本編よりかなり短めです。
時系列的には7話の前になります。
番外編① トレーナーの経験談~水陸機動団編その1〜
長崎県佐世保市相浦。
ここには陸上自衛隊水陸機動団が駐屯している。
その隷下部隊、第1水陸機動連隊。
とある小隊が訓練のため、整列している。
「気をつけ!」
小隊長の青年の登場とともに、陸曹が号令をかける。それに合わせ、隊員たちは不動の姿勢をとる。
「敬礼!」
一斉に挙手の敬礼を行う。
受礼者たる小隊長が答礼し、手を下げると、隊員達も手を下ろす。
「休め。では、これより格闘訓練を実施する。」
小隊長たる者の名はトレーナー3等陸尉。
ここに来て1年も満たない初級幹部だが、真面目な性格のためか、小隊の隊員からの信頼は厚い。
2022年3月から自衛隊ウマ娘トレーナー教育課程のために朝霞駐屯地へ異動、翌月4月にトレセン学園へ3年間研修に行くことが決まっている。
「今回の格闘訓練は、徒手対短剣、徒手対小銃、一対多といったように自分に不利な状況を想定して行う。」
どんな状況であっても、対応できるように鍛えるのが目的だ。
不利な状況を覆してこそ、精鋭だ。
「私も皆さんに混ざって、訓練に参加します。なので、遠慮なく攻撃してきてください。」
一部の陸士達は驚くが、陸曹達は彼の考えを理解していた。
「小隊長。まずは、私が相手しますよ。」
上級格闘指導官の2等陸曹が声をかけた。
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
トレーナーは、2等陸曹の前に立つ。
互いに礼をし、構えを取る。
…決着はあっという間だった。
2分足らずで、トレーナーは地に伏していた。
あまりの強さに、周りの隊員達は言葉を失う。
「……いたた…。」
トレーナーはなんとか起き上がる。
「次は、徒手対小銃ですね。よろしくお願いします。」
トレーナーは、土を払いながら言った。
…今度は1分足らずに決着がついた。
またしても、トレーナーは地面に倒れていた。
「小隊長、大丈夫ですか?」
「えぇ、何とか。」
心配そうに声をかけてきた2等陸曹に対し、トレーナーは立ち上がる。
「しかし、流石は上級格闘指導官。動き方といい、捌き方といい、勉強になりました。」
「とんでもない。小隊長もなかなか筋がある。どうですか?これを機に、本格的にやってみませんか?」
「それはありがたい申し出ですね。3月までになりますが、お願いしたいです。」
そんなやり取りが行われた後で、他の隊員達ともそれぞれ格闘訓練を行った。
ベテランの陸曹達は2等陸曹程ではないがそれでも強く、陸士達はまだまだ伸びしろがあるが、気合いは陸曹達に負けていない。
さすがは精鋭部隊なだけあって、全体的にその練度は非常に高い。
トレーナーは改めて、指揮官としての未熟さを痛感するのであった。
⏰
課業終了後、トレーナーは仕事を終わらせ、グラウンドへ向かう。
そこには既に上級格闘指導官の2等陸曹がいた。
「お疲れ様です。これからよろしくお願いします。」
「こちらこそ。では、早速始めましょう。しばらくは徒手格闘を徹底して教えます。」
その後、トレーナーは格闘指導を受けた。
「突きはもう少し腰を入れる!こう!」
「重心の移動を意識!よろけたら相手のチャンスになります。」
それは来る日も来る日も行われた。
2等陸曹の的確なアドバイスのもと、トレーナーはメキメキと自衛隊格闘のセンスを上げていった。
次第に応用もできるようになった。
そして、徒手格闘においては2等陸曹相手に数十分も闘えるようになった。
「小銃や短剣ではまだまだ敵いませんね。」
「それでも確実に成長していますよ。あとは、絶えず経験を積むことです。3年間、トレセン学園に行かれるでしょうが、身体が覚えていればある程度は大丈夫でしょう。」
それまでの間、しっかりと身体に覚え込ませていきましょうと2等陸曹は言う。
トレーナーは、はい!と返事をする。
この時の訓練がトレセン学園の生徒を守るために活かされたのはまた別の話である。
⏰
「という話があってね。」
トレーナー室。
トレーナーの陸上自衛隊での経験談が聴きたいと、彼の担当バ達が押し寄せてきた。
「なるほど。トレーナー君にとって、その方は部下でもあるが、師匠でもあるんだね。」
シンボリルドルフが、紅茶を飲みながら言った。
トレーナーもその言葉に頷きつつ、コーヒーをすする。
「ねえねえ!他に話はないの?」
元気にさらなる話を求めるのはトウカイテイオーだ。
「うん。まだあるけど、とりあえず今日はここまでね。」
「えー!ボク、もっと聞きたいんだけどなぁ……。」
「私も興味ありますわ!」
メジロマックイーンも便乗してくる。
「わかったわかった。いずれ近いうちに話すから、今は我慢してくれないか?」
トレーナーの言葉に、渋々といった様子で納得したようだ。
「ねえトレーナー!質問良いかな?」
「どうしたファイン?」
「どうして、トレーナーは部下のみんなと一緒に訓練したの?」
ファインモーションが疑問を投げかける。
「いろいろあるけど、強いて言うなら、指揮官として、彼らの実力をその身で知らなければと思ったからだね。あとは、彼らが強くなるために、僕自身も強くならないとって思ったからかな。」
「ふぅん……そうなんだ。」
「この気持ちはトレーナーとして勤務してる今も大事にしてるよ。君達のトレーナーとして、君らの実力をしっかりと把握しないといけない。そして、君達の勝利のため、僕も自己研鑽を怠らない。」
トレーナーは担当達の目を見据えて言った。
「さすがはトレーナー君だ。報恩謝徳、君のその気持ちに応えられるよう、私達も精進しようじゃないか。」
シンボリルドルフのその言葉にトウカイテイオー達はうなづく。
皆の思いは同じだ。
トレーナーは、ありがとうと呟き、再び仕事に戻った。
その手にゴールドシップの問題行動に係る始末書を握りながら。
本編は時間を見つけ執筆していきます。
今しばらくお待ちください。