そして三つ目が、電気を使うこと。電気は本当に強い。化学反応を逆向きに起こせる、と言えばいいだろうか。酸に溶けた金属を元に戻すなんてことができる。ただこれは別に電池や発電機がなくてもできる。いや、厳密には電池を使ってはいるのか。電池そのものが
ただまあ、この反応は遅い。欲しい膜厚はミクロンではなくミリの
「いっぱい作っていますね」
「やる?」
「かなり細かい作業みたいですし、やめておきます」
「うぅ……」
丁寧に、丁寧に、編むように銅線を巻いていく。芯を作っている紙を挟んだ薄い鉄製の板は堆に使っている鉄板のおまけで作っていただいたものだ。紙を挟んでいるのは渦電流損の防止の為、だったはず。記憶が怪しいのでお守りに近い。
「それにしても、どうしてこれで痺因が生まれるんですかね」
「ちょっと説明が難しい」
電池では化学反応のおまけとして発生した電子が回路に流れるが、発電機では磁界内の荷電粒子がローレンツ力によって「引っ張られる」ことによって電流を生む。これはさすがに説明できない。ケトが理解できないだろうというのではなく、それを証明する方法がないからだ。
正電荷と負電荷……と言うとどうやって「正」を定義したのか突っ込まれそうなので硝子性電荷と樹脂性電荷と呼ぼう。これはシャルル・フランソワ・デュ・フェの命名から引っ張ってきたものだ。さて、電流は樹脂性電荷を持つ電子の運動によって作られる。ここで磁石の近くでいい感じにコイルをぐるぐるさせるかコイルの近くでいい感じに磁石をぐるぐるさせると電子は磁界に「引っ張られる」ように電線内をあっちこっちに移動する。例えばしばらく一方向に行き、しばらくしたら引き返すみたいに。こういうことを秒間50か60回やっているのが商用電源。それであれば比較的簡単に作れる。
これを直流に直す解決策の一つは、電子が片方に引っ張られた瞬間に回路を繋ぎ変え、本来なら逆向きに引き戻すように働く力を同じ向きのままになるようにするというものである。これが一般的な直流発電機の原理だ。回転に合わせて接続を切り替えるのは整流子と呼ばれるパーツで、回転部分の露出した銅線などと物理的に接触することで動く。当然整流子は削れるが、仕方がない。
そういうわけで完成したのがこちらになります。今回採用したのは回転するコイルを磁界の中に入れるもの。コイルの巻き方は軸と垂直な方向をぐるぐるするように、と言えばいいだろうか。端の方は配線が複雑で紡錘形になったが、まあたぶんいける。何回か確認したがこれでいいはず。昔発電機を触ったのでその知識が役に立った。本当にこういう事が多いな。
木製の枠に入れて、軽く回してみる。重いがあまり抵抗はない。
「基質の分解に使っている装置、今使える?」
「いいぞ」
トゥー嬢の答えを聞いて、私は試作品の発電機を持っていく。
「どこから痺因を流しています?」
「ここと……ここだ」
水の電気分解に使っているのは活性炭電極だ。もっと簡単に言ってしまえばいい感じの温度で蒸し焼きにした木材である。これを水の中に入れて電気を流せば電子が流れ込む側からは水素が、電子が出て行く側からは酸素が発生する。圧力と温度が一定なら気体の体積は分子量に依存するので、出てくる酸素の体積は水素の半分となる。まあここらへんはしっかりとした測定とちゃんとしたガラス機器が欲しいところだ。
まあともかく、接続。ハンドルをぐるぐる回す。
「……おお、泡がちゃんとできているな」
「よかった……」
確か水の電気分解に必要なのは理論上は1.2ボルトほど。ただしそれ以上あるに越したことはない。ある程度過剰に電圧がないと反応が全くと言っていいほど進行しないのだ。なので比較的大きな電流を生むことができるが電圧に不安のある単極発電機は使わなかったのである。ちなみにこの逆、大きな電圧は生み出せるが電流はからっきしというものとして静電発電機があるが、これはしばらく使うことはないだろう。真空ポンプができたらX線発生のために使う。
「ところで、これは回していないと動かないんだよな?」
「そうですね」
「……疲れないか?」
「疲れますね」
私の腕力で回して0.1馬力程度の発電能力だとすると70ワット程度だ。あまり強くはない。大型の発電機と強力な動力源があればともかく、だ。
「より強くするには?」
「色々と足りないものが多いですね」
「……まあ、ともかく回り続ければいいんだな?」
トゥー嬢は少し考えて、呟くように言った。