図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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第22章
開封


「……なんですか、これ」

 

編集員が紙の包みを私に見せて言う。貼られている伝票みたいなものはこれが最近実験の始まった衙堂間郵便で運ばれていたことを示している。

 

「さあ?送り主は?」

 

心当たりが無いのだから仕方がない。

 

「第四区第八小衙堂長、とだけ」

 

「……意外な人だな」

 

「お知り合いですか?」

 

「ケト君の師匠というか、育て親というか」

 

「……そこらへん、詳しく聞いてもいいですか?」

 

「ケト君に直接聞いたほうが良いよ。で、そのケトは今日はどこに行っているんだっけ」

 

「通信線の接続に伴う工事の折衝か、手紙運びか、あるいは……」

 

「んー、なら帰ってきてから開けたほうが良いか」

 

ケト宛の手紙とかなら本人以外に見られたくないとかあるだろうしな。それにしてもこの量は一体何だ?

 

「相当な量だよね」

 

「ですね」

 

私の言葉に編集員は同意する。

 

「中身は?」

 

「そう固くないですし、紙ですかね」

 

「本?」

 

「ではないと思いますが。ええと、第四区第八小衙堂となるとどこらへんですか?」

 

「ここから歩いて三日ぐらいだね」

 

「かなり近いですね。ああでも第四区となると私の生家とは逆向きですか」

 

「同じ方向だったら手紙でも運んだのにね」

 

「それだけ近いと、たまに帰ったりしませんか?」

 

「そういえばしてないな……」

 

ケトにそういう話をしても、まだいいと返すばかりだったのだ。そりゃあまあある程度大成してから帰りたいというのはわかるけど、司士になっているのだからもう十分では?

 

「キイさんとその人はどういう関係で?」

 

「昔ちょっと、ね。ケトが第一の恩人なら第二の恩人に当たる方だよ」

 

ケト一人では私はここに来ることができなかっただろう。ちゃんと私を見極めて、紹介状やら路銀やらそういうものまで手配してくれた人だ。何かあれば駆けつけるぐらいの恩はある。

 

「キイ嬢とケト君の『馴れ初め*1』ですか」

 

「私でも、その単語の意味ぐらいはわかるよ?」

 

「……すみません」

 

「よろしい」

 

お年頃らしく私とケトの関係をちょくちょく茶化してくるのだが、まあ私だってそこまで嫌な訳では無いし一言言えばすぐに黙ってくれるのであまり問題はない。

 

「ま、行き倒れていた時にケト君に助けてもらってね。その時にハルツさんとも出会ったわけ」

 

「旅をしていたんですか。やはり目的地はここで?」

 

結構ぐいぐい来るな。私が過去を隠しているというのは結構周知の事実だと思っていたが、彼女はそんなのお構いなしらしい。まあ今後はそういう人材も必要になってくるので成長が楽しみである。

 


 

うまい具合にぼかしつつ、ケトについての昔話をしているとその本人が帰ってきた。

 

「で、これは?」

 

「ハルツさんからの手紙というか荷物というか……」

 

「開けていないんですか?」

 

「帰ってきてから開けようかと」

 

「わかりました」

 

まあいいだろう、と私は包み紙を開く。油紙と布で包まれているところを見ると防水とかも考えられていたようだ。梱包を解いても、それなりに分量が多い。指4本分の厚みだ。

 

「で、これは僕たちへの手紙で……残りは、冊子ですか」

 

「全部で五冊。手書き。これは……収量報告?」

 

「こちらは農法書ですね」

 

「面白そうな事が聞こえる……」

 

編集員がいつの間にか私たちが開いていた冊子を見ていた。

 

「ともかく、手紙を読もうか」

 

「そうですね」

 

ケトはそう言って折られた紙を開く。丁寧な文字だ。というよりこれは硝子筆(ガラスペン)によるものだな。思い返せばさっきの冊子もそうだった。それなりに図書庫の城邦の中では流通しているものだが、城壁の外で使われているとは思っていなかったので意外である。いやもちろん商人たちは求められば色々なものを取り扱うだろうし、取り寄せとかもできるけれども。

 

内容は季節の挨拶、健康を気遣う内容、最近の出来事、まあそういうの。よくある近況報告だ。ケトが知っている人の名前が出てきているようなのでここらへんはケト宛だろう。私にそういう話をしてもあまり意味は無いしね。

 

「あ、キイさんが色々暴れていることが書かれていますよ」

 

「えっ」

 

確かに読むと解剖の時におまけで色々やった時の話に言及がある。城邦にいる友人から聞いたとあるがそういえばそうか。

 

「ええと、ハルツ嬢はケト君が幼いときにはもうあそこの衙堂にいたんだっけ」

 

「そうですね。僕を育て始める直前に来たというか、来てすぐに僕もあそこに来たというか。そのときにはもう僕は乳離れしていたと聞いています」

 

となると、当時のハルツさんは十代後半といったところか?今のケトよりも若いのだ。大変なことである。もちろんそのぐらいの年齢の体力があれば多少はどうにかなるのかもしれないが、一人で育てるのは大変だっただろうに。

 

「となると、司女になった時にはかなり若い?」

 

「そうですね、かなり賢かったと聞いています。なぜ城邦の中で学び続けなかったのかは聞いていませんが」

 

「……とはいえ、この文章からすると城邦の政治について詳しいらしいけど」

 

「司女ですから、それぐらいは当然では?」

 

「そういうもんかね」

 

そんな話をしながら、私たちは手紙を読み進めていった。

*1
聖典語には「出会い」を意味する単語が複数あるが、そのうちの一つ。暗に恋人同士の出会いのきっかけを指すため、このように訳した。

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