実は、生き物に好かれやすい
気がつけば前回更新から約1ヶ月経っていました。
あらすじ
担当達に暴行されたトレーナーだったが、たづなさんの介入もあり、間一髪のところを助けられる。たづなさんの秘密を知り、それを共有したところで、ウマ娘が暴動を起こしていると知る。既に押し寄せていた生徒を制圧し、教職員室に向かったところ、理事長から負傷者や退職者も出たことを伝えられる。
一方、ウマ娘側はその力を以てをトレーナー達を排除せんとする。
トレセン学園の緊急事態にトレーナーはどう立ち向かうか。
教職員室。
現在、作戦会議が行われている。
その会議も煮詰まってきたところだ。
「…という作戦で彼女達を足止めします。ここまでは大丈夫ですか?」
みんなを見回す。
首を縦に振っているのを確認する。
「では、次に役割分担を決めましょう。まずは……。」
「ちょっと待て!」
老年のベテラントレーナーが手を挙げる。
「どうしましたか?」
「どうしたって、なんでお前が仕切ってるんだ?」
周囲がざわめく。
何を今更?と言った表情でベテラントレーナーを見る者が多数だ。
しかし、それを意に介さず彼は不平を言う。
「ここはトレセン学園だぞ!URA管轄だぞ!自衛隊じゃないんだぞ!」
「それはそうですが……。」
「別にいいじゃないか。」
宮崎さんがなだめようとするが聞く耳を持たない。
「部外者のお前は、俺らに指示する立場じゃないだろ!なんで指揮を執っているんだ!?」
確かに、僕はここでトレーナーをしているが、もとを正せば自衛官だ。
部外者であるのは間違いない。
彼は、そんな人間がトレセン学園の危機に対し、リーダーシップをとっているのが面白くないと感じているのだろう。
「だいたい幹部だか隊長だか知らんが、こんな若造が指揮を執るなんておかしいだろ!もっと経験のある人間の方が適任だと思うが!それに…!」
「そのへんにしとけ。」
ベテラントレーナーは宮崎さんの声に気づかずに続ける。
「人殺しの命令なんて聞けるか!」
ざわめいていた部屋が静寂に包まれる。
そして、僕はこの言葉に唖然とした。
「自衛隊はいつも俺らの金で人を殺す訓練やってるんだろ!?そんなところで働いてるヤツに従って闘えだと!?︎冗談じゃない!俺は降りるぞ!こんな命令聞け………。」
「いい加減にしろ!!!!!」
とうとう宮崎さんは怒鳴り声を上げた。
彼は椅子を蹴り飛ばし、ベテラントレーナーの前に立つと胸ぐらを掴んだ。
「聞いてりゃ、テメェふざけんなよ!誰のおかげでここにいられると思ってやがる!」
いつも温厚な宮崎さんの怒声を聞いた教職員達はざわつく。
それを気にせず、宮崎さんは話を続ける。
「俺達が被害に遭わないようにしてくれてるのも、万が一それで生徒達が後々悲しまないようにしてくれているのも、全部彼のおかげだろうが!それなのに何が人殺しだよ!文句ばっか言ってんじゃねぇぞコラァ!!」
宮崎さんはベテラントレーナーを突き飛ばす。
「それに自衛隊だってな、好きで人を殺す訓練をしているわけじゃねえ!!国民を守るために必死で汗水たらして努力してんだよ!!!それでも批判するのはテメェの勝手だ!だがな、テメェみたいなヤツを有事の際、命張って助けれるんは自衛隊だけだ!それだけは覚えとけ!!」
静まり返った会議室で宮崎さんは深呼吸をする。
そして周りを見て言った。
「すまなかった。熱くなって言いすぎた。」
宮崎さんは倒したイスを戻しながら席に戻る。
同時に、ベテラントレーナーもバツが悪そうにしながら席に戻った。
「落着ッ!トレーナー君、そのまま指揮を執ってくれたまえ。」
「ありがとうございます。理事長。では、役割分担について話を進めます。」
⏰
役割分担についての話は滞りなく終了した。数名にはバリケードを作りに行ってもらった。
「以上になりますが、質問はありますか?」
「一ついいかね?隊長。」
別のベテラントレーナーが挙手する。
「はい、どうぞ。」
「もし、作戦が失敗したらどうするんだい?」
「その場合、我々は撤退します。退却路は確保しています。」
「撤退はできるのかい?」
「はい。退却路は屋上になります。そして、ヘリを使います。」
「ヘリ?」
「はい。ヘリで脱出します。」
「ヘリか……。」
「はい。説明しますね。桐生院さんと理事長が、それぞれの家が所有するヘリを数機、用意してくれています。これを使って、脱出する予定です。」
両家の所有するヘリは10人は乗れるという。万が一の際は、それを数機調達するとの事。金持ってんな。
今思えば、最初からそうすれば良かったのかもしれない。
だが、ここのみんなが生徒達を放って逃げるとは到底思えない。
「俺は絶対に逃げない。」
「僕も…に、逃げるなら…こ、ここで人生を全うする…。」
現に、この話をしても、ここに留まるぞという声が多数聞こえる。
彼らの責任感や職への気持ちの強さは無駄にはしない。そして、見習うべきだ。
この局面を乗り切るために持てる力を尽くす。
心でそう誓った。
「もしもの時の話は以上です。他には?」
「はい!」
今度は若い女性トレーナーが手を挙げる。
「どうぞ。」
「どうして、私達をそんなに守ってくれるのですか?」
「どうして、ですか?」
「はい。どうしてそこまでしてくれるのか気になって……。その……。」
その答えは至ってシンプルだ。
「それが僕達、自衛隊だから。ですよ。」
「えっと…。どういう意味ですか?」
女性トレーナーは首をかしげた。
シンプル過ぎたかな?
「僕達は自衛官に任官した際に、宣誓をします。」
「宣誓…。」
「はい。服務の宣誓というものです。その中に、『事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる』という文言があります。」
「それが何か関係があるのですか?」
「僕達は、国民の皆さんを守ることを責務としています。これを果たすため、自分の身を、ひいては、命さえ惜しまずに任務に当たります。全ては皆さんの信頼に応えるために。」
僕の言葉に、水野さんと宮崎さんが頷く。
対照的に、女性トレーナーはまだわからないといった顔をしている。
「えーと……。つまり、皆さんを守ることが僕達、自衛官のやるべきことで、僕は皆さんを守るために色々やってるわけです。」
「ふふっ。わかりました。ありがとうございます!」
最後は上手く締められなかったが、納得してくれたようだ。良かった。
「他にありませんか?」
手は挙がらなかった。
「では、これで終了します。」
全員、与えられた役割を再確認し、来るべき時に備え、準備に取りかかる。
「さてと……。」
僕は携帯端末を取り出し、とある人物に連絡を入れた。
「あぁ、僕だよ。例のモノはできてるかい?うん、そうか。仕事が早い。ありがとう。」
この例のモノが何かは後ほど伝えよう。
「隊長!ウマ娘の姿を確認!」
偵察の職員が報告する。
とうとう来たか。
「了解。総員、戦闘配置につけ。」
遂に闘いの火蓋が切られた。
⏰
三女神像前。そこにはウマ娘が集結していた。
「諸君。この度はよく集まってくれた。これより決起集会を行う。」
同期の女性自衛官が司会をする。
「シンボリルドルフ会長。頼んだ。」
「了解しました。」
シンボリルドルフは壇上に上がり、マイクを手に取り、話し始めた。
「諸君。我々は今日、大きな闘いをする。そこに敵がいるからだ。」
皇帝の演説を一同は見守る。
「敵の指揮官たる者は、卑劣無比。一筋縄ではいかない存在だ。現に、我々は彼奴に一杯食わされた。だが、今日は違う!」
彼女の声は次第に熱を帯びていく。
「今、この場には!一騎当千の強者である諸君らがいる!我らが一致団結すればどんな困難も乗り越えられる!そうだろう!?」
会場は歓声に包まれた。ウマ娘達のヤる気は絶好調となった。。
「我らはこの闘いを制し、平穏を勝ち取るのだ!!」
「「「「「おぉー!!!」」」」」
全員が拳を突き上げ、雄叫びを上げた。
薬の効果が切れるまで残り2時間。
⏰
場所は変わって、トレセン学園校舎3階教室。ここを作戦本部としている。
作戦本部長は秋川理事長。作戦を続けるか否かの決定権を持つ。
僕は指揮官として全体の指揮にあたる。
幕僚は、たづなさん、桐生院さん、宮崎さん、そして、ファインモーションのSP隊長が務める。
SP隊長は薬の効果が出たものの、数時間で克服したらしい。
主のファインモーションを別の場所に隔離した後、こちらに来てくれた。
4コ中隊を編成し、各中隊に偵察と通信を置いている。
1中隊は1階を2中隊は2階と3階への階段の防衛を任務とする。
3中隊は3階の防衛。
4中隊は、作戦本部の防衛と偵察・通信、そして、負傷者の衛生を担当している。
なんで中隊単位なの?とか、陸自の実際の編成とは違うのでは?と思うだろうが、便宜上、こうさせてもらった。
外がやけに騒々しい。耳を澄ますと、おぉー!!!というウマ娘達の雄叫びが聞こえた。
気になって、窓からそっと覗いてみると、明らかに異常な雰囲気を放っているウマ娘達が確認できた。
「まずいですね…。」
決起集会が終わり、こちらに向かってくる。数はおよそ300か。
士気・統率が非常に高い水準にある。
「おいおい、隊長。あれだけ見ると第1空挺団とタメを張れるよ。彼我の戦力差が違いすぎる。」
元空挺レンジャーの宮崎さんが言うから間違いない。
「えぇ。正直言って、これだけ見れば勝てる見込みは薄いですね……。」
「どうするんだい?」
「実力はまだわかりません。まずは当初の通り行くしかないでしょう。」
「了解。」
1つ目の作戦はこうだ。
入口と1階にかけて大量のビー玉をばら撒く。
事後、煙幕を焚き、進撃を止める。
ウマ娘のスピードを逆手に取り、出鼻をくじければ良し。
「1中隊。こちら作戦本部。おくれ。」
『こちら1中隊。おくれ。』
「まもなく、ウマ娘が来る。作戦を開始せよ。」
『了解。』
1中隊は頃合を見計らってビー玉を撒く。
『作戦本部。こちら1中隊。おくれ。』
「こちら作戦本部。おくれ。」
『ビー玉、撒き終わりました。』
「了解。煙幕を撒いた後、所定の防火扉を閉め、バリケードを構築し、直ちに屋上まで退避せよ。」
『了解。』
煙幕が撒かれる前に、ウマ娘達が1階に突入する。
しかし、
「…っ!みんな!止まって!」
ビー玉に気づかず、先頭は皆ビー玉の餌食となる。
「うああぁぁぁ!!止まれなぁぁあいぃぃ!!!」
ブレーキが効かず、壁に激突する者が多数。
続いて。
「煙幕撒けぇええ!!」
「ひいいぃぃぃい!!」
「うわああああぁぁぁぁ!!」
「撤退!」
煙で視界も奪われ、ウマ娘達はパニックに陥る。後続も巻き込まれる。
彼女達は出鼻をくじかれた。
「お前達!大丈夫か!?」
リーダーのエアグルーヴが声をかける。
「はい!ですが……!」
「落ち着け。我々がついてる。さぁ、立て直せ!」
「「はいっ!」」
視界が悪い中、再び、ウマ娘達が突入してくる。
『作戦本部。こちら1中隊。おくれ。』
「こちら作戦本部。おくれ。」
『1階、突破されそうです。まもなくこちらにきます。』
「了解。2中隊に引き継ぐ。そのまま撤退せよ。」
『了解。』
1中隊との連絡を終え、次いで、2中隊に連絡を繋ぐ。
「2中隊、こちら作戦本部。ウマ娘の姿が見え次第、作戦を実行せよ。」
『了解。』
2中隊の作戦は爆竹及びフラッシュバンを使用し、足止めする。
音と光で視聴覚を奪い、混乱を引き起こす。
「よし、準備は良いか?……今だっ!」
一斉に火のついた爆竹を投げ込む。
パンッ!パンッ!と大きな破裂音が響く。
「きゃあああああ!!」
「耳が!」
「助けてぇえぇ!!」
「落ち着け!お前達。これはただの爆竹だ。耳をふざけ!」
同時に、フラッシュバンも投げ込まれる。ピカッと光を放つ。
ウマ娘に考慮したためか、フラッシュバンにしては光は強くはないが彼女達を混乱させるには事足りる。
「うぅ…………。」
「あぁぁ……」
「目が……。」
効果は絶大だった。
さらに投げ込み、混乱させる。
「くっ、まだあるのか…。無策で突入するのはさすがに無謀だったな…。撤退だ!態勢を立て直すぞ!」
「はい!」
エアグルーヴ率いる集団は去っていった。
一方その頃…。
「おいおい。こんなに激しくしたらさすがに警察沙汰だろ。マスコミも黙っちゃいねぇぜ。しかし…。」
薬の効果から回復していたゴールドシップは校舎1階に足を踏み入れ、その場にしゃがみ込む。
「ふーん。こんなもの使うんだ。」
ゴールドシップはビー玉を手に持つ。
「こんな面白いこと考えるのはアイツしかいねえよな。」
ゴールドシップは二カリと笑う。
「待ってろよ。トレピッピ。今、助けてやるからな。」
⏰
エアグルーヴ達が撤退した頃には既に20分経っていた。薬が切れるまで残り100分。幸先は良い。
しかし、気を抜いてられない。そんなことを考えていると。
『こちら2中隊!爆竹、フラッシュバンに不備あり!手持ちももうありません!』
物品の不具合が発生した。彼らの出番はここまでのようだ。
「作戦本部、了解。物品を全て回収して屋上まで撤退せよ。バリケードの設置も忘れずに。」
『了解。』
ふぅ…とため息をつく。
「これは非常に厳しい状況ではないですか?」
桐生院さんが心配する。
「確かに、想定より早くこちらに来そうですね…。」
たづなさんも少し焦りを見せている。
「予定調和に行く方が珍しいものです。それは向こうにも言えます。しかし、今の状況はいささかこちらに不利でしょう。何か、秘策があれば…。」
SP隊長は冷静に分析している。
ふむ、秘策か。
「秘策なら、あります。」
僕がそう言うと、扉が開く。
「失礼するよ。」
アグネスタキオンが入ってくる。
ちょうど良いタイミングだ。
「例のモノを持ってきたよ。トレーナー君。」
ガスボンベと拳銃のようなものが渡される。
「何だこれ?」
宮崎さんは尋ねる。
「催眠ガスと麻酔銃さ。」
アグネスタキオンは平然と答える。
「なんでそんなものがあるんですか!?」
桐生院さんが驚いている。
「トレーナー君にみんなの護身用に作ることはできないかと言われてね。まさかここで使うことになるとは思わなかったが…。」
アグネスタキオンは持っているだけの催眠ガスと麻酔銃を机に並べた。
「急ピッチで作ったから、この量しかない。検証もできてないから彼女達に効くかどうかはわからない。」
「それでもないよりマシさ。ありがとう。」
お礼の言葉を述べると、アグネスタキオンは誇らしそうに胸を張った。
「問題はこれをいつ使うかだ。」
宮崎さんが言う。
「確かにそうですね。ぜひとも、切り札として取っておきたいところではありますね。」
使い時を考えていると、通信機から声が聞こえた。
『作戦本部、こ、こちら3中隊!』
声に動揺が伺える。
「こちら作戦本部。おくれ。」
『さ、先程よりも大勢のウマ娘が押し寄せております!ここに来るのも時間の問題です。増援を!』
「了解。屋上に撤退しているものを何名か増援に充てます。」
『了解!ありがとうございます!』
「どうやら思った以上に事態は深刻なようですね。」
「そうですね。2階を突破されるのも時間の問題でしょう。1、2中隊。こちら作戦本部。追加の任務を頼みます。作戦本部まで。」
『『了解。』』
⏰
生徒会室。
今、ここはウマ娘側の司令部になっている。
エアグルーヴ達が撤退したと聞き、同期の女性自衛官は苛立ちを露わにする。
「情けない。ヒト如きに負けてしまうとは…。そんな指揮を執った自分が本当に情けない…。」
ウマ娘がヒトに負けた。その事実が彼女にとって屈辱だった。
彼女は若干、レイシストのきらいがある。それが薬の効果により表面化している。
「トレーナー。お気になさらないでください。これは私の責任でもあります。」
エアグルーヴが慰める。
「ありがとう。君は本当に優しい子だな。」
彼女の顔は笑顔だったがどこか寂しげだった。
「諸君。作戦変更だ!一気に攻め落としてやるぞ!ブライアンとヒシアマの隊は出撃の準備をしろ!」
同期は状況を打開すべく、指示する。
「「はっ!」」
ナリタブライアンとヒシアマゾンが部屋を出ていく。
「私も準備があるからこれで失礼するよ。」
「お待ちください。報告があります。」
シンボリルドルフが入ってくる。
「ウマ娘の過半数が戦意を失っております。」
「なんだと?どういうことだ?」
彼女は眉間にしわを寄せた。
「これまで自分を育ててくれたトレーナーや教職員達を傷つけることなどできないとのこと。」
「そんなもの、一時の迷いだ!」
「さっきまでトレーナー達が憎かった。なのに、気がついたらトレーナー達を手にかけようとしていた。自分のやっていることが全く理解できないと泣いているものもいます。」
それは戦力の喪失を意味する。
ウマ娘の力と数で闘う作戦を採ったがゆえに、ダメージは大きい。
「くそっ!一体どうすればいいんだ。」
「今は、動けるものでなんとかするしかありません。」
「…そうだな。」
シンボリルドルフの言葉を聞き、渋々承諾した。
トレセン学園校舎を見据える。
そこにいるはずの男を想起しながら。
「この闘いをもって、指揮官としてお前より優れてると証明してやる…。絶対に負けない……。」
「同期トレーナー?」
「なんでもない。行こう。」
2人は広場に向かって歩き出す。
薬の効果が切れるまで、残り90分。
⏰
「バクシンバクシンバクシーーン!!」
「なんだろう、廊下をバクシンするのやめてもらっていいですか?」
サクラバクシンオーが飛び込んでくる。そしてそのままの勢いで壁に激突する。
「大丈夫?」
サクラバクシンオーのトレーナーの西村が心配する。
「はい!問題ありませーん!」
「それならよかった。」
「私が言うのもあれですが、トレーナーさんはもう少し厳しくなった方が良いですよ。」
「そう?でもそれって、あなたの感想ですよね?」
「はい!では、行ってまいります!」
「はい、頑張ってくださーい。」
「バクシーン!!!」
再び叫びながら走り去って行った。
「こんな時に何漫才してるんだ?」
水野トレーナーがツッコむ。
今まさに、ウマ娘の大軍が押し寄せていた。
「僕、担当というか、愛バというか、バクちゃんというか、彼女と他愛のないやり取りするのが幸せなんすよね。」
「気持ちはわかる気がする。それより、あいつらがきた。いくぞ。」
「は〜い。」
防護マスクを装着し、グレネードを構える。
「投擲手。目標、正面のウマ娘の足元。投擲用意。ピン抜け……投げ!」
一斉にスモークグレネードが投げられる。
「撤退するぞ!催涙弾!」
煙幕に混じって、催涙弾も投げられる。
ウマ娘達の悲鳴が上がる。
「今のうちに逃げるぞ!」
「は〜い。」
ウマ娘達を煙幕で足止めしているうちに、その場から脱出する。
「1、2中隊、俺たちは撤退する。後は頼んだ。」
「了解。」
『1、2中隊、こちら4中隊偵察。ナリタブライアンが率いるウマ娘達は未だ前進を継続している。警戒を厳とせよ。』
「了解!」
一方、作戦本部では…。
「ですから、より脅威度の高いシンボリルドルフさん達に対して催眠ガスと麻酔銃を使うべきです!」
「ですが、ナリタブライアンさん達を食い止めなければ私達の負けです。」
桐生院さんとたづなさんが議論していた。
「トレーナー様。このままでは、埒が明きません。」
「決断ッ!トレーナー君、君次第だ!」
「そうだ隊長。君が決めてやれ。」
「そうですね。」
2人の討論に終止符を打とうとした時、扉が開く。
「おっと、その必要はねえぜ!アタシに任せときな!」
扉を開いて現れたのは…。
「ゴ、ゴルシっ!?」
たづなさんが庇うように僕達の前に出る。
「安心しろって…。もう敵じゃねぇよ。」
ゴールドシップは申し訳なさそうな顔をして言う。
「そうと言いきれる根拠はあるんですか?」
「あるさ。」
彼女はニヤリと笑った。
すると、彼女は僕に近づき、そして、抱きしめた。
「えっ?ちょっ!?ゴルシ?」
「ほら、これでいいか?」
「…わかりました。」
たづなさんは納得したようだ。
僕は顔を真っ赤にして抗議する。
「はなして。」
「いいじゃんか〜減るもんじゃないし〜。あー!ドキドキしてるぅ〜!!」
抱きしめる力が強くなってくる。
彼女は自分の耳を僕の胸に当てて、反応を楽しんでいる。
「今はそれどころじゃないんだ。」
「はいはい。」
渋々と言った感じで放してくれた。
「それで、なぜここに来たんだ?」
「もちろん、愛しのトレピッピを助けるためだ。ブライアン達はアタシに任せろ!」
「助かるよ。でも、無理だけはするな。」
「わかってるさ!」
ゴールドシップは颯爽と部屋を出ていった。
「ヘヘッ。ゴルシちゃんのビックリドッキリアイテムが火を噴くぜ。」
⏰
ウマ娘達の喧騒が聴こえる。
「クソっ、煙が邪魔だな…。」
「アイツら、やってくれたな…!」
ヒシアマゾンとナリタブライアンが立ち尽くしている。
『ウマ娘諸君らに告ぐ。今すぐそこから立ち去らなければ諸君らはきっと後悔することになるだろう。大人しく帰りやがれ!』
ゴールドシップが拡声器で呼びかける。
「「誰が帰るか!」」
『HAHAHAHAHAHA!そうかそうか。では、このゴルシちゃん特製のフルコースを楽しむというのかね?では、見せてあげよう!ラピ○タの雷を!』
ゴールドシップは謎装置を取り出し、ニヤつく。
『さあ、素敵なパーティしましょ!』
次話の投稿はなるべく早くします。