本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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主人公の名前に深い意味はありません。




一話

「なああき、守矢くんって知っとる?」

「ああ。例の転校生だろ? 割と有名だから知ってるぞ」

 

守矢コウタロウは二学期から山梨県立本栖高校に転校してきた転校生だ。

夏休み明けではなく、二学期が始まって少したってからの転校と時期的に珍しいということもあって、割と顔が知られている――――。

 

「毎日この世界に絶望したみたいな顔してるってので有名だよな。他にも、体力お化け、静岡に表情筋を忘れてきた男、静岡に表情筋を忘れてきた体力お化け……話題に事欠かない奴だ。ま、普通に会話は出来るけどな」

 

――――それが好意的かどうかはさておいて。

 

「なんや、もう話したことあったん?」

「まあ挨拶程度だけどな。てかイヌ子、お前こそ同じクラスなんだから喋ったことくらいあるだろ?」

「同じクラスどころか、隣の席やで守矢くん」

「マジか、すごい偶然もあったもんだな。……で、その守矢がどうしたんだよ」

 

オデコツインテ眼鏡という属性過多気味の少女、大垣千明はそう親友の少女、犬山あおいに問いかける。彼女もまた、太眉サイドテール巨乳関西弁というこれでもかと属性を持つ少女である。

もし仮に乙女の秘密的な内容の告白だったとしても、ここは野クルの部室。誰に聞かれる心配もない。

 

「……ここだけの話、守矢くんがなんであないな顔してるか気にならん?」

 

聞かれる心配はないのだが、あおいはズイッと顔を寄せ、心なしか声のトーンを落として聞いてくる。

 

「……それは、気になるな」

「私な、席お隣さんやし、今日思い切って聞いてみたんよ」

「聞かせてもらおうじゃないか」

 

千明のその言葉に、あおいは待ってましたとばかりに表情を変えると、こほんと一つ息をついて話し始めた。

 

「守矢くんが静岡から越してきたことは知ってると思うから省くけどな、何でも、随分急な引っ越しやったらしいわ。守矢くん本人も直前になって聞いたって言ってたし」

「ほうほう。それで?」

「ここで思い出して欲しいんは、守矢くんの名前や。ああ、苗字の方な。――守矢、ってあんまり聞かん名前やと思わん?」

「まあ、確かにあたしらの周りにはいないな。漢字的にも諏訪大社関係でしか聞いたことない」

「そう! そうなんよ! まさに守矢くんの家は古くは諏訪大社の神官で、古い家柄なんや。せやから、昔ながらの風習とかもあってな。そういう関係なのか、守矢くんには許嫁がいるらしいねん。それも、お互いに想いあってる」

「い、許嫁ぇ!?」

 

思わず千明は聞き返してしまう。

 

今日日そんな話が本当にあるだろうか? いやでも、確かにイヌ子の話にはよく分からない信ぴょう性があるしな……。いやいや、でもそんな話あるわけ……

 

が、一応顔も名前も知っている同級生の思わぬ色恋沙汰に、花も恥じらうJKの千明は正直興味津々だった。つい前のめりで聞き入ってしまう。

 

「つ、続けてくれ」

「それでな、その許嫁の子って言うのは、守矢くんの幼馴染の女の子らしいんやけど」

「幼馴染! 許嫁!」

 

少女漫画でしかみないような単語と設定に、千明は興味を通り越して興奮していた。

 

「ここまで言えば、そろそろ察しがつくんとちゃう?」

「あっ、引っ越し……」

「あき正解! お互いに好き合っていた二人は、ある日離れ離れになってしまうんや! しかも突然に!」

「く、くぅ~~~ッ!! それで守矢の奴はあんなドラクエの腐った死体みたいな表情してたんだな! 泣かせる話じゃねえか!」

 

あおいの話に聞き入っていた千明は、転校生のコウタロウを取り巻く環境を理解すると、思わず涙ぐんで共感した。

守矢コウタロウは古い家系の人間で、地元に幼馴染で許嫁を残して転校してきた。愛する人に会えない悲しさから、毎日あんな絶望しきった顔をしていた……と。

 

「イヌ子、そうと分かればあたしはあいつを放っておけねえ! なんとか慰めてやろうじゃないか!」

「まあウソやけどな」

「………………は?」

 

さらっと告げるあおいの目はめっちゃ泳いでいた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、つらい……」

 

白い息が夜の闇に消えていく。

本日何度目になるか分からない溜息を吐くと、俺は落下防止の柵に体を預けた。

 

ここは本栖湖。湖畔から本栖みちに合流する道りの、ちょうど合流部近く。数台分の駐車場をはじめ公衆トイレや自動販売機があって、この辺りを走るサイクリストやライダー達のちょうどいい休憩場所になっている。

少し下るとキャンプ場があって、シーズンになると随分にぎわうらしい。

 

ちなみに高校からは割と近いが俺の家からは凄く遠い。

 

何で俺がここにいるか言えば、「なでしこに会えるかもしれない」となんとなく思ったからだ。虫の知らせ的な。

何を馬鹿なと自分でも思う。なでしこは浜松にいた時の幼馴染で、今俺がいるのは山梨である。いくら彼女が富士山が好きだからと言って、わざわざ本栖湖くんだりまで来ることは無いだろうに、何故だか俺はこうして本栖湖までチャリを飛ばしてきていた。

 

「はあ、なでしこロスがつらい……」

 

俺と彼女は別に付き合っていたわけでも、ましてや(あるわけがないが)許嫁とかではもちろんない。ただ、いつも一緒にいた存在が突然いなくなるのが、こうもつらいとは思わなかった。もう一人幼馴染がいるが、もちろんそいつに会えないのもつらい。

 

電話すればよくねと思うかもしれないが、驚くことなかれ。なでしこはスマホ持ってないのだ。少なくとも俺が転校する時点では無かった。家が隣同士だったから連絡の必要が薄かったし、そもそも俺もこっちに来て初めて買ってもらったし。

普通買うなら転校する前だよね。別れる級友たちと涙を呑んで連絡先交換するって心情が分からんかったんだなうちの親。

 

そんなわけで、現在俺のスマホには浜松に居た頃の友人の連絡先は無い。というかこっちでの同級生の連絡先も殆んどない。あるのは隣の席の犬山と、他数人だけだ。別に俺は人と話すのが苦手とか自己紹介でやらかしたとか言う訳では無いのだが、何故かちょっと避けられてる気がする。多分梨っ子はみんなシャイ。それか静岡の民の俺を(富士山を争う)敵国のスパイだと思ってるに違いない。

 

「……お。綺麗な富士山」

 

ふと顔をあげれば、先ほどまで雲に覆われていた富士山が視界に映った。

11月の冷涼な夜の空気の中、山の中の満天の星空をバックに雄大にそびえる富士山を見ていると、なんだか少し荒んだ心が洗われるようだった。

 

「なでしこも、どっかで見てんのかな。……まあ浜松からじゃ全然見えんか」

 

自販機で買った缶コーヒー片手に、富士山を見るのが好きだった彼女に思いをはせる。

 

「帰るか」

 

飲み干した缶コーヒーを捨てるために、公衆トイレ横のごみ箱に向かう。

結局なでしこには会えなかった。まあ会えるとは思っていなかったが。

 

「……ん?」

 

さっきは気付かなかったが、トイレ横のベンチの前に、自転車が一台倒れているのが見える。

赤いミニベロだ。持ち主は十中八九これでここまで来たんだろうが、よくもまあこんな暗い中本栖みちを上ってきたものだ(ブーメラン)。

 

トイレには誰もいる気配がないので、恐らく湖畔まで行っているのだろう。倒れてるし、まあ一応立たせといてやるか。ライトもつけっぱで電池もったないしな。

 

そう思い、分かり易いように常夜灯の光が当たる位置に直して置いておいた。

 

「なんかこのチャリなでしこのに似てるんだよな……。まあ偶然だろうけど」

 

置き忘れの赤いミニベロに思う所はありつつも、自分の自転車に跨って夜の道を下り始めた。

 

帰りは下りだから楽だ。

なんて思うやつは是非とも夜に自転車で本栖みちを下ってみるがいい。超怖いから。街灯ないくせに急こう配でヘアピンカーブが連続するとか、軽く殺しにかかってる。間違いない。

 

しかも、滅多に車が通らない夜の本栖みちなのに、さっき対向車が一台通ってライトめっちゃ眩しかった。なでしこの姉妹である桜さんと同じ日産ラシーンだ。きっと桜さんならドライブがてらとか言いながら山梨まで来ることもありえなくはないし(希望的観測)、つい気を取られてしまった。

まあライト眩しすぎて運転席なんか見えなかったが。

 

(……寒いし肉まんでも買って帰るか)

 

そう俺はかぶりを振って視線を道路に戻すと、ぐっとペダルを踏みこみ、残り数十キロの道のりを進み始めるのだった。

 

 

 

 

(トマト缶一つ、コンソメ一個、野菜はあらかじめカットしておく…と)

 

放課後。

本栖高校の一年生教室外の廊下では、教室を出た志摩リンが『はじめてのアウトドアめし~簡単レシピ100選~』という本を片手に歩いていた。

彼女は図書委員であり、向かう先も図書室なのだが、その道中も本を読んでいるあたり筋金入りだ。

 

(コッヘル一個あればできるのか。今度やってみようかな、いい加減インスタントラーメンも飽きたし)

 

ラーメンと言えば、思い出すのは三日前の本栖湖キャンプ場で出会った少女…各務原なでしこのこと。

千円札の絵のモデルになったという本栖湖の富士山を見るために、南部町から自転車で来たという剛の者だ。結果疲れて寝落ちして、一人で帰れなくなって、紆余曲折あってリンと交流を深め、連絡先を登録する流れになった。去り際に、「今度はちゃんとキャンプをしよう」と告げられ、リンとしても誘うか誘うまいか迷っている最中だ。

 

(あいつウマそうに食ってたな……)

 

純真で、思ったことを全力で表現するなでしこは、ころころと表情が変わる。

美味しいものを食べた時も、表情いっぱい使って美味しさを表現するため、なでしこが食べると何でもおいしそうに感じるのだ。

 

ちなみにコウタロウの趣味はなでしこに美味しいものを食べさせることである。

 

『また一緒に、キャンプしようねっ!』

(……)

 

リンの頭に、去り際のなでしこのセリフがリフレインする。

 

(一回ぐらい誘った方がいいのだろうか)

 

と、数メートル先の角から桃色の髪を後ろでふわりと二つにまとめた少女と黒髪の少年がこちらに駆けてくるが、互いに別のことに気を取られていて気付かない。

 

(……暖かくなるまでまだいいか)

「ぶしつとうっ、ぶしつとうっ」

「落ち着けなでしこ、そっちじゃないから」

 

少年少女が互いをきちんと認識できるのは、もう少し先である。

 

 

 

 

へやキャン△

 

「えっ、なでしこホントに本栖湖居たの!?」

「えへへ、コウくんのお母さんに聞いたら本栖湖に行ったって。お姉ちゃんも本栖湖の富士山は綺麗だって言うし、ちょうどいいなって……」

「追いかけてきてたのかー……。俺が本栖湖一周して変に時間潰してなきゃ会えてたな……」

「入れ違いになったんだね…でもでも、本栖湖で運命的な出会いをしたんだよー」

「何ィ!?」

「女の子だよ?」

「……よかった」

「ふふ。その子ね――――

 

 

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