才能あふれるウマ娘じゃなくてモブウマ娘から帝王の軌跡を見届けるお話の妄想

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帝王の影踏めぬ皇帝

 私にとって皇帝と言う言葉は幼い頃から特別だった。

 

『シンボリルドルフ、まずは世代の頂点に立ちました!!』

 

 幼い頃テレビに映る彼女に目を奪われた。勇姿を目に焼き付けようと家族に無理を言って現地に駆けつけた。皇帝のインタビューは一言一句心に刻み込んでいる。ファン感謝祭で一度だけだけれど握手をしてもらった事もある、力強い掌の感触は思い出に色褪せることは無く憧れだけが日々増して行く。

 

 だから皇帝みたいになりたい、その時にそう告げた事は絶対に忘れない。

 

『まずはトレセン学園に入学してくるんだ』

 

 幼いウマ娘に語りかける皇帝の言葉を聞いた時、私の目標は決まったも同然だった。

 

 

 

 それからの月日はあっという間に過ぎ去り、気がつけばトレセン学園への入学を迎えていた。自分が天才だと自惚れたことはないがシンボリルドルフさんの言葉を励みに日々努力を怠らずに夢へのゲートにたどり着けたことをとても誇らしく感じ、同時に懐かしい再会を果たした。

 

「君は隣の子? よろしくね!」

 

 シンボリルドルフさんに少し似てて嫉妬する三日月の流星が目立つ娘明るい鹿毛をポニーテールにした小柄なウマ娘。

 

『ボクはシンボリルドルフさんみたいな強くて格好いいウマ娘になります!』

 

 トウカイテイオー、シンボリルドルフさんのインタビューの時に何度も見たことがあるウマ娘。私は一度見た顔を忘れない地味な特技があり、何度も見かけた彼女に一方的なシンパシーを抱いている。

 

「? 、ボクの顔になにか付いてる」

 

「何でもないよ、これからよろしくねトウカイ? それともテイオー?」

 

「テイオーでいいよっ、吾輩は無敵のテイオー様だぞー」

 

 あーはっはっ、と高笑いする小柄ながらも圧倒的な存在感を持つどこか他人とは思えない明るく愉快な隣人にこの先の学園生活に希望を持っていた。切磋琢磨しいずれは共にGⅠの舞台に立ち、シンボリルドルフのようになるのだと。

 

 

 

「三……着……?」

 

 初めての模擬レースで語った夢はいともたやすく打ち砕かれた。トレセン学園に入学できた優越感や、日々のトレーニングで培った脚への自信を全て失うようなレース。結果だけ見れば三着だが、一着の影を誰も踏むことは無い圧倒的な格の違い。

 

「お疲れ様! ボク、強かったでしょ?」

 

 疲労困憊で今にも倒れそうな私へ愉快なステップをしながら手を差し伸べてきたテイオーの手を取る。テイオーの息は全く切れておらず、辺りを軽く見渡してもここまでスタミナを残しているウマ娘は居ないまさに別次元の強さ。

 

「ほんとに、速すぎるでしょ。でも、次は勝つからっ」

 

「うん、また勝負しようね!」

 

 それでもこんな事で折れるウマ娘は居ない。

 

「勿論、その影を蹄鉄で踏んづけてあげる」

 

 帝王が何だ、私の目標は皇帝だ。直接言葉では伝えず手を強く握り返す事で伝えると、一瞬驚いた後テイオーは青い瞳で強く睨み返して来てくれた。

 

「じゃあ今日からボク達ライバルだね!」

 

 それが初めてのテイオーとのレースで、その次がやって来ることはなかった。

 

 

 

 全力でターフを走り切った。ベストコンディションで風を突っ切り肺には霞んだ空気しか残さずに心音が聞こえなくなり血が沸騰する程に滾らせた。

 

『……ザー、5着』

 

「ハッ、ハァッ! また、勝てない……!」

 

 華々しいメイクデビューを飾れなかったケチは私について回った。努力を怠ったつもりはない、勉学に励みトレーニングをサボらず自分を追い込むためにテイオーの自主練習について行った。トレセン学園ならテイオーの練習量ならと自分と努力を信じ続けていた。

 

 それでも私には未勝利という現実だけが残った。

 

『先頭はトウカイテイオー! やはり噂の豪脚だ! トウカイテイオー先着!』

 

 この間にテイオーはあっという間にGⅠウマ娘になった。クラスではまさに王子様扱いで世間からも世代の顔は決まった言われる程話題のウマ娘だ。

 

「でね、でね? その時会長がさ~」

 

「なるほど会長がそんな事を、これもメモしなくちゃ」

 

 そんな人気者と話す内容は専らレースではなくシンボリルドルフさんについてばかりだ。テイオーはその成績からかシンボリルドルフさんとよく話す機会がある。至極羨ましいがそれはそれとしてシンボリルドルフさんの至言は大事に取っておきたい。

 

「君さ……そこまで会長との話が気になるんならボクと一緒に行けばいいのに」

 

「駄目だ! それだけは絶対に駄目」

 

 テイオーからこうして呆れられることも多いが、それだけはどうしても譲れない。

 

「私はいずれ皇帝を超えるウマ娘、重賞どころか一度も勝てていないのに会長に会うなんて自分を許せない」

 

「変なの~、会長を超えたいって気持ちだけは分かるけどさ」

 

「テイオーこそ無敗の三冠ウマ娘になって会長の後に続くって言ってるだろう。それと同じだよ同じ」

 

 自他共認めあったシンボリルドルフさんファンだが、それぞれ譲れない距離感はある。一刻も早く勝利して胸を張って堂々と会長に会いに行きたい、テイオーみたいによくやった言われたいがそれはGⅠを取らねばさすがに言われることはないだろう。まずは地道に目指せ初勝利! 

 

 

 

「で、見事に二冠ウマ娘になったのに骨折に気が付かずウイニングライブで飛んで跳ねたと」

 

「いじわる、そんな事言わなくてもいいじゃんかもう」

 

 病院のベットで横になっているテイオーに軽口を飛ばす。もちろんちゃんと怪我を労った後だ。この無敵の帝王様は骨折したまま勝利したというのだから驚きだ。

 

「しかもトレーナーに菊花賞に出るって大見え切ったんでしょ?」

 

 菊花賞までは半年も無い。現役のウマ娘にとって骨折は普通の怪我じゃない、一歩間違えれば選手生命に関わる大怪我だ。完治してもリハビリでうまくいかない、日常生活は出来てもかつてのスピードが出ないなんてザラにある話しだ。それをこの帝王はレースに出場し勝つとまで言ってのける。

 

「そうだよ、ボクが無敗の三冠ウマ娘を諦めると思ってるの?」

 

「いや全然、だってアンタは帝王なんだから」

 

 それを全く疑わない私が居る。他の誰が無理だと判断しても私はライバルらしくお尻を蹴り飛ばすくらいが丁度いいはずだ。

 

「そーれーよーり! ボクのリハビリ手伝ってくれるのは嬉しいけど、君はどうなのさ練習はいいの?」

 

「へぇ聞いちゃう? 聞いちゃうんだこれ……ま、無事に一勝して来ましたよ」

 

「え、すごいやったじゃん! いつの間に?」

 

 口を尖らせるテイオーに勿体ぶりつつもついに勝利したことを伝える。二冠ウマ娘からしたらちっぽけだろうが一勝は一勝。

 

「どうやら日頃の鍛錬が実を結び始めたようだからね。さっさと復帰しないと、私がちゃっちゃとGⅠウマ娘になってアンタの無敗に泥付けてやろう」

 

 ふふん、と得意げに鼻を鳴らし挑発する。この程度の軽いじゃれ合いでテイオーの気分が晴れるならいくらでも付き合おう。

 

 君が帝王でなければ、皇帝が困るからね。

 

 一度目の骨折は乗り越えた。リハビリに付き添ったかいがあった。

 

 二度目の骨折は堪えたようだ。少し喧嘩もしたが最後には笑って乗り越えた。

 

 

 

 三度目の骨折は、見るに堪えなかった。

 

 

 

「……こんなところに呼び出して何の用」

 

 時刻は黄昏時、私はテイオーをトレセンでもあまり使われない練習場に呼び出した。

 

「もう走っても平気なんでしょ、なら私と走れトウカイテイオー」

 

 耳を絞り冷たい眼差しで無意識に地面を蹴るテイオーを無視し、レース前のように入念にアップを始める。

 

「何言ってるの、ボクはもう走らないって」

 

「トレーナーに確認は取った、走れるまで回復してるなら問題ないだろう」

 

 走れるまでは回復しても、それは全速力で走れる事にはならない。筋力の低下、怪我の癖、フォームの崩れ、そして精神。何一つとっても無敵の帝王には届かないのが今のトウカイテイオー。

 

「それとも、GⅠウマ娘様は少しサボっていただけで私みたいなウマ娘と戦うことすら怖いのか?」

 

「っ、君に何が! ずっと走れる君に何が分かるって言うのさ! もう前みたいに走れないんだよ!」

 

 テイオーの叫びが耳を叩く、それでいい、それでなきゃ困る。

 

「なら良いだろう、軽く走ってくれ」

 

 テイオーを無視してゲート代わりのスタートラインに立つ、しばらく待つと諦めたようにテイオーも位置に立つ、やはり腐れ縁だけあって譲らないことを理解してくれたようで何より。ほら、目つきが変わった。やはり帝王にはターフが相応しい。

 

「距離2400、バ場状態良」

 

 観客は誰も居ない、二人きりのレースを始めようか。

 

 

 

 スタートしてみればテイオーはいつも通りの先行策だ。何がもう走らないだ体が覚えているくせに。私はそれには乗らず脚を溜めて待つ……というよりあれに付き合うことが出来ない。

 

「何がっ、もう走れないだ……ッ!」

 

 こっちはレース前のように万全に仕上げてきた。テイオーが乗らなくても一人で走ってやる気だったから。それなのに、何だこれは? 

 

 見ろあの無様なテイオーを、本来の帝王ならもう背中を追うことすら出来ない。フォームが崩れっぱなしで横に逸れてる。踏み込みが左右にブレてきちんと前に進めていない。どうみてもデビュー直後のウマ娘のほうが綺麗なフォームをしている。そう、今の私のほうが綺麗なフォームをしているはずなのに。

 

 追いつけない! どうしてそんなにも早い! 

 

 間違いなく私は全力を出している。いや全力以上だ。ウマ娘生の中で今が最もピークだというのに食らいつくのがやっと。だけれど、それでも。

 

「捉えたぞっ、テイオー!」

 

 最終コーナーを内ラチギリギリを削るように曲がり、残った力を爆発させ蹄鉄で地面を抉る。ついにテイオーを射程圏内に収めた。

 

 その時、目の端にチリチリと紫電が走る。

 今まで感じたことのない、何か扉を掴むような奇妙な感覚。

 魂の奥底で何かを望んでいる、さぁ開け、さぁ道を開けろと耳元で何かが囁く。

 

 直感。

 

 テイオーの背が近づく。私はやっとテイオーに追いつく。帝王の影を踏める! 皇帝へとようやく、ようやく手を伸ばせる! 歓喜に心が震えながら、体を冷静に帝王の影を踏みにじろうと地面を蹴った───。

 

 

 

 ボクにとって彼女は最初どこにでも居る一人でしか無かったと思う。

 

『こちらこそよろしく、君も会長のファンだろう? 何度か見たことがあるからね』

 

 隣の席で会長のファン同士グッズを見せ合ったり盛り上がったけれど競争相手としてはピンとくるものが何もなかった。

 

『見てくれテイオー! 歌う機会がまったくないがGⅠレースのライブ曲が踊れるようになったぞ!』

 

 簡単に置いていけるウマ娘の一人でしかない。それが変わり始めたのはボクのトレーニングに付いてくるようになってからだ。

 

『ぜぇ、はぁ、よ、余裕……だからね』

 

 今にも死んじゃいそうな顔をしているのに、何時だって弱気を見せない彼女はボクにとっていつの間にか背中を見せつけたいライバルへと変わっていった。

 

『リハビリは順調だね、ほら私は遅いから今の君との併走には適任だろ?』

 

 弱音は見せたくない、いつだって最高に格好いい帝王の背中だけを見せる。それでも挫けそうな時側に居てくれた。嗚呼、これが青春なのだと彼女のことを話すと会長に話すと優しく微笑んでくれたんだ

 

 それでも、今度はもう駄目なんだよ。

 ボクはもう終わってしまったウマ娘なんだよ。

 

『テイオー、引退を撤回しろ』

 

 背後の空気が、変わった。

 最初はこんなレースは何でも無いと思った。今のボクの走りは最悪、きっとデビュー戦でも勝てないくらいに。それでも構わないはずだった。

 

「……っ!?」

 

 培ってきた感覚は速くないと告げる、頭の中で刻むタイムは信じられない程のスローペースだ。なのに、この後ろから差してくる存在感は何だ。これじゃまるで重賞、いやそれ以上の緊迫感が背中に突き刺さってくる。

 ボクの友人は、お世辞にも速いなんて言えない子だった。未勝利戦でようやく勝利しても、その後はずっと勝てない。努力家で勤勉でボクの練習についてこれるのに、勝ちきれない。そんなありふれたウマ娘のはずなのに。

 まるで、GⅠレースかのような緊張感がボクを襲う。

 

 

『捉えた   勝ちたい   帝王の影を踏む   なぜなら』

「私はっ、皇帝(カイザー)だ────ーッ!!!!」

 

 

 その時一気に景色が広がり、空を幻視した。ボクは知っている、この感覚を、この世界を。領域、一流ウマ娘だけが持つ失っていた感覚を背後からの緊張感が呼び覚ました。

 

「ボクはっ、帝王(トウカイテイオー)だ────ッ!!!!」

 

 

 影を踏む寸前、テイオーの動きが変わった。まるで飛ぶように跳ねるように軽やかな足運び。無駄な力なく柔らかいステップ。ああそうだ、それでこそ帝王なんだ。

 

 レースの結果は語るまでもないだろう。

 

 日が暮れた芝に二人で寝転がり、大きく息を吐く。

 

「カイザー、ボクはターフ戻ってみせるよだから君も───」

 

「その先は言わないでくれよテイオー、今いい気分なんだ」

 

 GⅠウマ娘とはいえ、リハビリ明けのウマ娘にベストコンディションで完敗。その意味がわからないほど、私は愚かになれなかった。

 

「すごく、いい気分なんだよ」

 

 

 

 有マ記念、三度の骨折を乗り越えたトウカイテイオーのレースは奇跡の復活で幕を閉じた。観客の声は止むことなく帝王に降り注いでいる。私は観客席で見届けた後、一人会場を後にしようとしていた。

 

 帝王はもう大丈夫、その確認が出来たから。

 

「さらば我がライバル、君と夢を駆けられなくてごめん……なんてね」

 

 果たして一度でもライバルでいられただろうか、何て自虐しながら暗い通路を進むと声をかけられた。

 

「ライブを見なくていいのか、友の舞台だろう」

 

「かい、ちょう……?」

 

 シンボリルドルフさんが、通路で待ち構えていた。

 

「本当に久しぶりだ、こうして面と向かってはいつかの感謝祭以来だったかな」

 

 覚えている、こんな私のことを覚えていてくれた。そうか、なら謝らないといけない。

 

「すみません会長、私は約束を……」

 

 言葉を遮るように、頭に手を置かれた。父が子を慰めるように、優しい手で。

 

「君のおかげだよシ、テイオーがあそこに居るのは君の力だ」

 

 それだけで、良かった。

 

「君の名を、君の口から改めて聞かせてくれ」

 

 私の名は、シンボリカイザー。

 

 帝王の影すら踏めぬ、皇帝だ。

 

 

 

 

 

 

 

「天気晴、バ場状態良……ねぇ、本当にまたやるわけ? 私の実力は知ってるだろう」

 

「君じゃないと嫌なんだよ、ペースは君に合わせて抑えるからしっかり頼むよ」

 

「うわムカつく……舐めすぎてると痛い目を見るって教えてあげるよ」

 

「にしし、勝っちゃうもんねー」

 


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