ラブライブ!~アウトローと、虹とトキメキの女神達~ 作:弐式水戦
そして大変長らくお待たせ致しました。漸く最新話書き上がったので投下です!
あれから何だかんだ時間は流れ、日が傾き始めた頃。活動終了時刻が近づいてきているのもあり、同好会メンバーはクールダウンに入っていた。
「ふぅ……皆さん、大分良くなりましたね」
紅夜の提案を受けて振り付けを一部変更してからというもの、練習は滞りなく順調に進んでいたのもあり、せつ菜の機嫌はかなり良くなっていた。
彼女自身、かすみが中々ステップについてこれなかった事で練習が停滞している状況や、そんな中でもお披露目ライブの開催日が刻一刻と迫ってくる事には相当焦りを感じていたらしく、そんな彼女の表情には、満足感の他に安堵の色も見える。
「そうですね。紅夜先輩が考えてくれた振り付け、凄くやりやすいですし」
「かすみちゃんもステップについてこられるようになったし、後は仕上げて曲に合わせるだけだね~」
「うん!全部紅夜君のお陰だね」
しずくや彼方、エマも思い思いに言う。
紅夜が来るまでの間、何度も怒鳴られるかすみの事が気掛かりだったものの何も出来なかった彼女等にとっては、彼の存在は正に救世主と言っても過言ではなかった。
しかも、これまで何度もかすみがステップについてこれずせつ菜に怒鳴られていた中、1度も曲を聞いた事が無いにもかかわらず新しい振り付けを考え、ほんの一部分変えただけでこの状況を引っくり返してみせたのだから、正に地獄に仏だった。
「本当にありがとうございます、紅夜先輩」
かすみがそう言って頭を下げる。せつ菜やしずく達もそうだが、紅夜に一番救われたのは、他でもないかすみだった。
「……別に感謝されるような事はしていない。少し口を挟んだら、たまたまお前等の問題を解決していた。それだけの事だ」
「そんな事無いですよ。紅夜先輩の考えてくれた振り付けのお陰で、かすみさんもやりやすくなったんですから」
「そうだよ、紅夜君。彼方ちゃんも、すっごぉ~く感謝してるんだよ~」
しずくや彼方にそう言われた紅夜は、『そうか』とぶっきらぼうに返して顔を背けた。その際、ポリポリと頬を掻いている事から照れている事は直ぐに分かる。
そんな彼を微笑ましく思ったのか、5人は互いに顔を見合わせて小さく笑い合った。
「ッ……そ、それよりも。お前等がお披露目ライブで歌う曲ってどんなものなんだ?」
それに気付き、気恥ずかしさを誤魔化そうとしたのか、不意に話題を変える紅夜。
「え?」
「だから、お披露目ライブでお前等が歌う曲だ」
「……ああ、そう言えば未だ聞いてもらってませんでしたね。ちょうど良いですし、私が歌ったもので良ければ聞いてみますか?」
あの後直ぐに練習に戻ったのもあり、自分達の歌う曲を未だ聞かせていなかった事に気付いたせつ菜は、スマホを操作して曲のファイルを立ち上げる。
「……まぁ、そうだな。では頼もうか」
「はい!」
そうして彼女は、紅夜の傍にスマホを置いた。
「では、聞いてください……"CHASE!"です!」
そして再生ボタンをタップすると、彼女のスマホから曲が流れ始めた。
ほぼアカペラにも聞こえるイントロから、ギターの音も加わって疾走感のある曲が始まっていく。
「(……成る程、こんな感じか)」
聞いてみた印象は、初めて会った日、いきなり音楽室に突撃してきたせつ菜自身を体現しているようにも感じられる、兎に角『情熱』や『大好きの気持ち』を全面的に押し出したパワフルな楽曲だった。
始めは、何かをやりたいという気持ちはあるものの、最初の1歩を踏み出す事に戸惑いや不安を感じ、何かと理由をつけてはその場に留まっていた。しかし、そこから勇気を持って踏み出し、後は『進みたい』、『やりたい』という気持ちに任せ、ひたすら前へ前へとフルスロットルで突っ走っていく。
それがやりたい。大好きで仕方がない、抑えきれない……そんな熱い気持ちを、この疾走感のある曲に乗せて解き放っている。
「…………」
正直、かなり聞き応えのある曲だった。スマホから流れる曲を聞きながら、紅夜の頭の中でMVが出来上がっていく。
それは、ストリートレースに憧れた、とある若者の物語だった。
イカした改造が施された車を駆り、もくもくと白煙を上げ、甲高いスキール音やエキゾーストノートを町中に響かせながら駆け抜けていくストリートレーサー達。それが本当は悪い事だと分かっていながらも、若者は自分もこの世界に入りたいと日々胸を高鳴らせていた。
そんなある日、ひょんな事から若者は車を手に入れる。
大喜びで車を乗り回し、初めてストリートレースに繰り出そうとする。
しかし、いざ出ようとすると、不安で足がアクセルから離れる。
スピードは勿論、求められるテクニックも、ただ町乗りする時とは段違いなのに、果たして自分に出来るのか……?
ストリートレースに出るという夢を、やりたかった事を叶えられるのか……?
そんな不安から、若者は中々走り出せなかった。だが、目の前を通りすぎた1台の車が……正確には、その窓から見えた男が、若者に1歩を踏み出す勇気を与えた。
偶然かち合った視線。若者は、その男からの『お前も出てこい、追い上げてこい』という無言のメッセージを受け、意を決してアクセルを踏んだ。すると、車は力強いエキゾーストノートを響かせながら走り出し、先程まで抱えていた不安が嘘のように消し飛んだ。
そして、勢いに乗ってしまえばもう止まらない。
1速、2速、3速と次々にギアを上げ、アクセル全開。ブレーキペダルなんて踏みはしない。
エンジンの熱い鼓動を感じながら、風を切って疾走していく……そんな映像が脳内で出来上がると、紅夜もつい気分が昂ってしまう。
「(だけど……)」
しかし、それと同時に曲が進んでいくにつれ、彼はこの曲に謎の違和感を感じるようになっていった。
別に、何処かで音がズレているとかそういうものではない。況してや出来が悪いという訳でもない。寧ろクオリティはかなり高い。ただ、何と無く聞き覚えのあるような気がするのだ。
初めて聞いた曲である筈なのに、初めての気がしない。何時かは彼にも分からないが、この曲を何処かで聞いた事があるような気さえしてくる。
「(……俺、この曲聞くの初めてだよな?)」
そんな不思議な感覚に首を傾げている内に、曲は終わってしまった。
「くぅ~~~ッ!やっぱり、何度聞いても最高です!早くファンの皆に、この溢れる情熱を……って、あれ?どうしました、紅夜さん?」
せつ菜が不思議そうに訊ねると、他の4人も紅夜の顔を覗き込む。
「……ん?何がだ?」
「何やら考え込んでいたように見えたのですが……何かありましたか?」
「もしかして、何か変な部分でもあった?」
せつ菜に続き、エマも不安そうに訊ねる。他の3人も、同じような面持ちで紅夜を見ている。
ここでエマの質問に『そうだ』と言われても、それはそれで彼女等としては困るのだが、何か違和感があるのなら、今後のために聞くだけ聞いておきたかった。
「ああ、いや。別にそういう訳じゃないんだ。ただ……」
「……?『ただ』、何です?」
「……何と無く、この曲を聞いた事があるような気がしてな」
「「「「「えっ?」」」」」
5人の声が重なった。そんな彼女等に、紅夜は『本当に何と無くだが』と前置きして言葉を続ける。
「何故だろうな………初めて聞いた気がしないんだ。何時なのかは分からんが、兎に角この曲を何処かで聞いた事があるような気がして……」
「そうですか……もしかしたら、紅夜さんも動画を見たのかもしれませんね」
「……動画?」
鸚鵡返しに聞き返すと、かすみ達が説明してくれる。
「実はこの曲、せつ菜先輩が動画サイトで拾ってきたものなんです。もう動画自体は消されちゃったみたいですけどね」
「ついでに言うと~、その元々の曲に少しアレンジを加えてもらったんだよ~」
「そ、そうか……だが、良いのか?他人の作った曲を使うなんて」
「普通のアイドルの方々の曲を歌うスクールアイドルも居ますので、特に問題は無いかと」
「まぁ、流石に全部既存の曲って訳にはいかないけどね~」
しずくや彼方が、そんな紅夜の疑問に答える。
すると、せつ菜も話に入ってきた。
「それに、ちゃんと本人から私達の曲として使って良いと許可を貰いましたので、何も問題ありません!」
「そ、そうなのか?」
「はいっ!」
せつ菜が言うには、スクールアイドル同好会を立ち上げようと動いていた頃、何時か集うであろう仲間達と共に歌う曲のインスピレーションを得ようと動画サイトを見漁っていた際に偶然出会ったのがこの曲だったという。
そして、試しに1度聞いただけでこの曲の虜になってしまった彼女は、その勢いに任せて作曲者にメッセージを送り、『何時か、自分が仲間達と共にデビューする際のデビュー曲として使わせてほしい』と懇願したのだ。
「そ、それはそれは……」
「自分でも、かなり思いきった事をしたと思います。でも、この曲にはそれだけの魅力があったんです」
感動したとはいえ、いきなりメッセージを送って曲を使わせるよう頼み込むなんてブッ飛んだ行動力を発揮するせつ菜に何とも言えない表情を浮かべる紅夜。
しかし、せつ菜の言い分にも頷けた。
「だがまぁ、そうだな……確かに、それを感じさせる曲だった。目標に向けて走り出すには、ピッタリな曲だ」
これまでの練習で、彼女等スクールアイドル同好会の目標が、ラブライブ!というスクールアイドルの全国大会で優勝し、大好きの気持ちをファンに届ける事だというのは聞いていた。
その目標に向けたスタートを切るのには、この曲は最適だろう。
気付けば紅夜は、曲を聞きながら脳内に浮かんだ映像まで話してしまっていた。
しずく達が、短時間でそこまで細かな描写が浮かんでいた事に驚く中、せつ菜の目には段々と強い輝きが灯っていく。
それはまるで、長年欲しがっていた玩具を買ってもらった子供のようだった。
「ええ……ええ、そうです!その通りです、紅夜さん!」
「うぉっ!?」
ズイッと身を乗り出してくるせつ菜。
「感激です!あの時のパフォーマンスも然ることながら、今回考えてくれた新しい振り付けも、今仰った"CHASE!"のイメージも!この短時間でここまで考えられるなんて!」
彼女は感動していた。
部活中、彼の演奏が聞こえた時……いや、正確に言えばもっと前から紅夜には目をつけており、1度目の体験入部で勧誘を断られてからは、この同好会に入部してもらうために、今後の活動を通じて彼からの信頼を勝ち取る事も目標に加えていた。
そんな中、降って湧いた2度目の体験入部の機会。そこでも紅夜はやってくれた。
当初はどんな曲で踊るのかは知らなかったにもかかわらず新しい振り付けを考え、ステップが遅れていたかすみの問題をあっさりと解決し、実際に曲を聞かせた際には、このようにイメージを語って見せた。
勿論、せつ菜には紅夜の言っていたストリートレースだの車だの、そんなものは全く分からない。だが、彼の語ったイメージの趣旨が、この曲とマッチしているという事は確かだ。それだけは確信を持って言えた。
「「「「…………」」」」
それからせつ菜は、この曲の何処が良いだの、一番の聞き所だのをマシンガンの如く語りまくっていたが、元々紅夜が練習に参加した時間も時間であったため、早くもお開きにしなければならなくなった。
「せつ菜ちゃん。お話中悪いんだけど、そろそろ……」
エマがおずおずと声を掛けると、ハッと我に返るせつ菜。
「あっ、すみません!私としたことが、つい嬉しくなってしまって……」
そう言って少し距離を取るせつ菜。
「……別に気にしなくて良い」
紅夜はそう返し、『邪魔したな』と一言掛けて歩き出す。
「あっ……」
ここで黙って見送る訳にはいかない。偶然とはいえ、せっかくまた来てくれた上に、こうしてかすみの問題を解決してくれたのだ。しかも、彼が語った"CHASE!"のイメージの趣旨も、自分の思い描いていたイメージと合致していた。
これ程の人材は、そう簡単には見つからないだろう。是が非でも仲間に引き入れたい。
だが、何を言えば良いのか分からない。この前のように、また同好会に入ってほしいと伝えても断られるのが関の山だからだ。
「ま、待って……!」
「せつ菜ちゃん」
兎に角引き留めようと、彼に追い縋ろうとしたせつ菜をエマが止める。彼女はせつ菜が振り向くと、静かに首を振った。
「落ち着いて?今行ってもまた断られちゃうだけだよ」
エマはそう言った。
彼女も、紅夜が加わってくれれば心強いと思っている。無愛想ではあるが、ちゃんと自分達の事を見てくれているし、それもあって1度目の見学の際も、未だ出会ったばかりであるにもかかわらず、まるで長い間一緒に活動してきたかのような安心感があった。
それに、今回のかすみの件もある。
だからこそ、紅夜に仲間になってほしいという気持ちはあるが、彼の事情を無視して強引に勧誘すれば逆効果になるだろうし、下手をすれば勧誘のチャンス自体を失うような事になりかねない。
せつ菜の気持ちも分からなくはないが、ここは見送るべきだと、エマは判断したのだ。
「…………」
せつ菜もエマの意図を悟ったのか、やがて小さく頷いた。
そして5人も部室へ戻り、解散するのだった。