ラブライブ!~アウトローと、虹とトキメキの女神達~ 作:弐式水戦
てか、タイトルの割に殆んど紅夜と父・豪希のやり取りだったな今回。
4月──
それは新たな生活の始まりの月であり、世の学生や新社会人達は、これから始まる新しい生活への期待に胸を膨らませていることだろう。
その中でも学生、ひいては中学から高校、高校から大学といったように1ランク上の学校へと進学した生徒達は、尚更今後の生活を楽しみにしている筈だ。
外へ出れば満開の桜が見られ、風に吹かれて舞い散る花びらが、まるで彼等の新たなスタートを祝福しているようにも感じられる。
さて、そんな世間では新たなスタートへの期待や決意と言った前向きな気持ちを持った者達が多い中、紅夜は浮かない顔をしていた。
一応彼も、この4月から新たな生活を始めようとしているのだが……
「はぁ~……遂にこの日が来てしまったか」
その生活の舞台へと車で向かう道中、助手席に座った紅夜は頬杖をつき、そして大きな溜め息を1つ。
これが家を出てから何度目の溜め息なのか、最早覚えていなかった。
「そう悲観するなよ紅夜。確かに不安なのは分かるが、昔とは違うんだ。その歳で人の体質や見た目を馬鹿にするような餓鬼は殆んど居ねぇよ」
運転席に座る父、
出掛ける前に母、
「だと良いがな……」
バックミラー越しに自分の姿を見る紅夜。彼の見た目は、他人と比べると少々変わっていた。
シミ1つ無い肌やポニーテールに纏められた長い髪は、雪のように……いや、そもそも色というものを忘れてしまったかのように白く、その鋭い右目はルビーのように赤い。そして左目を覆い隠す黒い眼帯の下には、右目とは逆にサファイアのような青い目が開かれている。
勘の良い方、あるいはそういうものに対する知識を持っている方は、これだけで彼がどう変わっているか理解出来ただろう。
そう、紅夜は
これだけ聞けば、ただ珍しいと思うだけで話は終わるだろう。だが、問題はそこではない。
小学校時代の彼は、この体質が原因でいじめを受けていたのだ。
そもそもいじめというのは、その殆んどがくだらない理由から起こる。
自分達より優れているからという嫉妬や、逆に劣っているからという優越感。他にも考え方や見た目、文化、言語が違うからという排他的な考えからも、いじめというものは起こってしまう。
そして紅夜は、不運にもそういう考えを持つ連中のターゲットになってしまったのだ。
最初は肌が真っ白だから、目の色が左右で違うから気持ち悪いという陰口だけだった。しかし次第にエスカレートしていき、彼を病人や障害者扱いして差別的な暴言を浴びせる者も現れた。
しかも教員は事なかれ主義なのか大して助けようとはせず、更に当時の隣人もこういった特異体質に理解が無く、『薄気味悪い』、『忌み子』等と心無い暴言を浴びせ、紅夜の心を徐々に摩耗させていった。
勿論、身内や幼馴染み達は彼を守ろうとした。しかし、周囲から向けられる悪意は、彼等の力でカバーするにはあまりにも大きすぎた。
その結果、耐えきれなくなった紅夜は遂に暴力騒ぎを起こしてしまい、一時期は新聞にも取り上げられていた。
しかし、人間というのは時として薄汚い事を考えるもので、彼をいじめた連中は責任を逃れようと、口々に『ちょっとからかっていただけだ』と言い募り、教員も彼等の肩を持って被害者である筈の紅夜を異常者扱いしたのである。
そして、誰も信用出来なくなった紅夜は部屋へ引き籠ってしまい、誰とも口を利かなくなった。
その後、旅行で訪れていた豪希の友人であり、アレクサンドラの父であるブライアンや家族の説得を受け、彼は心の傷の療養と人間関係のリセットという名目でアメリカへ渡り、そこでの生活を経て何とかこれまで拒絶していた家族や幼馴染み達との和解を果たしたが、それ以外の人間へ対する行き過ぎた警戒心は未だに健在なのだ。
「……なぁ、紅夜」
暫く鏡に映る自分の姿を見つめた後に再び大きな溜め息をついた紅夜に、豪希が語り掛ける。
「確かにお前は、他の奴等と比べたら変わった見た目をしてる。それは事実だ。だがな、だからってお前が排除される義理は無い。アルビノだろうが何だろうが、お前が長門紅夜という1人の人間である事に変わりは無いんだからな」
「…………」
「それにな。そもそもこういうのは巡り合わせ、つまりは1種の運なんだよ。あの頃のお前は、その巡り合わせが悪かっただけなんだ。現に、アメリカの学校じゃあそんな扱いは受けなかったんだろ?」
確かに豪希の言う通り、あの理不尽な扱いをアメリカで受ける事は無かった。
勿論、アルビノやオッドアイというレアな体質や姿から好奇の目で見られる事はあったが、逆に言えばその程度だ。あの時のように気持ち悪がられて病人扱いを受けたり、近所の大人から心無い暴言を吐かれる事も無い。
それに、その好奇の視線も暫くすればパタッと無くなり、普通の一般生徒として接してくるようになった。
アルビノだから、オッドアイだからと特別扱いされる事も無ければ腫れ物のように扱われる事も無く、1度、彼の他人を寄せ付けようとしない態度を疑問に思った生徒がアレクサンドラから彼の過去を聞いた際には、皆が彼の境遇に激怒した。
『どうしてこんな事が出来るんだ』と。
担任も怒っていた。『苦しんでいる生徒を平気で見捨てられる人間なんて、教師失格だ』と。そう言っていたのだ。
「まぁ、そもそもアメリカは色々な国からの移民が多かったりするから、多少変わった姿しててもすんなり受け入れられるのかもしれんが……日本にだって、そういう体質に理解がある奴は居る。いや、むしろそっちの方が大部分だ。あのクソ野郎共みてぇな差別的な考えしてる奴の方が少ねぇんだよ」
そんな話をしている内に、彼等の目的地が見えてくる。ヒラヒラと舞い散る桜の花びらに歓迎されながらやって来る生徒を見守りつつ、その建物は静かに新たな仲間を迎え入れようとしていた。
「……っと、もう着いちまったか」
豪希はそう言って、路肩に寄せて車を止める。そして後部座席に置かれた鞄を紅夜に渡した。
「兎に角だ。さっきも言ったが、そんなに悲観する事は無い。この歳になって見た目で人を差別するような餓鬼は居ねぇからな。それに……」
そこで一旦言葉を区切った豪希は、チラリと建物に目をやり、再び息子へと視線を戻した。
「あの学校には頼れる幼馴染みが居るし、家に帰れば俺達家族が居るんだ。何も心配せず、堂々と乗り込んでこい!何があろうと、お前には俺等がついてるからよ!」
再び紅夜の頭をワシャワシャと撫で回す豪希。
紅夜はそんな彼を暫く見つめた後、車から降りる。
「……行ってくるよ」
そして短くそう言うと、学校へ向けて歩き出した。
「おう、行ってきな!」
そんな息子の背中にエールを送り、豪希は去っていった。
そのパールホワイトの車が見えなくなるまで見送った紅夜は、自分の新たな生活の舞台へと向き直る。
視線を上に向ければ、アーチ状のゲートにつけられたこの建物の名前が書かれたプレートが目に留まる。
虹ヶ咲学園。それが、紅夜の新たな生活の舞台だ。
「ねぇ、あの人って……?」
「さぁ?あんな人見た事無いし……転校生じゃないの?」
「見て、肌真っ白だよ…!」
呆然と立っている彼に、他の生徒達はヒソヒソと囁き合いながら敷地内に入っていく。
「さて、今日の予定はっと……」
そんな彼女等の視線や声をまるっと無視した紅夜は、ポケットから取り出したメモ用紙を開いてこれから予定を確認する。
他の生徒とは違い、彼の扱いは留学生だ。いきなり教室へ向かう訳にはいかないのである。
「えっと、先ずは職員室に行って担任と顔合わせか……よしっ」
確認を終え、アーチを潜る紅夜。遂に、彼は新たな生活の舞台であるこの学校へと足を踏み入れたのだ。
「ホラ、早く早く!」
「待ってよ~、そんなに急がなくても十分間に合うってば~!」
桜並木を眺めながら歩いていると、後ろからパタパタと走ってきた2人の女子生徒に追い越される。
1人は毛先が緑のグラデーションになったツインテールの少女で、もう1人はライトピンクの髪を右サイドでシニヨンに纏めた少女だった。
「やれやれ、時間的に未だ急ぐ必要も無いだろうに……」
苦笑混じりにそう呟き、紅夜は目的地である職員室へと向かうのだった。
この時の紅夜も、彼を追い越した少女達も、後に自分達が深く関わり合う事になるとは、夢にも思っていなかった。
如何でしょうか?
一応本作は無印版アウトローのIFバージョンなので、文章や展開に無印版と似たような点が幾つか出てくると思いますが、なるべく本作のオリジナルも出せるように頑張りたいと思います。
感想ございましたら、暇な時にでも書いてくれると嬉しいです。
では。
Ps.感想をユーザー限定から非ユーザーでも書けるように変更しました(今更)