現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢が牧場を救うのはちょっと大変   作:れべっか

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第13話 竈馬を買おう

2004年6月5日、ユニコーンステークスの開催される東京競馬場の馬主席で樺太競馬の現状を岡崎に聞いて初めて知ってから、自分でも少し調べてみた。

 

樺太競馬場が設置されるのは豊原(ユジノ・サハリンスク)の郊外で、大井競馬場を模したダート(砂)コースで収容人数は約6万人とのこと。

ただし大井競馬場と違う点も多々あり、大井が右回り1周1600mフルゲート16頭であるのに対し、樺太は左周り1周1800mフルゲート18頭とちょい広い。これは海外の主要競馬場が左回りであることと、どうせ郊外に作るのだから最初から広く作っておこうという考えらしい。

さすがに豊原市内の交通の便の良いところには競馬場を設置できないので、シャトルバスまたは自家用車が移動の基本となり、駐車場は5000~1万台規模*1

また競馬場に併設する厩舎も、兵庫県の園田競馬場と西脇馬事公苑の馬房数を合算したくらいだとか*2。もっとも樺太競馬のオープン当初はそれより小さく、樺太競馬が繁栄したら競馬組合の事務所などを移転させて拡張する想定。

また競馬場施設ではないが、樺太に検疫センターを新設し、海外から馬の輸送で直接樺太に乗り込めるようにする。

個人的にはイギリス・アスコット競馬場などのように高低差が20mあるようなタフなコースが見たかったが、なるべく他所から馬を呼びやすくするという大人の事情により、高低差は2m程度に抑えられたらしい*3

 

そんなこんなで樺太競馬場は既に工事に入っているのだが、ハードウェアと並行してソフトウェアも準備する必要がある。つまり競走馬を多数用意して、調教師に委託することで彼らの食い扶持を確保する。そうしないと調教師や厩務員といった人材が樺太に来てくれない。

桂華競走馬は法人馬主として立ち上げて馬の生産には関与しない方針*4だったが、樺太競馬にがっちり食い込む際に方針転換して牧場も保持するようになった*5ので、ここらでもう一つ、桂華の本気とやらを競馬界に見せつけてやろうかと思うのだ。

 

「ねぇ、北海道の保有牧場か、樺太に新設する牧場かどっちかで良いんだけど。馬産には竈馬が必要だと思わない?」

 

竈馬。昆虫ではなく、競馬用語である。

高値で売れる仔馬を生む繁殖牝馬は、生産牧場の台所を支える基盤としてカマドに例えられる。

 

「竈馬が欲しいという理屈は分かりますが、そう切り出すということは何か腹案でもあります?」

「マイフラッグ(My Flag)産駒の牝馬*6とか、思い切って買えないかなーって」

 

岡崎と藤堂が『また変なこと言い出したぞ、こいつ』と言いたげな顔を向ける。

 

「アメリカや欧州に強いコネを持つ、茶代ファーム*7でも買えないと思います」

「じゃあ、アーバンシー(Urban Sea)系統の牝馬とか……」

「欧州最強馬ガリレオ(Galileo)の半姉半妹の血筋ですか。10年単位で交渉すれば、有り得なくはないでしょう」

 

競馬ゲームと違ってそう簡単に買えないですよ、と諭されてがっくり肩を落とす私。

 

「レースで結果を出したが繁殖牝馬としては失敗と評された、そんな馬ならまだ買いやすいのでは? 先ほど名を出した茶代がウインドインハーヘア(Wind in Her Hair)という繁殖成績で見切りをつけられた牝馬を買ったのですが*8、日本で生まれた子が重賞勝ちという前例もあります*9。」

「そうか、その手があるのか。ちなみに、ぱっと思いつく馬はある?」

「繁殖牝馬として結果を出せなかったのは、シルヴァービュレットデイ(Silverbulletday)、ユーザーフレンドリー(User Friendly)、ジュエルプリンセス(Jewel Princess)、インサイドインフォメーション(Inside Information)、ハリウッドワイルドキャット(Hollywood Wildcat)とかですね。ああ、ドイツのダービーを制した牝馬ボルジア(Borgia)なんてのもいました」

「ほほぅ、ドイツ。面白そうじゃない」

「あー、そこらの名前を公の場で口にする前に桂華競走馬の担当者と話をしておいてくださいね。ところで海外の馬ばかり名を出しましたが、竈馬は日本の馬でも良いのでは?」

「いやー、インパクト重視で……」

 

ああっ、岡崎と藤堂の視線が冷たいっ!

*1
佐賀競馬場の無料駐車場は4000台規模

*2
平成16年(2004)の園田競馬の在厩頭数は1090頭

*3
地方競馬では盛岡競馬場が高低差5m、中央競馬では中山競馬場が5.3m

*4
「月刊帝国競馬ニュース 2004年 5月号より」

*5
天満橋流公私混同術 浪漫風味

*6
マイフラッグはアメリカの競走馬で、母パーソナルエンスン(Personal Ensign)も娘のストームフラッグフライング(Storm Flag Flying)も一流の超良血牝馬。はっきり言って競馬にわかの桂華が買える馬ではない。

*7
史実では社台ファーム

*8
史実では社台グループのノーザンファームが購入した

*9
ブラックタイドが2004/3/21にスプリングS(G2)を勝利。作中では2004/6なのでディープインパクトはまだ活躍前




修正履歴:タイトルに話数を追加。マイフラッグの説明を注釈に移動。修正修正履歴:園田競馬の在厩頭数を注釈に記載。

在厩頭数の参考資料:
地方競馬全国協会 第三期競馬活性化計画 中間検証報告書
https://www.keiba.go.jp/pdf/association/activation/07.pdf
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