術についておそらく一番近場で触れることができるというのもありますね」
「あなたに任せるのは今のところ誤字の確認や手紙の整理など、初歩的な作業になるはずです」
「構いません」
まあ、意欲があるなら専門的なものをどんどん任せていきたいところだ。ここらへんは様子を見ながら調整しよう。
「ここで見たものについて、基本的には部外者に口外することは禁止しますが」
「それはある種の盗みとなる、ということですね」
「ええ」
「わかりました。ただ、公開された内容であれば語ることについて問題はありませんね?」
「もちろんです。禁止は秘密を守るためですから」
なるほど。兄の言っていたことは間違っていなかったようだ。これは確かに女性であっても図書庫の城邦に送りたくなるな。
「ええと、仕事内容については私とこちらのケト君が教えることになると思います」
「よろしくお願いします」
隣のケトが頭を下げる。
「……とすると、私は採用されることになったのですか?」
「ええ。ただ、しばらくは試しで、ということになるでしょう。もし問題があればできるだけすぐに言ってください。もし辞める場合であっても、賃金は支払います」
「……そこまでやって、いいのですか?」
「信頼できる人がほしいので、我々を信頼してもらえるだけの報酬を用意する準備があります」
「本当に兄さん*1の言った通りの人ですね……」
「……一体どういうことを妹に話しているんだ」
「帰ってきて毎日キイ局長がどうすごいかを話してくるんですよ。最初は恋でもしているのかと不安になりましたが、純粋な尊敬だったようで」
「ははは……」
なんか私は人気者なのだろうか?
「あとはケト君についても。優秀な人だそうで」
「過分な評価ですよ」
ケトが少し恥ずかしそうに言う。まあケトの能力は多方面に伸ばしたせいで一つ一つは案外そこまでではないとかになってしまっているからな。私に付いてきてくれているのはありがたいが、唯一無二の能力なんてものはない。まあ私にもないが。
「それでは、手続きをしましょうか。ええと衙堂へ入るために必要な入場証を作って、あとは関係する場所についての案内もしたほうがいいかな?」
「実験工房や図書庫にも挨拶したほうが良いかと」
「あ、これでも司女見習いとしてたまに働いているので衙堂のほうは問題ないと思います」
短期バイトみたいなものだ。なら更にいいな。
「わかりました。今後の予定などはありますか?」
「来月に授業を入れていないので、自由に動けます」
「ならそうですね、明日からでも?」
「はい!」
「でしたら、明日衙堂のこの場所に来ていただけます?」
私は紙にさくさくっと地図を書いて編集所のある建物を丸で囲む。
「ああ、キイ嬢たちはあそこにいたのですか」
「知ってるなら話が早い」
正直なところ、手に入る人材の中では最上等のものを引いたのではないだろうか?まあ、ここで下手にすると兄の方から怒られかねないのでちゃんと扱おう。