ラブライブ!~アウトローと、虹とトキメキの女神達~   作:弐式水戦

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 お待たせ致しました。
 今回はベンチュラ・ベイでのお話になります。



SS1~アウトローを心配する者達~

 紅夜がスクールアイドル同好会の練習に巻き込まれている頃、舞台は変わってアメリカ。今の時刻は深夜の0時過ぎだ。

 多くの住人が眠りについているこの時間だが、ベンチュラ・ベイのストリートレーサー達にとっては、今こそがフィーバータイム。その証拠に、都市のあちこちではストリートレースが行われていた。

 改造された様々なスポーツカーが爆音と共に疾走し、それを追い掛けるパトカーのスピーカーからは警察官の怒鳴り声が聞こえてくる。

 

 さて、そんな今日も今日とてお祭り騒ぎなベンチュラ・ベイだが、この日は彼等の輪に入らない者達が居た。

 

 ベンチュラ・ベイ北部に位置しているクレセント山脈。その頂上で男女4人のグループが集まり、軽食片手に世間話に興じていた。

 彼等こそ、紅夜率いる走り屋チーム、MAD RUNのメンバーだ。全員が未だ18~19歳という若手ながらも、このベンチュラ・ベイでトップレベルの実力を持つチームであり、パーティーではバンド演奏やダンスを披露しているのもあって、走り屋や他の若者達からはベンチュラ・ベイの名物としても知られている。

 

「それにしても、今日も我等がベンチュラは賑やかだねぇ。音が此所まで聞こえてくるみたいだよ。ねっ、兄さん?」

 

 そう問い掛けるのは、後頭部で三つ編みにした黒髪と首元のロングスカーフが特徴の、何処となくくノ一を連想させる見た目の少女だった。

 

 名は如月 和美(きさらぎ かずみ)。黄色のHonda NSX Type Rを駆る女性ドライバーだ。

 そんな彼女からの問いに答えたのは、兄の(ぜろ)である。

 

「そりゃ、此処は走り屋の聖地の1つとして有名だからね。賑わうのは当然だよ」

「まっ、普通の人からすれば堪ったものじゃないでしょうけどね」

 

 そう言葉を付け加えたのは、ボリュームのあるロングヘアの金髪に碧眼、そしてグラマラスな体という、まるで世の男性が抱いているであろうアメリカ人女性のイメージをそのまま体現したような女性だった。

 エメラリア・アークライト。かつてはロイヤルパークやサウスポートで活動するソロのストリートレーサーで、MAD RUNの中では一番の新入りだ。

 とはいえ、加入から既に2年近く経過しており、今ではすっかりチームの一員として受け入れられている。また、1つしか違わないとは言えチームの中では最年長であり、いざという時には頼れる存在だ。

 

「でもさ、紅夜が前に走ってたって所……レッドビューカウンティ―だっけ?あそこよりは何倍もマシだと思うよ?何せあの町の車って、最早スポーツカーや高級車の皮被った戦闘車両だもん。ぶつけ合いなんて当たり前、クラッシュも日常茶飯事だって紅夜言ってたよね?」

「ああ、最早町中で行うデモリション・ダービーみたいなものさ。それと比べれば全然大人しいってモンだね」

「まっ、だからってこの町の人からすれば知ったこっちゃないだろうけど!」

 

 そう言って笑い合う3人だが、ふとエメラリアが思い出したようにこんな事を口にした。

 

「それにしても、紅夜はどうしてるのかしら……確かこの時間だと、日本は未だ昼頃の筈よね、レナ?」

 

 自らの愛車である、真っ黒のワイドボディに某エナジードリンクのエンブレムである3本の爪痕のデカールが多数貼られたChevrolet Camaro Z28に凭れた彼女は、同じようなバイナルグラフィックスが施された初期型のFord Mustangの運転席に座るアレクサンドラに声を掛ける。

 

「ええ、調べてみたら昼の3時過ぎみたいよ。もう放課後になってるだろうから、大方瑠璃達とでも遊んでるんじゃない?」

 

 時折交わすビデオ通話やチャットで、紅夜の大体の平日のスケジュールを把握しているアレクサンドラはそう答える。

 

「瑠璃達か……まぁ、紅夜と彼女等は幼馴染みだって話だし、気心も知れてるだろうからそれはそれで良いとは思うんだけどね……」

 

 何処となく浮かない様子で呟く零。他の3人も彼の心境を察してか、小さく溜め息をついた。

 4人が心配しているのは、紅夜が瑠璃達以外の生徒に対して壁を作り、孤立していないかという事だ。

 

 

 過去の一件から人間不信になり、当時は味方であった筈の身内や瑠璃達幼馴染みの面々すら拒絶していた紅夜。アレクサンドラや彼女の両親のお陰で何とか家族や幼馴染み達との和解を果たし、今でこそ、零や和美、エメラリアといった新たな仲間を受け入れ、そして他のベンチュラ・ベイのストリートレーサー達とも交流を持てるようにはなった。だが、それ以外の他人に対する行き過ぎた警戒心は未だに健在だ。

 

 アメリカの学校では、巡り合わせが良かったのか比較的過ごしやすそうだったものの、今は日本の学校に通っている。彼にとっては自分のような特異体質の人間には住みにくい場所だと、居場所なんて無かったのだと幼いながらに感じさせた、日本の学校にだ。

 今回の留学も、紅夜からすれば『高校最後の1年は日本で暮らす』という約束があったから仕方なく来ただけであり、本音を言えば、たとえ身内との約束でもあまり気乗りしないものだった。

 そのため、瑠璃達以外との交流を不要と決めつけて周囲に壁を作り、一人ぼっちになってはいないかと心配しているのだ。

 

 勿論、零達も紅夜と友人になる際に彼の過去については聞いているため、紅夜が他人に対して距離を置こうとする事に関しては仕方ないと思っているし、今すぐ、それも強制的にその性格を改めさせようと考えている訳ではない。しかし、だからといって何時までもこのままでいさせて良い訳ではないというのも事実だ。

 ストリートレーサーであれ何であれ、こうして社会で生きていく以上は嫌でも身内や友人以外の人間と関わらなければならない時は来るし、そもそも今の紅夜は、限られた状況下でないと本当の自分を出せない状態にある。

 他人が居る前では眼帯を外さず、本来の明るい性格を押し込めて不愛想に振る舞う。それも、本人の精神的にプラスには決してならないだろう。

 

「今回の留学で、少しでも完治に近づけたら良いんだけどね……」

 

 そう言って溜め息をつくアレクサンドラ。

 普段はマイペースで悪戯好きな和美も、この時ばかりは神妙な面持ちをしていた。

 

 

 その後あれこれと話した一行は、レースする気分にもなれず溜まり場であるバーンウッドのガレージへと戻る。

 

「よう、お前等もう戻ってきたのか」

「お帰り~」

 

 4人が中に入ると、かなり独特な髪形をした大柄な男、エマニュエルと、オーバーオール姿の女性、エイミーが出迎えた。この2人もまた、ベンチュラ・ベイで活動する走り屋だ。

 

「ああ、2人共。ただいま」

「おうおう、どうしたレナ?随分と覇気が無いじゃないか」

「愛しの紅夜が居なくて元気出ないとか?」

「……まあ、ちょっとね」

 

 そう答えたアレクサンドラは、先程のやり取りについて話す。

 エマニュエルやエイミーも紅夜の事情を知る者であるため、静かに話を聞いていた。

 

「成る程な……それについては、俺もお前達に同意するよ。彼奴はあまり乗り気じゃなかったみたいだが、今回の留学は何かしら意味があると俺も思うしな」

 

 彼も紅夜の人間不信に関しては思うところがあり、彼女の意見に賛同した。

 

「紅夜も一応、分かってはいる筈なんだ。『このままじゃいけない、変わらなきゃいけない』って。だけど……」

「ええ、分かってるわよ零。この手の問題は簡単には解決しないから、全く困ったモンよね」

 

 零の言葉に頷いたエイミーは、苦笑混じりに言った。

 

「そう言えば紅夜って、向こうの学校で何かの部活動に勧誘されたとか言ってなかったか?」

「ええ、スクールアイドル同好会って所にね。音楽室で曲弾きながら歌ってたのをそこの部員に聞かれてたみたいで、いきなり体験入部させられてからの勧誘って流れだったらしいわ」

「そりゃまた何とも強引な………でも、話的に断ったのよね?」

「そう。『本当に信頼出来る者としかやらない』ってね」

「……まぁ、紅夜の場合は過去が過去だから仕方無いっちゃ仕方無いし、そういう事はつまり、私等は信頼出来る人間として認識してるって訳だから喜ぶべきなんだろうけど……何だかねぇ」

 

 エイミーは素直には喜べなかった。自分達を信頼出来る存在として認識してくれているのは嬉しいし、紅夜が断る理由も、彼の事情を知っているために理解出来なくはないが、だからといってそのような対応の仕方は如何なものかと考えていた。

 そのスクールアイドル同好会の連中は紅夜の事情など知らない上、そもそも出会ったばかりなのだから信頼がどうのこうの言ったところで仕方が無いのだ。これを言われた同好会の連中も、さぞかし困惑しただろう。

 

「俺達みたいな走り屋じゃないが、歌やダンスが好きって共通点があるんだ。せっかくだし、ここらで新しい友達を作るってのもありなんじゃないかって思うんだがなぁ…………」

 

 そうして暫くの間、ガレージ内にどんよりした空気が流れる。それを打ち消したのは、新たな来客だった。

 

「よお、随分落ち込んでるみたいじゃないか」

 

 入って来たのは、黒のシャツに紺色の上着とジーンズ。そして赤い帽子をかぶった筋肉質な中年男性だった。このガレージのオーナー、トラビスだ。

 

「ああ、トラビス……実はね」

 

 それからアレクサンドラは、先程までのやり取りについて話す。だがトラビスは、エマニュエルやエイミーとは違い、然程深刻には考えていないような反応を見せた。

 

「まあ、お前等の気持ちは分からんでもないが、此所で俺達がああだこうだ言ったところで何も始まらないだろう。それに………」

 

 そう言いかけたトラビスは一旦天井を仰ぎ、再びアレクサンドラ達に向き直った。

 

「俺達が手を出さなくても、時が来たら案外あっさり解決するかもしれないぞ?」

「「「「「「え?」」」」」」

 

 その場に居る全員が、どういう事かと首を傾げる。

 彼も紅夜の事情は知っている筈なのに、何を根拠にそんな簡単に考えられるのか?

 

「良いか?世の中ってのは何でも巡り合わせだ。彼奴が初めて此所に来た時だって、最初はレナ意外とはあまりつるもうとしなかっただろ?レナ以外で挙げるとすれば、レッドビューカウンティーのゼファーくらいか」

「……まぁ、そうね」

 

 アレクサンドラは頷いた。

 

 因みにゼファーとは、今し方トラビスが言ったレッドビューカウンティーという海沿いの都市を拠点に活動するストリートレーサーで、紅夜にとっては走り屋の師匠のような存在だ。

 師匠と言っても、互いに合意の上で師弟関係を結んだ訳ではなく、自分の車を手に入れた紅夜が初めて参加したレースで1位を取った姿に才能を見出した彼が、強引にマシンごとレッドビューカウンティーへ連れて行って走りの技術を叩き込むというとんでもないやり口だったのだが。

 

「だが、何だかんだで俺達ともつるむようになって、今となっちゃ零達を加えてチームなんて組んでるんだ。だったら、日本でやっていける可能性だって十分あるんじゃないか?」

「そ、それは……そうかもしれないけど」

「まっ、暫くは様子を見るとしようじゃないか。彼奴だって心の底じゃ変わりたいって思ってる筈なんだ。ちょいときっかけさえ掴んでしまえば、後は上手くやっていけるさ」

 

 そう言って奥のスペースへと引っ込んでいくトラビスに、誰も言い返す者は居なかった。

 他の者が言えば無責任に聞こえるような言葉も、トラビスが言えば何故か謎の説得力を感じてしまうのだ。

 

 

 結局この日はレースに参加する気も起きなかったために解散となり、各々の家に帰っていく。

 

「きっかけ、か……紅夜が上手くものに出来れば良いけど」

 

 帰宅し、ベッドに潜り込んだアレクサンドラはそう呟き、その赤い瞳をゆっくり閉じるのだった。




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