図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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関係

「……おいしい」

 

軽く炒っただけだからかあまり焦げの味がしないが、物足りなくはない。むしろ小果の酸味が効いている分いい。そして赤色は皮由来だろうか。全体として赤みがかった茶色で、かつての世界での紅茶を思わせる。

 

「でしょう?」

 

ハルツさんが自慢げである。

 

「普通は酸味がきつくなるはずなんですが、これはそうでもありませんね」

 

ケトが言う。私はそこらへんの知識がないのでちょっと驚きだ。確かに酸いといえば酸いが、きついというほどではない。

 

「熟しきったところ、落ちる寸前で収穫するのよ。一粒一粒色味を見て取っていくから手間がかかったのよね」

 

「なるほど」

 

そう言って私はまた一口。焦げた色はあまりないがいい匂いがするので燻製みたいなことをしたのかもしれない。まあ、こういう時は出されたものをしっかり味わってしっかりと感謝をすればいい。ハルツさんに後でレシピは聞くつもりだけど。

 

「それで、北に行って何かあったの?」

 

「北?」

 

そう言って私は頭の中で過去を探る。去年の冬は長卓会議の後の法律とかのごたごたで、となると二年前のことになるのか。気がつくと時間が溶ける溶ける。40になるのもそう遠くないな。

 

「そうですね、鋼を安くしたり、布の価格を暴落させる準備をしたり、あとは戦の火種に油を注いだりでしょうか」

 

ケトが言う。うん、だいたい間違っていないな。

 

「それについては後でちゃんと話を聞きたいけど……二人の間に何もなかったの?」

 

「んー……」

 

ケトが唸り声をあげる。私も少し考えてみるか。基本的には一緒に行動していたし、そりゃまあ口論がオーバーヒートすることがあったのは否定しないが翌日には落ち着いていたし、ハルツさんが気にするようなこと、あったかな?

 

「私の方は心当たりないですね」

 

「……ならよかった。子供を北の方に置いて来たとかだったら縁切るぐらいのことは考えていたから」

 

「えっ」

 

ケトが固まる。私は話の内容が飲み込めない。

 

「いえね、中には変な詮索をする人もいるのよ。もとからの予定が長引いて、一年近くも向こうにいたわけでしょう?何かあったと考えるのは仕方がないわよ。男女なんだし」

 

「僕……と、キイさんが」

 

「そう」

 

ハルツさんはあっけらかんと言う。ええと、まあ別にセンシティブというものでもないか。私はそれなりにこの世界で年齢重ねたとは言え生理は続いているのでありうる話だし。妊娠可能な年齢にある女性は妊娠している可能性を排除するな、という話を昔読んだことを思い出す。

 

「とはいえその様子だと……本当にケトは司士なのね」

 

「それはまあ、ハルツさんに教わった身ですから」

 

「いや私、学徒時代はそれなりに遊んでたのよ?」

 

「待ってください、まさか図書庫の城邦でハルツさんの名前が知られているのって」

 

「多分違う。共寝した相手はあまりいないし」

 

はいはい比喩表現。共寝、まあつまりは同じ寝台で寝ることだがこの行為自体は私とケトも定期的にしている。あったかいしね。とはいえこれはまあ、そういう意味だろう。

 

「……キイちゃんがわからないなら、まあちゃんと隠蔽には成功してるのかしらね」

 

「隠蔽?」

 

「この話はあまり面白くないし、酒精も入れずにはしたくない……と言えば、今は勘弁してもらえる?」

 

「いいですよ。ああ、それでケトくんが固まっていますが」

 

私は視線を当のケトに向ける。大丈夫だろうか。

 

「……本当に、ここを出た時と変わってないのね」

 

「ケトは変わりましたよ?政治的案件に思いっきり首を突っ込んでうまくやり過ごせるようになりました。そういう能力であれば図書庫の城邦でもそうそういない人物であると思いますが」

 

実際傑物だとは思うんだよな。とはいえ表で色々やる人間ではない。裏方の調整役になるにもまだ顔がそこまで広いわけではないからな。とはいえ私が変えようとしている技術方面の関係者との繋がりはなんだかんだであるし、そういう人たちの集まりにも呼ばれているらしい。あまり行っていないそうだが。私はどうも呼ばれないというか、本人を呼んだら台無しになるとかなんとか。愚痴かな?結構なことである。相当無茶させてるのはわかってますとも。私の知る科学技術史の年表を数十倍速でやっているのだ。苦情も来るだろうし、歪みも出るだろう。それを解決する策なら用意できるが、面倒な仕事を無くすことはできない。まあだからといってケトを巻き込むのはちょっとどうかと思うのでどっかのタイミングで顔を出しに行こうかな。

 

「呼び方」

 

そう言われて私は確かに最初の頃に学んだ呼び方をそのまま使っていることを思い出す。一人称はさすがに「僕」から変えたけれども。

 

「……ああ、司士にもなった彼に『くん』などとは、みたいな話でしょうか?これについては慣れてしまったので」

 

「いえ、『くん』や『さん』などとつけているということよ」

 

「まあ、今更変えるのも……」

 

「僕はいいと思っていますよ、今でも」

 

「……ふうん」

 

ハルツさんは満足げである。ま、よかった。

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