図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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修理

「で、今回の故障はどれぐらいで直りそうかね?」

 

私はニヤニヤしながら「時勢」の編集長に声をかける。原稿ができたので印刷をお願いしているのだが、どうやらちょっとトラブル発生中のようだ。

 

「そう長くはかからないだろう。今回は多分軸が歪んだだけだ、叩けばいける」

 

「……欠陥品でも場を盛り上げれば投資を得ることができるのか」

 

実際、機構としてはちょっと怪しいところがある。私も見て少しアドバイスをしたが、振動があまり吸収されないようになっていたりした。適切な素材と構造を選ぶことで改善できるはずなのでそれはさっきまとめて渡しておいた。

 

「嘘は言ってねえよ。それに改良の準備は進んでいる」

 

「それについては信じよう。なにせほとんど何もないところからあれだけのものを作ったんだ」

 

「いや、部分部分は既存のものや北方の職人だったか?あの模倣にすぎない」

 

「問題を分割し、適応できる部分を解決し、新しいものでも取り込む。素晴らしいことじゃないか」

 

どう考えても有能な管理職なんだよな。最初は私が半ば脅しで作らせた新聞社もこんなに大きくなって。詩の掲載とか政治論文とかご飯屋さんのレビューとかなんか色々載っているカオスなやつですが、個人的にはプロパガンダ色の強い「視線」よりもこっちのほうが好みです。「視線」は「時勢」の対抗で作られた報知紙で、噂によれば諜報組織上がりの人が編集長をやっているらしい。城邦内の問題とか頭領府の活動をちゃんと扱ってくれるのはいいのだが、あまり面白みはない。いやでも参考になるのは「視線」のほうか。ケトもあれを分析して頭領府の方針を読んだりしているし。

 

「……というより、一番重要な部分はあんたの案だろ」

 

「さあね、そんな三年も前のことなど覚えてはいないさ」

 

「思いっきり覚えてるだろ、というより今更発案所持権について言われてもどうしようもないからな?」

 

「それについては別に主張するつもりもないよ。ただ、ちょっと噂があってね?」

 

「ほう」

 

「あの新型の印刷機の構造や設計が頭領の名で接収されるかもしれん」

 

「……は?」

 

驚いたように彼は言う。

 

「ま、詳しいことは専門の人に投げるか」

 

「どうも」

 

ひょっこりとケトが会話に入ってくる。

 

「これはまだ固まっているわけではなく、噂の段階に過ぎませんが、この印刷機を高く評価している人がいます。報知紙の印刷に使わせるよりも、もっと広くその構造や設計を公開したほうが全体の利益になると考えているようで」

 

「おいおい、この開発にどれだけの時間と費用をかけて、そのためにどれだけ愛想良さを振りまいたと思っているんだ?」

 

「愛想良さは振りまけていたのかい?」

 

思わず私は言ってしまうが、別にこれはいらない言葉だったな。反省しよう。

 

「うるせえ」

 

噂に聞く限り、「時勢」の編集長はちょっと口が悪いがいい仕事をするって評判なんだよな。私相手だと特にラフになるのは間違いないが、そうでなくとも怪しい部分があるそうで。

 

「……まあ、もしそうなれば適切な代償金の額を算定するのは印刷物管理局あたりになるでしょうね」

 

「あいつらか、面倒な手続きを毎度毎度押し付けてきやがってよ……」

 

なるほど、あそこは嫌われているようだ。まあ私がいた時からそれなりに面倒に思われていたらしいが。とはいえ面白いので今度遊びに行った時に話しておこう。

 

「その場合、できるだけの金額を払うように僕からも言っておくことはできますが、資料なども持っていかれる可能性があります」

 

「それは困る、大事な仲間たちだ」

 

あ、こういう言葉をさっと言えるのは強いんですよ。もちろん過度にアットホームな職場というのはあれですけれども。小学生の不登校だった頃に父の紹介で色々な工場とかメーカーとかを回ったことがあったのですが、全員が一致団結している仲間みたいな組織は強いんですよ。もちろんデメリットもありますし、私は馴染めそうにないし、思想的にはそういうものはあまりよろしくないと考えているのだけれども。

 

「なら、今のうちにこの印刷機の重要な点をまとめておくことをお勧めします。代償金はその新規性について支払われるので、きちんと列挙しておかないとその部分が軽視される可能性がありますよ」

 

「人が作ったものを取り上げておいて、それで自分で主張しないと銀を減らすってか、大変だな」

 

「僕もある程度はそう思いますが、社会を動かすためのものなので。文句は頭領にどうぞ」

 

「よし、ならそういう連絡が来たら『時勢』に掲載するか」

 

「本当に強いな……」

 

感心して言う私。彼は過去に裁判をやって敗訴したとは言えそれなりの信頼を得たし、こういう闘いには慣れている方に入るのだろう。判例とかができてくれると行動しやすくなるので政治的に見て嬉しいのはあるのですが、そのためにけしかけるわけにはいかない。

 

「あ、それで話を戻すけど、印刷はどれぐらいで終わりそう?」

 

「予定日には間に合うはずだ」

 

「もう少しなんとかならない?」

 

「夜の油代は高いが、それでもよければ」

 

「んー、ならいいや。今の予定日でも十分早いしね」

 

本来は活版印刷でちみちみやるつもりだったのだが、輪転印刷機のおかげでかなり早く揃いそうなのだ。これなら冬至前に刷られた本を持ってハルツさんのところに行くこともできるだろう。

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