本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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10話目なのに主人公がほんへでヒロインと会話してないSSがあるってまじ??(このSS)




十話

(守矢って割とそういうことズバッと言っちゃうタイプの人間だったんだな……)

(え、大垣基準だと犬山って可愛くないに分類されんの?)

(そうとは言ってないだろ! ……さらっとイヌ子が可愛いとか言うから面食らったって言うか)

(ああ……。癖になってんだ、思ったこと言うの)

(キルア構文やめい。……で?)

(でって何さ)

(あたしは守矢から見てどうなのよ? 言ってみ?)

(うむ……。『パッション』『ちゃんみお』とかいう単語しか思い浮かばんな)

(パッションは分かるが…ちゃんみおって何だよ。あたしは千明だぞ)

(さあ……)

 

シュラフ特集のアウトドア雑誌を読んでいるなでしことあおいが顔を見合わせる。

 

「あおいちゃん。二人って仲良かったんだね」

「なんか波長合うみたいやな。やっぱ眼鏡かけとる同士やからやろか」

 

千明とコウタロウの距離が縮まったのは野クルに入部してからだが、あおいはこの二週間余りの間に二人の相性がいいことを見抜いていた。主にギャグキャラとして。

 

「あ、コウくんの眼鏡って伊達なんだよ。知ってた?」

「えっ!? 初耳や……。いやそういえば視力検査で2.0だったとか噂聞いたな。あれ裸眼やったんか……」

「静岡にいたときはかけてなかったんだ。なんかね、転校先でキャラに埋没しないようにかけ始めたんだって」

「ええ……」

 

キャラ付の為やとしたら思いっきり努力の方向性間違えとるで守矢くん……。

そもそもあんたそんなん無くてもめっちゃキャラ立っとるわ。

 

未だ千明と何事かささやきあうコウタロウを呆れた目で見ていると、はっとした顔になったなでしこが急に慌て出した。

 

「どしたんなでしこちゃん?」

「この話は誰にも言うなって言われてたんだったよ……。卒業式の時にドッキリするからって」

「ネタが薄いわ守矢くん……」

 

運動もできるし、授業中ノートもしっかり取っているし、結構何でもできる人だと思っていたが、意外とポンコツなのかもしれない。ちょっとだけコウタロウに対して見方が変わったあおいだった。

 

「あ。あおいちゃん、これ見てー」

「どれどれ」

 

シュラフ特集のアウトドア雑誌の一部分を指さしてあおいに訊ねるなでしこ。

小声で話し合っていたメガネコンビも、何事かとのぞき込んできた。

 

「化学繊維とダウンの二種類あるけど、どっちがいいの?」

「それなー、まあ細かい違いはあるけど……」

 

・ダウン

コンパクトに圧縮できる。

乾きにくいため、洗濯が手間。

高い。

 

・化学繊維

ダウンに比べ重くかさばる。

乾きやすいため洗濯しやすい。

安い。

 

「大まかにこんな感じやね」

「「へえー」」

 

あおいの分かり易い説明にアウトドア初心者の二人から納得のため息が漏れる。

さらに、とあおいは続ける。

 

「夏用は入ってる中綿が少ないけど、冬用は暖かくするため中綿がぎっしり入っとるやん? だから冬用は圧縮に優れたダウンの方がコンパクトに収納できてええんやけど……」

「けど?」

 

あおいが二人にズイッと顔を寄せる。

 

「同じ耐寒温度で化繊のものより2~3諭吉ほどお高くなっとります」

「「ごふっ」」

 

なでしことコウタロウの二人は¥マークが頭に刺さる幻覚を見た。本当にキャンプ用品は「あれ、一桁間違ってるのかな?」と思ってしまうくらいあれもこれも高い。

完全に大人の趣味である。

 

「コウくん…ゆきちがたくさん見えるよ……」

「ああ…それは近い将来俺たちの財布から旅立つであろう諭吉さんだ……」

 

目を回して虚空に向かい敬礼をしだす二人。

先ほど顔を寄せた際思ったよりコウタロウと距離が近くて内心どぎまぎしていたあおいが、若干距離を取って言った。

 

「そういえば、西部開拓時代のカウボーイは野宿するとき朝まで焚き火して気温が上がってから寝とったらしいで」

「なるほど、暖を取って夜をやり過ごすのもありだな。焚き火の他だと暖まる方法は――」

 

犬山って博識だなと感心する一方で、千明のその言葉に思い思いの方法を提案していく二人。

 

「使い捨てカイロ」

「湯たんぽ」

「温泉」

「激辛スープ」

「…おしくらまんじゅう」

「かんぷまさつ?」

「……プロレスごっこ!」

「いやないなら無理に出さんでいいわ」

 

終盤はひねり出すような表情だった二人。しかもあまり現実的ではない。

 

「…あ。コウくん!!」

「はいはいコウタロウですよ」

 

思い出したとばかりに叫んで隣のコウタロウの腕を取るなでしこ。

 

「唐突にいちゃつくのやめろ? 心が痛い。主にあたしの」

「ちがうよ!? 暖まる方法! コウくんと寝るとすっごく暖かいんだよ!」

「やっぱいちゃついてるだけじゃねえか」

「ちがくて! コウくんからだ鍛えてるから体温高いんだって。だからあったかいんだよ!」

 

ふんすと力説するなでしこにジト目を送る千明。

お前もなんか言ってやれとあおいの方を見れば、

 

「……聞かせてもらおうやないの」

「イヌ子!?」

 

裏切られた!? とばかりに思わず目を剥いて親友を見る。

が、そこにいたのは普段とはちょっと違う目付きをしたあおいだった。

 

「守矢くん。体を鍛えているというのはほんまですか?」

「急に敬語……? まあ本当だけど」

 

別に深い理由があるわけではないが、コウタロウは体を鍛えている。

元来体力お化けで、運動センスに優れる彼は常人とかかけ離れた体の構造をしているのか、チートともいうべき鍛え抜かれた体を持っている。

 

が、それを知る者は各務原家と彼個人と極めて仲のいい友人くらいなものである。

 

「ちょっと、お腹触ってええ?」

「…いいけど」

 

そう許可を取って、あおいはコウタロウのお腹周りに手を這わせる。

 

「っ!?」

 

瞬間、あおいに電撃が走った。

 

――一瞬、鉄かなんかを触ったのかと思った……。なんやこれ、人の腹筋ってここまで質量を持てるもんなん!? 服の上からでも割れてるのが分かるわ。指埋まる……。 体格がいいとは思ってたけど、まさかここまでとは思わんかったわ……!! 

 

「……もういいか?」

 

――これ、脱いだらどうなるんやろ……

 

自身の腹をさすりながら俯いたまま若干鼻息が荒いあおいに、ちょっと引きつつコウタロウは言った。

が、あおいは手を離さない。

 

「…犬山?」

「……」

「おーい?」

「……はっ」

 

二度目の呼びかけで、はっと顔をあげたあおい。

至近距離で自分をのぞき込んでいたコウタロウと目が合う。自分の手は未だ彼の体に触れたままで――

 

「っ!?」

 

ざ、と顔を紅潮させ距離を取る。何かが無性に恥ずかしくて、今はコウタロウと目を合わせられる気がしなかった。今まで生きてきて、人並みに恋愛だとか異性というものに興味はあるつもりだが、今日この時ほど強く意識したことは無かった。

うつむきがちにちらちらと目線を送ってしまうが、コウタロウはただ困惑した表情を見せるだけである。

 

そんなあおいの反応を見て、千明はごくりと唾を飲む。

聞こえないようにひそひそとなでしこに話しかける。

 

「な、なあなでしこ。イヌ子のあの反応……守矢の体って、そんな凄いの?」

「凄いんだよ…あのね、デコボコに指が埋まるの」

「ゆ、指が!?」

「うん。コウくんが全部脱いだとこは見たことないけど、腹筋とか腕とかはカッチカチだったよ。やっぱり男の子だから私たちとは違うんだね」

 

千明は父以外の男の体なんて見たことがないが、それでも男が全員それほど筋肉があるとは思わない。

思わずコウタロウの裸体を想像してしまい、喉を鳴らしてしまう。

 

「な、なあ守矢。あたしも――」

「なんか変な空気になったけど、俺男だし一緒に寝るとか有り得んくね?」

「あ、確かにそうだね。そういえばテントも別々だったよ」

「せせせせせやな!! そ、そんなんなったら色々耐えられる気せんわ……」

「――ソウダネ」

 

彼女らだって華の女子高生。異性に興味があるのは当然である。

そんないたいけな彼女らを流れとは言え筋肉フェチの世界に誘うなんて、コウタロウ、恐ろしい子……!

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン…

 

「じゃまたね、リン」

「うい」

 

終業のチャイムが鳴る。

恵那と別れを告げたリンは、がらりと引き戸を開け図書室から出た。

 

(寒っ)

 

暖房とストーブで火照った体に廊下の冷気が堪える。

 

(もうすぐ12月か……)

 

なでしこが転校してきてから二週間が経つ。

そして、コウタロウが野クルに入ってからも二週間である。

 

(…最近はあいつ、来なくなったな。いや、仕事の時はいるけど)

 

委員会に野クルと二足の草鞋を履くコウタロウが、放課後図書室に足を運ぶ回数は目に見えて減った。以前は図書室に来て本を読んだり勉強していることが多かった。加えて、普段から人がまばらな図書室である。

何となく同じ空間にいることが心地よく感じていたリンにとって、一緒にいる時間が減った現状を心のどこかで憂いてた。

 

もっとも、本人は自覚してはいないが。

 

(キャンプ用品について聞きたいって言ってたのに、全然聞いてこないし……)

 

まあ聞いたのはなでしこ伝手だが。

明日は当番が一緒の日である。その時にさりげなく聞いてみよう。

 

足取りが軽くなったリンは、来る長野へのキャンプ計画について思いを馳せる。

 

(あっちはどのくらい寒いんだろうな。…冬の通行止めでもう通れない道もあるみたいだし、来週を逃したら4月まで通れない)

 

長野など寒い地域では、登山口にアクセスする林道、国道、県道、市道などが冬季閉鎖される。解除予定日は道によってまちまちだが、おおよそ11月半ば~4月頭まで閉鎖されることが多い。マイカーなどで旅行に行く際は注意が必要である。

 

(あの山は霧も出やすいんだっけ…。あれ、熊とか出るって書いてあった気も……)

 

リンが冬の山の厳しさにだんだんと不安が募って来た時、

 

ヴーー、ヴーー

 

(守矢、となでしこ)

 

携帯に通知が入る。

メッセージアプリを開けば、差出人には守矢コウタロウ、各務原なでしこの文字。

 

『宅配便でーす』

『生ものですのでお早めにお召し上がりくださーい』

〈写真〉

 

写真には、ばっちり梱包され、さらには「ナマモノ」だの「上向き注意」だの「要冷蔵」だのとステッカーの貼られた千明が映っていた。

 

「……何やってんだあいつら」

 

 

 

 

 

へやキャン△

 

 

……毎朝、同じ車両に乗り合わせる女の子がいる。ああいや、別になでしこのことではない。

 

 

通学時間のほとんどは、その子に話しかけるきっかけを考えることに費やされる。

 

毎日彼女だけを見つめていた。

あの子のことが気になって仕方が無かった。

何故なら……

 

 

 

ホクロから、毛が生えているから!!!

 

 

(言いてぇ! 超言いてぇ!!)

 

首の後ろのとこのホクロから毛が生えてますよって!!

だが俺に、そんな勇気は無かった……。

 

 

そうやって後悔している間に、彼女は降りて行ってしまう。

 

(クッ、また言えなかった…!)

 

 

 

 

「って訳だ。どう思う?」

「……それ、女子の私に言う?」

 

今日は図書委員の仕事があったため、志摩に相談してみることにした。

彼女は口数も多くないし、表情もあまり変わらないためクールとみられることが多いが、話してみると意外とノリがいいし面倒見がよく良い奴である。

きっと何か助言をくれるに違いない。

 

「いやまあ、こんな相談できるのお前くらいしかいないし」

「そうなんだ…………。まあ守矢って友達少ないもんね」

「一言多いぞ」

「ふふ、ごめん」

 

そう言うと志摩はうーんと考え込んで、やがてアドバイスをくれた。

 

「言わない方がいいと思う」

「……やっぱり?」

 

まあ普通そうだ。

でも、でも俺は……!

 

「確かに女子の体をいろいろ言うのはあれだけど……」

「やめときなって。そんな親切心は絶対伝わらない」

「……」

 

いやそもそも親切心なのか……? と考えだした志摩を横目に、俺は黙ったまま棚の整頓作業に戻った。

 

 

 

 

翌朝。

 

(確かにヤバい。いきなり「ホクロに毛が生えてますよ」なんて言う男、俺なら殴る)

 

それに、「何こいつ! 私に気があるの!? キモイ!」と思われるだろうし。俺にメリットが全くない!

……いや下心がないとは言えんが。

 

(だが、それがなんだ。なんとしても今日は言う)

 

俺はそう決意を固め、彼女が立つ扉付近まで移動する。

 

(絶対に…なんと、しても……)

 

真後ろのポジションに陣取り、つり革を掴んだ。

 

(うわやっべぇ! 近い近い近い!! 無理無理無理!)

 

が、思ったよりも近づいていた距離に反射的に顔をそむけてしまう。

 

(助けてなでしこ! やっぱ無理だ俺には。駄目だこりゃ! 諦める! 明日から電車の時間ずらす!)

 

そう心の中で畳みかけた時、あることに気付いた。

 

(……あれ? ちょっと待て、何かおかしくないか? ……おかしいぞこれ!)

 

そう、思えばこのホクロ毛。こんだけ目立つのになぜこんなになるまでほっといたんだ。

まず周りの人間が誰か指摘するはずだろう。

 

誰も言わなかったのか…これを?

 

言う人が…誰か、誰も……?

 

(ひょっとしてこの人)

 

気付く。

 

(友達がいない?)

 

気付く。

 

(このホクロ毛は、孤独である証拠?)

 

この人…誰からも見てもらえないのか……?

誰も……?

 

 

電車が止まる。

いつも彼女が降りる駅だ。

 

彼女が歩きだす。孤独な、彼女が――――

 

 

「待って」

 

ピクリと彼女の動きが止まった。

駅の喧騒の中、こちらを振り向いた。

 

(いや、俺がいた。もう俺個人がどうこうの話ではなくなった。この胸糞悪いホクロ毛だけは、刺し違えてでもとってしまわなければいけないと思った)

 

よし……!!

 

「…ホクロから毛が生えてる」

 

「――っ!!?」

 

彼女は一瞬目を大きく見開くと、そののちに顔を真っ赤にして自身の首元を手で押さえた。

 

「……っ」

「……」

 

くっ…! どう出る?

客観的に見て、俺はただのヤバいやつである。初対面の女の子にホクロ毛が映えてるなんて言う男はセクハラで訴えられてもおかしくない。

 

俺は判決を告げられる被告人のような気持で立っていた。

 

「…フッ、フフフ……!」

 

と、突然彼女が笑い出した。

 

そして。

 

「どうもありがとう」

 

どこか恥ずかしがった気配の残る、それでも一切の穢れが無い笑顔で、そういった。

 

 

 

……

以上が、こんなくだらないことに真剣に悩んでいた愚かな男の話である。

 

 

 

 

「え、お前ら一緒に登校してんじゃないの?」

「なでしこが朝弱くてな。俺が先に出ることが多い」

「私は一緒に行きたいのに~!」

「なら朝もっと早く起きろ」

「せやな~。守矢くん見張っとらんと、女の子追っかけて違う駅で降りかねんしな~?」

「なっ、犬山お前見て……!?」

「コウくんどういうこと!?」

 

 

 

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