図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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おまけ 1
訪問


私は、自分の境遇にそこまで不満を持っていない。

 

父と母は私を愛してくれた。私の先天的に持つ自然への興味を引き出して、様々なことに触れさせてくれた。それがこの図書庫の城邦を統べる人物となるべき人を育成するためのものであるとはいえ、私はそれが嫌いではなかった。

 

そんな事をぼんやりと考えながら、私は大図書庫の通路を歩く。府中学舎に入るための試験を突破して、やっとあの人と会う許可が出たのだ。もちろん、あの人のことは見たことがあるし、あの人の副官と父が話しているのは何度も見ている。

 

「……止まれ」

 

「ああ、身分を示せばいいのですよね」

 

この日のために父に書いてもらった紹介状を守衛の人に見せる。頭領府の印がされた、ちゃんとしたもののはずだけど。

 

「……問題ない。彼女にはこちらから客人が来たと伝えておく。ようこそ、『図書庫の中の図書庫』へ」

 

「ありがとうございます」

 

身につけた作法というものがすっと出るのはありがたい。私はあまりこういう堅苦しいやり方が好きではないのだが、それはそれとしてそういうやり方が威厳とか信頼とか尊敬を得るために不可欠であることぐらいは理解している。

 

あの人の噂は、色々とある。

 

例えば、話を聞いただけで装置の改良点を指摘しただとか。

 

例えば、名のある商者が度々その知恵を求めて訪れるだとか。

 

例えば、若い頃は年下の愛人を連れ回して仕事をしていただとか。

 

まあ、そうは言っても私の母より年上だ。今では表舞台には出ていないし、名前を出されることを嫌うという。ただ、噂とは別にあの人を個人的に知っている人に話を聞いたことがある。父からは若いうちからそういう事に興味をもつのは良くないと言われたが、文字が読めるようになったばかりの娘に「総合技術報告」を読ませていた人の言う言葉ではないと思っている。

 

例えば、秘密主義者。

 

例えば、底の見えない賢人。

 

例えば、知識はあるけど正直言って言われているほど賢いとは思えないというもの。

 

最後の発言をした人はそれでも自分よりは賢いだろうけどと卑下していたが、星の廻りの謎を読み解いた天文学師が賢くないならそりゃあの人もそこまで賢くないだろうな、と妙に納得したのを覚えている。

 

私は、自分の中でいくつか仮説を立てた。この仮説を立てて検証するという考え方も、彼女の弟子によって広められたものらしい。あの人が人を教えていたのは四年程度らしいから、その世代以外は弟子というか勝手に影響を受けたと言う方が正しいのかな。ともかく、私はその仮説を確かめるためにここにいる。

 

さて、と私は紙にしておいた覚書を確認した。扉にある「調査室」の文字に指を向けて、問題がないことを確認。これも時期的にあの人の影響があるはずだ。物心がついた時にはあの人の影響が身の回りに色々とあったので違和感が少ないが、父や母の世代だと変化には戸惑っただろう。

 

私は息を吐いて、手の甲で扉を数度叩く。

 

「……どうぞ」

 

「入ります」

 

私が部屋に入ると、高机の奥で高椅子に座った白髪の女性が目に入った。一瞬立っているのかと勘違いして、背が高いという噂との齟齬に頭が混乱してしまった。座る彼女の隣に立つ男性は、まあ顔見知りと言ってもいいだろう。父の腹心……だと見なされているところもあるが、別に特にそういうわけではない人。

 

「始めまして」

 

「……どうも」

 

「まあ、そこに座って下さい。何か温かいものでも飲みますか?」

 

丁寧な、柔らかい口調で高椅子を勧めてくれる彼女は安心できるが、私が求めているのはあまりそういうものではない。

 

「それでは、お言葉に甘えて。しかしキイ師、私にそこまで気を使わなくても構いませんよ」

 

「あなたの父に、余計なことを吹き込まないようにと言われているので」

 

あくまで表情をあの人は崩さない。まあ、当然だ。こういう視線は向けられ慣れている。ただ、あの父の娘だと見られているのはちょっと不満だ。

 

「私は私です。それに父は大切な長女に心配をかけ過ぎなのですよ」

 

「そうは言っても、あなたはまだ不安定な年齢ですよ」

 

「不安定な年齢の人に、それを言うの?」

 

「自覚しているなら、まあいいでしょう。もしやるなら手加減はするなとも言われていますし」

 

うん。先程の私の発言を訂正しよう。父は私のことを思ったより信頼してくれているようだ。

 

「何かあったら謝るのは僕なので、危なそうなら止めます」

 

「お願い」

 

信頼がおける二人だ。こう仲のいい男女は両親を思い起こさせる。

 

「……キイ師、不躾ではございますが質問をしてもよろしいでしょうか?」

 

「先生でも、嬢でもいいけどね。なあに?」

 

「……キイ先生はどこから来たのですか?」

 

キイという人は議論を好む、らしい。なら年齢と経験に劣る私ができるのは、最初から思いっきり聞くことだ。

 

「私は彼、知ってると思うけどケト君と同郷だよ」

 

「……どこで学んだのですか?」

 

「秘密」

 

「未来から来たわけではないのはわかっているのですが、ではどこから、というのを示す言葉がないんですよ」

 

「まず、どうしてそこまで考えているか、教えてもらっていい?」

 

彼女の口調から来訪者をもてなそうという柔らかさが消えて、対等な相手に向ける誠実ながらも挑戦的なものになった。そうだ。私はこれを楽しみにここまで訪れたのだ。




R-18ではありますが、なぜか二次創作がハーメルンに投稿されています。トゥーキイ、リバ有なので苦手な方はご注意下さい。

私より先に二次創作を書くの許せねぇ……私もR-18のifのやつ書こう。気になる人はもう少しお待ち下さい。
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