図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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会談

晩餐会を開くことのできる人物というのはそれなりに限られている。大きな家を持っていて、それなりの予算を持っていて、かつ友人が多いこと。私の場合、ちょっと難しい。まず住んでいる場所。学徒用の相部屋とそう変わらない、下っ端司士や司女用の寓だ。勤務地まで徒歩五分という素晴らしい立地ではあるが、本来なら私みたいな人が持つべきステータスとしての家とか使用人とかはない。まあ、司士や司女にとって清貧は決して悪徳ではないし。まあ厳密には搾取は悪徳だが過度の節制は自分も周りをも傷つけるという解釈があるそうで。まあ私たちの場合はケトがそれなりに信仰が深いということで問題なくなっている。いや、これは信仰というべきなのか?徳が高い、みたいな表現が一番しっくりくる気がする。

 

あと予算。私の場合は個人の財布と職場の資産を切り分けているが、まだこの世界ではそこらへんの切り分けがいい加減だ。かつての世界で、損失を自分の懐から出して補填するのは労働基準法とかコンプライアンス的にアウトな事が多かった。特にお金を扱うことを生業としているならばやってはいけません。そうじゃない場所は色々とまずいです。幸いにもそういう経験は……ない……はず。学会の予算を懇親会の参加費での若手扶助に使うのは現場で偉い人、具体的には事務代表と学会長が許可していたからあれは問題ないはず。

 

友人ですか?協力者はいるし、取引相手はいるが、友人となると難しいな。ケトは違うし、一番近いのは薬学師のトゥー嬢?とはいえ一応薬学においてはケトと私はあの人の弟子扱いだからな。ケトのネットワークにはかなりの人がいるが、私が直接顔を合わせたことがある人は実はあんまりいない。基本的に私の存在は表には出にくいし、ケトの役割もあくまで繋がりを仲介するみたいなのがメインだ。

 

しかしまあ、さすがに頭領府直轄の教育機関を作るとなると後ろ盾は必要なわけで。

 

「こちら、僕の師の一人であり、今は『総合技術報告』の編集長をしています司女のキイです」

 

「よろしくお願いします」

 

ケトの紹介で私が頭を下げる相手は外征将軍。図書庫の城邦の頭領、つまりは指導者の弟であり、今の頭領が死んだ場合にはおそらくまだ赤子……いや、確かもう立てるようになったぐらいの年齢だったか?ともかく今の頭領の娘が次の後継者になるだろうから、彼女の成人まで摂政として権力を握る人だ。つまりはそれなりに偉いし、バックボーンもあるし、家も大きいし、金を持っている。

 

「まあそう頭下げんでくれ、キイ師」

 

「嬢でも、先生でも結構です。外征将軍」

 

「別にこちらもそう堅苦しくなくていいが、まあよろしく頼む、キイ先生」

 

一応ヒエラルキーみたいなものはあるのでこちらが最初は下手に出て、その後相互にある程度フランクな言い方に変える。本当は何回か互いに断ったりとかするらしいが、面倒だしケトがいいと言っているので従おう。

 

「……それで、ケト君、進捗を聞かせてもらおうか」

 

声が大きいし、腹から出ているな。戦場とかでよく響くだろう。筋肉のつきもいい。とはいえ前会った時はちょっと疲れが出ていたあの頭領と兄弟なので言われれば雰囲気は似ている。

 

「協力を求めたい人の名簿です。既に話をつけてある人には記号をつけてあります」

 

「ふむ。……この人については金の話をしたほうがいい。しかし決してがめついわけではないことには注意しろ。利を重んじるが、義を軽んじているというわけではない」

 

「わかりました」

 

ま、というか今回私は基本的にやることがない。顔合わせがメインだ。

 

「ああ、キイ先生。無視して話してすまない。ケト君は実にいい男だ。是非とも軍に欲しいが」

 

「彼は私の部下ですので、申し訳ない」

 

「はは、これは仕方がない。こんな魅力的な女性には勝てないか」

 

「僕は司士ですので、そういう意味で居場所を選ぶことはありませんよ」

 

ケトが外征将軍に微笑む。ああ、これは警告だな。こっち系統の話をこれ以上するな、というかなりわかりやすいアピールである。いや別にええやろ。私はこういうふうに褒められるのは嫌いじゃないぞ?あるいはあれか?ケトは私のことを自分の支配下というか占有物だと思っているから卑下混じりで言っているのか?いやこれは邪推だな。まあでも確かに外征将軍の言い方は一歩間違えると私の否定になるのか。まあちょっと険悪な空気になったが、ちょっと戻そう。

 

「……図書庫の城邦が戦乱に巻き込まれずに済んでいるのは、あなたのおかげだと聞きましたが」

 

「その手助けをしているのは事実だがな、結局は兵が命を張ってくれるからだ」

 

「兵がそうできるよう環境を整える人も、きちんと評価されるべきですよ」

 

「あなたにそう言って頂けるのは心強いな。こちらも色々と聞いている。印刷物管理局、総合技術報告、そして最近の長卓会議。特に印刷物管理局では若手をたちまち歴戦のように仕上げるというではないか」

 

おーっと、そこまでか?というか私が局長だった頃には基本みんな優秀な出向組だったから若手育成とかは相対的に力入れていなかった気がするんだよな。

 

「後進の成したことでしょう。私は決して」

 

「先を見据えることのできる後進を育てられる人物は、きちんと評価されねばならないのだよ」

 

あ、うまく返された。まあ、これで互いの実力を認めたということでいいだろう。

 

「まあ、本題に移りましょうか」

 

「府中学舎の件だな」

 

私の目標は、この外征将軍を名目上の府中学舎のトップにすること。この交渉のために、ケトはこの会談を準備してくれたのだ。

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