図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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診断

「……念のため、医者として確認する。妊娠の可能性は?」

 

「ないよ。ないはず」

 

解剖の時に手を貸した医学師が、私が動けなくなったと聞いてわざわざ診療に来てくれた。というかこの世界では医者がやってくることも珍しくないのか。下手に環境の整っていない場所に入院させるよりも、家族がいるなら看病してもらったほうがいいものな。

 

「肺および心に異常はなし。血の圧は低めだが、寝ているならこんなものだろう」

 

「音については聞き慣れてきた?」

 

「肺病の場合は明らかに音が違う。南方の知人が砂病みと呼ばれる病で呼吸時の音が違うことを報告しているが、これはまだ纏められていない」

 

「それについては急かして。砂病みとなると、砂埃の多い場所で労働することで起こる病で、呼吸困難が特徴……とか?」

 

「その通りですが、知っていたのかね?」

 

それなら珪肺症、かな。砂病みとは、なかなかいい名前じゃないか。

 

「少しね。鼻と口を布で覆うか、あるいは風通しを良くしたり水を撒いたりという対策があるが……」

 

「できるなら苦労しない、か」

 

「変えるためには多方面からの動きが必要ですね。まずは検知と分析ですが、これも長い時間がかかる」

 

北方における鉱物資源探査は進んでいるようだが、欲しいものは見つかっていない。重石(タングステン)鉱よ、どこにあるのですか。蛍光剤になるしフィラメントにもなるしと、X線を扱うなら欲しいのだがない。まあ、無いものを欲しがっても意味はないな。

 

「……仕事のことを考えるべきではない、と医学師として言わせてもらう」

 

「過労、か」

 

「そこのケト君から聞いたぞ、仕事のし過ぎだ。もちろんケト君にも最低半月は仕事を休んでおけと言っておいたがな。毎日高所の海風を港まで歩いて吸いに行くといい」

 

視線を向けると気まずそうにケトが目をそらす。

 

「それは海風がいいのですか?それとも運動が?」

 

「双方だな。それに加え、開けた場所に行くことは心を落ち着ける」

 

「根拠はまだ確立されていないが、確かにそれらしいな」

 

私はそう言って小さく笑う。

 

「ともかく、よく寝てよく食べよく動き、夜に身体を冷まさないようにしておけばいいだろう。精神についてはなんとも言えないが、ケト君には頼るべきだ、と友人として言わせてもらう」

 

友人、ね。まあ確かに色々関わったし、今度の府中学舎の件でだってお世話になっている。なにせ医学師というのは患者の命を握るので、色々な所に顔が利くのだ。まあこれで新しい治療法の導入に反対するとかなら全力で潰すところだが、疑った上で少なくとも悪くなさそうだから使うという堅実な方向で私の知識を導入しているのでいいとしよう。まあ、全力での反対よりも無条件での受容のほうが怖いと言えばそうなのだが。

 

「それでは、失礼するぞ。こちらもこちらで忙しいのだ」

 

「わざわざすまないね、感謝するよ」

 

そう言って彼は足早に去っていく。まあ、もともとある診療の予定にケトが無理やりねじ込んだという形かな。実際の診察は数刻で終わった所を見ると、そういうこういうやり方に慣れてきたようだ。紙に記録を取っていたし、後で色々と整理するのだろう。とはいえ個人情報とかプライバシーの考え方が緩いのは問題だな。

 

とはいえここらへんはインターネットの発展とともに生まれた考え方だったはずだ。一昔前まで住民基本台帳を普通に見れたのだし、ここらへんの認識は場合によっては十年未満で変化するのだろう。大きな組織というのはこういう時に時間がかかりがちだからな。先手を打てるようにしておかないと。ああ、こういう方面で報知紙を訴える話を演習シナリオに入れてもいいな。

 

「……で、キイさん。どうします?」

 

「そうだね、『総合技術報告』の仕事は編集所長に頼んでおいたし、府中学舎の件はそれなりに他の人に回している。迷惑をかけたことを謝る必要は出てくるだろうけど、まあその程度だよ」

 

謝る程度で済むならいいのだ。金を払うことで解決できるなら軽いものだ。そうでない厄介な事を抱えるより、よっぽどマシである。幸いにも私はそこまでやらかした記憶はないが、問題は隠すよりも公表してみんなで面倒事を解決するほうが大抵はマシな事ぐらいは知っている。一応、それが難しいこともよくわかっているのだが。

 

「違いますよ」

 

「えっ?」

 

「これから半月、僕とどう過ごすかという話です」

 

「……ああ、確かに。仕事のことを考えるべきではない、と言われたばっかりだった」

 

どうするかね。思い返せば前にゆったりしたのはハルツさんの所に行った時だ。あれ、一年以上ほとんど休みなしで働いている?で、自分の年齢を確認。そろそろ、老いとまでは言わないけど全盛期を過ぎる頃だ。やっぱり限界か。

 

「博打でもして身を崩そうかな」

 

「好きなんですか?」

 

「いや、あまりやったことはない」

 

「詩でも書きます?」

 

「ケトくんには勝てないでしょ。ああでも散文の物語ならいけるか……?」

 

SFとかを書いて、未来を予言するのはまあ悪くはないか。そういうイメージが未来を作っていくことも結構あるのだし。

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