ラブライブ!~アウトローと、虹とトキメキの女神達~ 作:弐式水戦
書いては消してを繰り返した末、漸く最新話仕上がりました!
「やれやれ、やっと一息つけるぜ……」
2度目のスクールアイドル同好会の体験入部を終えて帰宅した紅夜は、自室のベッドに身を投げ出していた。
大の字になって天井を仰ぎ、やけに疲れた様子で呟く彼の脳裏に浮かび上がってくるのは、同好会メンバーとの練習風景。
初めて連れてこられた時とは違い、今回は正直なところ息の詰まるものだった。と言っても気まずかったのは前半、かすみがステップについてこれずせつ菜から怒鳴られていた間だけで、それが解決してからはこれと言って問題は無かったのだが、それでも若干の不安は残る。
「(それに、桜坂が言ってた事も気になるんだよな……)」
しずくはせつ菜の様子について、1回目の体験入部の後からあの調子だと言っていた。つまり昨日今日始まったばかりという訳ではなく、それなりの日数続いていたという事になる。
流石に毎日ではない事を祈りたいところだが、それでも仲間が怒鳴られる場面を何度も見せられていた事を考えれば、彼女等には気の毒な話だ。
一応今回に関しては、その原因だったかすみの問題を解決出来たから良かったが、今後も上手くいかないたびに怒号が飛ぶようであれば、同好会の未来はお世辞にも明るいとは言えないだろう。
「(まぁ、俺には関係無い話だが……ん?)」
すると、彼のスマホが着信を伝える。出てみると、聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。
『こんばんは、紅夜』
「おぉ、瑠璃じゃねぇか。こんな時間にどうした?」
電話を掛けてきたのは瑠璃だった。
『別に大した用じゃないわ。ちょっとお喋りしようと思ってね』
「それならチャットでも良いと思うんだがな……」
『あら、いけなかったかしら?貴方の声が聞きたかったからこうして電話を掛けたのだけれど』
からかうように言う瑠璃。紅夜としても別に断る理由は無かったため、『いいや』と首を横に振った。
それから暫くお喋りに興じていた2人だが、不意に月末に控えたお披露目ライブの件が話題に上がった。
「ああ、そうそう。お披露目ライブと言えば、スクールアイドル同好会の連中、お前等と同時期にお披露目ライブやるらしいぜ。しかも同じ場所、ダイバーシティで」
『へぇ、そうなの?それならもっと力入れて臨まなきゃいけないわね。何てったって、あの優木せつ菜擁する同好会と時期が被る訳だし、負けてられないわ』
そんな瑠璃の言葉に、紅夜は目を丸くした。
彼等"MAD RUN"もそうだが、瑠璃率いる"BLITZ BULLET"も基本的には他のグループの人気や動向など知ったことではない、というスタンスを取っている。
別に自分達はアイドルでも何でもないし、そもそもプロを目指している訳でもない。単なる趣味の1つとしてやっているためだ。
そんな彼女が、まるで相手を意識しているかのような発言をしたのだから、紅夜にとっては意外だった。
「何だ、お前連中をライバル視してたのか?」
『別にそういうつもりじゃないんだけど……彼女、凄く有名だって話したでしょう?それなら印象に残るパフォーマンスを見せないと、埋もれてしまうと思ってね。ホラ、私達ってこのお披露目ライブを期に動画投稿を始めていく訳だし』
「……あぁ、そう言えばそうだったな」
動画投稿サイト、WeTubeで活動していく事を決めた瑠璃達。そして記念すべき1発目の動画は、そのお披露目ライブにすると決めていた。
そしてそのために、紅夜に作曲やダンスの考案を依頼していたのだ。
『まぁ貴方が作ってくれた歌やダンスなんだから、何も問題は無いと思うけどね』
そう言って笑う瑠璃。その言葉には、確かな信頼が見えた。
「ははっ……まぁ俺も、お前等の事は心配してねぇよ」
『あら、何か意味ありげな言い方ね……もしかして、同好会で何かあったの?』
「…………」
暫し沈黙した紅夜は、やがて小さく溜め息をついた。
「流石は我が幼馴染み、鋭いな……あぁ、その通りだよ」
紅夜は、今日の体験入部での出来事を……特に、自分が同好会の練習現場を訪れた時から前半までの事を話した。
『成る程。1回目の時と比べて、随分空気が悪くなったわね』
「ああ。まあ桜坂……部員の1人は、お披露目ライブが近いから焦ってるんだろうって言ってはいたがな」
『だとしても、怒鳴り散らして良い事なんて1つも無いわよ。それでその……中須さんだったかしら?その子が上達する訳でもないんだから』
全くもってその通りだった。
怒鳴り散らしたところで、状況が良くなる訳が無い。寧ろその場の空気が悪くなるだけだ。
しかもそれが数日続いていたというのだから、瑠璃からすれば、『よくそんな調子で今までやってこれたものだ』とある意味感心していた。
『それにしても、お披露目ライブが近いからって何をそこまで焦ってるのやら……別に大会に出るって訳でもないんだし、もう少し肩の力を抜いても良いでしょうに』
すると瑠璃は、『あっ』と何かを思いついたように言った。
「どうした?」
『もしかしたら、お披露目ライブとは別に何か目的があるんじゃないかと思ってね。例えば…………貴方に認めてもらうため、とか』
「はあ?」
紅夜の口から間抜けな声が漏れた。
ただの予想とは言え、あまりにも馬鹿げた発言だった。
「いやいや、俺に認めてもらうためって……何をどうすりゃそんな考えが出てくるんだよ?」
『ホラ、貴方って1度、同好会に勧誘されてるでしょう?しかも、その時はかなり熱心に誘われたって話じゃない。何せ、殆んど人前に姿を現さなくて都市伝説扱いされてるあの優木せつ菜本人が、態々音楽室まで迎えに来た程だし』
「それは……まぁ、そうだけど……」
『でも、貴方は断った。それでも諦められなくて、自分達の活動を通して貴方にアピールしようとしていたんじゃないかしら?』
「…………」
何も知らない者が聞けば自意識過剰もいいところな予想だが、紅夜にとっては丸っきり否定出来るものではなかった。
よく思い出してみれば、確かに2回目の体験入部の最中、せつ菜はやたら此方を意識しているように見えた。
紅夜が割って入ったために未遂に終わったとは言え、かすみがステップについてこれていなかった際には、怒りに加えて焦りの色が強く出ていた。まるで、自分達の頑張りを見せるために、彼に無様な姿は晒すのは絶対に許されないとでも言うように。
それに、しずくが言っていた『1回目の体験入部の後からこんな調子だった』というのも引っ掛かる。
「(もしかして、本当に……?)」
『まあ、コレはあくまでも私が勝手にそう考えてるだけだから、実際は分からないけどね。単にスクールアイドルが大好き過ぎて、熱くなってるだけなのかもしれないし』
「…………」
予想を遮るかの如くそう言葉を付け加えた瑠璃に、紅夜も暫しの沈黙の末頷いた。
「そうだな、まあさっきの予想も全無視って訳にはいかねぇけど、やっぱそっちの方がしっくりくるよ」
紅夜自身、歌やダンスに関してはそれなりの知識やスキルを持っていると自負している。人気や知名度は兎も角、単純にパフォーマンスのクオリティでの勝負であればそんじょそこらのスクールアイドルには負けないだろう。
何なら、その一点に限ればせつ菜が相手であっても余裕で打ち負かせる自信があった。
しかし、だからと言って、それはあまりにも自意識過剰で傲慢な話だ。
幾ら何でも、そこまでしてでも必要とされる程の重要人物になった覚えは無い。
それなら、単にせつ菜が暴走しているだけと考えた方が良いだろう。何より瑠璃の予想は、言い換えれば同好会があんな状態になったのは自分のせいだと言っているようなものだ。
勿論、彼女にそんなつもりは無かっただろうが、それで変に責任感や罪悪感を感じてしまうよりは、そう考えた方が精神的にも断然都合が良い。
『……さて、良い感じにお腹も空いたし、そろそろ夕飯にしようかしら。貴方の家でも、そろそろなんじゃない?』
「ああ、そうだな」
時計を見れば、夕飯の時間となっていた。もう間もなく、1階から声が掛かるだろう。
『それじゃあ、話せて楽しかったわ。また学校で』
「ああ、また」
『おやすみなさい』
そう返すと、瑠璃は電話越しに投げキッスでもしたのか、それとも画面にキスでもしたのか、『ちゅっ』とリップ音を鳴らして通話を切った。
「ったく、彼奴は………」
「こうちゃん、綾ちゃん。ご飯出来たわよ~!」
そんな幼馴染みに苦笑していると、1階から深雪の声が飛ぶ。真っ先に返事を返した綾が、ドタドタと階段を下りていくのが聞こえた。
「さて、それじゃあ俺も…………ん?」
それに続こうと起き上がると、スマホがメッセージの着信を知らせる。瑠璃からだった。
『言いそびれたけど、同好会がそんな状態になったのも、今後どうなろうと貴方のせいじゃないわ。だから思い詰めないでね』
どうやら、電話越しにもかかわらず考えを読まれていたらしい。
「……やれやれ、エスパーかよ彼奴は」
小さく笑うと、紅夜は短く『ありがとよ』と返し、今度こそ綾に続いて1階へと下りていくのだった。
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場所は変わり、とあるマンションの一室では、虹ヶ咲学園生徒会長である中川菜々が机に向かっていた。
「ふぅ、今日はこのくらいで良いかな」
今日の分の勉強を終え、ノートを閉じて軽く息をつく菜々。
「…………」
そしてチラリとドアへ目をやり、誰も来る気配が無い事を確認すると、クローゼットを開け、中に置かれていた箱を開く。
そこには大量の漫画やライトノベルが隠されていたのだが、その上では赤を基調とした衣装が存在を主張していた。これは、今回のお披露目ライブでせつ菜が着る事になっているライブ衣装だ。
菜々はそれを膝に置くと再び机へと向かい、パソコンの電源を入れてイヤホンを差すと、とあるファイルを再生した。
『♪~……』
流れてきたのは、今度のお披露目ライブでスクールアイドル同好会が披露する"CHASE!”。学園にあるレコード室で録ったものだ。
それを聞きながら衣装を抱き締めて目を閉じると、溢れんばかりの歓声が聞こえてくる。
満員の観客席で、何百何千ものペンライトが振られ、左右を向けば、かすみやしずく、彼方、エマが此方を見ている。皆、自信に溢れていた。
何時か、同好会の仲間達と共に見たいと思っていた景色だ。
「(やっぱり、良いなぁ……)」
そうして感傷に浸っていると、あっという間に曲は終わってしまった。
そして次のファイルを再生すると、再び"CHASE!"のメロディが流れてくる。
しかし、此方から聞こえてくる声は優木せつ菜のものではなく男性のものだ。おまけに、何故か英語で歌われている。
そう、これは"CHASE!"であって"CHASE!"ではない。その証拠に、画面に映し出されたタイトルは全く別のものとなっている。
"GREEN FLAG"──それがこの歌のタイトルだ。
そして、これにスクールアイドル同好会専用のアレンジを加え、日本語の歌詞をつけたものが"CHASE!"……つまりこの曲は、"CHASE!"の原曲なのだ。
しかし、ライブ衣装と言い音源と言い、何故そんなものを菜々が持っているのかと疑問に思った方は多いだろう。
彼女はあくまでも生徒会長であり、スクールアイドル同好会のメンバーではない。言わば彼女は部外者だ。
なのに何故持っているのか?それは、彼女がスクールアイドル同好会と深い関わりを持っているためである。
何を隠そう、彼女、中川菜々こそが優木せつ菜の正体なのだ。そして、現時点でその事実を知る者は本人しか居らず、スクールアイドル同好会のメンバーはおろか、クラスメイトや生徒会メンバーにすら正体は明かしていない。
有名人でありながら学内での目撃情報が殆んど無く、都市伝説扱いされているのもそのためである。
「ふぅ……」
さて、そんな彼女は曲を聞き終わると、静かにイヤホンを置いた。
何度も聞いてきた曲だが、お披露目ライブに使いたいと思わせる程の衝撃を与えただけあって全く飽きが来ない。
"CHASE!"も勿論最高だが、原曲もまた違った良さを感じさせてくれる。
「(本当に、何時聞いても良い曲ね……)」
偶然動画サイトに上がっていたのを見つけ、1度聞いただけでこの曲の虜になってしまった菜々。
どうにか作曲者のアカウントを見つけた彼女は、昂ぶる感情に任せてメッセージを送った。
『素晴らしい曲だった』、『熱い思いが爆発したような最高の歌だった』等々、兎に角曲を聞いて抱いた感想をひたすら書きまくった。
そして最後に、『何時か仲間と共にデビューする際に、この曲を歌わせてほしい』という願いも伝えた。
今考えても、とんでもない事を言ったものだと思う。
この曲が作曲者にとってどんなものなのか、あのメールを受けてどう思うのか、当時の彼女は全く考えていなかったのだ。
一応絶賛してはいたのだから、その辺りでは特に不快感を与えるものではなかっただろう。だが問題は、曲を使わせるよう頼んだ点だ。
相手から見れば、曲を投稿したと思ったらいきなり何処の誰とも知れない相手にメールを送り付けられ、『その曲を使わせてくれ』と頼まれたのだ。普通なら『何だコイツ?』と引かれるだろうし、そもそも何故赤の他人に自分が作った曲をくれてやらなければならないのかと反感を買う筈だ。
こっ酷い口調で断られたり、無視されても文句は言えない。
だが相手は、その2、3日後には返事を寄越してきた。原曲と歌詞、そして、後に"CHASE!"と名付けられるアレンジ曲のデータと共に、『ご自由に』と書かれたメールで。
それを受けて盛大にガッツポーズを決めたり、アレンジ曲を聞いた際には、興奮のあまりペンライト代わりに思い切り腕を振り回してしまい、壁にぶつけて暫く悶絶する羽目になったのはここだけの話である。
「(あの人に報いるためにも、このライブは絶対に……!)」
パソコンに映し出された待機画面を見つめ、菜々は改めて決意を固めた。
実は、あの曲のデータを受け取ってからというもの、作曲者とは連絡が取れていない。
メンバーに聞かせた時の反応や感謝を伝えようとメールを送ろうとしたが、アドレスを変えたのか送れず、ならばコメントでと思って動画サイトを探し回ったが、動画はおろかアカウントすら見つからなかった。
恐らく何らかの理由で消されたか、自ら消したのだろう。
一先ず確かなのは、もうメールやコメントで感謝を伝える事は出来ないという事。だから彼女は決めたのだ。
このお披露目ライブを成功させ、そしてゆくゆくはスクールアイドルの大会であるラブライブ!で優勝し、己のスクールアイドル活動の最終目標であり、野望でもある『大好きの気持ちをファンに届け、広げる事』を達成する事で、作曲者への恩返しにしようと。
「(そのためには、やはり紅夜さんの力が……)」
この約1年間のスクールアイドル活動で培った経験から、紅夜の実力が桁外れである事を見抜いていた菜々。
実際、見回り中に聞いた彼の演奏や、1度目の体験入部に招待しようとした時に見たダンスパフォーマンスは素晴らしく、体験入部中も、要所要所で彼の実力の高さが見て取れた。
特に2度目の体験入部の際には、1度も曲を聞いていないにも関わらず、ステップについてこれていなかったかすみに新しい振り付けを、しかも曲の雰囲気に合致しているものを提案して見事に彼女の抱えていた問題を解決してみせた。
更に曲を聴かせた後には、そのイメージすらも語ってみせた。車だのストリートレースだの、そういった話はちんぷんかんぷんだったが、『1度走り出したら後はゴール目掛けて突っ走るのみ』というイメージに関しては強く共感出来た。
ここまで見せつけられたら是が非でも勧誘したくなるというものだ。これだけの実力を持った彼なら、頼もしい仲間になってくれるに違いない。
彼を勧誘した際には他人を信用出来ない事を理由に断られたが、それは今後の活動を通じて、自分達は信頼出来るとアピールしていけば良い。
「……よしっ」
兎にも角にも、先ずはお披露目ライブを成功させなければ話にならない。
ちょうどかすみの抱えていた問題も解決したため、後はステップのクオリティを上げていくだけだ。
彼女は改めてライブ成功への決意を固め、残り時間の練習内容を考えるのだった。
…………それが、同好会崩壊を招く事など夢にも思わずに。