現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢が牧場を救うのはちょっと大変   作:れべっか

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タイトルは救済裏話ですが、救済してません。


第6話 高崎競馬救済裏話

「”高崎競馬の存続を願う会”からの陳情って、民間団体に泣きつかれても……」

 

秘書から上がってきた書類をペラペラ斜め読みしながら呟く。

 

「高崎競馬は1992年から連続赤字、赤字額は2003年度単年で6億5000万、累積で51億。去年(2003年)、2年間努力しても収支均衡の見通しが立たない場合は廃止すべきという報告書が出される。このままなら今秋にでも競馬組合がギブアップ宣言して、早ければ今年(2004年)いっぱい、遅くても来年で終了の見込み、と」

 

赤字状況は桂華が救済した上山・宇都宮・足利競馬と大差ない。

しかし山形・栃木と異なり、自治体は泣きついてこなかった。

 

「主催は群馬県と高崎市。競馬場に厩舎は存在せず厩舎は伊勢崎市に存在。廃止しても高崎市は市民・産業への影響が低い。さらに新幹線駅と高速バスターミナルから距離1km徒歩10分の好立地」

 

以前に高崎競馬は自治体が潰すことに積極的と聞いたことがあるが*1、納得の理由である。

 

「桂華が救済するなら今夏がタイムリミットか…… こっちから"ネッ馬"で馬券の売上アップが見込めるとセールスしても、まだ実績の数字が出せない以上は説得力不足だし」

 

資料には、高崎市議会議員が福島県郡山市のコンベションセンター、静岡県静岡市の芸術劇場、宮城県仙台市のサッカースタジアムなどに視察に行ったことも書かれている。

これもう外堀は埋められているよね?

 

「こんなときこそ国政議員先生の出番! 何のために渕上総理に恩を売ったのか!

えーと、高崎市が群馬4区で福畑議員。伊勢崎市が群馬2区で笹山議員。ついでに大寺知事は仲曽根派*2。笹山議員は郵政族で、郵政改革を掲げる恋住総理から目の敵にされている、と」

 

ため息しか出てこない。群馬県には仲曽根・福畑・渕上と総理大臣を輩出した家が3つもあり、うかつに手を突っ込んだら上州戦争一直線だ。

とりあえず政治家のことは脇に置いて、資料の続きに目を通す。

 

「競馬場敷地10.8ヘクタールのうち県と市の公有地が64%、複数の民間地権者が34%。地権者の多くは現状形態での継続保有を望んでおり、跡地を公有地として一本化するには多大な時間と財源が必要となる見込み。用地買収するなら事業目的を早期に決定して補助金などの財源を確保する必要がある」

「公有地と民間地が分離されるが、区画整理事業もありうる。周辺に都市計画道路は設置済みであり自治体による施行は困難のため、地権者が組合を設立しての施行が妥当。ただし古くから競馬場が存在するため、民間地の表向きの所有者と実際の相続者が異なる場合も考えられ、設立に必要なだけの地権者を早期に集めるのは困難」

「現状維持の利用、土地散逸防止策としてJRAやNRSに土地を貸し付けるのも一手段ではある。ただし場外馬券売場は公有地の使い方としてそれほど価値を生んでいないのも事実、今後インターネットで馬券が買えるなら場外馬券売場の必要性も下がるのはないか」

 

あー、これは競馬場廃止から再開発まで、土地は20年ほど塩漬けコースかもね。

さて、高崎競馬廃止の背景は軽くだけど押さえたし、改めて陳情内容を確認しますか。

 

……まず、”高崎競馬の存続を願う会”って一部有志でしかないのね。関係者の総意ではないという時点で話にならない。

高崎市から伊勢崎市に競馬場を移設する計画ですって言われても、見積や事業計画を精査しないとお金は出せませんって返事しかできないのよ。

個人協賛レース*3のスポンサーとしてお小遣い程度のお金なら出しても良いけど。明日香ちゃんからパーティ券を買った*4のに比べれば安い安い。

 

この書類が私の手元に来たってことは、高崎競馬の救済は諦めろっていう岡崎のサイン?

今夏のタイムリミットまでに、向こうに優秀なブレーンがついて上手く立ち回れば生き残る可能性はあるけど、こっちから人材を派遣するほどでもないってことかしら。

いや、関係者の総意を取り付けて、見積・事業計画を作成して、県・市への根回しもして。それを仕切れる人材なんて、ウチ(桂華)でもそう簡単に用意できない。

高崎が潰れた後、行き所のない人馬を宇都宮で吸収する方が現実的だわ。

 

群馬県は高崎市の競馬以外にも、桐生市の競艇、前橋市の競輪、伊勢崎市のオートレースと公営競技が揃っているから、どこかの華族がカジノ特区に乗っかる形で纏めてケツ持ちする可能性も残っているけど。

 

*1
「お嬢様が馬主になるそうです ケイカプレビュー 伏竜ステークス」

*2
本編未出の福畑議員、笹山議員、大寺知事、仲曽根元総理はいずれも仮名。

*3
高崎競馬は1999年から企業・団体協賛競走を開始。

*4
「クイーン・ビーのお茶会 その2」




参考資料:高崎競馬場跡地利活用有識者検討委員会議事概要
https://www.pref.gunma.jp/contents/000010792.pdf

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