「っ……」
盤面を改めて確認する。上手い手を取られた。反乱の鎮圧と並行して地域を封鎖、免疫保持者による物流管理を主とした体制を確立。
「キイ先生、次の四半月分の指示だ」
プレイヤーから投げられる策略は、私の指揮する反乱が全部誘導されていたことを意味していた。これは私が敵として相当弱いことを意味する。スパイを作られて行動作戦を渡さざるを得なかったとはいえ、ここまで綺麗に相手の思惑通り動かされるとは。
「……反乱の首謀者は捉えられました。暴徒は解散し始めます」
隠しパラメータの不穏度は恐怖で統制されている。こういう選択を迷いなくなってくるあたり、やはりプレイヤーは一流だ。まあ、そういう人を相手にして一人で戦うのは難しいのがわかったのが私側の収穫ということで。もし本気でこの世界を敵に回すとしたら、どうやって協力者を手に入れるかが問題になるな。まあ、今でもある意味では世界の敵になっているか。
かくして、数日にわたって行われた演習は終了する。結果、図書庫の城邦の人口の一割が死亡。治療薬は開発されなかった。私が想定したクリア方向ではなく、古典的な隔離と免疫を持った巡警でかなり力押し的に感染を収束させた。まあ、この訓練で得られた結果が正しいかどうかはわからない。私の知識の中にも感染症に対しての対策としての都市封鎖の方法なんてものはほとんどないしな。
まあ、治療薬がなかったら私もそうするだろうな、という比較的真っ当な対策である。
「……見返すと、後悔が多いな」
外征将軍が指示書を見返しながら言う。有事の際に巡警が軍として組み替えられるよう訓練をしているのを逆手に取って、図書庫の城邦自体を統制の取れたある種の有機体にしてしまう作戦は凄いと思ったが、これを頭領が倒れたタイミングでやったのが強い。一瞬「何も準備していないのにそんな滑らかに権力を扱えるわけ」と言いかけたが、準備してあるから反映しないわけにはいかなかったんだよ!まあ、個人的にも有事の時にはこの外征将軍が政権握ってほしいな。
「全ての要素を確認する、ということができませんでしたからね。参加者や審判に医学師がいればそこらへんを詳しくできたのでしょうが」
「いや、しかし経済の方面の打撃が想像以上だったな。できる範囲で備えをしておいても良いか……」
講官がそう言いながら
「都市計画の方も、もっと各所に救護所にできる建物を置くべきか」
「そうか、忘れていたが空いている学舎を使えばよかったな……」
残りの二人も議論中。反省が多いようで何より。私側も結構ある。そもそも処理をかなりいい加減にやったしね。
「で、今度は我々がこの演習を主催する側になるのだな?」
外征将軍が私の方を見て言う。
「ええ。学徒たちの敵か、あるいは審判をですが。とはいえ公正のためにこういう風に事前に起こすことの予定を書いておくといいと思いますよ」
私は紙を渡す。今回の感染症の「正解」の情報だ。感染症の内容と私が想定していた攻略方法が書いてある。なお今回は想定していたよりも良い解を出されたので、そういう意味では私の負けということだ。
「……薬を、作れたのか」
「私なら、ですがね。しかしある程度時間がかかります」
例えばペスト菌はワクチンが作りにくかったはずだし、培地も選ばなくっちゃいけなかったはず。となれば抗生物質だが、これは単離、培養、調査、分離とやることが多い。ここらへんは時間のかかる研究と試行錯誤が必要な分野で、私が手をメインで出すべきじゃない。基盤整備の方が私の趣味だし、そういう所での貢献の方が与えることのできる影響が大きいだろう。
避けているとはいえ、辛い話は多く聞くしそういう情報は集まっている。最近始められた人口統計は高い妊産婦死亡率と新生児死亡率を示しているし、これを超える労働環境もあることが調査の結果明らかになっている。いやまあある程度は仕方がないし許容すべきリスクであるとは言え、減らせるものは減らしたい。純粋に資源の浪費でもあるわけだし。
「ところで、これを学徒にやらせるために必要なものは何だと思います?」
「体力だな」
外征将軍が断言する。
「間違いないですね。つまり身体を鍛えるようにして、自分の限界を知ることができるようにする、と」
「どの鍛え方がいいのかも調べたいな。外征軍では最初から鍛えられているし、多くが我流だ」
「まあ、府中学舎はそういうことも調べられるように作るつもりですけれどもね」
「計算済み、か」
学徒の皆さんは重要な研究対象でもある。教育とか心理だけじゃない、もっと広範な分野を対処としたやつ。統計に基づいた判断ができるよう、基礎研究を積み重ねていけば数十年もあればかなり面白いものができるだろう。その頃には私は死んでしまっているだろうが。