図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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長卓会議

かなり広い空間。石の柱。少し見上げれば木の梁。ただスケールが大きいというだけでこの世界では特別であることを示せるし、色々と見てきた私の目にもかなりいい空間に思える。

 

「名前を述べよ」

 

声が聞こえる。目を正面に向けると、長い机の向こう側には頭領がいた。え、なに、司会までやってるの?大変だなぁ。

 

「図書庫の城邦の司女、キイ」

 

とはいえちゃんと丁寧に答える。声はあまり通る方ではないが、私の方を向く人たちにはまあ伝わったようだ。それにしてもこの所属名というか称号というか肩書みたいなもの、ちょっと奇妙な感じがまだ残るな。基本的に司女は一度任用されたら結婚して引退とかしなければそのまま残るからいいけど、他の職業とかならちょっと厄介なことになりそう。

 

あれ、ちょっとだけざわついているな。ひとまず案内された場所に腰を下ろす。私の席は多分下座の方だ。ケトは私の後ろに。

 

「議題を進めよう。次、遺骸破壊についての罪に対する例外措置の制定」

 

頭領が言うと、何人かの衛兵が紙を配っていく。なんというか、警備から事務、雑用とかまでやらされるのは大変そうである。

 

「では、発言を求めるものはいるか」

 

「手を挙げないでくださいね」

 

頭領の言葉とともに動きかけた私の腕を押さえてケトが後ろから言う。

 

「……はい」

 

そうこうしていると誰かが話し始めた。今のところの法律と過去の判例の説明らしい。まあ手元の紙に大体は書いてあることだが。それにしてもよくまとめてある。

 

「すなわち、その破壊がもたらす死者への冒涜と残されたものたちの苦しみをなくすための法であり、同意の上であれば良き例外措置の対象となるべきであると言えるでしょう」

 

一種の緊急避難とかみたいな扱いらしい。法改正してしまえばいいのではと思ったが根本が古帝国の法体系なので変えるのが相当難しいとのこと。なおけっこうこの長卓会議ではおしゃべりが行われる。あくまで小声でではあるが。

 

「では次」

 

別の人が発言する。何らかの基準が必要であるとの内容。

 

また次の発言。倫理的問題は衙堂の管轄で定めるべきではないかとのこと。

 

「よし。反論はないか?……では衙堂は近日中に基準を制定せよ。次」

 

というわけで数刻*1で議論が終わった。ちなみに長卓会議は数年に一度開かれるが、このタイミングであったからこそ解剖の話を回すことができたらしい。そういう運にも恵まれている。ぼんやりと長卓に座る人を眺めていると見覚えのある医学師がいた。あ、嬉しそう。よかったね。とはいえこの後師の遺骸を解剖しなければならない精神的なあれこれもあるだろうから、まああまり干渉しないではおこう。

 


 

内容は様々だが、なんとなくで分けられてはいるらしい。半日ごと程度に人が入れ替わり、有識者とか業界関係者を揃えて合意を取るという形のようで。まあ正直ここでの会議はパフォーマンスの側面が強い。大抵のものはすでに裏で話が通されているのだ。議題が終わると関係者以外は退出、代わりの関係者が入って……なんてことがある。上座は動かないので誰何に答えるのは最初の一回だけでいいらしい。

 

というわけで一旦戻って休憩。ケトに紹介されて挨拶したり、名刺を渡したり、まあそんな感じ。基本的に主役はケトである。こうすることで私は寡黙でミステリアスな女性としての雰囲気を出せるからいいのだとか。

 

「最近は色々と変わってきている。五年前であれば城邦の端と端とで会話ができるなどと言えば一笑に付されたものだったが、今では当然のように行われているのは恐ろしいものだよ」

 

こう言ってくるのは都市開発というか区画整理の担当者。道路整備とかの過程で電話線を通したりする時に話が来たらしい。っと、口ぶりからすれば私がその面倒事を引き起こした張本人であることを知らないと見える。

 

「とはいえ変化を止めるのも、それはそれで変化に飲み込まれるのと同じほど危ないでしょう」

 

「そう考えれば、今の頭領は決して無能ではないのだよな」

 

ケトと相手の会話に私は笑顔のまま黙っている。いやこれは別に私が話すと前提条件のすり合わせを忘れるからだとか、止まらなくなってしまうからだとか、そういうことではないですよ。

 

「ケト君は、今のところ猛進派の先導者だからな」

 

「もし進みすぎるようであれば止めてくれる人がいるから、信頼して動けるのですよ」

 

「はは、まあ頑張ってくれ。こちらは成すべきことを成すだけで手一杯なところがあるからな。……すまないキイ嬢、彼との会話に集中してしまって」

 

「構いませんよ」

 

うん。先程の会話はなんとなく意味がわかりますとも。仕事とっととしてくださいよ面倒事が起こりますよとせっついているケトに対して、いやこっちも忙しいんだよもう少しゆっくりやれと返している。うん。嫌だ。辛い。聞いている分にはまあ楽しいのだが。ああ、笑顔が自然に浮かんでしまう。こういう辛いときにこそ笑顔を、というモットーが嫌な方向に機能している。

 

「……というわけで、通信をより簡易に行う方法があれば作ってください」

 

「あまりないし、無線……」

 

「まだ出せない情報なので」

 

「はーい」

 

まあいろいろな話を聞けるのは楽しいけどね。最近の変化のかなりの割合は私が噛んでいるものだ。こうやって自分の手掛けたものが形になっているのを見るのはちょっと気分がいい。

*1
ざっくり30分もかからなかった程度。

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