図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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鑽孔

印刷物管理局規格と命名された各種の規格のうちの最初のもの、「紙の寸法」が文書となって謄写版印刷され、関係機関に頒布された。今後紙の制作はこれに沿って行ってほしいと製紙職人に伝えるのはそういうつながりのある局員がやってくれた。基本的に大きいサイズで作り、端を切り落としたりそれをさらに四分割していく形で規定の大きさになるようにするわけだ。これについて私は半分程度しか関わっていない。印刷物管理局の面々は優秀なので、このレベルの事務であれば片手間にこなすのだ。

 

「ただ、詩才についてはたぶん僕が一番ですね」

 

ちょっと自慢げにケトが言う。公式文書なので聖典語版が正本で東方通商語のものは翻訳という形になっているのだが別にどちらも韻文ではない。それでも言葉のいい感じの響きというものがあるらしく、ケトの訂正を職員は受け入れていた。私にはそこらへんがわかる感覚がまだないのだが。

 

「まあ、仕事が速いのはいいことだよ」

 

そう言って私は手の中の工具を握る。ぱちん、と小気味のいい音を立てて厚紙に丸い孔が開いた。

 

「かなりよさそうだ」

 

「それが言っていた革細工用の道具ですか」

 

「そうそう」

 

それで孔を開けているのは紙の注文の際にいろいろと頼んでおいたものの一つ、厚紙だ。水酸化ナトリウムによるパルプ作成はいくつかの製紙職人が取り組み始めたようで、トゥー嬢を含む薬学者が引っ張りだこになっているだとか。まあトゥー嬢を引っ張るにはちょっとやそっとの金額ではどうにもならないだろうけれども。

 

いや、ここらへんは完全に職人技だ。今後の紙需要の増加に賭ける狂った商者がおり、その人が裏で手を回して本来秘匿されるようなノウハウの共有を促しているらしい。なんでそんなことを知っているかというとその商者の跡継ぎと目される有能な若者が私の部下だからである。まだ出版物をろくに扱ってすらいないのにもうここが一種のシンクタンクみたいになりつつある。

 

そして印刷機の複製ができたようだ、と衙堂の方から報告も来た。一応私が作ったものは搾油機の改良品だが、それを印刷用に再設計して作り直したらしい。おかしいなまだ数ヶ月しか経ってないんだぞ?かつての事務仕事が遅々として進まなかったことを思うと色々と怖い。ブレーキを踏んだほうがいいのではないかと思うがまあこういうものは行けるうちに行った方がいい場合もある。バブルみたいにならないよう注意はしないといけないが。

 

「で、そちらは?」

 

「特別の(はさみ)

 

活字を作るときにお世話になった工師に自分で作った試作品を見せたところまだまだ職人の腕には及ばないと言われたが、そういう道具であれば作るぞと言ってくれたので銀片を積んで頼んだのである。

 

「孔を開けた上で、その孔まで切り欠きを伸ばすんですか」

 

切符を切るように鋏をぱちんと鳴らすと、紙の一部が切り取られる。仕込んである薄い板バネが結構いい仕事をしてくれて比較的スムーズに作業ができる。

 

「そうそう。では実演をしてみよう」

 

私は六小型と呼ばれているサイズの厚紙をとんとんと纏める。基準となる大きさ、通称基準型から六段階小さいという意味だ。三段階小さいと面積が四分の一なので、この大きさは基準型を十六分割すれば得られる。かつて扱っていた名刺より一回り小さい程度の横長長方形。その左上に場所を合わせて孔を開けているので、重なった孔を通して向こうが見える。

 

「これがまず鑽孔紙だ」

 

「鑽孔、孔を開けてあるから確かにそうですね」

 

「これの中には二種類の孔が混じっている」

 

そう言いながら私は鑽孔紙を二枚取る。

 

「一つはただ孔が開いているだけ。もうひとつはその孔が縁まで伸びている」

 

紙をもとに戻し、シャッフルし、また揃える。

 

「ここで棒を取り出します」

 

そう言いながらただの木の細めの棒を孔に入れる。

 

「で、持ち上げると……」

 

「切欠きがないものだけを選べる」

 

「そう」

 

ケトの言う通り、切欠きがあるものはそこを棒がすり抜けるので落ちていく。一方穴を開けたものだけはそのまま引っかかって残るわけだ。

 

「たとえば今は孔が一つだけど、もっと多く用意してもいい。切欠きの深さを変えてもいい」

 

「……それが、なんの役に立つんです?」

 

「この紙一つ一つにそうだね、今後出版される本の内容を書く。そしてそれに合わせて紙の周りに切れ込みを入れる」

 

「……はい」

 

「例えば何年の何日に作られたか。表題の最初の文字はなにか。内容はどのような区分に属すか。作者は生きているか、あるいは死んでいるか。死んでいるならいつ死んだのか……」

 

「探したい項目に棒を刺せば、それを見つけることができる」

 

「その通り」

 

手整鑽孔紙(ハンドソート・パンチカード)、あるいは縁欠紙(エッジノッチド・カード)。二十世紀に事務や研究などの分野で盛んに使われたものの、コンピュータの導入によって、あるいは扱う情報の量が膨大になったことで廃れてしまった技術。昔触った史料のなかにあったから少し調べたことがあるのだ。

 

「ただこれ、問題がありますよね?」

 

「例えば?」

 

「全く同じ形の紙の、全く同じ場所に孔を開ける必要があります。それに紙の厚みも必要になる」

 

「紙の大きさについてはすでに解決済み。厚みについては今後に期待」

 

そのための規格化、そのための専門家だ。

 

「孔の場所は?」

 

「そういう道具を作るよ」

 

ちょっとした治具でいけるだろう。さて、あとは本当にこれが使い物になるかだ。

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