「あ、メガネ君置いてきちゃった、ちょっと待っててな」
そう言って迅さんは再び会議室へ戻った。通路の端により、胸に手を当てて目を閉じる。
__俺たちは家族だからよ__
ボスの言葉を思い出すと胸の奥がじわじわと熱を持った。とても心地良くて、同時に恐怖を感じた。
この熱を失いたくない。だから、うさみも小南も、ボスもレイジさんも烏丸さんも、迅さんも、
「メガネ君薄々わかってると思うけど、今のボーダーは3つの派閥に割れてるんだよねぇ」
「派閥、ですか?」
「そ、ネイバーに恨みがある【ネイバーを許さない】城戸さん派、ネイバーに恨みは無いけど【町の平和が第一】の忍田さん派、そして」
迅さんはボクの後ろにまわって腕を掴んでピースサインをさせてきた。
「ネイバーにも良いやつはいるから【仲良くしようぜ】我ら玉狛支部!」
「は、はぁ…」
修は迅さんの行動に驚いたようだった。
まぁ迅さんの奇行は今さらだからボクは慣れた。
「聞いての通り城戸さん派と俺達は正反対だからあまり仲がよろしないわけ、城戸さんの派閥は一番大きいからうちが何かやっても王者の余裕で見逃して貰えてたけど、遊真と手を組んだら派閥のパワーバランスが完全に崩れる」
迅さんがそう言うと修は空閑が入っただけで!?と驚いていた。
「まぁ実際は少し前から殆ど崩れかけてたけどな、それも相まってブラックトリガーってのが後押しだ。まぁそんなわけで、城戸さんは何かしらの手を使ってブラックトリガーを奪いに来るだろうな~、あ、遊真達と合流したいから連絡して貰える?場所は……商店街で」
迅さんはボクの背中を押して歩き始めた。
「…ハクさんと迅さんって仲が良いんだな…」
ボーダー本部を後にし、商店街へ向かうと遊真達は既に商店街の入り口にいると連絡が入り、入り口に向かうと自転車を押している遊真と女の子がいた。
修に聞いてみると修の友達の雨取千佳というらしい。
「あれ、ハクちゃんじゃん?久しぶり」
「久しぶり遊真」
「は、初めまして、雨取千佳です」
「初めましてボクは白夢白堊、ハクって呼んで」
千佳と軽く自己紹介をして何やら考えながら歩き始めた迅さんの後をついていく。
その間は遊真が修に本部のでの事を聞いていた。
「ボーダーがお前のトリガーを狙ってくるかもしれないんだ」
「ほう?」
「迅さん、白堊さん、これから僕達はどうしたら良いですか?」
どうしたらいいか……それは、
「……襲われたら撃退する?」
「ん~……それもアリっちゃぁアリだけど、もっとシンプルにいこう、遊真お前ボーダーに入らない?」
迅さんがそう言うと遊真は呆然として、修は抗議を始めた。
でも迅さんが言うには本部のボーダー隊員じゃなくて、玉狛支部のボーダー隊員にならないかと言うことらしい。
悩む様子を見せる遊真に迅さんはお試しで来てみたらどうかと交渉すると条件付きで了承した。
「ん~……修と千佳が一緒なら良いよ?」
「うし、決まりだな」
玉狛支部に向かう途中遊真と千佳から今朝あったことを聞いていた。修と別れた後に千佳と合流しようとしているとバンダーに襲われている千佳と遊真を修が助けたらしい。
「前よりすごい良い動きしてたよホント」
「多分白堊さんの特訓の直後だからだよ…もっと、頑張らないと」
「まぁまぁ、そんなに卑下にすることないぞメガネ君、ほら着いたぞ、ここが我らがボーダー、玉狛支部だ」
迅さんがそう言うと修達は回りをキョロキョロと見回して橋から川を見下ろしていた。
「元々ここは川の水質やら何かを調べる施設で、使われなくなったのを買い取って基地にしたんだ、良いだろ?」
「は、はぁ…」
そして玉狛に入ると玄関には何故かよーたろうが雷神丸に乗って出迎えた。まぁ、偶然だろうけど。
修達は雷神丸を見て驚いているのか硬直していた。
「陽太郎、今誰かいる?」
「……新入りか?ウグッ!」
初対面で失礼なことを言うよーたろうに迅さんが手刀を食らわせると大袈裟に身をすくめた。すると奥からうさみの声がした。
「迅さんお帰り~あ、ハクちゃんもお帰り~」
「うさみ、ただいま」
うさみは段ボールを抱えていて、何かの整理をしていたみたいだった。迅さんが修達にうさみを紹介するとうさみはやっと修達に気づいたみたいで慌てて準備をしに行った。
「ムフッ!」
「ん……」
雷神丸が構えと言うように鼻で小突いてきた。しゃがみこんで頬を揉むように撫でるとまたムフンと鼻息を鳴らした。
それから修達を客間に案内して迅さんと一緒に部屋に戻った。
「何で遊真を誘ったの?」
「何でって、遊真をうちに引き込めればブラックトリガーの確保っていう命令も達成できるし、うちの隊員になればボスも俺も遊真を大胆に庇えるからな__揚げ煎食う?」
ボクが納得した所で迅さんは積み上げられてる段ボールから揚げ煎餅を新しく取り出してバリバリと食べ始めた。……夕飯が近いのに
「うさみに怒られるよ?」
「バレなきゃ良いんだよ「むぐ…」」
迅さんはボクの口に揚げ煎餅を無理やり入れてきた。
吐き出す訳にもいかずに食べるとこれで共犯だとニヤリと笑った。
「む」
ガチャリとドアが開けられるとそこには遊真がいた。
「お~遊真、揚げ煎食うか?」
「ちょっと駄目ですよ夕飯前なのに!」
「あ、あはは…」
迅さんがうさみに怒られている間に遊真がヒョイと部屋を覗き込んできてボクと目が合ってバタンとドアを閉めた。
するとうさみがいなくなった瞬間にまた揚げ煎餅を食べ始めようとする迅さんから揚げ煎餅を奪い取る。
「俺の揚げ煎が…」
「だめ、うさみに言われたでしょ」
「とほほ……」
大袈裟に肩を落とすとおもむろにスマホを取り出して何処かへ連絡を始めた。
「___はい、Lを2つを夕方過ぎた頃に、それじゃお願いしま~す♪」
「何か頼んだの?」
「ピザをな、俺のサイド・エフェクトが今日の夕飯は完成しないと言ってるからな。あ、皆には内緒だぞ?」
「ぴざ?」
「お?そういやハクはまだ食べたこと無かったか、うまいから楽しみにしとけよ」
たしか昨日のカレーが残ってた筈だけど……また雷神丸が食べたのかな?
以前も夜に雷神丸が前日残っていたカレーを全て食べるという事件が起きた。その時は小南が怒って大変だった。
「そんじゃ俺は暫く寝るから夕方になったら起こしてくれ」
「了解」
迅さんはベッドに横になるとサングラスをかけて寝始める。
……この開いた揚げ煎餅はリビングに置いておけばよーたろうか雷神丸辺りが食べるかな。
迅さんの部屋を後にしてリビングに揚げ煎餅を置いて自室に戻り部屋着に着替ながらトリガー抜いてベッドに座る。
やることが無いからどうしようかと考えていると前に烏丸さんから貰ったミルクパズルが目に入った。
「……やってみようかな」
箱をあけると中には袋に入った真っ白なピースと説明書、そしてピースをはめる板と組立式の箱が入っていた。
板はかなりの大きさで説明書には大きなテーブルか床でやるようにと書かれている。
説明書通りに床に板を設置してボク自身も手前に座り込み、まずは箱を組み立てる。暫くしてできたのは幾つかの区切りのある底が浅くて広い箱だった。
説明書によるとこの区切りごとにピースを分類してから始めるらしい。
「……まずは一番大きなスペースにピースを全て入れ、角や平面があるパズルの輪郭のピースを分類しましょう…」
ザラザラと音をたてながら袋からピースを箱に移して目的のピースを探す。数十分程で分類が終わり、説明書に書いてある準備が終わった。
「分類が終わったら準備は完了です。後は思うままにピースを繋げましょう。パズルを休憩する場合は付属のクリアケースを被せて保管してください……」
説明書を箱に入れ、早速ピースを板に嵌める。最初は4つの角に90°のピースを嵌め、そこからピースを繋げていく。
回りを嵌め終え、いざ内側のピースに取りかかる。
「……なかなか、うまくいかない……これ?」
嵌まりそうで、うまく嵌まらない。かと思えば別の場所で綺麗に嵌まる。
それから時折首を傾げ、ピースを見つめながら淡々とパズルを嵌めていく。
パズルの2/6程ができた所で遠くから夕方の放送が聞こえて窓を見るとオレンジ色に染まっていた。
パズルにクリアケースを被せ、迅さんを起こしに行くとベッドの上で寝始めた体勢と全く変わらない迅さんが寝ていた。
体をユサユサと揺さぶりながら声をかけても呻き声を上げるだけで起きてはくれない。
「うぅん…たしか、小南とうさみがこうしてたような…?」
寝ている迅さんのお腹に手を置き、徐々に力を込めていく。すると迅さんは苦しそうな声を出し、目をしょぼしょぼさせながら起き上がった。
「ヴォエ……おはようハク……」
「おはよう迅さん、夕方だよ」
「みたいだなッ!あ"~……」
体を伸ばすと背骨がなる音が聞こえた。ボクも真似をしてみるが、埋め込まれた背骨のトリオン金属がカチカチと鳴るだけで迅さんの様な音はならなかった。
「……その音どこから出してんの?」
「?背中」
「ほぇ~…こうなってんのか」
背中を捲って見せるとペタペタと触られる。背骨のトリオン金属を上下に撫でると捲っていた服を下ろされた。
「さ、もうじきピザが…お、来たか。んじゃ、リビングに行くか~、そういえば俺が起きるまで何してたんだ?」
「烏丸さんに貰ったミルクパズルをやってた。難しくて2/6位しか完成してないけれど」
「いや、十分だと思うぞ?たしかあれ1500ピースだった筈…」
話しながら進んでいると、リビングの入り口に人影が見えた。あの人がピザの配達員みたいで、何故かうさみ達はリビングの角で一塊になっていた。
ピザを受け取りながら聞いてみると、侵入者用のセンサーが反応して、ボクも迅さんも連絡がつかなかったから警戒していたみたいだった。
そして全員でテーブルを囲んでピザを食べ始めた。
迅さんからピザを受け取ると、ピザは三角形で薄くて、表面には黄色い何かとケチャップが掛かっていた。
前に、烏丸さんがくれたものと似てる?
「……パン?」
「ん~、だいたい材料は一緒だな。でも味は別物だから冷めないうちに食えよ」
「んむ……ッ!?」
ぱくりと一口食べると食べたところから黄色い何かが伸びてソレが口とピザを繋ぐ。
思わず驚いて体を硬直させていると横から光とパシャリという音が鳴った。
「え、迅さん何で写真取ってるの?」
「いや、ハクの驚いた顔はウルトラレアだからな、ほら」
迅さんがうさみに写真を見せるとボクと見比べて確かに!と感心していた。顔に出てたかな?
とりあえずもちゃもちゃとのびているものを食べ、水で流し込む。
「あれ、何?」
「チーズって言ってな、アイスと同じような牛乳が材料だ」
「牛乳が伸びる……?何故…??」
……牛乳は飲み物で液体で、アイスは食べ物で個体で、チーズは食べ物で、伸びて……液体……?個体……?
「あ、こら陽太郎!なにしてんの!」
「ふっふっふ、ハクにも大人の味を知るが良い!」
「…ハクちゃん、健闘を祈る!」
食べかけのピザを見てみるとよーたろうが何かケチャップ?の様なものをかけたみたいでピザの白い部分が赤くなっていた。
遊真は何故か水を沢山飲みながら敬礼をしている。
とりあえず食べてみると、さっきと変わらない味だった。
「あッ!ハクちゃん大丈夫!?水水!って、大丈夫なの?」
「?」
「なん…だと…!?」
どうやらさっきの赤いのはホットソースで、辛味を追加する調味料らしい。……辛味って、どんな味なんだろう?
そんな事を考えていると着信音が鳴った。着信があったのは迅さんで、相手はボスだった。
着信の内容は、ボスが修と遊真に会いたいという理由だった。
ボスが帰ってきて、迅さんが修と遊真を案内するのについていこうとしたら迅さん一人で十分だと言われた。
「今日は遊真達も泊まる予定だから、少し早いけど風呂の準備をしといてくれるか?」
「……わかった」
手早くお風呂を掃除して、お湯を貯める。暫くするとお湯が湯船に貯まりきったようで音楽が流れた。
それをうさみと千佳に知らせに行くと千佳は遊真達と話しているみたいでうさみしかいなかった。
「あ~そっか、それじゃ千佳ちゃんが帰ってきたら一緒に入りに行こっか」
「いいの?」
聞き返すとうさみは一瞬硬直して「あ…」と声を漏らした。
ボクの体には首輪は勿論、至るところにトリオン金属が埋め込まれていて、様々な傷跡がある。
普段から人に見られない為に肌を露出しないように長ズボンや、首まであるセーターを来ている。
「あ~そっか、そうだった……それじゃぁ…先に一人で入ってて貰っていい?お風呂あがったら私と千佳ちゃんが入るからさ」
「わかった」
服を全て脱いで浴室に入り、髪を洗う。
__そういえば、最初の頃は小南かうさみに洗って貰ってたな…
そもそも入浴なんてこっちに来る前はしたことが無かった。だいたいは浄化液のシャワーで返り血や汚れを落とすだけだった。
浴室といえば、ボクが使われる場所で、ボクの身体を擦り付けて洗う場所だと思っていて、小南とうさみを困らせてしまったこともあった。
教えて貰った通りに髪をしゃこしゃこと泡立てた泡で丁寧に洗い、流した後にリンスを付ける。その後に顔を洗って身体を洗う。
そして背中を擦っているとビリッと音がした。見てみると擦っていた布が背中の突出しているトリオン金属に引っ掛かって破れてしまっていた。それに、鏡で見るとトリオン金属の隙間に布が挟まっていた。よりによって、指が届かない場所だった。
「むぅ…」
誰かに頼んで取って貰わないと……背中に違和感が…
手早く髪を乾かしてリビングに戻るとうさみが本を読んでいた。
「あ、あがったんだ」
「うん。あと、また破れちゃって…挟まってる」
「ありゃぁ…あれ結構ぼろぼろだったからねぇ…、千佳ちゃんが戻ってくる前に取っちゃおうか」
椅子に座って服を捲って身体を丸めると、背中のトリオン金属が動いて隙間ができた。うさみは慣れた手付きで挟まっていた布を取ってくれて違和感が無くなった。
うさみにお礼を言って部屋に戻ってミルクパズルの続きを少しだけして、いつも寝る時間になった。
ベッドに横たわると昨日よりもベッドが広い気がした。
「……あした、明日は小南が帰ってくる」
目を瞑ると何故か昼間に聞いた迅さんの心臓の音を思い出した。
小南の心臓の音は、どんな音なんだ…ろ……う……
なんか、2話続けて迅さんとの絡みが多いような…?
それといちいちトリオン金属って書くのがめんどゲフンゲフン、やかましい気がしますね。
因みに白堊の背中に埋め込まれているのはムカデみたいな形をしてます。
埋め込まれたトリオン金属の名称!!
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強化パーツ
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強化骨格
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ムカデ
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ワイが考えたるわ!(コメントへ)