11話から分岐します。
東京都府中市にトレセン学園あり。トゥインクルシリーズで頂点を目指すウマ娘が集う学校。
しかし…。
「トレセン学園生徒諸君に告ぐ!今すぐ暴動を止めなさい!今すぐに!暴動を止めなさい!」
今は暴動の真っ只中にいた。
学園全体に響くような声で警視庁機動隊の警官が拡声器を使い叫んでいる。その声は焦りと恐怖で満ちていた。
無理もない。相手は自分達よりも何倍も大きな力を持った存在だ。
「クソッ!せめてこちらの話を聴く耳をもっていれば…。」
「中隊長!あれを……!!」
一人の隊員の声に中隊長と呼ばれた男は目を見開く。
そこには、制服を着た学生と思しき集団がいた。しかし、どうもただの生徒とは思えない。
彼女達のその手には…。
「89式5.56mm小銃にバズーカ砲だと!?なぜ学園の生徒がそんなものを!まさか!?」
「はい!あの集団には恐らく自衛隊の者も含まれると思われます!」
「くそっ!なぜ自衛隊がここにいるんだ!」
中隊長は頭を抱える。
これではまるでクーデターではないか。
「あぁ……こんなことになるなんて……。一体誰が……。」
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府中市某地点。
「隊長。こちらを。」
そう言って部下から渡された新聞を手に取ると僕はトレセン学園の方を見る。
「そうか、第1普通科連隊所属のウマ娘が離反したか。」
その反応は至って淡白なものだったと思う。しかし、わかりきっていたことだ。
この学園の暴動も第1普通科連隊のウマ娘の離反も全ては好感度反転薬というもののせいだ。首謀者もわかりきっている。
「おのれ川原め…!!」
その首謀者の名を口にし拳を握る。怒りで肩が震えているのを感じた。
川原に対する怒りもだが、何よりも見積もりが甘かった自分に腹が立つ。
トレセン学園のトレーナーとして勤務していた自分がなぜここにいるのか説明しよう。とはいえ、どこから説明しようか。
まず今の状況として、学園で暴徒と化した生徒を鎮めるために警視庁機動隊が出動した。しかし、それでは対応できないため陸上自衛隊第1師団に治安出動が課された。
次に僕の現状だが、薬の効果が切れるのを見越して放課後まで籠城していた。しかし、その目論見は外れてしまった。効果は切れるどころかさらに生徒達の凶暴性が増してしまった。その理由は、川原がさらに薬を気化して散布したからだ。結果、学園からの避難を余儀なくされた。
理事長と僕の身柄を引き換えに教職員達は無傷で帰してもらったが、職を追われるハメになってしまった。理事長と僕は学園施設内に監禁されたがゴールドシップのおかげで自由の身となった。以降、理事長はどこかに匿われている。僕はこの状況で研修は無理と判断されて原隊復帰となった。そして、事の顛末を自衛隊に報告後、責任を取る形で部隊の指揮官をしているわけだ。とはいえ、その人数は30にも満たない小隊規模だ。
上官によるとこれは別働隊であり、本隊は第1師団である。ゆえに、僕の部隊の任務は本隊の行動を容易にするために活動するとのこと。しかし、事実上は実働のための戦力として投入されたようなものだろう。それも使い捨てだ。本隊は形だけのハリボテといったところか。実際、現場に駐屯するだけで何もしていない。
「隊長、攻撃目標である敵研究施設ですが…。」
名目上、治安出動であるため武器使用には制限がある。しかし、そんなものはクソ喰らえだ。勝ち目のない闘いに良い子ちゃんでいるつもりはない。手段を選んではいられない。どうせもう後はないし生き長らえるつもりはない。それはこの部隊みんなの認識だ。ならばやることは決まっている。
「ああ。武器の使用を許可する。目標は施設の破壊と人質の奪還だ。かかれ!」
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トレセン学園から少し離れた研究所。その地下。
「やっと完成した。」
私、アグネスタキオンは半ばここに監禁されてあるものを作っていた。それもたった今完成した。
「アグネスタキオン。例のモノはできたのか?」
部屋に入ってきた男、川原はニヤリとした笑みを浮かべながら言う。
「もちろんさ。川原トレーナー。」
私はそう言って私はたくさんの風船爆弾や砲弾、無人機を彼に見せる。
これらは全て好感度反転薬を搭載している。効果はトレセン学園や第1普通科連隊のウマ娘を見てもらうとわかるだろう。
「素晴らしい!よくやったぞ!これで日本は終わりだ!」
彼は歓喜に満ちた表情で叫ぶ。
「教えてくれないか?君はなぜここまでして日本を破滅させたいんだ?」
「簡単なことよ。全ては俺だけの楽園のためさ。」
「楽園……?」
彼の言っていることが理解できなかった。
「俺は全てのウマ娘を支配して、思うままに操りたい。それが俺の願いだ!」
にわかには信じ難い言葉が出てきた。ウマ娘を支配する?そんなことができるはずがない!それになぜ日本を破滅させる必要があるのか?
「ふっ……。信じられないという顔をしているな。まあいい。時期にわかるさ。」
次第に目の前の男に対する嫌悪感が湧いてきた。
「そいつをトレセン学園に搬入するぞ。準備しろ!」
彼は近くのウマ娘達に命じて兵器を動かす。次第に足音は遠ざかっていった。
我ながら馬鹿なことをしたと思う。興味本位で好感度反転薬など作るべきではなかった。しかし、彼に歯向かうと何をされるかわかったものではない。だから従った。
「…トレーナー君、助けておくれよぉ……。トレーナー君…。」
今、1番助けてほしい人はここにはいない。思えば彼には迷惑をかけた。担当でもないのに本当に私に良くしてくれた。
「トレーナー君…。」
しばらく時間が経つと上の階がやかましくなった。
しかし、そんなことは今、どうでもいい。早くこの恐怖から解放されたい。
⏰
「気配なし!クリア!」
「この階には何もありません!」
「了解。ならば、ここからは分散して行動するぞ。1分隊は上階の制圧、2分隊は我と共に地下へ、3分隊はこの階で待機し警戒を行なえ!」
「「「了解!!」」」
隊員達はそれぞれの持ち場につく。
僕も2分隊を従え地下に前進する。地下は薄暗く、ひんやりとしていた。
「人質は…タキオンはどこにいるんだ。」
「隊長!」
2分隊の隊員が何かを見つけたようだ。
僕はその方向に向かう。
そこには一際目立つ扉があり、表札には研究室と書かれていた。
もしかすると…。
「タキオン!」
僕は勢いよくドアを開ける。
「トレーナー君…来てくれたのか…。」
中には、涙目になって弱っているアグネスタキオンがいた。
「大丈夫か!?」
その言葉に彼女は力なくうなづく。身体が震えているのがうかがえる。
「怖かっただろ。もう安心してくれ。」
「うん……。ありがとう。」
彼女に近寄ると、僕は彼女の肩に手を回した。
「何があったかは後から聞こう。撤収するぞ!」
人質救出は容易く完了した。
研究所は予定通り爆破した。アグネスタキオン曰く、もう形も見たくないとのことだった。よほど辛い目にあったのだろう。爆破後の研究所を見て彼女は若干穏やかな表情を浮かべた。
陣地に戻り、彼女から詳しい話を聞いた。
特に気になったのは、もうすでに化学兵器が学園に搬入され、明日にはそれが日本中に散布されること。
これは真っ先に阻止しなければならない。直ちに本隊に情報を共有する。
『それはお前達の方で対処してくれ。こちらは暴徒と離反した1連隊の対応でそれどころではない。』
返ってきたのはそっけない言葉だった。
「クソっ、睨み合ってるだけで何が忙しいだよ!!このままでは日本は終わるぞ!!」
部下やアグネスタキオンの目の前で怒鳴り声を上げる。
「た、隊長…。」
「トレーナー君…。」
「すまない。」
みんなの心配そうな声で我にかえる。こっちで対処して良いのなら好きにやらせてもらおう。
「これより我が隊はトレセン学園に所在する化学兵器を破壊する。各々、情報を収集し、装備を整え次第、深夜に作戦開始だ!」
「「「了解!!!」」」
⏰
トレセン学園生徒会室。
「第1普通科連隊第2中隊中隊長、リベリオンナイト以下250名、あなた方に助太刀いたす!」
離反した第1普通科連隊、その実態は練馬駐屯地に在籍する各部隊のウマ娘の集団であった。普通科を名乗ることで敵の戦略を狂わす、ある種の情報戦略である。
「トレセン学園生徒会長のシンボリルドルフです。ご協力感謝します。」
両者は互いに手を取り握手をする。
「貴方方のおかげで忌々しい警察を一掃できた。あとは自衛隊をどうにかするだけです。」
「それについては心配に及びません。我が兵力をもって一網打尽にしてやりましょう。なに、数的には不利ですが、所詮は烏合の衆。世論を恐れて攻撃するつもりはないでしょう。ゆえに、私らの敵ではありません。」
リベリオンナイトはそう言い切った。
「まずは手始めにこちらを嗅ぎ回っている小汚いネズミ共から始末しましょう。」
夜の帳も降りた頃。
「隊長、大変です!第1普通科連隊の実態は諸職種混合のウマ娘部隊です!」
「なんだって!?」
「さらに、彼女らは既に学園全域に陣地を構築!我々だけでは突破は無理です!」
「なっ……。」
「外からは化学兵器の場所が特定できません!もしかすると…。」
次から次へと聞きたくない情報が舞い込んでくる。
偵察による情報をまとめるも、こちらの不利には変わりない。
弱点を攻めろ。かつて水陸機動団でお世話になった陸曹の言葉を思い出す。
しかし、それすら見えてこない。
敵の隙を見つけるため、もう一度偵察を出そうと考えたその時。
「隊長!ウマ娘の集団がこちらに押し寄せてます!」
スコープで隊員が示す地点を観る。なんということだろうか、こっちの位置はわかってるとばかりに進軍してきている。
迎え撃つか、いや、そんなことしようものなら無駄死にだ。
「撤退だ。逃げるぞ!」
「隊長…それでは…。」
「日本は崩壊の一途を!」
「日本の平和と私達の命!どちらが大事か考えてください!」
「俺達なら闘えます!闘わせてください!」
隊員が口々に意見を言う。
「ダメだ!このまま応戦したら無駄死にだぞ!」
喧騒を一喝する。
「まだチャンスはある。決して諦めた訳では無い。1度態勢を整えてから来よう。」
「……わかりました。」
納得してくれたのか隊員達は全員引き下がりそのまま撤退の用意を進める。
「さて、ここからどうしよう…。」
数少ない時間で強力な軍隊が蔓延る中、これまた数少ない兵力で化学兵器を破壊する。改めてなかなか高難度な任務だ。
⏰
練馬駐屯地第1師団司令部。
「おい、どうなっているんだ!我が駐屯地のウマ娘が軒並み居なくなっているではないか!」
練馬駐屯地司令は怒り心頭であった。
「それが第1普通科連隊の離反と関係があるとのことです!」
「何!?情報源はどこだ!」
「はい!トレーナー3尉率いる別働隊です!さきほど報告がありました!」
「説明しろ。」
「はい!ヤツらの中には第1普通科連隊所属のウマ娘だけでなく、後方支援大隊、通信大隊、特防隊所属のウマ娘もいます。」
「俺達は騙されたのか…?いや、俺が部下達の人員掌握ができてなかっただけか…。」
駐屯地司令は頭を掻きむしりながら言った。
「まあまあ、副師団長。そんなに自分を責めてやるな。」
「師団長……。」
「とりあえず、今は目の前の問題に集中してくれ。」
「はい、承知しました。」
「ひとまず、1普連の隊長に連絡してくれ。そこからどうするかを決める。」
「はい!1普連本部、こちら師団司令部…。」
通信手が連絡をするも反応はなかった。
「仕方ない。他の隷下部隊を動かす他ない。」
この時、師団長達は知る由もなかった。1普連本部は既に壊滅していることを。通信は全て敵部隊に筒抜けであることも。そして、まもなく1師団も壊滅するということも…。
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「あっちに行ったぞ!!」
「逃がすな、追え!」
ウマ娘部隊が夜闇に紛れて街を駆け巡る。その目的はただ1つ、我の捕縛そしておそらく抹殺。
「小汚いドブネズミ共が!生きて帰れると思うな!」
背後には、リベリオンナイトと名乗るウマ娘を筆頭に兵士が怒号をあげながら追いかける。
「隊長!このままでは追いつかされてしまいます!」
「クソっ!こうなったらやけくそだ!発砲許可!目標、背後の敵散兵足元!各個に撃て!」
「了解!撃て!」
銃声が鳴り響く。弾幕を張り、時間を稼ぐ。
「怯むな!敵は少数だ!数で押しつぶせ!」
しかし、彼女達はひるまない。それどころか更に勢いを増している。
「本隊が出てきてくれたとはいえまずいな……。」
部隊を分散させ撤退を図るも、追っ手の数が多すぎる。
何よりも、どう足掻いてもウマ娘の足には到底かなわない。このままでは捕まるのも時間の問題だろう。
その時だった。
ドォーーーーン!!と遠くで爆発音が響き渡る。
「なんだ!?」
「隊長、あれを!」
隊員の指差す方向を見ると、煙が上がっているのが見えた。
「おそらく無反動砲です!あの方向には2分隊がいますが、彼らは無反動砲は持っていなかったはずです!」
「まさか。」
「最悪の事態は免れません…。」
「クソっ!」
ここに来て、ついに犠牲者が出てしまった。しかし、歩みを止めてはならない。弔いは後だ。
「総員!持っている手榴弾をあるだけぶちまけろ!」
隊員達が一斉に手榴弾をばら撒いた。
「よし、撤退!」
隊員達とともに全力疾走で撤退する。追っ手は来ない。上手く撒けたようだ。
「隊長!あれを!」
一安心していると、隊員が前方を指さす。その方を向くと、そこには2人のウマ娘がいた。
「調子はどうかな?トレーナー3尉。」
「同期……。」
それは最悪の再会だった。そして何よりも彼女の足元には…。
「…お兄ちゃん。」
大事な妹が横たわっていた。
作者は休暇をもらえてテンションあがってます。これで滞ってた育成も積読も解消できます。個人の充実ってやつですね。