図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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方法

「……そうすると、あなたの今までの行動に一貫性が出てきます」

 

楽しい。今まで聞いていた彼女の情報が一つに繋がっていく。

 

「異なる物語に紛れ込んだあなたは、介入を最小限に、それでいて物語を加速させるような試みを行った。それが文字版印刷で、無線通信機で、新しい考え方だった」

 

「そういったものの中に『考え方』を入れるのはどうして?」

 

「……そうですね。まず、私がキイ先生の謎を解くために使った考え方を思い出すとそれは比較的新しい考え方だということがわかります。具体的には、キイ先生が教えたような世代の若い講師たちの使っているやり方ですね」

 

「なるほど、確かに時期的には一致するね。でも二つ謎が残るよ」

 

「二つ、ですか?」

 

彼女は答えを知っているから、先の見えない私と違って問題を俯瞰できるのだろう。その視点を借りているのは少し癪だけれども、これは自分の問題だと割り切ろう。

 

「私がなぜそのような考え方をしたのか。そして、それをなぜあなたが文字版印刷や無線通信機と並べるほどに重要視するのか」

 

落ち着いて、呼吸をする。後者のほうは自分が今まで考えていたことをまとめればいい。前者の方は、推測しかできないだろうが答えになりそうなものはある。

 

「あなたがそういう考え方をしたのは、それが自然だったから。かつていた物語では、様々なものがこちらの物語と異なって、あるものは発展していたのでしょう。それだけ多くの問題が生まれて、それを解くためのいい方法を導く必要があった」

 

「あ、逆。問題の解決方法のほうが先で、それができたからこそ発展が……」

 

そこまで少し早口で言って、彼女はきまりが悪そうな顔をした。

 

「……もしかして、かつての物語でも歴史を調べていたんですか?」

 

「……どうしてそう思うの?」

 

たっぷりと時間を置いて、彼女が口を開く。

 

「……語り口が、講官とかが専門分野を語る時のそれだったので」

 

私の答えに彼女は私からすっと目をそらして、隣の男性の方を見た。彼は諦めなさいと諭すように静かに首を振る。今まで憧れというかずっと会いたかった人のこういう所を見れるのは、なにか胸が変な感じになるな。悪い気分ではないけれども。

 

「ええと、二番目の謎について答えていいですか?」

 

「……どうぞ」

 

彼女は軽く首を振って、体勢を整え直したようだ。

 

「文字版印刷で何を刷るか?無線通信機で何を伝えるか?キイ先生はそこにはあまり注意を向けていないように見えます。しかし、そこで伝える内容をどう作るかは考えているように私には思えます」

 

「あなたは、そう考えるんだ」

 

「私は、そう考えます」

 

これは多分、私が事実と自分の意見とを切り分けられているかの確認だろう。

 

「……私がこの物語に持ち込んで、一番その広がりに驚いているのは確かに『考え方』だよ。数字の書き方とか、計算式の表し方とか。できるだけこっち側の物語に馴染むようにしたけど、だから、だったのかな。それは一気に広がって、様々なものに使われるようになった」

 

そう言う彼女からは、秘密を話せた安堵を感じることができた。こういう人を見る目は色々な人に学んで鍛えている。

 

「……想像を超えて物語が進展していくのを見るのは、どうでしたか?」

 

「楽しくはあったけれども、怖くもあった。飛び入りで劇に入って、その演目を全部壊してしまうような……いや、この言い方はあなたの表現に引っ張られすぎているかも」

 

「……父は、あなたのことを人間だと言っていました」

 

「いや、そうだけど?」

 

「神霊でも悪鬼でもない、助けがなければ何も成せない、そして自分が過ちを犯すのではないかと怯える、ただの人間であると」

 

「……逆に言えば、私は彼にそう見てもらったからここにいれたんだよ。他の物語から来たからと言って、私は万能ではないし、物語の中の問題を見事に解決することなんてできない。間違いもたくさんしてきた。けれども、あの人はそういう私を責任を持って受け入れてくれた」

 

確かに、父はその責任を取って多くの仕事をしていた。彼女がもたらした変化が暴走しないように、あるいは特定の勢力が強すぎる力を持たないように。

 

「……一人のこの物語の登場人物として、来訪者たるあなたには感謝しなければなりません」

 

私は頭を下げる。その意味は知っている。けれども、ここで感謝を言えないような人なら私は将来どころか今の自分を肯定できない。

 

「別に感謝されたくてやっているわけではないです。ただ頼まれたからやった。好きだからやった。必要だからやった。その積み重ねです。最初から目的を持っていたわけではないですよ」

 

「けれども、結果として多くのものが生まれました。赤子は死ななくなり、飢えは減り、病を癒す方法が手に入り、多くの人が本を読めるようになり、そして私は好物の氷菓子を味わえるようになった。最後だけでも、あなたに捧げなければならない感謝は大きいものです」

 

「美味しいよね、氷菓子」

 

「美味しいですよね……」

 

そう言って、私は笑ってしまった。彼女も笑った。隣の彼も小さく吹き出していた。

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