ラブライブ!~アウトローと、虹とトキメキの女神達~   作:弐式水戦

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プロローグ

 アメリカ合衆国カリフォルニア州のとある都市、ベンチュラ・ベイ。

 住宅街や工業地帯、山岳地帯等6つの区からなるこの都市はストリートレーサーの聖地の1つとして有名で、様々な改造が施されたスポーツカーが、毎晩爆音や煙を上げながら都市のあちこちを走り回り、時には警察とのカーチェイスが繰り広げられる事もある。

 

 そんな彼等によって毎晩お祭り騒ぎ状態なこの都市だが、今夜はやけに静かだった。

 走り回るスポーツカーも普段と比べるとかなり少なく、見かけたとしてもレースをする訳でもなく、単にドライブ中なのか、はたまた何処かへ向かっているのか、兎に角普段からは想像出来ない程に大人しいものだ。

 ストリートレーサー達を警戒してパトカーで巡回したり待ち伏せをしている警察官や近隣住民も、普段からは考えられない程の静けさに、一体何があったのかと首を傾げている。

 

 そんな彼等の疑問の答えは、ベンチュラ・ベイの中心地にしてレーサー達にとっての始まりの地、バーンウッドに存在する大きな建物にあった。

 

 

 そこは本来、このバーンウッドをホームとしているとあるストリートレースチームのたまり場兼メンバーのガレージなのだが、時折そのガレージのオーナー、トラビスが開くパーティーの会場としても使われている。

 そして今日、そこであるパーティーが開かれていた。

……いや。今回の場合は、パーティーと言うよりはライブと言った方が適切かもしれない。

 

 

 

《The next song is………》

 

 建物の奥に作られた簡易ステージ。そこでは12人の少女達が、建物内につけられたイルミネーションやスポットライトの光。そして、彼女等のパフォーマンスを見に来た観客達からの歓声を浴びながら踊っている。

 殆んどのメンバーにとっては初の異国の地でのライブであるにもかかわらず彼女等に緊張の色は無く、この瞬間を全力で楽しんでいた。勿論、観客達も。

 

「まさか、此方に戻っても彼奴等のライブを見る事になるなんてな………流石に予想外だったぜ」

 

 そんな彼女等を見つめながら、彼、長門(ながと) 紅夜(こうや)は感慨深げに呟いた。

 初めて彼女等と出会った頃は、こうなるとは夢にも思っていなかった。何なら、1度きりの関係で終わるものだとばかり考えてもいた。それが何だかんだでズルズルと関係は続き、そして今、こうしてアメリカまでついてきてライブまでやっているというのだから驚きだ。

 

「そうね。アタシ等と騒いでた頃のアンタなら、こうなるなんて絶対考えなかったでしょうね」

 

 紅夜の呟きに答えたのは、彼に届く程の高身長に褐色肌を持った少女、アレクサンドラ・デッカードだった。

 

「それにしても、今までダンスやバンド演奏する事は何度もあったけど、日本のスクールアイドルがやって来るなんて……一体、誰が想像出来ただろうな?」

「誰も出来やしないわよ。そもそもこの町がそんな奴等の来るような場所じゃないって事くらい、アンタも分かってるでしょ?」

「ククッ………ああ、嫌って程にな」

 

 クスクスと笑いながら言う紅夜。そんな彼の前では、このイベントを計画した張本人が両手に何本ものペンライトを持ってはしゃいでいる。

 

「……………」

「ねえ、紅夜。ちょっと考えたんだけどさ」

「ん?どうした?」

 

 不意に神妙な面持ちで口を開いたアレクサンドラに、紅夜は視線を向ける。

 

「今日までさ、色々あったじゃない?日本でいじめられてた時から今日までの、約7年間」

「……ああ、そうだな」

 

 そう言って紅夜が思い浮かべたのは、未だ小学生の頃の記憶。自分が少々特殊な体質や容姿を持って生まれたがために理不尽な境遇を強いられてきた、忌まわしき過去。

 

「理不尽な理由でいじめられて、それに耐えられなくなってやり返したら化け物扱いされて」

「……ああ、それで人間不信になっちまってな。親父や彼奴等には、かなり迷惑掛けちまったモンだ」

「仕方ないわよ。あんな目に遭わされたら誰だってそうなるわ」

 

 苦笑混じりに言う紅夜にそう返し、アレクサンドラは続けた。

 

「んで、パパの勧めでアメリカ(こっち)でアタシ等と暮らすようになって、何とか家族とか幼馴染み達と和解して」

「そのまま此所に残ってお前等と走り屋兼バント結成して、毎晩騒ぎまくって、そうしていたら高校最後の1年を日本(あっち)で過ごす事になって」

「留学先でスクールアイドルのマネージャーなんて大層な役目任されたりしちゃってね」

 

 まるで確認するかのように、これまで紅夜が巻き込まれてきた出来事を言い合う2人。そんな彼等を置き去りにしたまま、ライブは進んでいく。

 

「ホント、イベント盛り沢山な1年間だったわよね。こういうのって物語の世界でしか起きないものだとばかり思ってたけど、案外、現実世界でも起きる時は起きるものね」

「そうだな………それで?結局のところ何が言いたいんだよレナ?」

「そうね……あんま上手くは言えないんだけど」

 

 話の結論を求める紅夜にそう前置きし、アレクサンドラが結論を言おうとした時だった。

 

「紅夜く~ん!レナちゃ~ん!」

 

 突然耳に飛び込んできた、2人を呼ぶ声。そちらへ視線を向けると、踊りを終えた12人と、先程まではしゃいでいた少女がステージから此方を見ていた。

 

「皆で写真撮るんだってさ!2人も来なよ!」

「……だってさ。どうする紅夜?」

 

 そう言われた紅夜は、やれやれと首を振った。だが、その表情に呆れた様子は無く、寧ろ笑顔が浮かんでいる。

 

「じゃあ、続きは写真撮ってから聞かせてもらうとするぜ」

「フフッ、了解!」

 

 そうして2人揃って歩き出すと、1人の男が声を上げた。

 

「さあさあ皆さんお立合い!我等がヒーローのお通りだ!」

 

 その一言で観客達が一斉に振り向き、歓声を上げる。

 今日のライブのために駆け付けた紅夜のチームメイトやこの町の走り屋達に加え、態々日本から飛んできた紅夜の家族や幼馴染み達が、まるで最初から打ち合わせしていたかのように花道を作り、そこを2人が通り抜けていく。

 

「早く早く!此方だよ!」

「皆準備OKだよ~」

「ささっ、紅夜先輩。レナ先輩も。中央へどうぞ!」

「ああ、分かった分かった」

「はいは~い!」

 

 そんなやり取りを交わしていると、カメラを持った男が前に出た。

 

「皆で撮るから、ホラ寄って寄って!」

 

 彼がそう言うと、紅夜やアレクサンドラ、そして13人の少女達が身を寄せ合う。するとゾロゾロと足音が聞こえ、幼馴染みや他のチームメイト達までやって来た。

 

「お、おい………」

 

 あくまでも自分達だけの撮影だった筈だが、紅夜は何も言わなかった。

 未だスペースに余裕はあるし、どうせ撮るなら多い方が良い。

 

「じゃあ撮るよ!さん、はいっ!」

 

 その後、紅夜達の掛け声と共にフラッシュが弾けシャッターが切られる。

 この瞬間に浮かべていた紅夜の表情は、幸せに満ちていた。

 

 

 撮影後、一行がこれまでの頑張りを労ったり現地の若者達との交流を楽しんでる中、紅夜はアレクサンドラとの話を終え、こっそりと建物から抜け出してきた。

 外の駐車場には今回のイベントのためにやって来た走り屋達の車が置かれているのだが、その隅に目を向けると、2台の車が置かれている。

 これ等2台共、紅夜の愛車だ。

 

「よう、寂しかったかお前等?」

 

 愛車にそう語りかけた紅夜は2台の間に収まると、各々のボンネットに手をついて夜空を見上げる。

 

「いやはやホント、色々と濃い1年だったよな……」

 

 懐かしむように呟く紅夜。

 彼の脳裏に浮かぶのは、この1年間の留学生活だ。

 

 当時は『家族との約束だから行かなければならない』という義務感しか持っておらず、楽しみなんてものは全く考えていなかった。目立たずひっそりと1年を過ごし、さっさとアメリカに帰ろうと思っており、当然、そこで新たな友人を作ろうなんて考えは微塵も無かった。

 しかし、そこで経験した様々な出会いや交流は、そんな彼の心に大きな変化をもたらした。

 

「コイツも、もう必要無くなったんだよな」

 

 そう呟きながらポケットから取り出したのは、黒い眼帯。かつて、公共の場に出る時は必ず身につけ、コンプレックスである左目を隠すために使っていたこれも、今ではただのアクセサリーだ。

 

「……………」

 

 再び眼帯をポケットに突っ込んだ紅夜は、大きく体を伸ばす。

 その時、一瞬だけ目を瞑った彼の脳裏に、再び様々な場面が映し出された。

 それは全て、スクールアイドル同好会との思い出だった。

 

 練習風景や個人のライブ、全員でのライブ……………それら全て、このベンチュラ・ベイでの日々に負けない、最高の思い出だった。

 

「そういや彼奴、ライブやるたびに何度も『トキメく』って言ってたが…………今こうしてみると、彼奴の気持ちもよく分かるなぁ」

「紅夜!」

 

 すると、ガレージからアレクサンドラが出てくる。

 

「よお、レナ。どうした?」

「『どうした?』じゃないわよ。アンタが何時まで経っても戻らないから呼びに来たの。もうそろそろ皆帰るみたいだから、最後にアンタ等から一言ってトラビスが」

「成る程な……って、アンタ()って事は、彼奴も?」

「ええ、そうよ。さっきから『紅夜君通訳して~!』喚いてるわ」

「ククッ、そうかそうか……んじゃ黄昏タイムはここらでお終いだな。お客さん達にスピーチしなきゃだし」

 

 その答えに満足したのか、アレクサンドラは先に戻っていく。そして紅夜も、ゆっくりとガレージへ向けて歩き出す。

 

「それにしても、トキメキか………成る程、俺も感じたのかもしれねぇな。そのトキメキってヤツを」

 

 今もガレージで助けを求めているであろう、日本に居た頃の相棒がよく口にしていた単語を呟きながら、紅夜は再び思い浮かべた。

 

 

 

 これまで殻に閉じこもり、アンダーグラウンドな世界しか知らなかった自分を変えてくれた、たった1年間の、トキメキに満ちた留学生活を。

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