さて、状況を整理しよう。
この天井は見覚えがある。入学式の日に事故って入院した時と同じ作りの病室。
ファルコンにバッサリ斬られて、気を失って病院に担ぎ込まれたのか。
腕には点滴、胸のあたりは包帯だらけだ。
そして、ベッドの横には雪ノ下がつっ伏して寝てる。
雪ノ下っ!!…ビックリした。なんで居るんだよ。
…寝顔に涙のあとがあるのがわかる。たぶん、起きたら怒られるんだろうなぁ。
お、ベッドサイドに水がある。のども乾いたししただこう。
「ん…、比企谷君…」
やべ、起こしたか?ここは冷静に。
「よ、よう、雪ノ下。目が覚めたか?」
「比企谷君!!」
雪ノ下に抱きつかれた!
「もう、目を覚まさないのかと思ったじゃない!!」
「残念ながら、永眠ではなかったな」
「バカ〜」
いつもなら『あら?起きたの?てっきり永眠かと思ったわ。その方が世のため人のためなのに』なんて言うクセに。今日に限っては泣いている。泣かせてしまった。
「わ、悪かったな」
「なんであんなこのしたのよ!!また自分を犠牲にして!!」
「今回のは不可抗力なんだよ、脊髄反射的にな」
「比企谷君が死んじゃったら、私…私…」
俺が死んだら、どうするんだよ。
「悪かったよ…」
泣きながら抱きついてる雪ノ下の頭を撫でる。
「んで、あの後はどうなった?」
「ファルコンはすぐに引いたわ。三浦さんと海老名さんはこちらで保護している。もちろん、私達のことも話をしたわ」
「なるほどね」
おそらく、葉山は本気であの二人を処分するつもりはなかっただろう。だが、上からの命令でやらざるを得なかった。俺が間に入ることを計算ずくでやったのか?
「比企谷君、手がとまっているわよ」
「あ、ああ、すまん」
え?いつまで頭撫でるんですか?
「うふふっ♪」
なんかご機嫌だよ、この娘。
面倒臭ぇけど…。
「決着つけねぇとな」
「ダメよ」
「え?声出てた?」
「えぇ出てたわ。ファルコン…、葉山君と戦うつもりならダメよ」
「でも…」
「いつもは『働きたくない』とか言ってるのに、こんな時だけやる気を出して。いい?貴方は怪我をしているのよ」
「しかしだな…」
「みんな心配しているのよ、貴方のことを」
「わかったよ」
「とりあえず一週間は入院だから」
「え?そんなに短いの?」
「あのバトルスーツは優秀よ」
「なるほどね」
「では、私は帰るわ」
雪ノ下が離れた寂しさを少し感じる。すげぇ、いい匂いしたし。それに…誰だまな板とか絶壁とか言ったヤツ!しっかしありましたよ!つつましやかだったけどな!だから、雪ノ下も気にすることはないぞ!
「その、なんだ、あ、ありがとな、雪ノ下」
「比企谷君がお礼を言うなんて…。大丈夫?熱でもあるのかしら?」
「うるせえよ」
「ふふっ。あ、あと」
「まだあるのかよ」
「入院中の暇つぶしに、ざい、ざい…財津君?の小説モドキを置いていくから」
「おい」
「それじゃ。また明日」
どうすんだよ、この紙の束。古紙回収に出していいかな?いいよね。