現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢が牧場を救うのはちょっと大変 作:れべっか
メイド長の斉藤佳子からケイカプレビューの名が新聞記事に載ったと聞いて、登校前の僅かな隙間時間で競馬新聞に目を通す。
……花のJCが競馬新聞を読むとか、"絵になる"って感じよね。違う意味で、だけど。
記事はケイカプレビューの次走予想で、エルムステークスかダービーグランプリのどちらに出走するのかという内容。
「んん? マイルチャンピオンシップ南部杯を目指すって話だったよね?」
確か、ユニコーンステークスの後に南部杯を目指す*1と話をしたはずだ。
まぁ詳しいことは専門家に聞けばよい。そう割り切って、競馬新聞をメイドに手渡す。
ちなみにケイカプレビューに関する競馬雑誌・競馬新聞の記事はメイド部隊の手によりスクラップブックが作成されており、それを読むのは密かな楽しみだったりする。
*
放課後に岡崎へ電話して*2聞いてみたところ、疑問はあっさりと氷解した。
「それで、ケイカプレビューはマイルCS南部杯に出るんじゃなかったっけ?」
「ケイカプレビューは現時点だと南部杯にまず出られないので、賞金を積み増す必要があります」
マイルチャンピオンシップ南部杯、盛岡競馬場で体育の日に開催されるG1レース*3。地方競馬主催の中央地方交流レースで、中央競馬所属場の参加枠は7枠。そして参加条件は3歳"以上"。
「中央所属のダート馬が参加枠を勝ち取るためには、賞金順という大きな制限があります。重賞を複数勝っている古馬*4が優先され、ユニコーンSしか勝てていないケイカプレビューがG1レースに割り込む余地はありません」
それに対するダービーグランプリは、同じ中央地方交流レースでも参加条件は3歳"限定"。ユニコーンステークス、ジャパンダートダービーと共に3歳ダート三冠レースの位置づけ*5である。
「ユニコーンSを勝ったケイカプレビューはダービーGPの出走権を確保しました*6。またエルムSはG3レースなのでケイカプレビューが出走できる見込みです*7。どちらかのレースで2位以内になれば、南部杯も出走可能でしょう」
エルムSはダート1700m、古馬混合レースだが距離不安はない*8。それに対してダービーGPはダート2000m、3歳限定だが距離不安がある。
「エルムSとダービーGPの両方に出走ってできるの?」
「できますよ。一昨年(2002年)のスターキングマンはエルムSで惨敗してダービーGPで取り返してます*9。今年はエルムS開催が9/4、ダービーGPは9/20と中1週*10が不安材料ですが」
「南部杯が10/11開催でダービーGPから中2週だし、馬の負担を考えるならエルムSですぱっと決めて欲しいとこだけど」
「調教師としては中距離を実際に走らせて確かめてみたいという気持ちもあると思いますよ。ダート短距離は不遇ですから」
日本の古馬が参加できる1600m以下のダート重賞レースは、G1がフェブラリーSとJBCスプリント、G2がかしわ記念と東京盃の合計4つ*11しかない。これが1700m以上となるとG1が5レース*12、G2が8レース*13と3倍になる。
G3は1600m以下が16個*14、1700以上が9個*15と逆転するが、G3は実績馬に重量ハンデを課すことが多く、G1馬が斤量に泣かされて勝てないことも多々ある。
中長距離ならG1とG2だけで年間のローテーションを組み立てられる*16のに対し、JBCスプリント勝利馬がその後のレース選択で苦悩するというのは有名な話*17。
「ケイカプレビューがエルムSとダービーGPどちらも惨敗しても、ライバルの馬主に金を握らせて南部杯を出走回避させれば出走できますよ」
「そういうこと言うの止めて!」
岡崎のブラックジョークにげんなりしながら通話を終了する。
あー、冗談だとは分かっていても、気分が悪い。
「これはアニマルセラピーで癒されるしか。明日香ちゃん蛍ちゃん澪ちゃんを誘って馬場に行こうかしら」
私たちの通う帝都学習館学園は小中高大一貫*18だが高校・大学に馬術部があり*19、学園内に厩舎と馬場が存在する。
中学生は馬術部に参加できないが、馬場に近づいて馬をのんびり眺めるのは許されている(もちろん大声を出すなど馬を驚かせる行為は禁止されている)。
なお学園内の厩舎は卒業生向けの乗馬クラブとしての側面を有しており、自家所有する馬を乗馬クラブに預けるという形で中学生でも馬術部に実質参加できる裏技があるのだが、これは余談。
修正履歴:てにをは修正、細かい説明を追加。
修正履歴:エルムSをド忘れしていたので予定レースを変更。
修正履歴:レース間隔の表記を変更。