現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢が牧場を救うのはちょっと大変 作:れべっか
「さて。桂華グループが愛媛のサッカーチームをスポンサードしてくれることになったわけだけど」
「私は『なんかスポンサー企業用意する』とは言ったけど、桂華グループ全体で支援するとは言ってないからね」
「はにゃ?」
すっ呆けた口調で春日乃明日香が視線を逸らす。
先日の欧州修学旅行で騒動が発生し、事情確認の席で場を和ませるための軽いやり取りをした*1のだが、それについて改めて確認しようとしたところである。
「あのねぇ…… Jリーグに限らず、サッカーには1スポンサー1チームの原則があるのは知ってる?
「えーっと、古川通信*2が川崎フロンターレのメインスポンサーやってた流れで、合併後も桂華電機が川崎のスポンサーだっけ」
「そう。それから、モンテディオ山形*3に桂華ホテルの方でスポンサーやってる」
山形は私の実父・乙麻呂が極東グループを立ち上げた場所であり、その縁で極東ホテル系列がスポンサーをやっているのだ。
「じゃあ、じゃあ、桂華の銀行・金融系なら……」
「地銀ならともかく、全国規模となるとリーグ全体とのパートナーシップというレベルだから。Jリーグ100年構想による地域密着型スポーツチームだと、やはり愛媛県の地元企業がスポンサーに名を連ねるべきよ」
まあ、ここら辺は明日香ちゃんも分かっているはずで、交渉の最初にまずは大きく吹っ掛けて、という所だろう。
「愛媛FCのスポンサーとして、大王製紙、愛媛新聞、伊予銀行といった有名どころが既にいるでしょうに」
「アマチュアリーグのJFLじゃ、まだ様子見レベルでしょっぱい金額しか出してくれないけどねー。ユニ・チャームや帝人の松山法人とか愛媛の大物には是非とも地域貢献して欲しいのだけど」
「愛媛FCの営業には是非とも頑張って欲しいところね。その2社はどちらも五和グループ*4だし、現状は落ち目じゃないから、
私の口から『買収』の単語が出たことで、明日香ちゃんの態度が変わった。ここからが私との交渉・第二段階といった感じか。
「買収。そう、買収と言えば、瑠奈ちゃんにお勧めの企業があるの。西条市に工場を持つエルピーダ・メモリっていうんだけど。今は苦境だけど、近い将来にコンピューターはもっと世界に普及するから、今のうちに唾つけておきなよ」
「エルピーダ…… ああ、反トラスト法違反で米国司法省から訴えられている*5、あれね」
「そうそう、瑠奈ちゃんなら米国大統領と『お友達』なんだから、さっさと解決できるでしょ!」
「無茶なこと言わないでよ」
「今なら、同じく西条市に工場を持つルネサス・テクノロジも付けちゃう! どちらも日立から分社化したばかりだし、セットでお安くならない?」
「ならない」
「この際、将来のコンピューター化を見据えてインフラを徹底的に押さえましょ! 具体的には四国電力とか」
押せ押せの明日香ちゃんに対し、私は言質を取られないようビジネスモードの顔を取り繕う。
とはいえ、彼女の滅茶苦茶な提案も、基本的な考え自体は悪くない。
「じゃぁさ…… 今治タオルはどう? ほら、鐘ヶ鳴紡績を買収したじゃん。繊維部門で協業できると思うのよね」
明日香ちゃんはそれまでと一転して、猫撫で声を出してきた。どうやら彼女はここをプレゼンの本命にしているらしい。
「あと、今治には造船所もあるから! 樺太航路に使うフェリーはいくつあっても足りないんでしょ?」
「ほぅ…… 明日香ちゃんにしてはまともな案」
「私にしてはって、何?!」
「まあまあ。一条に検討を指示してあるから、そんなに焦らなくてもいいわよ。でも、今治*6ね。悪くないと思うわ」
「いえーい、やったーっ!」
ぴょんと小さく跳ねて全身で喜びを表現する明日香ちゃん。コミカルな態度で、あくまで友人同士の雑談という体裁を取る彼女に、私もぴょいと小さく跳ねてハイタッチを交わす。
ここは彼女の流儀に合わせておくべきだと思ったから。