読者の皆ー、オラに評価を分けてくれーッ!
「二人ともお疲れ。どうだった? バイトの面接」
夕方。
富士川と早川が交わる辺り。52号線沿いの商業区画の駐車場で、ドラッグストアから出てきたコウタロウが一仕事終えた表情の千明とあおいに声をかけた。
そのまま買って来たお茶を手渡す。
「「採用!」」
ありがとうと礼を言って受け取ると、笑顔でサムズアップ。
千明は酒屋『酒の川本』に、あおいはスーパー『ゼブラ』にそれぞれバイト先が決まったようだ。コウタロウは嬉しそうに笑顔をこぼす。
「良かった良かった。片方受かって片方落ちたとかいう事態にならなくて」
「確かにそれはつらいな……。二重の意味で」
「中々バイト募集してるとこなかったもんな。ほんま、コウタロウくん紹介してくれて助かったわ」
「まあ偶々だけどな」
そう。何を隠そう、スーパー、ドラッグストア、酒屋がTの字になるように立ち並ぶこの商業区画のアルバイト情報を提供したのはコウタロウなのだ。
事の発端は、経済的に困窮している野クルの現状を憂いた千明とあおいが、コウタロウのバイト先でアルバイトを募集していないか訊ねたこと。生憎募集はしていなかったため、代わりに隣店に聞き込んで情報を得たというわけだ。
「いやー、それにしても、この三店舗それぞれに野クルメンバーが働いているって凄くないか?」
「「確かに」」
コウタロウはドラッグストアでバイトをしていた。転校してすぐに働き始めたが、隣の大型スーパーに客を吸われ、あまり忙しくはない。そういう意味ではあおいは商売敵になるが、お互いバイトの身なので全く意識はしていない。
「ククク、いずれこの辺り一帯を野クルの支配下に置いてやるズラ……」
「部員の数が足りんな」
「ただのバイトが何言うとるん」
「お前らの心ないツッコミが痛いぜ……」
三人は駅の方に向かって歩きだす。
とはいっても、千明とあおいの家はこの近辺のため、電車に乗るのはコウタロウだけだ。二人は見送りである。
「お前んち確か南部町だろ? よくここまでバイト来るよな~」
「あの辺全然バイトの募集ないからなあ」
「コウタロウくん家からこの辺て20km位あるよな。電車乗っても30分はかかるで」
「まあ電車使うと時間かかるけど、休みの日はチャリで来てるしそこまで大変じゃないぞ」
「……なああき。なんか会話が嚙み合ってない気するん私だけ?」
「奇遇だな。あたしもだ」
フィジカルモンスターコウタロウは、自転車で家から15分ほどでバイト先に着くことができる。車かな?
「兎に角、これで取り合えず活動資金は確保できそうだな」
自身の肉体が常人のそれとはかけ離れていると自覚があるコウタロウは、こほんと咳払いをして話題を変えた。
「おう。折角新入部員も入ったことだしな」
「今年こそキャンプしよな」
「「「おー!!」」」
なお、コウタロウはその新入部員である。
「あ。コウタロウお前、結局テント買ったんか?」
「週末に志摩とアウトドアショップ見てくる予定だ。アドバイス欲しくて」
「デートかお前!?」
「ちげえ」
「アウトドアショップって、身延駅のとこの?」
「お、知ってたか犬山」
「ふふ。実はあそこなー――――」
「デートなんだろ!? なんとか言えコウタロウ!!」
「ちげえ」
☆
「それで二人ともコウくんの呼び方変わったんだね」
昨日のバイトの一件から、千明とあおいはコウタロウの呼び方を変えていた理由をなでしこに話した。
「まあ付き合いも長いしな。なでしこちゃんは名前呼びなのに、コウタロウくんだけずっと苗字呼びなのもって思って」
「イヌ子はコウタロウメル友勢の初期メンバーだしな」
「ふふん。初期メンバーどころか、私コウタロウくんと初めて連絡先を交換した女子なんやで?」
「「何!?」」
ドヤ顔で自慢するあおいに、面白いように食いつく二人。
コウタロウは委員会の仕事で今はいない。内緒話(ガールズトーク)し放題である。
「あたし絶対なでしこが一番最初だと思ってたぜ……」
「私、こっちに来る直前までスマホ持ってなかったんだよ……」
心底残念そうな表情をするなでしこ。
それを見てちょっぴり優越感を感じつつ、しかしいかんいかんと首を振るあおい。
「そんなこと気にせんでも、コウタロウくんはなでしこちゃんのこと大事に思てるよ?」
「うぅ……。コウくんの一番はぜんぶ私がよかったよぅ……」
「「……」」
なでしこの言葉を聞いたあおいが頬を染めながら手をパタパタさせて扇ぐ。
「あ、あかん。ストレート過ぎてなんやこっちまで恥ずかしなってきた…」
「ほんとそれ。静岡民って思ったことストレートに言っちゃう県民性なのかな……」
コウタロウ然りなでしこ然り…。
千明は遠い目で呟いた。
☆
場所は変わって図書室。
例の如く閑散とした室内には、今はリンとコウタロウ、図書委員の二人しかいなかった。
そろそろ完全下校時刻。夕日が差し込む中、コウタロウは書棚の整理、リンは定位置のカウンター内で読書しながら、時折視線を唯一の男子生徒に向けたりしていた。
と、コウタロウは動いていていた手をぴたりと止め、思い出したような声音でカウンターの方を向く。
「そうだ志摩。前も言ったけどちょっと付き合ってほしいんーーー
「!? くぁwせdrftgyふじこlp!?」
「…おっと。ちょっと待て今どうやって発音した!?」
ぼん、と顔が上気。唐突すぎる言葉にリンがあからさまに動揺し、持っていた本を放り投げた。
運動能力に関しては恐らく人類、いや銀河ギリギリぶっちぎりの凄い奴のコウタロウが難なくキャッチし、カウンターに近づいてくる。
「どっ、どどどどどういう…!!?」
リンは混乱していた。
――何故このタイミングで告白!? い、いやシチュエーションとしては割と全然理想的ではあるんだけど……! でもいきなりすぎるし、私たち知り合ったばっかだし……って、あれ。そうでもないぞ? むしろ守矢と一番付き合い長くて深いの私じゃね?(なでしこは除く)
あれ? もしかして意外と妥当なタイミングなのかこれ?
……あれ?
自然とリンの頭の中では晴れて恋人になったコウタロウとの生活が夢想される。
放課後委員会が終わって二人で帰ってみたり、一緒にキャンプに行ってみたり、同じテントの中で互いにドキドキして眠れない夜を過ごしてみたり……
――って、いや違う! 私は守矢のこと好きじゃないし……!! そもそも、なでしこはどうすんだよ。あいつ追っかけて山梨まで来てんだぞ、同意もなしに付き合うなんてそんなこと……。
……リンは混乱していた。
「志摩? こないだ言ったアウトドアショップに付き合ってほしいって話なんだけど、聞こえてるかー?」
もしもーしと、内心テンパりまくるリンの前で手を振る。
が、今のリンに聞こえるはずもなく、しかも心の声がだだ洩れていた。
「いやだから私は守矢のこと好きとかじゃないから……!」
「お、おう……。唐突嫌い宣言は割と傷つくぞ……」
「へぁ!? 聞こえて……?」
「な、なんかごめんな。志摩って話しやすいし、一緒に居て楽だから当番合わせてたんだけど、今度から変えてもらうから……」
コウタロウからしたら、本の貸し借りとかしてるし、好きとはいかないまでもいい印象は持ってくれているのかなと思っていたくらいだったので、かなりショックである。
メガネの奥で精神にクリティカルダメージを受けていた。何なら泣きそうだった。助けてなでしこ。
「!? ち、違…、嫌いとかじゃなくて……」
リンからしてもショックである。
何がどう聞こえていたかは分からないが、何故だか私があいつのことを嫌いだということになっている。そんなわけないだろ! 嫌いな奴と当番一緒にしたりましてや本の貸し借りなんてするわけない!
クールな表情の裏で精神にクリティカルダメージを受けていた。というか表情崩れていた。助けてなでしこ…!
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れていた。
お互い初めてこいつ(あいつ)といて沈黙が気まずいなんて思ったな。と感じていた。空気が重い。
「……あの」
先に限界が来たのはリンだった。
「その、お前のこと…全然、嫌いとかじゃ、ないから……!!」
「……お、おう」
「それだけ……っ!!!」
「うお、志摩!?」
真っ赤な顔で俯いたまま絞り出すようにそう言うと、ついに限界を超えたのか、荷物をひっつかんで走り去ってしまう。
後には呆然と立ち尽くすコウタロウのみが残された。
「ええ……?」
彼からすれば、前々から話していた件について確認しようとしたらいきなり「あなたのこと好きではありません」と告げられ、告げられたかと思ったら撤回され、そして言った本人は帰ってしまうという、ハリウッド映画もびっくりな急展開である。
「……取り合えず、閉める作業は終わらせないと」
そう言って、本来二人でやる作業を一人開始した。
結局、コウタロウが帰ったのは完全下校時刻を過ぎた頃になった。
へやキャン△
その日の夜。なでしことコウタロウのトーク画面。
【コウくん今日遅かったね。校門であきちゃん達と待ってたけど、なかなか来ないから先に帰っちゃったよー】
【すまん。委員会でいろいろあって】
【図書委員で何かあったの?】
【なんか志摩がな……】
【リンちゃん? リンちゃんがどうかしたの?】
【俺のことを嫌いじゃないということが分かった】
【どういうこと??】
【さあ……】