ラブライブ!~アウトローと、虹とトキメキの女神達~   作:弐式水戦

7 / 13
 大変長らくお待たせしました。最新話です。

 かなり久々ですが、文章とか大丈夫かな……


第6話~アウトローとスクールアイドル同好会・後編~

「(やれやれ、音楽室で遊んでたらこんな事になるとは………俺、変な夢でも見てんのかな?)」

 

 スクールアイドル同好会部室にて、部屋の中央に置かれた椅子に座らされた紅夜は、未だに自分が置かれている状況が信じられずにいた。

 

 暇潰しのためにやって来た音楽室で踊って遊んでいたところ、突然乗り込んできたスクールアイドル同好会部長を名乗る女子生徒、優木せつ菜に半ば強引に連れ出されたのだ。彼がこう思うのは無理もないだろう。

 

「さて。紅夜さんに来ていただけたところで、先ずは自己紹介といきましょうか!」

 

 そんな紅夜を余所に、同好会メンバーは話を進めていく。どうやら自己紹介をするつもりのようで、一行は紅夜の目の前に並んだ。

 

「では最初に──」

「はいはいっ!先ずはかすみんがいきます!」

 

 せつ菜を遮ってトップバッターに立候補したのは、かすみだった。彼女は自信満々な様子で前に出ると、自己紹介を始める。

 

「初めまして、紅夜先輩!この同好会期待の新人スクールアイドル、中須かすみです!気軽に、かすみんって呼んでくださいねっ!」

「……はあ、どうも」

 

 そう言って顔を近づけ、ウインクしてみせるかすみ。

 本人の容姿もあって、スクールアイドル好きな人間にはそこそこ受けるだろうが、紅夜はスクールアイドルに興味がある訳でもなく、更にこういうキャピキャピしたような人間を相手にした事が無いため、反応に困っていた。

 それを見かねたのか、しずくが呆れたような表情と共に出てきてかすみを諌める。

 

「かすみさん、先輩が困ってるよ?と言うか、そんな大層な人でもないでしょ?」

「むぅ~、しず子!余計な事言わないでよ!」

 

 水を差された事にかすみが文句を垂れるが、しずくは無視して自己紹介を始めた。

 

「国際交流学科1年の、桜坂しずくです。よろしくお願いしますね、紅夜先輩」

「……ああ」

 

 先程よりはまともな自己紹介に安堵した様子で頷く紅夜。すると、彼方が話に入ってきた。

 

「しずくちゃんはねぇ~。演劇部と掛け持ちしてるんだよ~」

「……掛け持ち?」

「はい。私女優になりたくて……それで演劇部に入ってるんですけど、スクールアイドル同好会での活動を演劇での表現に活かせないかなと思いまして」

「ほう……」

 

 未だ1年生であるにもかかわらず既にしっかりしたビジョンを持っている事に、紅夜は素直に感心した。

 

「(と言うか、国際交流学科って事は瑠璃と同じか……まぁコイツは1年で向こうは3年だが)」

「じゃあ、次は同じ学科繋がりでエマさんの番ですね!」

 

 そんなせつ菜の言葉を合図に、エマが前に出てくる。

 

「国際交流学科3年の、エマ・ヴェルデです。よろしくね、紅夜君」

「ああ……名前からすると、海外から?」

「うん!」

「エマさんは、スクールアイドルになるためにスイスから来たんですよ」

 

 しずくが補足すると、紅夜は目を丸くした。

 

「スイスって……これはまた随分遠くから来たんだな。しかも、その目的が言語とか文化を学ぶためじゃなくて、"スクールアイドルになるため"なんて」

「えへへ……実は小さい頃、日本のスクールアイドルの動画を見たんだけど、その時に心がポカポカして……私も、そんなアイドルになりたいなと思って、日本に来たんだ~」

「な、成る程……」

 

 『何てチャレンジ精神とフットワークなんだ』と、紅夜は思った。

 留学の目的は、その殆んどが語学や文化を学ぶ事だ。そんな中で、スクールアイドルになるために留学してくるケースは聞いた事が無い。

 それに彼女の日本語は、同じ日本人と話しているかのように流暢だ。それなりの期間はあったとは言え、余程勉強したのだろう。

 

「それじゃあ、次は彼方ちゃんだね~」

 

 そうして次に前へ出たのは彼方だ。

 

「ライフデザイン学科フードデザイン専攻の、近江彼方ちゃんで~す。よろしくね、紅夜君」

「……ああ」

 

 最早聞いているだけで眠くなりそうな、間延びした口調で自己紹介をする彼方。

 紅夜も思わず出そうになった欠伸を噛み殺しながら、返事を返した。

 

「おやおや?もしかして紅夜君、おねむなのかな?」

 

 間の抜けたような振る舞いに反して意外と鋭いのか、彼方はそう訊ねてくる。

 

「……ああ、主にお前の喋り方のせいでな」

 

 その返答に暫く呆然とする彼方だったが、やがてクスクスと笑った。

 

「いやぁ~、たまに言われるんだよね~。『聞いてて眠くなりそうだ』って」

「確かに、彼方先輩ってよく部室で寝てますもんね~」

「それに、私の膝を枕にする事もあるよね」

 

 すると、かすみやエマも話に加わってくる。

 

「うんうん。エマちゃんの膝枕、とっても気持ち良いんだよ~。もうずっと彼方ちゃんの枕になってほしいくらいだね~」

「そ、そこまでなのか……」

 

 個性の塊である同好会メンバーに翻弄され、調子が狂う紅夜。そんな彼の心境を察したのか、せつ菜が咳払いと共に軌道修正を試みた。

 

「えー、ちょっと話が脱線してしまいましたが、最後に私の自己紹介ですね!」

「いや、お前音楽室で思いっきり名乗ってたから別にしなくても良いんだが……」

 

 そう呟く紅夜だったが、聞こえていないのか、それとも敢えて無視しているのか、せつ菜は自己紹介を始めた。

 

「スクールアイドル同好会部長、2年の優木せつ菜です!」

 

 今にも『ペカー!』という音が聞こえてきそうな屈託の無い笑顔で、彼女は名乗る。

 他の4人のような会話は無くシンプルなものだったが、紅夜にはそれで十分だった。

 

「それでは顔合わせも終わりましたし、早速活動を始めましょうか!」

 

 そうして移動を始める5人に連れられるようにして、紅夜も部室を後にする。

 彼女らの活動場所である屋上へと向かう最中、紅夜はせつ菜から説明を受けた。

 

 どうやら、今回はスクールアイドル同好会の活動体験という事で、実際に彼女等と一緒に練習をするらしい。

 

「じゃあ、先ずは昨日のステップのおさらいから始めましょう。紅夜さんも無理をせず、少しずつで良いのでついてきてくださいね?」

「あ、ああ。分かった」

 

 こうして、練習が始まった。

 

 

 

 

 

 それから数十分が経ったが、結論から言えば、紅夜は彼女等のステップを瞬く間にマスターしていた。

 ダンスに関してはアメリカでそれなりに練習を重ねてきたのもあり、彼女等のステップは大して難しいものではなく、寧ろ5人と共にステップを踏みながら周囲を観察し、誰のどこが出来ているのか、はたまたどこが出来ていないのかを分析し、指摘出来るくらいには余裕があった。

 

「凄いですね、紅夜さん!ついさっき始めたばかりなのに、もうそこまで出来るなんて!」

 

 興奮した様子で寄ってくるせつ菜。キラキラと輝いているその瞳は、まるで自分の見立てに狂いは無かったと言わんばかりだ。

 

「べ、別にこれくらい……」

 

 『大した事じゃない』と言葉を続けようとする紅夜だが、そこへかすみが割り込んでくる。

 

「いやいや、せつ菜先輩の言う通り凄いですよ紅夜先輩!かすみん達だって、昨日始めたばかりだから未だ自分のステップで精一杯なのに」

「そうですよ、先輩。私達だって未だそこまで余裕は無いのに、既に他の皆の様子まで見れるくらいのレベルに到達してるなんて」

 

 かすみの意見にしずくが追随すると、エマや彼方もうんうんと相槌を打つ。

 

「ここまでのレベルになってて、しかも曲も作れるって事は、やっぱり沢山練習してきたんでしょ?それって、よっぽど歌や躍りが好きじゃないと出来ないよ!」

「それに、こうして練習してると、まるでずっと前から一緒に活動してたみたいに思えてきちゃったよ」

 

 その屈託の無い笑顔から、彼女等の意見が本心から来ていると悟った紅夜は、面映ゆそうに頬を掻いた。

 

 

 

 その後も同好会の活動体験は暫く続いたが、時間というのは時としてあっという間に流れてしまうもので、気づけば日が傾き始めていた。

 

「おや、もうこんな時間ですか……」

「あっという間だったね、こんなに時間が短く感じたのは初めてかも」

「何か、物足りないなぁ……」

 

 空が赤らんでいくのに気付いたせつ菜がそう言うと、エマや彼方が名残惜しそうに言う。

 かすみやしずくも同じ意見のようでもう少し続けたそうにしているが、残念ながら何時までも残っている訳にはいかない。 

 各々門限もあるし、何より下校時刻が迫ってきているのだ。

 

 一応、申請すれば泊り込む事も可能だが、今日いきなり言っても通らないだろう。

 

「……名残惜しいですが、体験はここまでですね」

 

 そう言ったせつ菜は、次に紅夜の方を向いた。

 

「紅夜さん。今日は体験に来ていただき、ありがとうございました」

「あ、ああ……此方こそ、良い体験をさせてもらったよ」

 

 音楽室で遊んでいたところに押しかけられた上に強引に連れてこられた同好会だったが、いざ体験に参加してみると案外楽しかったのもあり、紅夜はそう言った。

 しかし、同時に彼の心には別の感情も芽生えていた。

 

 予想が正しければ、今回こうして自分を連れてきた目的は同好会への勧誘だ。体験をさせたのも、そのための布石のつもりだろう。

 

「(でもなぁ……)」

 

 彼女等の勢いに押されたとはいえ、流されるがまま体験に参加しておいて失礼だとは自覚しつつも、紅夜は、もし本当に勧誘されても受けようという気にはならなかった。

 

 思い出されるのは、忌まわしい過去。友達だと思っていた連中は皆、自分の容姿が気持ち悪いからと、自分達のコミュニティから排除しようとした。

 勿論、今はもう高校生になったのだから、以前豪希が言っていたように容姿を理由にいじめをしようとするような事はほぼ無いと言って良いだろうし、それが分からない程、紅夜も馬鹿ではない。

 しかし、頭で理解しているからと言って、じゃあ受け入れられるかと聞かれれば、答えはNOだ。

 

 それに彼は、そもそもこれ以上新たな繋がりを作ろうとは思っていなかった。

 家族や幼馴染み、昔一緒に遊んでいた知り合い、そしてアメリカの走り屋仲間達。それだけ居れば、もう十分だったのだ。

 

「紅夜さん?……紅夜さん!」

「うおっ!?」

 

 気づけば、せつ菜が顔を近づけてきていた。

 

「どうしました?急に黙り込んで……」

「何度呼んでも何も言わないから、彼方ちゃん心配しちゃったよ」

「大丈夫?もしかして疲れちゃった?」

「……いや、すまない。ちょっと考え事をしていてな……それで、何だって?」

 

 心配そうに声を掛けてくる彼女等にそう言って、用件を聞き直す紅夜。

 とは言え、先述のように大体の予想はついているが、念のためである。

 

「では、改めて……長門紅夜さん、スクールアイドル同好会に入っていただけませんか?」

「(……やっぱり勧誘してきたか)」

 

 予想通りの結果に内心溜め息をつく紅夜。そんな彼に、せつ菜は言葉を続ける。

 

「今回の体験で、改めて確信したんです。貴方が同好会に入ってくれれば、私達はもっと高みを目指せると。スクールアイドルが大好きだという気持ちを、情熱を、ファンの皆さんに伝えられると!」

 

 そう力説するせつ菜に、他の4人も相槌を打つ。

 

「あれだけ出来るという事は、貴方も歌やダンスが大好きな筈。一緒に、その熱い思いをファンの皆さんに伝えてみませんか!」 

 

 せつ菜はそう言って、手を差し伸べた。

 

「…………」

 

 勧誘される身としては、彼女の言葉はこの上なく嬉しいものだ。それだけ自分の技術を高く買っているという事であるのと同時に、信頼されているという事でもある。

 これが普通の人間であれば、間違いなく二つ返事で了承するだろう。だが、それはあくまでも普通の人間であればの話であり、訳ありである紅夜が相手となれば話は別だ。

 

「…………」

「紅夜さん?」

「紅夜先輩、どうしました?」

 

 差し出された手を見つめながら沈黙する紅夜に、首を傾げる同好会メンバー。

 そんな彼女等を視界に映しながら、彼はずっと考えていた。

 

 果たして自分は、彼女等と共にやっていけるのか?彼女等を信頼しても良いのか?と……

 

 もしその申し出を受ければ、家族や幼馴染み、そしてアメリカの走り屋仲間達は少なくとも否定はしないだろう。いや、寧ろ喜ぶ筈だ。

 何せ、あの一件があって以来限られた人間としか付き合いを持たなくなった紅夜に、新たな友人が出来るのだ。これを喜ばない筈が無い。

 

 それに紅夜自身も、このまま永遠に人間不信を引き摺っている訳にはいかないという事は頭では理解していた。

 それに、あれはもう7年も前の話だ。既に連中は、幼馴染み達によって自分がやられた以上の報復を受けて再起不能になっていると聞かされている上に、そもそも高校生にもなって、見た目の違いを理由にいじめをするような幼稚な者は殆んど居ないだろう。

 たとえ眼帯を外してオッドアイを見せたところで、多少驚かれはするだろうがそれだけで終わり、後は一般人と変わらず接してもらえる筈だ。

 

 しかし人間というのは不器用なもので、頭で理解しているからといって、心が納得しているとは限らない。

 紅夜の場合は正にそれだ。

 

 これまでの過去を乗り越え、新しい人間関係を作れるようにならなければならない。もうあの時のような連中に出会う可能性は殆んど無いと頭では分かっていても、差し伸べられた手を取れない。

 

「……ッ」

 

 その手を取ろうとすると、脳裏に浮かぶのは自分を裏切った連中の顔。

 友達だと思っていた彼等は、あっさりと自分を裏切った。

 

「(クソッ……)」

 

 僅かに入っていた力を失い、だらりと垂れ下がる手。

 そして紅夜は、静かに首を横に振った。

 

「……すまないが、お断りさせてもらう」

「えっ……?」

 

 その返答に唖然とするせつ菜。他の面子も、彼が断った事に驚いているようだった。

 

「ど、どうしてですか先輩!?何かかすみん達に駄目なところでも──」

「そうじゃない」

 

 自分達に至らないところがあるのかと問い質そうとするかすみに、紅夜は言葉を被せる。

 

「……俺は、本当に信用出来る仲間としかこういう事はしないって決めているんだ。悪いが、お前等と組んで活動したとして、上手くやっていけるビジョンが浮かばない」

「そんな……」

 

 言葉こそ選んでいるが、拒絶されているという事は確かだ。その事に同好会メンバーはショックを隠せない。

 

「で、でも!それは未だ私達が出会ったばかりだからです!これから一緒に活動していけば、きっと──」

「いいや、悪いが無理だ」

 

 分かり合える筈だと必死に説得しようとするせつ菜だが、紅夜は尚も首を横に振る。

 

「こういうのはチームプレーだろう?なら、信頼関係が何れだけ大事なのかは言わなくても分かる筈だ。他人が信頼出来ない人間を入れても、良い事なんて1つも無い」

「そ、それは……」

 

 せつ菜は何も言えなかった。

 勿論、自分達は紅夜に対して酷い扱いをする気は無い。同じステージに立とうが裏方に回ろうが、同じ同好会の仲間として接していくつもりだ。

 しかし、当人にそのつもりが無いとなれば、チームとしてやっていけないのも事実。

 

「……まぁ、そういう事だ」

 

 これ以上言葉が出てこなくなったのを確認すると、紅夜は話を締め括る。

 

「せっかく体験入部させてもらったのに悪いが、今回の話は無かった事にしてくれ」

「ッ!ま、待ってくださ……!」

 

 立ち去ろうとする紅夜を引き留めようとせつ菜が手を伸ばした瞬間、彼のスマホが鳴る。

 

「……誰だ?」

 

 スマホを取り出し、電話の主を確認する。

 画面には、大河の名前が表示されていた。

 

「……良いか?」

 

 せつ菜に視線を向けて訊ねる紅夜。それに彼女が頷くと、彼は電話を繋げた。

 

「……もしもし」

『紅夜か?俺、大河だけど』

「そんなの画面見りゃ分かるよ……てか、お前今日は用事があるって言ってなかったか?」

『ああ、それか?それなら終わったよ。ちょっとした居残りみたいなモンだったからな……って、俺の事は良いんだよ俺の事は』

「……?」

 

 それなら何の用で電話を寄越してきたんだと、紅夜は首を傾げる。すると、スマホからは大河の心配そうな声が聞こえてきた。

 

『お前、今何処に居るんだ?さっきから副会長さんがプリプリしながら探してたぞ。もうすぐ下校時刻なのに、お前が音楽室に荷物置きっぱなしのまま戻ってこないって』

「……あっ」

 

 そう。今でこそこうしてスクールアイドル同好会の体験に参加していたが、そもそも彼は音楽室を借りていたのだ。連れてきた張本人であるせつ菜も、会話が聞こえていたのか『ヤベッ』と言わんばかりに口元を押さえている。

 

『何だ?もしかしてお前、荷物置きっぱにしてるの忘れてそのまま帰ったとか?』

「いや、流石にそんな事しねぇよ……」

『んじゃどうしたんだ?何か急用でも出来たとか?』

「あ~、それはだな……」

 

 そう返しながら、彼は上手い言い訳を考える。

 普通にスクールアイドル同好会に勧誘されていたと答えれば話はそれで終わるのだろうが、何故かそれを言うのは憚られたのだ。

 そして、不意に思い付いた内容を口にした。

 

「じ、実は、遊んでる時に具合悪くなってな。さっきまでずっと保健室に居たんだよ」

『え、そうだったのか?』

 

 すると、大河は信じられないとでも言うような口振りで聞き返してきた。

 

「あ、ああ。何か急に気持ち悪くなってな。それで暫くベッドとお友達って訳よ」

『……成る程、ソイツは大変だったな』

 

 流石に体調不良を持ち出されて疑う訳にもいかないと思ったのか、大河はそれ以上言及しようとはしなかった。

 

『それで、今は?』

「ボチボチ戻ろうとしてるところだよ。ちょっと歩いて気分を落ち着かせてたからな」

『そっか。それは、邪魔して悪かったよ』

「いや、良いさ。お前からの連絡が無かったら、時間忘れてウロウロしてただろうし。ちょうど良かったんだよ」

 

 それから彼等は、音楽室や荷物をどうするかを話し合った。

 どうやら彼等が話している間に副会長が戻ってきたらしく、彼女も交えて話した結果、下校時刻が近づいているのもあって戸締まりは副会長が行い、紅夜の荷物は大河が回収し、校門で合流するという事で話は纏まった。

 

『じゃあ、後でな』

「ああ」

 

 一通り話した紅夜は、通話を切って同好会メンバーに向き直る。

 

「……という訳でな。悪いが、もう行かなきゃ。スクールアイドル活動、上手くいくよう祈ってるよ」

 

 そう言うと、紅夜は屋上から去っていく。

 後には、呆然とする同好会メンバーが残されていた。 

 

 

 

 それから約束通り大河と合流した紅夜は、彼と共に家路につく。

 

「……それで?実際のところどうなんだ?」

 

 暫く歩くと、不意に大河がそんな事を言い出した。

 

「どうって?」

「音楽室に居なかった理由だよ。あれ、嘘なんだろ?」

 

 第三者からすれば、仮にも体調を崩していた者を仮病扱いするのかと批判されそうな言い方だが、紅夜は小さく溜め息をついた。

 

「流石は我が幼馴染み、電話越しでも見抜いてくるか」

「そりゃそうさ。どこまで散歩してたのかは知らんが、お前走ってきたろ。その時点で具合悪かったのが嘘だって直ぐ分かったよ……で、実際は何処で何してたんだ?」

「……実はな」

 

 それから紅夜は、音楽室で遊んでいた時の事を話した。そしてスクールアイドル同好会やせつ菜の事を話すと、大河は驚いていた。

 

「マジかよ、お前あの優木せつ菜に会ったのか?しかも同好会に勧誘されたって?」

「ああ、そうだけど……そんなに凄いのか?彼奴に会った事が」

「そりゃそうさ。何せ校内校外問わず人気だし、都市伝説みたいな存在でもあるからな。曰く、『校内で姿を見た者は居ない』なんて言われてる程だし」

 

 その言葉に、紅夜は『はぁ?』と聞き返す。

 

「前者は未だ分かるけど、『校内で姿を見た者は居ない』だぁ?そりゃまた大袈裟な……」

「いやいや、それが大袈裟な話でもないらしいんだよ」

 

 そう言うと、大河はとあるエピソードを語り始めた。

 

 

 それは、彼女が有名になり始めた頃。とある新聞部員が彼女の正体を突き止めるべく学校中を回り、優木せつ菜に関する聞き込み調査を行ったらしい。

 だが、どの学年、どのクラスに聞いても、インタビューを受けた生徒は皆が口を揃えてこう言ったのだ。

 

 

――うちのクラスに優木せつ菜は居ない。

 

 

 例え彼女が自身の存在を秘密にするよう頼んでいたとしても、『人の口に戸は立てられぬ』という言葉があるように全ての人間の口を封じるのは不可能だ。

 そもそも、この学校には高等部だけでも約3000人もの生徒が居るのだから、口を滑らせる者の1人や2人居てもおかしくはない。いや、寧ろ居ない方が不自然というものだ。

 その後も諦めず何人もの生徒に聞き込みをしたものの、優木せつ菜の正体に辿り着く事は叶わず、とうとうその部員は調査を打ち切ってしまった。

 そんな経緯から、生徒達の間ではやれ『保健室登校の生徒』だの、『この学校の生徒を偽った部外者』だの、挙句の果てには『志半ばで亡くなったスクールアイドルの幽霊』だの、様々な説が飛び交っているというのだ。

 

「マジかよ……俺、そんな奴に目ぇつけられてたんだな」

 

 ただの物好きだと思っていた少女が、実はとんでもない人物だった事に衝撃を受ける紅夜。

 

「ところで、なんで奴は紅夜の事知ってたんだ?どっかで会ったのか?」

「いや。彼奴が言うには中川から聞いたんだとよ」

「中川?……ああ、生徒会長か。確かに彼奴、1度お前の演奏聞いてたしな」

 

 紅夜の答えに納得したかのように、大河は頷いた。

 

「それに優木の奴、前に俺と瑠璃が曲の打ち合わせしてるの聞いてたらしいんだよ。他の4人も引き連れて」

「成る程、それでお前に興味持ったって訳か……じゃあ、勧誘もさぞかし熱心だったんじゃないのか?」

「熱心かどうかは分からんが、少なくとも全員乗り気みたいだったよ」

「だろうな」

 

 大河は笑いながら頷いた。

 

 他の留学生が基本的に国際交流学科へ編入すると言われている中、態々音楽科に編入するだけあって、彼の音楽スキルはかなりのものだ。

 作詞作曲は勿論、ダンスの振り付けを考えるのもお手の物。しかもバンド演奏で扱う楽器も一通り扱えるのだ。それだけの人材なら、音楽系の部活動は放っておかないだろう。

 勿論、せつ菜達のようなスクールアイドルも。

 

「それで、勧誘されたってんなら返事は……って、んなモン聞くまでもねぇか」

「……………」

「未だ、怖いか?」

 

 その問いに小さく頷いた紅夜は、『すまん』と謝罪の言葉を口にした。

 

「謝んなよ紅夜。あんな事があったんだ、引き摺るのは仕方ねぇ事よ」

 

 そう言って、大河は紅夜の肩を優しく叩く。

 

「………分かってはいるんだよ。もう彼奴等は居ねぇし、そもそも7年も経ってるんだから、いい加減変わらなきゃいけないって。でも――」

「あ~、やめやめ!そういうのは無しだって前々から何度も言ってんだろ」

 

 そう言って紅夜の言葉を遮る大河。

 

「良いか紅夜、別にこの日までにトラウマ克服しろって設定してる訳じゃねぇし、そもそもトラウマってのはそうやって期限付きで治すモンでもねぇんだ。少しずつ、お前のペースで元の自分を取り戻していきゃ良いんだよ。そのためなら、俺等幾らでも手ぇ貸してやっからな!」

「ああ…………ありがとよ」

「おう!」

 

 そうして頷き合った2人は、口直しに来るゴールデンウイークの予定を話しながら帰っていく。その時の紅夜の顔は、先程よりも明るかった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「勧誘作戦、失敗しちゃったね……」

「そうだね。今日の体験が楽しくなかったって訳じゃなさそうだけど……」

 

 時間は少し遡り、大河と合流した紅夜が学校から出た頃。せつ菜達スクールアイドル同好会の面々は、部室に戻って帰り支度を進めているところだった。

 

 彼方とエマが残念そうに言う傍らでは、しずくとかすみが先程の紅夜の言葉について考えていた。

 

「『本当に信用出来る仲間としかしない』って、あれはどういう意味なんでしょう?」

「さあ?かすみんにも分かんないよ……そもそも、この同好会だって未だ始めたばかりなんだし」

 

 そう、このスクールアイドル同好会は今年発足したばかりであり、それまではせつ菜がソロで活動していた。

 かすみ達も以前からの友人だった訳ではなく、同好会に入って出会った。そのため、彼女等5人の信頼関係も未だ発展途上という事である。

 そんな中で信頼がどうのこうの言われても困るというのが、かすみの考えだった。

 

「そうだよね……」

 

 そう言って俯いてしまうしずく。

 

 勧誘を断られた事自体は未だ良いとしても、あの時の紅夜は、『お前等を信頼出来ない』と拒絶した。その事に、彼女等は大なり小なりショックを受けていたのだ。

 

 徐々に部室内の雰囲気が暗くなっていくが、そこでせつ菜が手を打ち鳴らす。

 

「皆さん、取り敢えずそのくらいにしておきましょう」

 

 4人の視線が集まると、せつ菜は口を開いた。

 

「今回は残念な結果に終わってしまいましたが、何時までも引き摺っていても仕方ありません」

「そ、それはそうですけどぉ……」

 

 分かりきった事だが、だからと言ってすんなり受け入れられるかはまた別問題。微妙な反応を見せるかすみに、せつ菜は更に続けた。

 

「それに、信頼されていないのなら、信頼されるようになれば良いんです。私達の活動も、未だ始まったばかり。なら、今後の活動次第で………」

「成る程~。彼方ちゃん達の活動が紅夜君の目に留まれば、考えを変えてくれるかもしれないって事だね~?」

「そういう事です」

 

 その言葉にせつ菜が頷くと、他の面々もそれならと立ち直る。

 

「確かに、今回が駄目だったからと言って、もうチャンスが無いという訳でもありませんからね」

「それなら、私もやれそうな気がするよ」

「仕方無いですねぇ~。なら、かすみんの可愛さで、紅夜先輩をメロメロにしてあげますよ!」

 

 2人のやり取りに、他のメンバーも続々と調子を取り戻していく。

 

「では皆さん、明日からもっと忙しくなりますが、頑張っていきましょう!」

「「「「おぉー!」」」」

 

 こうして決意を新たに、同好会は再出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、その僅か3週間後。このスクールアイドル同好会が崩壊する事になるとは、今の彼女等には知る由も無かったのだった。




 次回はGWの話で、そこで原作キャラを2人くらい出す予定です。


 さてさて、誰が出るかな……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。