ラブライブ!~アウトローと、虹とトキメキの女神達~ 作:弐式水戦
さて、今回はタイトル通り、あの全校生徒の名前を覚えているという記憶力チート級のお方が登場します。
一応前にも原作キャラは出していますが、名前付きで登場するのは彼女が初めてですね。
あの2人も出したいけど、残念ながら登場するのは後の方になるかなぁ……
放課後、紅夜と綾は幼馴染み達から校内の案内を受けていた。
留学初日である紅夜は言うまでもないが、綾も今年入学してきたばかりの新入りで、何処に何の教室があるのかは未だ把握しきれていない。
そこで紅夜の案内も兼ねて、綾にも各教室の位置のおさらいをしておこうという話になったのである。
既に一通りの案内は終わったようだが、校内があまりにも広いためか大分時間が経っており、今では部活動や生徒会等に所属する生徒くらいしか残っている生徒は居なくなっていた。
「……よし、これで校舎内は一通り廻ったわね」
案内を終えた瑠璃が、校内の地図が載ったパンフレットを閉じて振り向く。
「取り敢えず案内はこれで終わりだけど、何か質問はあるかしら?」
「……質問って訳じゃないけど、1つ言いたい事があるんだが」
「ええ、何でも言ってちょうだいな」
穏やかな笑みを浮かべ、紅夜に続きを促す瑠璃。
だが、その顔は彼が次に言う事を何と無く悟っているように見える。それは、達哉や雅達幼馴染みグループも同じだった。
「…………」
紅夜は一旦辺りを見回し、自分達以外に誰も居ない事を確認すると、深呼吸を1つ。そして閉じられた目をカッと見開き、その声を響かせた。
「デカ過ぎんだろこの学校!ワンチャンそこらのデパートよりデカいわ!」
「予想通りのリアクションをありがとう」
淡々とした口調で言う瑠璃。その隣では、達哉や雅、大河の3人が腹を抱えて笑い転げていた。
見る者によっては大袈裟とも言えるような反応を見せた紅夜だが、彼がこんな事を言うのは無理もない事だった。
何せ、この虹ヶ咲学園は中高一貫校であり、尚且つ1学年あたりの生徒数は約1000人と言われている。つまり、単純計算で高等部だけでも約3000人、中等部も合わせると約6000人もの生徒が在籍している事になるのだ。
これだけの生徒を収容するとなれば、敷地は勿論だが校舎も大きくなるのは当然の事なのだが、これまでの学校生活でここまで大きな校舎を見た事が無い紅夜からすれば、この学校の規模は明らかに異常だった。
「まぁ、紅夜の気持ちも分かるわよ。私達だって最初に見た時は学校には見えなかったもの」
「ええ、何かのイベント会場と間違えてるんじゃないかと思ったわ。校舎の形も、私達が知ってる学校のそれとは違ってたものね」
クスクスと微笑を浮かべながら、瑠璃と蓮華がフォローを入れる。
彼女等の言う通り、この虹ヶ咲学園は世間でイメージされているような学校の校舎とはかけ離れた造りや大きさを持ち、その姿から此所が学校だと気づかず、何かのイベント会場と勘違いする者も居た。
実際、過去にはイベント会場と勘違いした一般人が校内に入ろうとするというハプニングも起きていたらしい。
勿論、その人物は周囲の雰囲気から直ぐに違うと気づいて出ていったのだが、そのような出来事があっても仕方無いと言える程に、この学校の姿は他校と比べてかなり変わっていたのだ。
「そういや俺等が1年の頃、迷子になって授業に遅刻しそうになった奴が居たな。まぁ、何とか間に合ったらしいけど」
「あっ、私のクラスにもそういう子居たよ」
落ち着きを取り戻した達哉と雅が、思い出したかのようにそう言った。やはり慣れない内は、こうして迷子になる生徒の1人や2人は出てくるようだ。
「まぁ取り敢えず、いきなり全部覚えるのは無理でしょうから、先ずは今後の授業で使う教室だけでも覚えておくと良いわね。コレあげるから」
そう言って、瑠璃は持っていたパンフレットを紅夜に差し出した。
「……その使いそうな教室だけでもそれなりの数があるんですがそれは」
パンフレットを受け取った紅夜は、そう言ってガックリと項垂れてしまった。
その後、何とか紅夜を立ち直らせて靴箱へと向かう一行だったが、紅夜がある教室の前で足を止め、残りの6人も同じように立ち止まった。
「……ん?何だ紅夜、音楽室が気になるのか?」
「そういやお前、選んだ学科音楽科だよな。アメリカでもレナ達とバンドとかダンスやってたって言ってたし」
男性陣2人がそう言った。
今更ではあるが、この学校へ留学してくるにあたって紅夜が選んだ学科は音楽科だ。
というのも、自らが住むアメリカ、カリフォルニア州の都市の1つであるベンチュラ・ベイでストリートレースに明け暮れていた紅夜の、レース以外の数少ない趣味が音楽なのだ。
アメリカではアレクサンドラ達とストリートレースに没頭していた彼だが、彼女の父であるブライアンから『レース以外にも1つくらいは趣味を作っておけ』と言われたのもあり、彼等で考えた結果浮かび上がったのが音楽で、その後はストリートレースと並行してバンドやダンスを始めたのだ。
元々高いセンスがあったのかほんの僅かな期間で腕を上げており、今となっては、彼等のライブはベンチュラ・ベイの目玉イベントの1つとして人気を得ていた。
因みに、紅夜が日本へ発つ前にも彼等はライブを行ったのだが、その時は暫く彼等5人揃ってのライブが見られなくなるというのもあって、あちこちの走り屋や若者が会場にやって来て、結果ストリートレースが殆んど行われないという状況に警官が首を傾げる事態になっていたというのは余談である。
「…………」
「そんなに気になるなら、ちょっと覗いてみたらどうだ?」
じっと音楽室のドアを見つめる紅夜に、大河が言う。
「良いのか?」
「別に盗みに入る訳でもないんだから良いんじゃねぇの?鍵が開いてたらの話だけど」
彼はそう言いながらドアに近づき、取っ手に手を掛ける。
どうせ開いていないだろうと思いながら軽く引くと、カラカラと音を立ててドアが開いた。
「……開いてる」
予想外の結果に、大河は目を皿のように丸くする。
「先に誰か使ってたのかな?」
「だろうな。流石に授業終わってからずっと鍵開けっぱなしにするってのは、不用心が過ぎるってモンだ」
達哉と雅がそう言った。
そのまま中へと足を踏み入れると、だだっ広い空間が彼等を出迎える。
「それにしても、流石はデカい校舎や充実した設備持ってるだけあるな。この部屋も広いし、あっちの楽器は何れも新品同様だし」
そう言って達哉が指差したのは、後方のケースに入った様々な楽器だった。
流石につい最近買ったばかりの新品という訳ではないだろうが、そう見えてもおかしくない程に輝きを放っていた。
それから一行は数分程室内を探検していたが、そこであるものを見つけた。
壁際に置かれた、白いシーツを被った何か。それは机にしては大きすぎる上に、掛けてあるシーツが不自然に盛り上がっている。
紅夜がそのシーツを剥ぎ取ると、その正体が判明した。ピアノ程の大きさは無いが、そこそこ大きめの鍵盤楽器だった。
3段構成の鍵盤に、ピアノにしては明らかに多すぎるペダルやスイッチ。
楽器にある程度詳しい方なら、これだけで何があったのか分かるだろう。そう、シーツの中にあったのはエレクトーンだった。
「へぇ、この学校ってエレクトーンも置いてたんだね」
意外そうに言った雅は、何かを閃いたように紅夜に向き直った。
「ねぇ紅夜君、せっかくだしコレで何か弾いてみてよ!」
エレクトーンを指差す雅。他の面々も、彼女の意見に賛同する。
「そうね。何時もメールで送られてきたのを見るだけだったし、こうして楽器もあるんだから、生で聞いてみたいわ」
「兄様の生演奏、私も聞きたい!」
「俺等にもバンドやダンス始めさせた腕前、拝見させてもらおうじゃねぇの!」
何気に紅夜の生演奏を聞くのが初めてというのもあって、本人が同意していないのも構わず盛り上がる瑠璃達。
「あぁ、分かった分かった。弾くからちょっと落ち着け」
まるで玩具をねだる子供のように言い寄ってくる6人をどうにか宥め、紅夜は演奏の準備に取り掛かる。
椅子に座って電源を入れると、慣れた手つきで音の具合を確認し、調節していく。そして一通り準備を済ませると、未だか未だかと待ちわびている観客達へ目を向け、挑戦的な笑みを向けて言った。
「じゃあ、初っぱなから本気でやってやるぜ。精々ブッ倒れんなよ!」
そうして、紅夜は鍵盤へ手を振り下ろすのだった。
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「ふぅ、今日の分はこれで終わりですね」
その頃、生徒会室では1人の女子生徒が書類整理を終えたところだった。
両サイドから下ろした三つ編みに縁の四角い眼鏡という、如何にもな委員長タイプの少女だ。
名は
……と言っても、これは表向きの顔であり、もう1つの顔も持っているのだが、それは今は伏せておこう。
「さて、後は此所の戸締まりを済ませて、校内の見回りっと……」
書類を片付け、鞄を持って生徒会室を後にした菜々は、ドアの鍵を閉めて校舎内を歩き回る。
基本的に、部活動等に所属していない生徒は直ぐに帰っていくのだが、中には用も無いのに下校時刻まで残っているような物好きも一定数居る。
「……ん?」
そんな生徒達に帰宅するよう呼び掛けながら歩いていると、何処からか楽器の音色や歌声が聞こえてくる。
「(方向からすると、音楽室?でも、今日は誰も申請には来ていない筈……)」
この学校では、生徒は授業や部活動以外でも音楽室や講堂を利用出来るが、その際には生徒会から許可を貰わなければならないという決まりがある。しかし、今日はそういった申請は1件も来ていない。
恐らくその規則を知らないか、面倒臭がって申請をしなかった生徒が使っているのだろうと予測しながら、彼女は音楽室へと歩みを進める。
そして音楽室へ辿り着くと、ドアの小窓を覗いて無断使用の犯人を見る。
「(……思ったより大人数ですね。1人か、多くても2人くらいだろうと思っていましたが)」
小窓から見えたのは、エレクトーンを弾いてい髪の長い白髪の生徒と、その周りを囲む6人の男女だ。
思ったより人数が多かった事に驚きながらも、無断使用の件を注意すべく音楽室へ乗り込もうとした時だった。
「ッ!?」
まるで彼女が来るのを待っていたとばかりのタイミングで始まった曲。それを聞いた瞬間、彼女の体は雷にでも打たれたかのように硬直する。
「(な、何なのですか……この感覚は!?)」
今まで音楽は何度も聞いてきたし、とある事情から自分が歌う事もあった。しかし、今耳に飛び込んできた音色は、これまで聞いたものとは何もかもが違った。
心臓が胸を突き破ってきそうな程に跳ね上がり、体温も一気に上昇する。
「はぁっ、はぁっ……!」
壁に凭れ掛かり、胸のリボンを掴んで荒い呼吸を繰り返す菜々。
何とか呼吸を整えながら再び小窓を覗くと、体や髪を振り回しながら狂ったようにエレクトーンを弾く白髪の生徒が目に留まる。
その周りでは、他の6人が曲に合わせて盛り上がっていた。
演奏者1人に対し、客はたったの6人。そして会場はがらんとした音楽室だというのに、菜々には、そこが満員のライブ会場のように見えていた。
此所からでも、鼓膜を突き破らんばかりの歓声やライブハウス特有の熱気が、爆風のように襲い掛かってくる。
「(す、凄い……1人で弾いているだけなのに、何て迫力……!)」
菜々は、最早無断使用の件を注意するという当初の目的を忘れ、聞こえてくる音楽の虜になっていた。
生徒会長という立場もあって何とか持ちこたえているものの、心の中では何人もの小さな菜々達が、ペンライトを掲げてワーキャー歓声を上げながら跳ね回っている。
「(この感覚……まるで、あの時の……あの人の曲みたい……!)」
それからじっと見つめること数分。漸く曲が終わり、菜々は緊張の糸が切れたようにヘナヘナと廊下に座り込んだ。
するとドアが開き、紅夜が姿を現す。
「ん?お前は……」
その声に菜々も気づき、声の主を見上げる。
ルビーのように真っ赤な瞳に見つめられ、心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えながらも、言葉を絞り出した。
「……音楽科、3年の……長門、紅夜さん……ですね……?」
「あ、ああ。そうだが……大丈夫か?随分疲れてるようだが」
何故名乗ってもいないのに自分の名前を知っているのか疑問に思う紅夜だったが、それよりも全力疾走した直後のように呼吸を乱している事に、心配そうな表情を浮かべる。
「だ、大丈夫です……」
そう答えた菜々がヨロヨロと立ち上がると、異変に気づいた他の面子がワラワラとやって来た。
そしてメンバーを代表するかのように、瑠璃が声を掛ける。
「あら、誰かと思えば生徒会長さんじゃない。こんな所で何をしているの?」
「…国際交流学科3年、北条瑠璃さんですか……別に、大した用ではありません。そろそろ下校時刻ですので、見回りをしていたんです」
菜々が答えると、瑠璃は壁に掛けられた時計を見て思い出したように言った。
「ああ、もうそんな時間なのね。演奏に夢中で気づかなかったわ」
「つか、そもそも案内終わった時点でそこそこ時間経ってたもんな」
「仕方無いよ。だってこの学校凄く広いし」
達哉と雅が言葉を付け加え、他の面子も相槌を打った。
「演奏……そう言えば、皆さん盛り上がってましたね」
「そりゃそうさ、紅夜の生演奏なんて滅多に聞けねぇからな!」
「それに紅夜君、ダンスも踊れるもんね!しかも自分で振り付け考えたりして!」
そんな雅の言葉に一瞬眉が動いた菜々だが、一先ずその事は脇に置いて本題に入る。
「ま、まぁ、それはそれとして……皆さん、音楽室の使用許可は取ってますか?」
「……使用許可?」
菜々からの質問に、紅夜が首を傾げる。
他の面々も、同じような反応を見せていた。
「あ、あの……使用許可って?」
綾がおずおずと手を挙げて訊ねると、菜々は音楽室を利用するに際の規則を説明した。
「そうだったのか……すまないな、全然知らなくて」
紅夜が詫び、他の面々もパラパラと謝罪した。
「北条さん達が知らなかったというのは気になりますが……まぁ、そちらのお二人はこの学校に来て間が無いのもありますからね……一先ず今回の件に関しては、特別に目を瞑っておきましょう」
「……良いのか?」
「ええ。ですが次から利用する際には、ちゃんと申請書を出してくださいね?生徒会室に来ていただければ、私か他のメンバーが対応しますので」
「……分かった、次からはそうさせてもらう」
「りょーかい!」
「ごめんなさいね、生徒会長さん。以後気を付けるわ」
紅夜達が納得すると、菜々は満足したように頷いた。
「さて、もう時間ですので、皆さんも早めに下校してくださいね。戸締まりは私がやっておきますので」
そう言うと、7人は音楽室に戻って片付けを済ませ、各々の荷物を持って出てくる。
「……あっ、長門紅夜さん。ちょっとよろしいですか?」
「……?何だ?」
そして帰ろうとする中、最後尾を歩いていた紅夜を呼び止めた菜々は、彼に駆け寄って言った。
「先程弾いていた曲ですが、あれは……?」
「ああ、別に大したものじゃない。殆んどネットで聞いたのをそのまま弾いただけだ。幾つかはオリジナルだがな」
「お、オリジナル……?という事は、今さっき弾いていたのも……?」
「俺が作った曲だが?」
「ッ……そう、ですか……」
そうして、何か考え始める菜々。どうかしたのかと紅夜は首を傾げるが、彼女は何でもないと、首を横に振った。
そうして紅夜は、待っていた他の面々と合流して帰っていき、後には菜々1人が残される。
「…………」
そっと胸に手を添えると、未だあの演奏の余韻が抜けていないのか、心臓が早鐘を打っているのを感じる。
たった1回、しかしその1回の演奏のインパクトはあまりにも大きかった。
「あんな人が、同好会に入ってくれたら……」
がらんとした廊下に、彼女のそんな呟きが吸い込まれていった。
その頃、学校を出た紅夜達は……
「なあ達哉、あの生徒会長って、なんで俺の事知ってたんだ?挨拶した覚え無いんだが」
「……あぁ、そういや紅夜は知らなかったよな。実は此所の生徒会長って、全校生徒のフルネームや学年、学科まで全部覚えてるらしいんだよ。勿論、顔もセットでな」
「……は?」
紅夜は絶句した。
案内をしてもらっていた時に、この学校の生徒数については聞かされている。
つまりこの学校の生徒会長は、高等部だけでも約3000人もの生徒の顔や名前、そして所属学科まで覚えているという事になるのだ。
「……どんな改造したらそこまで覚えられるんだよ。ある意味スゲーな、この学校の生徒会長ってのは」
呆れたら良いのか尊敬したら良いのか分からないといった様子で、紅夜は右手で覆った顔を左右に振るのだった。