図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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賞金

のんびりと帰ったその足で向かうは「総合技術報告」編集所。

 

「編集長、さすがに一人はきついですね」

 

ただ一人で半月弱を回していた編集員が言う。確かに荷物が少し溜まってきているな。

 

「分類はやっておきました。キイ嬢はこれに対する返事を。ケト君は手紙運んでください。場所は分かりますか?」

 

「大丈夫です。行ってきます」

 

ちらっと見た送り先はそう遠い場所でないからいいが、それなりに歩いてきた私たちに仕事を振るとはなんとも恐ろしい人になってしまった。

 

「……編集長の席、あげようか?」

 

「それはキイさんが持っておいてください。さもないと私が事務に集中できないでしょう?」

 

「そっか。じゃあ新しく雇う人を決める権利と私への業務命令権利をあげる」

 

「……編集長に指図できて、好きに人を雇えるのは、実質代表なのでは?」

 

「権利をあげる。義務は私が負う。それがあなたの能力への報酬になればいいけど」

 

「実際、どれぐらい予算使っていいですか?」

 

「ちょっと資金源になる事業をやるから、ひとまず利益は全部つぎ込むぐらいでいいよ」

 

論文の投稿は無料。購読は有料。ま、こんなもんだろう。一応これで採算はぎりぎり取れているが、頭領府と図書庫からの補助金がないと追加の活動とかはきつくなっている。

 

「商会あたりから資金提供をお願いするのは?」

 

「間接的にではあるけど、賞金を出してもらうのとかはありかも」

 

「賞金、ですか」

 

編集員は私の言いたいことがちょっと掴めていないようだ。

 

「特定の条件を満たす材料とか、未解決の問題とか、そういうのを用意したり解き明かしたり人に対する報奨金みたいなもの」

 

「なるほど、寄付で劇場を作るようなものですか」

 

「近いね。その賞金を栄誉あるもの、みたいに扱う風潮ができれば金を出し続ける必要も生まれるだろうし」

 

ノーベル賞、クラフォード賞、京都賞、ミレニアム懸賞問題、アーベル賞。やはり賞金の額というのはそれなりに重要なのだ。なおそれだけの額を用意するためには元になるそれなりの額の基金とちゃんと運用できる体制が必要なのだが。あ、運用はありだな。投資会社みたいなものを作ってもいいかもしれない。なにせ成長する分野は知っているというか選べるのだ。いやこれは不正ではないですよ。ストックオプションみたいなやつです。まあこういう複雑な取引システムは条約とかもないので作りにくいが、船の民の存在が多分面白い形で影響してくるだろう。こういうのはあまり専門ではないので考えられる人材を拾ってくるか作るかしないといけないが、多分後者のほうが楽だな。

 

「ところで、その問題を決めれるのはキイさんぐらいですよね?」

 

「今の時点ではそうなるだろうね。全分野を俯瞰するのはそう簡単ではないし」

 

「で、キイさんはその問題の答えを知っていたりするわけですよね?」

 

「さあ」

 

もちろんどういうものが欲しいかというところから逆算して問題を決めるので当然どういうものが答えになりうるかは多少は知っている。それで自分で答えを出して賞金を回収しようという算段である。まあ直接やるとあれなので第三者を噛ませたり共同研究者枠でもらったりとかになるのかな。なんかものすごい遠回りでせせこましい事をしている気がするがきっと気のせいだ。

 

「……いいんですか、それで」

 

「問題がある?」

 

「それでは、ありきたりなものしか出てこないのではなくて?」

 

「条件の揃え方の問題だよ。高速で計算をする方法、電気を用いた何らかの装置、病の治し方、収穫量を上げる方法……。できるだけ曖昧で、いろいろな手段で解決できそうな問題であれば」

 

「なるほど。例えば高速で計算をする方法、とありましたよね」

 

「そう。新しい計算方法とか、そういうのだね」

 

「人による、とは言っていませんよね」

 

「ほう」

 

「機械による計算も、当然入りますよね?」

 

「そうだね。実際に出す条件としては何らかの算学の問題を解く時間を競うことになるのかな」

 

「いいと思います。ただ、それに資金を提供してくれる人がいるでしょうか?」

 

「その解決策を公開し、独占しないという条件を賞金につければ?」

 

「なるほど、必要な技術があればそうやって『買える』のですか」

 

「もちろん、その賞金の一部を受け取ることを前提にそういう専門家を組織してもいい。どういう戦い方をするかはそれぞれだけど、ある程度は『総合技術報告』の名義でやるべきかな」

 

「最初の信用の部分、ですか」

 

「あるいは皆様に資金提供を募ってもいいけど」

 

「どうやってです?」

 

(くじ)を使う。あたりが出たら膨大な賞金。余ったお金は発明者への報奨金」

 

「あ、それは表向きにやるのはやめたほうがいいですよ。そういうの嫌う人がいるので」

 

「そっか。じゃあやめよう」

 

こういうのは正直ハマると危ないからな。人間というのはちょっと動くイラストとかに数十万円をつぎ込めるのである。もちろんそれで回っている経済があるし、食べていけるクリエイターがいるので全員合意の上ならいいとして、射幸心を煽っているのは事実だしな。

 

「とはいえ報奨金であればあまり問題ないでしょう」

 

「何が違うの?」

 

「あなたはこの選ばれた戦いに挑める力があるのですよ、と言えばいのです」

 

編集員はニヤリと笑う。なるほど。この発想力を考えると本当に編集長にさせたくなるな。

 

 

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