「……そちらは二人でいいのか?」
外征将軍が机を挟んで言う。
「もちろん、構いませんよ」
私は笑って返す。広げられた図書庫の城邦周辺の地図には、駒を置くためのヘクスが引かれている。
「改めて規則を説明しましょう。私が今からある情勢を提示します。それに対して適当な選択を取って下さい。今回の場合、出題者と審判を共に私が兼ねる以上不公正になる可能性がありますが、それはご容赦を」
プレイヤーは外征将軍を含む4人。ゲームマスターは私。サブマスターはケト。
「日付がこれ。使える予算を示す紙片はこちらの箱にあります。毎年の冬至に追加されますが、気候の変動や政治的問題によって量は変動します」
記憶にあるボードゲームとかシミュレーションゲームとかを参考に作ったものだ。ケトとテストプレイを重ねたので、致命的な問題はないはず。
「……例えば、税の率を上げれば増える予算が上がるのか?あるいは、頭領の名で接収を行えば冬至でなくても使える資金を手にできるのか?」
「ええ。ある程度は融通を効かせるつもりです。ケト君であればそこらへんの目安もわかるでしょうし、皆さんならもう少し正確にわかるでしょう?」
「ああ。……あくまでこれは訓練であって、勝敗はないのだよな」
「正しく言えば、例え図書庫が燃えたとしても我々が何かを学ぶことができれば全員の勝利になります」
「なるほど」
頷くプレイヤーたち。
「行いたい行動はこの紙に書いて下さい。それへの対応は、私とケト君が相談してこちらの紙に書いて返答します。これは後から分析を行うためですね」
「ふむ。ところで、それは賽か?」
私の手元に置かれた六面体を指して外征将軍の隣にいる男が言う。統治学の講官で、図書庫の城邦における政策決定などで重要な役割を果たしている人物だ。専門は貿易分野。
「ええ。世の中には変わりやすい要素もあります。例えば天候、あるいは人の心の動き。そういった要素を卓上の世界に取り込むためにこれを使います。骨ではないのはあくまで不確実性を付け加えるためのものであって興奮のためではないから、と言えばいいでしょうか?」
この世界には動物のくるぶしの部分にある四角い形をした骨を使ったある種の賽がある。国立民族学博物館で似たようなものを見た記憶があるな。シャガイ、だったっけ。それを用いて色のついた棒を集めていくゲームが、それなりに一般的なものとして広まっているし賭博の対象にもなっている。一応、法でこれに大金を賭けてはならないとはあるがそういう法があるということは、ね。
実際、城壁の外にあるある種の歓楽街ではこれで身を崩す程の人もいるのだとか。ある程度の高さから賽を振る必要があるが、それでも上手な人はそれなりに出す「目」を狙えるらしい。飲む打つ買うというのはこの世界でもちゃんとあるのだ。まあ私はこの世界基準ではあまり酒に強くないほうだし、賭博は苦手だし、買う相手もいないから関係ない話だが。
しかしそれでは乱数生成には向いていないのでちょちょっと木を切り出して磨いて賽を作った。注文しても良かったけどこれぐらいなら説明するよりも自分でやったほうが速いしね。六面体でも組み合わせたりすればある程度確率の調整ができる。分母が216もあれば、まあ大抵の事象には対応できるだろう。
「まあ、ともかくやってみようじゃないか。こういうのはやっていって慣れたほうがいいんだ」
わかっているらしい人が言う。この人は衙堂の司士。煩務官と同じぐらい偉い人だ。あの人が異常なだけで、彼も優秀な人物である。
「そうですね、それでは始めましょうか」
最初の準備をする。軍や伝令、船などを表す駒を並べ、日付を来年に調整。
「ではやっていきましょう。最初の年は、あまり大きな事を起こさないようにしますね」
そう言って賽を振り、農作物の出来を決める。今年の分は直接歳入になるし、数年前のものは交易とかに響くようにしてある。あくまでこれは事態への対処が目的であって、正確なシミュレーションができるようには作っていないから限界はあるが。
「少し不作、と」
今回、プレイヤーの4人にはそれぞれ元の職に対応した役割を持ってもらっている。軍事、政策、地方行政。あと一人は都市計画の人。長卓会議の時、ケトに紹介してもらったことがある人だ。一応それぞれ派閥とか方向性が微妙に違うとは言え、ちゃんと実力を認めあっているということは確認済み。
「なら税を調整するか、少し下げるか?」
「各地の衙堂に溜め込んでいる分を多少放出するよう通達を出す」
「新規建築などは抑えるか?」
「いや、そこまでではないだろう。むしろこれで周囲の情勢が悪化しないかどうかを気にかけるべきだな」
わいわいと会話が進み、行動案が出来ていく。予算配分はデフォルトのものがあるので、それに足したり減らしたりすれば比較的簡単に作れるようにはなっている。まあ学徒の皆さんにはこれをちゃんと書類から作るとかやってもらったほうがいいか。頭領府も事務を変えたいらしいがそれができる人間がいないらしいし、いい教育の機会だ。
「それじゃあケト君、そっちの処理を頼むよ」
私は机の下から赤い船をかたどった駒を出し、港につける。
「……熱病の患者が到着した船に出た、という話が届いた。さて、ここからどう動く?」