ラブライブ!~アウトローと、虹とトキメキの女神達~   作:弐式水戦

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大変長らくお待たせいたしました(待ってた人が居るかは聞いちゃいけない)、最新話です。
 漸く虹ヶ咲版アウトローで書きたかった話の1つが書きあがりました。

 さて、今回のお話では、無印版で登場したオリキャラに加え、原作キャラ2人が新たに登場します。


 それが誰かは……まあ、タイトルでお察しの通りです。


第7話~アウトローとギャルと無表情~

「んん……何か重い」

 

 ある日の朝、温もりと共に圧し掛かってくる重みに紅夜は目を覚ます。

 ぼやけていた視界が少しずつはっきりしてくると、かぶっている布団が不自然に盛り上がっている事に気づいた。

 

「……まさかとは思うが」

 

 掛け布団を捲ると、そこには幸せそうに眠る綾の姿があった。

 

「やっぱり綾か……ったく、何時までも甘えん坊だな。お前は」

 

 呆れたようにそう言いながらも、妹の頭を優しく撫でてやる紅夜。

 実は、彼女がこうして潜り込んでくるのは今日が初めてではなかった。それどころか、日本に来てからはほぼ毎日潜り込んできていた。

 

 元々お兄ちゃん子だった綾だが、紅夜がいじめで人間不信になってからは暫くふれ合いが出来ずにいた。その反動からか、和解後はこれまでより更に甘えてくるようになったのだ。

 帰省中は基本的に傍を離れようとせず、幼馴染み達と出掛けた時は彼の隣を巡って瑠璃と争う事もあり、就寝時はしょっちゅう布団に潜り込んでくる。

 

 本来ならば『兄離れしろ』と言うべきなのかもしれないが、彼女がこうなった原因が自分にあるため、紅夜もあまり強くは言えないのが現状だった。

 

「やれやれ、俺も人の事言えねぇな」

 

 そう苦笑混じりに呟きながら紅夜が思い浮かべたのは、今もアメリカの何処かでいちゃついているであろうとある仲良し兄妹の姿だ。

 あの2人の仲の良さは紅夜と綾のそれを上回っており、何時も一緒に寝ているばかりか、時には風呂まで一緒というのだから驚きだ。最早兄妹と言うよりは、同棲しているバカップルと言った方が適切だろう。

 

「ホント、なんで兄妹として生まれてきたんだろうな。あの2人」

 

 紅夜は再び呟いた。

 

 その後は綾が起きたのもあり、兄妹揃ってリビングに降りる。そこには、既に豪希と深雪が居た。

 

「あら、こうちゃん。それに綾ちゃんも、お早う」

「よう、2人共。今日も相変わらず仲良いな」

 

 兄妹がリビングに入ると、2人がそう言って出迎える。

 

「お早う親父、お袋」

「おはよ~」

 

 そうして家族が揃うとテーブルに朝食が並ぶのだが、この時、一際幸せそうな表情を浮かべる者が居た。

 

「ん~、やっぱり家族皆で食べるご飯は良いものね。これが1年続くなんて……」

 

 深雪だ。朝食を口に運ぶ夫や2人の子供の様子を見ながら、彼女は幸せそうに言う。

 

「お袋、その台詞言うの何回目だよ……」

「まあまあ、良いじゃねぇか紅夜」

 

 何度も聞かされてきた台詞に紅夜がぼやくと、豪希がそう言った。

 過去のいじめがあってからというもの、彼等長門家は数年間、紅夜抜きで過ごす事を余儀なくされてきた。和解後はアメリカへの残留を許す際に交わした約束で定期的に帰省してきているものの、年2回しかない上に滞在期間は長くても2週間弱。

 そんな彼が1年間滞在するのだから、夫や我が子を溺愛している深雪が喜ぶのは無理もない事だ。

 

「それもそうだが紅夜。今日からゴールデンウィークな訳だが、どう過ごすかは決めてるのか?」

 

 話題を変えようとしたのか、不意に豪希がそんな事を訊ねた。

 そう。以前のスクールアイドル同好会との邂逅から数日が経ち、世間ではゴールデンウィークに入っていたのだ。

 一部の会社では9連休なのだが、紅夜達学生は5連休だ。

 

「特に決めてないな……綾は?」

「私も特に決めてはいないわね。でも、取り敢えず今日は友達と遊びに行く予定よ」

 

 話題を振られた綾はそう答えた。

 

「…………」

 

 連休全ての予定どころか今日何をするかも決めていない紅夜は、残りの食事を口に運びながらもどうしたものかと首を捻る。そして完食した頃になって、漸く閃いた。

 

「そうだ、彼奴に会いに行こう。ここ暫くは会いに行く余裕も無かったしな」

 

 そうと決まれば即実行とばかりに、紅夜は行動を起こした。

 電話でとある人物に連絡を入れて準備を済ませ、意気揚々と出掛けていく。 

 

「……やれやれ、相変わらずの行動の早さだな。小さい頃から何も変わってねぇ」

「まあまあ、それがあの子の良いところよ」

 

 苦笑混じりに呟く豪希に深雪が言う。

 綾もその意見に同意のようで、うんうんと相槌を打つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 自宅から歩いて約10分、紅夜は目的地に到着した。

 彼がやって来たのは、自動車の整備工場。

 といっても、ただの整備工場ではなくチューニングショップも兼ねているため、建物の大きさもかなりのものだ。

 中を覗き込むと、修理の途中と思われる2台のスポーツカーともう1台、グレーのシートを被った車が置かれている。

 

「おーい、おっちゃん!来たぜ!」

 

 まるで大好きな祖父母の家に遊びに来た孫のように無邪気な表情で中へ呼び掛ける紅夜。すると、奥から筋骨隆々とした40代くらいの男が現れた。

 

 彼の名は氷室 龍一(ひむろ りゅういち)と言い、このチューニングショップ兼整備工場のオーナーであり、紅夜達の理解者の1人だ。

 

「よぉ~、待ってたぜ長坊!」

 

 そう言って、彼は熊のように大きな手で紅夜の頭を撫で回す。出掛ける前に深雪が整えた髪が一瞬にしてぐちゃぐちゃになるが、紅夜は慣れているのか、それとも諦めているのか抵抗せず、されるがままだ。

 因みに、こうして乱雑に撫でられて髪がぐちゃぐちゃになるのを嫌って、綾を含めた女性陣が彼に撫でられるのを避けているのは余談である。

 

「おっちゃん、彼奴は?」

「ああ、ちゃんと元気にしてるぜ」

 

 そう言って豪快にシートを剥ぎ取る龍一。すると、黒いボンネットにシルバーのボディを持つスポーツカーが姿を現した。

 

 Nissan Silvia S15 Spec R、それがこの車の名前だ。

 そして、紅夜の愛車でもある。

 

 何を隠そう、彼はアメリカで活動しているストリートレースチームのリーダーであり、リアフェンダーにはチーム名である"MAD RUN"のデカールが貼られている。

 

「~~っ!暫くぶりだな、Silvia!」

 

 紅夜は感極まった様子で愛車に抱きつく。

 

「ホント、車好きだよな長坊は。態々アメリカから持ってくるだけのことはあるぜ」

 

 幸せそうな表情でボンネットに頬を擦り付ける紅夜を見ながら、龍一は笑った。

 

 実は、紅夜は今回の留学にあたって、アメリカからこの車を持ってきていたのだ。

 

 アメリカでは、日本よりも車社会の色合いが強く、州によっては16歳から免許の取得が可能で、紅夜の住む都市、ベンチュラ・ベイがあるカリフォルニア州がその1つに該当する。

 とは言え、日本で運転するには国際免許が必要なのだが、それは日本で自動車免許が取得可能となる18歳にならなければならず、未だ17歳である紅夜は取得が出来ない。そのため、国際免許取得まで龍一の工場に預け、愛車の世話を頼んでいたのだ。

 

「長坊、ソイツに構うのは良いが、あんまやり過ぎんなよ?じゃないと、向こう帰った時に拗ねた彼奴にお出迎えされる事になるぜ?」

「Rを猫みてぇに言うなよおっちゃん」

 

 紅夜はそう返した。

 そう、彼はこの歳にして車を2台所有しているのだ。

 そのもう1台の車の名は、Nissan Skyline GT-R Vspec BNR34。アメリカの有名なレース映画でも度々登場したスポーツカーだ。

 国内外問わず人気な上に頭数も減っているために希少価値が高く、日本の中古車サイトでも安くて1000万円、高いと2000万や3000万もの金が動くプレミアマシンでもある。

 

「悪い悪い。でも本当の事だろ?」

「……まあ、否定はしねぇけどな」

 

 2人がそんな話をしていると、今度はパールホワイトのボディや所々の赤いライン、フロントグリルのエンブレムが特徴のスポーツカー、Nissan GT-R Nismoが敷地内に入ってくる。

 

「あれは……おっちゃんが呼んだのか?」

「ああ、俺は俺で見なきゃいけねぇモンがあるからな」

 

 そう言って、龍一は残りの2台、Mitsubishi Lancer Evolution ⅨとToyota Supra SZ-Rを指さした。

 この2台は、達哉と大河の車になる事が決まっており、今はそのためのレストア中だ。

 

「大分出来てきてるよな……完成までもうすぐってとこか?」

「ああ、実は昨日も泊まり込みでやっててな。今はそこで寝てるよ」

 

 そう言うと、龍一は敷地の隅にあるプレハブを指差した。

 

「今年の夏休み明けには終わる予定だから、楽しみにしてろよ!」

 

 そうしている間にGT-RがSilviaの隣で動きを止め、運転席から若い青年が降りてきた。

 風宮 翔(かざみや しょう)。紅夜達が未だ幼かった頃によく一緒に遊んでおり、彼等の事情を知る昔馴染みの1人だ。

 

「おいす~、坊ちゃん。元気してた?」

「よっす、翔兄!何とか元気にやってるよ」

 

 そう言ってハイタッチを交わす2人。

 

「よう、待ってたぜ翔!今日は34じゃなくて35で来たんだな」

 

 すると、翔は『またか……』と溜め息混じりに呟き、龍一へと視線を向ける。

 

「あのなぁ氷室のダンナ、俺のRは34じゃなくて324だって何時も言ってんだろ~?」

「おっと、そうだったな!忘れてたぜ!」

「いや絶対ワザとだろ。てかこのやり取りも何回目だっつーの」

 

 そんな彼等のやり取りを笑いながら見る紅夜。

 因みに、324とは紅夜のR34の2つ前のモデルであるR32にR34のフロントバンパーを装着した、通称R324の事で、前からパッと見ただけでは中々見分けられない事から、よくこのネタで弄られていた。

 

「……まあ、今は良い。それよりやらなきゃいけない事があるしな」

 

 そう言って、翔は手を差し出す。

 

「おいダンナ、鍵貸してくれ。坊っちゃんのお出掛けついでに運動させるんだからさ」

「あいよ!」

 

 龍一は、予めポケットに入れていたSilviaの鍵を取り出して翔に手渡す。鍵を受け散った翔は即座にSilviaのロックを解除し、紅夜に向き直った。

 

「じゃあ坊ちゃん、早速行くか」

「おう、頼んだぜ翔兄!」

 

 そうして2人は車に乗り込むとドライブに繰り出していく。

 

「……さて、じゃあ彼奴等叩き起こしてくるとしますかね」

 

 大型のGTウィングにトランク中央部のデカールが特徴的なSilviaの後ろ姿が見えなくなるまで見送ると、龍一は今もプレハブの中で寝ているであろう未来のオーナー達を起こしに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 紅夜と翔がドライブを始めた頃、とあるマンションから1人の少女が出てきた。

 癖のあるピンクの髪に小柄な体、そして感情の動きを殆んど感じさせない、正に能面と言っても過言ではない顔。顔つきは可愛らしく、その姿から黙って立っていれば人形のようにも見える。

 

 彼女の名は天王寺 璃奈といい、この年に虹ヶ咲学園高等部の情報処理学科に入った、中等部からの内部進学生だ。

 この日はとある人物との待ち合わせのため、ジョイポリスへ向かう事になっているのだ。

 

「(……まさか、こんな事になるなんて)」

 

 璃心の内でそう呟いた璃奈はふと足を止め、近くに会ったコンビニの窓の一部を曇らせて笑った口を描いた。そして窓に映る自分の姿と見比べ、小さく溜め息をついた。

 

 彼女にとって、この能面のような顔はコンプレックスだった。

 昔から感情を表に出したり気持ちを言葉にするのが苦手であったために周囲に馴染めず、今まで友達と呼べる存在は居なかった。

 高等部に進学してからもそれは変わっておらず、決していじめられたり避けられている訳ではないものの、未だクラスメイトとは殆んど会話していない。

 とは言え、別に友人は要らないと考えている訳ではなく寧ろ友人を欲しており、何時も、やれ『一緒に帰ろう』、『寄り道していこう』等と楽しそうに過ごすクラスメイト達を羨ましそうに眺める日々だった。

 何度か、その中に交ざろうとした事はある。しかし、その感情の起伏に乏しい顔や声、そしてシャイな性格が邪魔をする。

 

 

──友達になりたい。

──自分も仲間に入れてほしい。

 

 

 そんな原稿用紙1行分にも満たない簡単な言葉が、後一歩のところで出てこない。

 そうしている内に世間はゴールデンウイークへと突入し、このままで大丈夫なのかと考えていた。

 

 そんなある日、彼女に声を掛けてくる物好きが現れた。それが、今回の待ち合わせ相手だ。

 

「おーい、りなりー!お待たせ~!」

 

 あれから暫く移動し、待ち合わせ場所に到着して数分が経ったところで、少女の明るい声が聞こえてくる。その声の主はポニーテールの金髪を揺らし、大きく手を振りながら駆け寄ってくる。

 

 宮下 愛、璃奈と同じ情報処理学科に所属する2年生だ。

 所謂ギャルのような見た目だが性格は活発で人懐っこく、初対面の人間が相手でも構わず話し掛けにいくために学内では学年や学科を問わず友人が多い。

 そして彼女こそ、今こうして璃奈が出掛けるきっかけを作った人物である。

 

「いやぁ~、ゴメンね。何か今日やたら赤信号に引っ掛かっちゃってさ」

「……ううん、大丈夫。私も今来たところだから」

 

 璃奈はそう言って、ポケットからクーポン券を取り出して1枚を手渡す。

 

「サンキュー、りなりー」

 

 上機嫌で受け取った愛は目の前に立つ建物を見据えた。

 

「さぁ~て、今度こそあのゲームをクリアするよ!」

「……うん!」

 

 そうして2人は、意気揚々と入っていく。

 その先で更なる出会いが待っている事を、彼女等は未だ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 璃奈と愛がジョイポリスを楽しみ始めた頃、紅夜と翔を乗せたSilviaはお台場を流していた。

 

「ふぅ~、お台場到着!」

 

 赤信号で停車すると、運転手の翔が大きく体を伸ばした。

 

「翔兄も、大分コイツの扱いに慣れてきたんじゃないか?上手くなってきたじゃねぇか」

「だと良いがなぁ……」

 

 翔は後頭部で手を組んだ。

 

 実は、紅夜や彼の走り屋仲間の車には、足回りやハンドリング等が各々専用に調整されており、各々のオーナー以外の人間には非常に扱いにくいピーキーマシンでもあるのだ。

 

「初めて乗った時なんて、まるで教習所習い始めた時みたいだったしな。あれが一般道だったらマジ終わってたぜ」

 

 当時、何度もエンストさせたり飛び出しそうになった事を思い出したのかゲッソリしたように呟く翔に、紅夜は苦笑を浮かべた。

 

「まぁ、俺もよく言われてたからな。『どうやってこんなの手懐けたんだ』ってさ」

「そりゃそうだよ。お前のマシン、お前じゃなきゃ殆んど真っ直ぐさえ走らねぇんだからさ。こないだ俺1人で乗った時なんて怖くて工場の周り1周して終わったからな」

「あはは……まあ、俺が国際免許取るまでのオイルとかの劣化防止のために乗ってもらうだけだし、そこまで遠出しろとかサーキットで飛ばしてこいなんて無茶は言わないよ」

 

 その後も世間話をしながらお台場を走り回る一行だったが、段々退屈さを感じるようになっていった。

 幾ら車を走らせるのが好きとは言え、せっかく観光名所の1つであるお台場へやって来たのだ。

 何処かで遊んで行っても罰は当たらないだろう。

 

「なぁ、坊ちゃん。ちょっと寄り道していかねぇか?」

 

 そう言ってある施設を指さす翔。そこは、偶然にも璃奈と愛が入っていったジョイポリスだった。

 

「あそこのゲーセンエリアがリニューアルしたらしくてさ。おまけに……」

 

 すると、翔は車内に2人きりにもかかわらず紅夜に耳打ちした。

 

「あるんだってよ、DHR」

「……何ですと?」

 

 紅夜の目が変わった。

 

 DHRとは、アーケードレースゲーム『DEAD HEAT RUN』の略称だ。

 日本やアメリカ、ヨーロッパの国々に実在する車を駆り、世界各国のレース場や高速道路、峠や都市でのストリートレースが楽しめるのだ。

 実写さながらのグラフィックやハンドリングもさることながら、ギアチェンジをドライバー自身が行うMTモードでは、普通のゲームセンターに置かれているようなゲームなら有り得ないクラッチ操作までついてくるため、一部のファンから絶大な人気を集めていたのだ。

 しかもこのゲームは全世界のゲームセンターに存在し、データカードも各国で買い直す必要が無いというのだから驚きだ。

 

「日本に来てからというもの、ずっと運転どころかハンドルすら握ってなかったんだ。フラストレーション溜まってんだろぉ?なら、ちょっとここらで発散させていこうぜ」

「……ああ、そうだな」

 

 不敵な笑みと共に紅夜が頷くと、翔は近くの駐車場に車を停め、暫くぶりの地面を踏みしめる。

 

「それじゃあ、行くぞ。坊ちゃん!」

「おう!」

 

 こうして2人はジョイポリスへと向かっていく。

 

 中へ足を踏み入れると、既に人でごった返していた。

 

「うわぁ、人だらけだ……」

「仕方ねぇよ。何せ今日から5連休なんだ、暫くこんなのが続くぜ?」

「だよな……まあ、俺は俺のやりたい事さえ出来ればどうでも良いんだが」

 

 その後、2人せっかく来たのだからと適当なアトラクションに参加し、とうとうお目当てのゲームへとやって来た。

 それなりに人気なだけあって筐体の数も多く、8台の筐体が4台ずつ、向かい合うように設置されていた。

 

「さてと坊ちゃん、やり合おうか。あれからこのゲームはやり込んでんだ。簡単には負けねぇぜ?」

「ああ、上等だ。MAD RUNリーダーの意地を見せてやる」

 

 幸運にも、ゲーム機には2人分の空きがある。紅夜達はすかさず空いた筐体のシートに腰を下ろすと、コインを投入してデータカードを翳し、機械を操作していく。

 そして店内対戦モードを選択し、各々が使用するマシンを選び、次に希望するコースや時間帯等の条件を選択する。

 そして、どちらの選んだ組み合わせでレースを行うか機械が選別を始めた瞬間、突然画面がフリーズしたかと思いきや火花の演出と共に『挑戦者現る!』という文字がデカデカと表示される。

 

「あれ?俺と翔兄だけの筈じゃ……?」

「その筈だけど……あっ!」

 

 すると、翔は何かを思い出したかのように声を上げた。

 

「悪い坊っちゃん、オープンのままだったわ」

 

 このゲームでは、プレイヤーが応募を締め切らなかった場合、レースが始まっても一定時間は他のプレイヤーが乱入する事が出来るようになっており、翔はその設定を切り忘れていたのだ。

 

「何やってんだ翔兄……」

 

 苦笑混じりに言う紅夜だが、直ぐに気持ちを切り替える。

 見たところ、恐らく乱入者は向かいの筐体を使っている。ならば、兎に角今回のレースは乱入者を無視し、あくまでも自分と翔の間で勝負を行い、終われば即退散すれば良いのだ。

 

 そうしている間に、画面には各プレイヤーの名前と使用する車種が表示される。

 

 紅夜こと『ZEPHYR2』の使用車種はR34、翔こと『SH4W』はR324だ。

 

「何だ坊ちゃん、Silviaじゃねぇのな」

「まあな。Rは向こうに置いてきちまったから、せめてこういう時くらいは使ってやらねぇと」

 

 そう言って、紅夜は画面に視線を向けた。

 

「さてさて、気になるお相手は誰かな?」

 

 そして、表示された残りの2人の名前と車種は次のようになった。

 

 

 『I☆SUN』

 Mazda RX-7 Spirit R

 

 『りな♥️LEE』

 Mazda MX-5

 

 

「ほぉ~う、FDにRoadsterか……見事にNissanとMazdaに揃っちまったな。余程Mazdaが好きなのか、ただの偶然か」

 

 その後、各々が改めて希望するコースを選択しルーレットで今回のレース会場が決まる。

 今回は決められたルートを走って1位を決めるスプリントレースで、繁華街から峠の頂上までがゴールのようだ。

 

「(何か、バーンウッドからクレセント山脈までみたいなルートだな)」

 

 そうしている間にも画面は切り替わり、各車がスタート位置についた。

 

「おっ、向こうさんのFDってG-FACEのエアロ付けてんのか。中々見る目あるな」

「俺はOrigin派だがな」

 

 画面に映るRX-7はオレンジのボディに紫や赤のラインが入り、所々に星のデカールが貼られた明るい雰囲気を感じさせるカスタマイズが施されており、対するRoadsterはピンク一色に加えて外観もそこまで派手ではなく、元々車体が小柄なのも相まって可愛らしい印象を与えるものだった。

 とはいえ、2人は手加減するつもりは無い。これだけのカスタマイズが施されているのだ、少なくとも今日始めたばかりの一見さんではないだろう。

 それに、そもそも今回は紅夜と翔の1VS1で対戦する予定だったのだ。新たな挑戦者さんには悪いが、タイミングが悪かったと納得してもらうしかないだろう。

 

 

「さあ、坊ちゃん、始まるぞ」

 

 画面にカウントダウンが表示されると、紅夜も翔もギアを1速に入れる。

 

「りなりー、お互い頑張ろうね!」

「うん……!」

 

 ちょうど反対側では、愛や璃奈もやる気を滾らせている。そしてカウントがゼロになると……

 

「「しゃあ行けぇぇぇ!!」」

「レッツゴー!」

「……っ!」

 

 4人のマシンがロケットの如く飛び出し、レースが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、レースは紅夜の勝利に終わった。スタートするや否や、2人は後ろのMazda2台を置き去りにしてのデッドヒートを繰り広げたのだ。

 ゲーム、実車共に重量級マシンな上、組み込まれたシステムの影響でドリフトが難しいとされているGT-Rで豪快にドリフトする姿や、そもそもレースゲームであるにもかかわらず実車で行っているかのようなシフトチェンジやハンドル捌きに見物人がワラワラとやって来て、レースが終わると拍手まで巻き起こっていた程だ。

 

「いやぁ~。まさかあんな事になるなんてな!」

 

 あの後、やれ『テクニックを教えてくれ』だの『自分とも対戦してくれ』だのと押し寄せてくるゲーマー連中の中からどうにか脱出した2人は、ラウンジコーナーに避難していた。

 

「ああ、高々ゲームであんなにも詰め寄られるなんてな」

 

 そう言いかけた紅夜は、ジト目を翔に向ける。

 

「しかも翔兄、俺がアメリカで走り屋やってる事までバラしやがって……お陰で余計注目されちまったじゃねぇか」

「悪い悪い。コイツはこんなにもスゲーんだぜって自慢したくなっちまってな」

「そんなに自慢してぇなら自分の35とか324の自慢しとけよ。ったく……」

 

 そう言って、翔に買わせたジュースを飲み干して容器をゴミ箱目掛けて蹴飛ばす紅夜。

 クルクルと回転した容器は、奇麗な放物線を描いてゴミ箱に吸い込まれていった。

 

「さて坊ちゃん、これからどうする?どっかで飯食って、また走り回るか?」

 

 不意に、翔が壁に掛けられた時計を見てそう言った。

 時刻は11時、そろそろ昼食の事を考えても良い時間帯だ。

 

「そうだな、良い時間だしそれで」

 

 紅夜が納得して立ち上がろうとした、その時だった。

 

「あーっ、やっと見つけた!」

 

 振り向くと、そこには愛と璃奈が居た。

 

「……何だ彼奴等?」

「多分、さっきゲームで対戦した奴等じゃねぇのか?態々探しに来るとはご苦労なこった」

 

 そうしている間に、2人は此方へ近づいてくる。

 

「ねぇねぇ、お兄さん達だよね?さっきアタシ達と対戦してたのって!」

「……………」

「ああ、そうだが?」

 

 翔の予想通り、2人は自分達に用があるようだ。

 そして、近くの席に腰を下ろす。

 

「いやぁ~、あのゲーム前から結構やり込んでたのに、あんなあっさり追い抜かれてそのままゴールされるなんて思ってなかったからさ、ちょっとお話してみたいなって思ってたんだ。ねっ、りなりー?」

 

 その問いにこくんと頷く璃奈。

 

「本当に、凄かった……です」

「……………」

「そっかそっか。ソイツは光栄だな」

 

 翔はそう言って笑った。

 

「でもよお嬢さん、俺もそうだがコイツのテクも中々のモンだったろ?」

「確かに、最初しか見えなかったけど凄い動きしてたよね。君の車!」

「……このゲーム、結構やってるの?」

 

 璃奈がそう訊ねる。

 

「……まあ、一応な」

「何なら、実車も乗り回してるぜ?それもあん時使ってたのと同じヤツ」

 

 翔のカミングアウトに驚く2人。

 

「ちょっ、翔兄……」

「へぇーっ、君車持ってるんだ!しかもさっきのと同じって事はスポーツカーだよね?」

「……ああ。ついでに言うと2台ある」

「その歳で2台持ち!?ヤバッ!」

 

 どうせ知られたからと自分が2台持っている事も話すと、愛は驚く。隣に座る璃奈も目を丸くしており、『お金持ち……』と小さく呟いていた。

 

「………ところで、そろそろお嬢さん達が何者なのか聞かせちゃくれないかな?」

 

 すると、愛は『それもそうだね!』と返事を返し、名乗った。

 

「アタシは虹ヶ咲学園高等部情報処理学科2年、宮下愛だよっ」

「1年の天王寺璃奈、です……」

 

 先に自己紹介をした愛に璃奈も続く。

 

「虹ヶ咲?へぇ~。じゃあ坊ちゃんの後輩って事か」

「「坊ちゃん?」」

 

 揃って首を傾げる愛と璃奈。

 

「ああ、坊ちゃんってのはコイツの事で………」

 

 すると、紅夜は溜め息をつきながら翔の肩を小突いて遮る。

 

「翔兄、あんま俺等の事は」

「別に良いじゃねぇか、今更だし。それに、向こうに名乗ってもらって此方が名乗らないってのは、フェアじゃねぇだろ?」

「それはそうだけど………」

 

 渋る紅夜だったが、翔に促されると再び溜め息をつき、名乗った

 

「………音楽科3年の長門紅夜だ」

「紅夜?珍しい名前だね。愛さん虹ヶ咲には上級生の友達も居るけど、その名前は聞いた事無いな」

「まぁ、留学してきたからな。アメリカから」

「へぇ~、アメリカから?凄いね!じゃあ英語もペラペラな訳?」

「一応な」

 

 アメリカからの留学生が日本人だった、という中々珍しい状況にテンションが上がる愛。

 それから暫く話している内に時間は流れ、もう1時を回ってしまっていた。

 

「翔兄、そろそろ行こうぜ。もう12時どころか1時だ」

「おっと、もうそんな時間か……それじゃあ行くか」

「えぇ~、もう行っちゃうの?」

 

 2人が立ち上がると、愛がつまらなさそうに言う。

 その不満げな顔には『もっと遊ぼうよ』と書かれており、隣にちょこんと座っている璃奈も、何処となく寂しそうに見えた。

 

「まあ、此処に寄ったのもついでみたいなモンだしな……」

 

 そう言いかけたところである事を閃いた翔は、紅夜に言った

 

「坊ちゃん、せっかくだしそのままその子等と遊んできたらどうだ」

「はぁ!?マジで言ってんのかよ翔兄!?」

 

 人間不信が完治していない人間を今日知り合ったばかりの女2人組とつるませるという常軌を逸した行動に、紅夜は思わず声を上げる。

 

「てか、彼奴は?Silviaはどうすんだよ!?おまけに帰りは!?」

「ちゃんと世話しとくし、帰る時は呼んでくれたら直ぐ行くって」

 

 そう言うと、翔は彼の耳に顔を近づける。

 

「それに良い機会だ、何時もと違う面子と遊ぶってのを体験してみろよ。どうせ学校でもお嬢達としかつるんでねぇんだろ?」

 

 そう言われると、紅夜は何も言えなくなる。

 翔は『やっぱりな』と溜め息混じりに呟き、立ち上がった。

 

「まあ、そんな訳でだ。たまには普段つるまねぇような奴と遊んでみろ。少しは見える世界が変わる筈さ」

 

そう言うと、今度は愛達に声を掛ける。

 

「……と言う訳でお嬢さん方、ちょっとの間、コイツの遊び相手になってやってくんねぇかな?」

 

 『どういう訳だ』と内心ツッコミを入れた紅夜は、チラリと2人を見る。

 何かのツアーやレクリエーションではないのだから、今時珍しい、初対面の相手にここまでフレンドリーに話し掛けてくるような彼女等でも、得体の知れない人間と行動を共にするのは嫌だろう。

 そう思っていた紅夜だったが………

 

「うん、良いよ!せっかく知り合えたんだし!」

 

 あろうことか、愛は二つ返事で了承したではないか。しかも、隣で話を聞いていた璃奈もこくんと頷いている。

 

「ちょっ、おい宮下。お前正気か!?完全な赤の他人だぞ!?後天王寺、お前も良いのか!?」

 

 動揺を隠さず言う紅夜だが、2人は寧ろ、何故そんな反応をするのかとばかりに首を傾げている。

 

「愛さんは良いよ?てか、せっかく知り合えたんだし時間も未だあるんだから、もっと遊ぼうよ!」

「……私も、もっと遊びたい」

「……………」

 

 紅夜は言葉を失った。

 

「(コイツ等、まるでレナみたいだな……)」

 

 紅夜が思い浮かべたのは、自分がアメリカに移って初めて友と認めた人物にして居候先の一人娘である褐色肌の少女、アレクサンドラ・デッカードの姿だった。

 

「それにさぁ」

 

 不意に、愛が続ける。

 

「偶然とは言え一緒にゲームやったし、お互いに名前も教え合ったんだから、もう友達っしょ?そんな気後れしなくても良いって!」

 

 『ホラ、行こう!』と手を差し伸べる愛。

 

「……………」

 

 ふと翔に目を向けると、彼も頷く。

 

「……本当に、まるでレナの再来だな」

「それか、昔の坊ちゃんの再来だな」

 

 そう言い合うと、紅夜は観念したかのように溜め息をつき、その手を取った。

 

 

 

 

 その後、一旦翔と別れた3人は、昼食を摂ってお台場観光を開始した。

 その際中、愛は何処に膨大な話題を蓄えていたのかと思う程に終始喋りっぱなしであり、更に紅夜は、アメリカでの暮らしも根掘り葉掘り聞かれていた。

 

 勿論、『学生生活の傍らストリートレースやってました』なんて馬鹿正直に答える訳にもいかず、一先ず仲間とバンドやダンスをやっていた事だけを伝え、車についても『知り合いの解体場に転がっていたのを譲ってもらった』と言って誤魔化した。

 とは言え、所有している車が車であるために少々無理のある理由なのだが、彼女等がそこまで車に詳しくない事が幸いし、深入りされる事は無かった。

 

 

 

 そんなこんなで過ごしている内に、すっかり夕方になってしまった。

 

「あ~あ、もうこんな時間か。もっと遊びたかったなぁ」

 

 頭の後ろで両手を組み、つまらなさそうに言う愛。

 だが紅夜からすれば赤の他人とのお台場ツアーというある種の拷問から解放された事に安堵していた。

 

「(どうせなら、瑠璃達誘えば良かったかな……)」

 

 紅に染まる空を見ながら、紅夜は心の内で呟いた。

 

 そうしている内に、一行は愛の実家である飲食店『もんじゃ みやした』に着いた。璃奈はこのまま泊っていくらしく、ここで解散となる。

 

「せっかくだしご飯食べていけば良いのに~」

「……それは、また別の機会にな」

 

 ただでさえ他人と昼食を共にした上に数時間もお台場観光をする羽目になって精神的に疲れているというのに、その相手の実家で夕食を食べるなど追い打ちもいいところ。

 紅夜は一先ず、そう言って断った。

 

「では、俺はそろそろお暇させてもらうよ。じゃあな」

 

 そう言って立ち去ろうとする紅夜だったが、愛の『待った』の一言で引き留められる。

 

「どうした?」

「せっかくだし、連絡先交換しようよ。またこうやって遊ぼ!」

「………は?」

 

 紅夜にとって、それは信じられない誘いだった。

 

「(コイツ警戒心ってモンが無いのか?同じ学校とは言えクラスも学年も違う、しかも初対面の男の連絡先なんて普通聞いてこねぇだろ)」

「あ、私もしたい」

「(天王寺、お前もか……無表情の割に積極的だな。お台場歩き回ってた時も、コイツもそこそこ話し掛けてきたし)」

 

 そんな2人に呆れとも尊敬とも言える感情を抱く紅夜。

 このままだと埒が明かないため、渋々応じる事にした。

 

「よっしゃ、これからじゃんじゃんメッセするから!このゴールデンウイーク中は、寝かせないぞ?」

「私も、もっと話したい」

「………勘弁してくれ」

 

 紅夜はガックリと肩を落とした。

 

 

 

 

 その後、2人と別れた紅夜は翔に連絡を入れて合流し、帰宅する。

 そして今日の出来事を報告すると、深雪や豪希は驚きながらも、彼に新しい友達が出来たと喜んでいた。

 彼としてはそんなつもりは無いのだが、喜んでいる2人を見ると言おうにも言えなくなり、逃げるように自室へ戻る。

 

 そしてベッドに身を投げ出し、天井を見上げた。

 

 

「新しい友達、か………そんなの、もう要らないんだがな」

 

 そっと目を瞑った紅夜は、外に漏れないようにそう呟いた。

 

 

 

 

 そんな彼には、今後も彼女等と関わっていく事になるなど知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、その日の夜。

 愛や璃奈から届くメッセージの嵐に耐えかねた紅夜が通知をオフにして眠ると、翌朝数百にもなるメッセージが届いていた事にドン引きしたという。




 オリキャラと原作キャラをいっぺんに出したらスゲー長くなった。多分文字数だと過去最多かも……


 まあ、それはそれとして、次は誰を出そうかな……
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