「痺弓とでも呼ぶべきものになります」
外征将軍の前で私は図面を見せる。
「
「弩と違って弦を張るための力をそう必要とはしない、か」
「……まあ、全部架空の話なんですけどね」
「おい」
「これを実現するには
いや、一応知らなくはないんだけれどもね?一般的にはコンデンサとかだけど、ここで示すような携行可能な
「その実現不可能な代物のために、ここまで手の込んだ図を描いたのか?」
「趣味ですので」
「……まあ、確かにこういうものがあったほうがわかりやすくはあるな」
火縄銃に近い構造だ。というか真っ直ぐな砲身と引き金、照準とかを考えると大抵はそういう形に収斂しそうな気がする。
「これを使って、図書庫の城邦を攻めてもらいます」
「……誰であっても使えるというのは、なかなか面白いな」
「あ、男にはこれを持ってもらって、女にはこれを作ってもらいます」
「これだけの複雑な細工をか?」
「……それは、女性には細かな細工ができないと言う意味で?」
「いや、キイ嬢の口ぶりだと全ての女は、と言ったように聞こえたからな。もちろん実際には無理だろうが、相当の割合を注ぎ込まねば徴募した兵士の数に合わないだろう」
「ええ」
「つまり、その手の才能がない人物にも作業をさせる必要があるということだ。女性のうちどれだけがその分野に秀でているかは知らないが、決して易しくはないだろうとは理解する」
おお、思った以上に理性的。
「必要なら女性でも子供でも戦場に立たせられるのですけどね」
「……キイ嬢。こういった武器について、知っているのか?」
「ええ。こんな
かわりに急速に進むラジカル連鎖反応などによってガスを生み出すちょっとした細工なら知っている。銃というやつだ。あるいは砲。
「……威力は弓と同等とみなしていいか?」
「もっと強くてもいいですよ。鎧の板を突き破る程度のほうが面白いですね」
「となると、戦い方自体も変えねばならないか?」
「全員が弓兵みたいな形になりますからね。あ、投石機みたいな形で大型の痺弓を使って壁を壊すのもいいかと」
「……楽しそうに語るのだな」
少し強めの口調で外征将軍が言う。
「……失礼をしました」
「いや、構わんよ。戦いを好むのは我々の本性だ。それを否定はしない」
歴史を思い出す。誰もが戦争を嫌っているなら戦いは起こらない。暴力は何かを手に入れるために、何かを守るために効率の良い手段であることに間違いはないが、それはそれとして私たちは闘争が大好きなのだ。私だって戦史は嫌いじゃない。愚かなことだとは思うし、この世界でわざわざ再現したくはないが。
「もしこういうものができたら、我々はどう動くのかを知りたいとは思いませんか?」
「降伏するか、戦い続けるか、あるいは……ということか」
「ええ。その過程でどれだけのものが得られて、どれだけのものが犠牲になるか。戦う前からそれらを知れるというのが、どれだけ重要かはよくご存知でしょう?」
この外征将軍はよく鍛えられた寡兵で重要な所に突撃するような戦い方を好む。少ない犠牲で、相対的に大きな結果を残す。そうすることで軍事的な発言力を維持し続け、図書庫の城邦に対する軍事的な攻撃を抑制している。彼のやり方は実にいいものだ。そして、各地で見た様々な戦術に精通している。戦略については悪くはない、とだけ言っておこう。
「……そうだな。重要なことだ」
「できればこれが抑止力になればいいんですけれどもね」
私は歴史を知っているから、これがまず願望で終わってしまうことはよく知っている。例外は日本ぐらいか?あれだって相当な銃規制に経済的規制かけて、それでいて幕末には色々と綻びが見えていたのだ。
「なるか?」
「こういう兵力が何もかもを終わらせるほどの力がある、と多くの人が気がつけば……」
核兵器ですら、冷戦時代の代理戦争を止めることができなかったのだ。もし狂った相互確証破壊がなければ戦火は拡大していたのかもしれないが、それは別に本題ではない。私の知識にある指折りの破壊的方法すら戦争を小規模にすることしかできなかたのだ。
「無理だろうな」
「断言しますか」
「……戦場を全員に見せればできるかもしれないが」
「それは、そうとう悲惨な戦いですね」
絶対戦争。総力戦。最終戦争。そういうあらゆる人間が逃げられない戦争は、まあ避けるべきものとして扱っていいだろう。これを起こさないか、あるいは一回で済ませられれば私の勝ちでいいんじゃないかな。何の勝負かは知らないけど。