現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢が牧場を救うのはちょっと大変   作:れべっか

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英国エリザベス二世女王陛下の訃報に接し、心から哀悼の意を表します。


第19話 女王陛下の馬の血統

「"小さな"女王様、まいど!」

 

黒井調教師から電話が来たので通話したら、初っ端からご挨拶である。

 

「なに、その呼び名?」

「いやぁ、今、界隈でお嬢をそう呼ぶのが流行ってるみたいで。帝西百貨店のキャッチコピーにもなってたフレーズやけど、競馬界には"本物の"女王様がいるんでそれの比喩ってことですな」

「え、もしかして、英国の女王陛下になぞらえられてるの?! それはむしろ光栄ね」

 

英国のエリザベス女王は、大の競馬好きとして知られており、馬に関するエピソードには事欠かない。

5歳の時からポニーに乗り始め、喜寿を過ぎて*1なお乗馬を楽しむスーパーお婆ちゃん。即位前から馬主を続けている*2が、50年以上もダービーを勝てていない*3、チャーチルの名言「ダービー馬のオーナーになることは一国の宰相になることより難しい」を体現している御方。

「王位継承権がなければ馬産関係の仕事に就きたかった」と言い放ったらしいという噂について「真偽はともかく、あの方ならその発言は充分ありうる」と周囲から納得されたとも。

 

「いやでも、"本物の"女王陛下と比べたら私なんか格落ちもいいとこよ。馬主と生産の兼任(オーナーブリーダー)はともかく、G1レース(ロイヤルアスコット)の主催*4なんて私にはとてもとても」

「樺太競馬を立ち上げて、三歳ダートのJpn1中央地方交流レースを新設。それを桂華が主催*5って聞いてますけど? 何すっとぼけてるんすか、"女王様"?」

「あああああ、そう言われると納得しちゃうんだけど、止めて、"女王様"って呼び名はホントに止めて! 最低でも"樺太の女王"ってのだけは勘弁してちょうだい」

「本気で嫌がってるのは声音で分かりまずが、何でそんなに嫌がるんで?」

「……北樺太の所属問題絡みで私が政治的に担ぎ出されると、最悪で世界大戦の引き金になるから*6

「……あっ、はい」

 

黒井調教師もその辺の世界情勢知識は持っていたようで、あっさり引き下がってくれた。

 

「えー、それでですね。女王様というのは単なる前振りで。英国女王陛下の所持馬の血統というのが今日の話題の本命でして」

「エリザベス女王の所持馬って、確かオリオール (Aureole) とか?」

「良く勉強してますな、オリオールは1960-1961年の英国リーディングサイアーで世界中にその血筋は広がりましたが、近年は古臭い血統として消えつつあります。お嬢が掲げる血統保護にちょうど良いかと思いましてな。"本物の女王陛下"にお会いしたとき話題にできますぞ?」

「その話、詳しく聞かせて」

 

オリオールの血統で日本に輸入された種牡馬は、大雑把に言えばセントクレスピン(Saint Crespin)系とゲイメセン(Gay Mecene)系が最後まで生き残った。

セントクレスピンはタイテエム(1973年天皇賞春)からシンチェスト(1987年京都記念)と繋がったが、最後のシンチェスト産駒が今年引退して乗馬用に転換となり父系が途切れる*7

ゲイメセンはメジロパーマーの母父として母系には残りそうだが、父系は後継牡馬が種牡馬入り*8したものの、レース成績がいまいちなので繁殖牝馬を集められそうにない。

どちらの系統も、今のタイミングで桂華が手を差し伸べれば父系が繋がり、そうでないなら父系は消滅する。

 

「実は、女王の持ち馬としてはハイクレア(Highclere)が本命なんやけど。ハイクレアの牝系の孫にウインドインハーヘア(Wind in Her Hair)という繁殖牝馬()がいましてな」

「茶代グループ*9が輸入したって聞いたこと*10あるわ」

 

ウインドインハーヘアはアイルランドで繁殖牝馬として活動していたが、2000年に日本へ輸入された。輸入前に生まれた牝馬2頭*11も、茶代が繁殖牝馬として2003-2004年ころに購入している。つまり茶代はウインドインハーヘア産駒が成功すると見込んでいる。

ブラックタイドが重賞勝ち*12しただけでなく、ブラックタイドの全弟ディープインパクトは栗東トレセンの他厩舎に入ったばかり*13だが、早くも兄を越える逸材と評判らしい。

 

「つまりディープインパクトが結果を出す前に、桂華(うち)でもウインドインハーヘアの牝系を押さえろ、と」

「無理にとは言いまへん。目ぼしいところは茶代が購入済みで、父系が日本の馬場に合わないとか、年齢的に繁殖数が見込めないとか、残っているのは理由があるんで。それに産駒のスターズインハーアイズ(Stars In Her Eyes)や姉妹のインヴァイト(Invite)、ドレスデン(Dresden)、シェマレヤー(Shemaleyah)なんかは日本の他の牧場が持ってます」

 

流石は茶代、日本における競馬界のトップ。優秀な牝馬を輸入しようとすると自然に茶代の後追いになってしまうのか。*14

 

「数年後ディープインパクトが種牡馬入りしたら、牝馬を宛がってハイクレアの4x4クロスを狙う。それぐらいの中期視点でハイクレア系牝馬を探すのも面白いかと」

「ディープインパクトが父サンデーサイレンスだから、父が非サンデーサイレンス系の母ハイクレア系牝馬ね?」

「そうなりますな。ハイクレアの子Wily Trickは豪州で繁殖入りしたので、南半球(そっち)で探すのもアリです」

「分かったわ、探してみる*15

「ちなみに、ハイクレアの娘Height of Fashionから英国クラシック二冠のナシュワン(Nashwan)、そこから欧州代表馬スウェイン(Swain)と繋がるのでお値段は…… まぁ桂華の財力なら買えるでっしゃろ」

「うわ、所有欲を煽ってから冷や水ぶっかけるとか、鬼畜の所業」

「個人的には、女王陛下の持ち馬の血統やないけど、スペシャル(Special)の牝系もお勧めですがな。こっちもサドラーズウェルズ(Sadler's Wells)やヌレイエフ(Nureyev)に繋がるんで、お値段は気にしない方向で」

「私のお小遣いは無制限じゃないからね、買える範囲しか買わないわよ」

 

*1
1926/4生まれで作中が2004/9なので78歳

*2
即位は1952年、馬主初勝利は1949年

*3
ダービー以外のクラシックは勝っている

*4
ロイヤルアスコットは英国王室が主催

*5
「お嬢様が馬主になるそうです ケイカプレビュー ユニコーンステークス」

*6
「お嬢様の貯金箱 (なお当人は知らない模様)」~「カサンドラの慟哭」

*7
マグマライフが2004/3のレースを最後に引退し、青森の高校で繋養された

*8
デリケートワン(大井記念2着2回)が2003年末で引退して扶桑牧場で供用

*9
モデルは社台グループ

*10
本作13話に登場

*11
1997年生まれのヴェイルオブアヴァロン(Veil of Avalon)と1998年生まれのレディブロンド(Lady Blond)

*12
2004/3/21にスプリングS勝利

*13
2004/9に池江泰郎厩舎へ入厩、デビュー戦は2004/12

*14
ここはお嬢様の勘違いで、インヴァイトとドレスデンはウインドインハーヘアより前に日本に輸入された

*15
15話でホーリックス産駒を購入予定リストに入れているので、ニュージーランドに手を伸ばすはず。




黒井調教師は関西(栗東)在住なので関西弁キャラにしたけど、私は関西弁ネイティブではないので、変な部分があっても勘弁してください。

修正履歴:西暦が4桁と下2桁で表記が混在していたので4桁に統一。
修正履歴:誤字修正。
修正履歴:フリガナ処理とか、こまごまとした部分を修正。
修正履歴:誤字修正。
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