昨日のお酒はとても美味しかった。甘くて、いい匂いで、そしてアルコールたっぷりで。おかげで気分はかなりひどい。吐くとまでは行かないが。
「大丈夫ですか?」
ぼんやりとした意識がケトの声で引き上げられていく。
「大丈夫じゃない……」
ケトの手を取って、なんとか立ち上がる。ケトもハルツさんも元気なところを見るとアルコール代謝酵素が強かったりするのだろう。後でパッチテストやらせてくれ。というか水の衛生問題を考えるとアルコール飲めないやつの方が死にやすいのかな。上下水道の基礎概念はあるので、浄水技術が必要か。微生物ベースでいいとなると医療ルート経由でやるか。医療と言うか公衆衛生の分野だな。
「キイちゃん、読ませてもらったわよ」
ハルツさんが私が持ってきた小冊子を閉じて言う。
「……おはようございます」
「大丈夫?お酒弱かったりするの?」
不安そうに聞いてくれるハルツさん。優しいなぁ。
「いえ、昼前には多分調子も戻りますよ。それと、どうでしたか?」
私はハルツさんの手元を見て言う。
「そうね、どうしても完全ではないのはわかる。それでも、司女や司士なら十分活かせるような内容だと思うわ」
「あ、送られてきた原稿には間違いがあったので出版する時には修正入れます」
「問題ないわ。そこはケトに委ねるって手紙にも書いたでしょう?」
「本人がいるなら直接確認取った方がいいでしょうし」
「確かにね」
「あと無線の設定を教えて下さいよ、連絡用に使うので」
「四半月に一回、定期連絡のために特定の時間にしかつけてないから秘密」
ちぇっ。まあ手紙でいいか。緊急連絡だったら図書庫の城邦にいるツィラさんにでも聞けばいいか。最悪走っていってもいいし。
「ところで、どれぐらいいるつもりなの?」
「優秀な編集員がいるのでしばらくは大丈夫ですよ。まあ天気荒れなければ早めに帰ったほうがいいですか?」
「別にしばらくいても構わないわよ?収穫後だし、食べるものはいっぱいあるし」
「なら、ケトが満足するまでしばらくだらけますか」
正月の帰省みたいなものである。奇しくも今は冬至なので時期も同じぐらいだ。地域によっては冬至祭があるが、ここらへんにはない。図書庫の城邦ではいろいろな地域から来た人がいるので各地の祭りが行われているんだけれどもね。
「キイさん?」
「なに、ケトくん」
「何するんですか?」
「何って……何もしないけど」
「大丈夫ですか?」
「どうして?私が暇を持て余すとなにかよろしくないことをしでかすとでも思っているの?」
「それもありますが、本とかいつも読んでいるので」
「ああ、それは何かをすることに入っていなかった」
今でも原稿とは別に本とか色々読むのだ。これは趣味の領分である。なお最近気に入っているのはやっと感覚が掴めてきた聖典語の詩。韻の規則とかを理解したことでケトが趣味レベルだと思っている詩才が非常にヤバいものである事が判明した。ちなみにケトのほうは趣味で詞をやっていて「時勢」に投稿したりしている。業務中にこっそり詞競に出ているのは知っているがまあ別にいいか。
「……僕はちょっと昔読んだ本を読み直します」
「いいね、そういうのは結構印象が変わっていたりするものだから」
「だらけているわねぇ」
ハルツさんが少し楽しそうに言う。
「これから忙しくなるんですから、これぐらいいいじゃないですか」
「それもそうね。さて、こっちも準備をしますか」
「具体的に、誰と話をするんですか?」
ケトがハルツさんに質問する。
「そうねぇ。私と同年代の司女や司士が各地にいるから、そこらへんにやってくる本の話と一緒に才覚ある子がいたら図書庫の城邦へ、みたいな話をするつもり」
「なるほど……」
「……そういう人たちの面倒もこちらで見たほうがいいですか?」
私はハルツさんの方を向いて言う。
「そうね。できたらお願い」
「わかりました。何なら学徒寓の増設でもするか……」
学徒寓、つまりは寮みたいな場所は図書庫の城邦にいくつかある。篤志で動いているところもあるし、衙堂がやっているところもある。最近面白いところだと「時勢」の編集長が自分の住んでいた学徒寓を買ったみたいなのがあったな。
「女の子用のやつとかあったほうがいいかもね」
「んー、ああでも司女以外に働く道も作るつもりですからね。衙堂の管轄外で、防犯がしっかりしたようなものを作ってみますか」
建築系はそういえばあまり触っていない分野だったな。というかこの世界にコンクリートがあるのであとは鋼鉄と板
「人が来るのは十年単位だから、別に今すぐ急がなくてもいいけれどもね」
「それならまあ、何とかなるでしょう」
「で、キイさん。お金はどうするんですか?」
「稼ごうと思えばそれなりに稼げるからな……」
営利活動というか資金収入源をちゃんと用意しておいたほうが良いだろう。商会と共同出資して新規事業を立ち上げて利益の一定割合を色々するのに使うとかにするか?ヴィタミンでも売るか……いや、でも製薬とかはありだな。十分市場に流せるし、抗生物質の需要もあるし、健康増進にも繋がるし。ふふふ、これで陰謀論で言われるような悪のメガファーマの影の総帥とかになれるのだ。まあ技術提供とアドバイスだけして、社会貢献部門あたりの活動にさせるとかにしておくか。