今日は誰が何と言おうと4月1日。いいね?
「ねえねえ、みんなの好きなタイプってどんなの?」
いつものように野クルの狭い部室で四人が駄弁っていると、唐突になでしこがそう聞いてきた。
「俺の好きなタイプはだな――」
ふむと皆が一様に悩んだり考える中、即座にコウタロウが口を開きかける。が、慌てた様子の千明が割って入った。
「ちょちょちょ、なんでそんなノータイムで答えようとすんだよ! 男女の距離感バグってんのか!?」
「いいだろ別に減るもんじゃないし」
「減るだろ! あたしらのメンタルが! お前そういうのはなんかこう、駆け引き的なものが入り混じる恋愛頭脳戦がさあ……」
というか普通に恥ずかしくないのか? それともあたしらのことは全く眼中にないからか、と頭を抱える千明。
「というかコウタロウくんのタイプってなでしこちゃんじゃないん?」
「そうそれ! あたしも思った!! というか全校生徒が思ってる!」
「えへへぇ……」
傍から見れば「えっ、付き合ってないのあの二人!?」と言われるくらい距離が近いしバックグラウンドがあるなでしことコウタロウだが、現在二人は恋人関係にはない。
なでしこは言わずもがな、彼女の転校の前後のコウタロウの変わりようを見ても憎からず彼女を想っているのは明らかで、さらにそれが男女とくれば、もうタイプもくそもないのでは。というのが二人の見解だった。
だが、予想に反してコウタロウの口からは否定の意。
「確かになでしこは俺のタイプにかなり近い。けど、残念ながら100%ではない」
「なん、やて……!?」
「マジかよ……!」
「じ、じゃあコウくんのタイプってどんなの!?」
三者とも大なり小なり驚いている中、一人冷静なコウタロウはまあ落ち着けと言葉を区切る。
「では…第一回、チキチキ! 俺のタイプは何でしょなクイズ~!!」
「「「……」」」
よく分からないノリが始まり、少し空気が固まる。
「さ、作戦ターイム」
「許可する」
千明は残る二人を連れて部室の入り口付近に移動した。
コウタロウに背を向け、ひそひそ声で話し始める。
(お、おいコウタロウの奴どうしたんだよ一体…? 普段から割とぶっ飛んでるけど、今日は輪をかけておかしいぞ!?)
(うーーん……)
(と、とにかくコウくんのタイプは知っとかなきゃだよ)
(それもそうか……ってそれはお前だけだろ)
(クイズって言ってたから、人数は多い方がいいんだよ!)
(正論だ……!)
(まあやってみてもええんちゃう? うちらにデメリット無いし)
(二人がそう言うなら……)
参加するという方向で結論が出た三人は、コウタロウに向き直る。
「お、結論は出たっぽいな」
「おうよ! やってやろうじゃねえか、そのクイズとやらを!!」
千明は半分やけくそで、あおいはどこか飄々とした顔で、そしてなでしこは決死の表情で気合十分にこぶしを握った。
「それでは、まず本日の献立は『守矢コウタロウの好みの異性』ですね。おそらくあまり需要は無いかと思われますが、世界のどこかにいるであろう私のファンのためにお送りしていきたいと思いまーす」
「おい今献立って言ったぞ。クイズじゃなくて料理番組的な何かが始まろうとしてるんだけど」
「本日のゲストはこの方。ミスター梨っ子の大垣千明さんです! 拍手~」
「あたしはそっち側なのかよ!」
コウタロウにつられ、あおいとなでしこから「わ、わー」と戸惑いつつも拍手が漏れる。
その光景に満足そうにうなずくと、では次とさっさと進行していく。
手元には紙が用意され、イラストと共に進行していくようだ。流石に料理番組のセットは用意できないから仕方がない。
「まず、なでしこを用意します」
紙にはデフォルメされたなでしこが描かれる。割と絵がうまい。
「いよいよクイズどこいったんだよ」
「落ち着け大垣、大丈夫ださらにひと手間加えるから」
「一体それの何が大丈夫なんだ……」
「なでしこちゃんが食材扱いなのにはツッコまんのかい」
「わ、私ひと手間加えられてどうなっちゃうんだろう……」
「純粋か」
クイズはどこに行ったのかという千明の言葉は華麗に無視され、調理は次のステップへ。
「なでしこをベースに、性格に斉藤を1、志摩を3の割合で加え弱火でコトコト煮込みます」
なでしこと、恵那、リン(しっかり恵那の三倍の大きさ)が鍋に向かって矢印で伸びている。
冷静に見るとちょっとグロテスクな絵である。
「本格的に料理じゃねえか! クイズはどこに行ったんだよ!!」
「よく煮詰まったら、犬山みをよく加えて、すこーし引き延ばします。ここ大事ですからね」
紙には新しくなでしこをベースにちょっとクール成分を足され、(どこがとは言わないが)スタイルがよくなり身長も伸びたキャラがデフォルメされていた。
「犬山みて」
「無視すんなよ!」
「……んん?」
というか、今まで出た素材って知り合いばっかだな。あたしらって割とコウタロウの好みに近かったのか……? いや、でもあたしがまだ出てきてない……。なんかもやもやする。
コウタロウは一向に外野の言葉を拾うことはせず、次が最後の工程ですとメガネをクイッと上げる。
「最後に、大垣をそっと添えて完成だ」
さっと一筆描き足すと、堂々と完成を告げた。
「アタシ成分メガネだけかい!!」
完成されたイラストを覗き込んだ千明が真っ先にツッコんだ。
続けて、あおい、なでしこもイラストを見る。
「……これお姉ちゃんでは?」
「コウタロウくん器用やな…って、ほんまや。これ桜さんにめっちゃ似とる」
「えっ、どれどれ……ホントだ! なでしこ姉にクリソツじゃねえか」
確かに、イラストのキャラはなでしこの姉、各務原桜に似ていた。
「お前ら、さっきのレシピを思い出してみろ」
「レシピて」
「うーん……」
なでしこ達は反芻するように、コウタロウの言ったレシピを思い出していく。
「確か、私をベースにリンちゃんと恵那ちゃんを3:1で加えて――」
「今んとこクールだけど面倒見のいいなでしこだな」
「その後、私みが加えられて、身長が伸びたな」
「クールで面倒みよくてスタイルのいい私だね」
「最後に、あたし成分(メガネ)添えて完成」
「クールで面倒みよくてスタイルのいいメガネを掛けたなでしこちゃんやな」
「「「……」」」
「「「それお姉ちゃん(桜さん)(なでしこ姉)じゃん!!!」」」
三人は結論に至った。
と同時に、その元凶に詰め寄っていく。
「コウくん!? お、お姉ちゃんが好みのタイプなの!!? や、やっぱりこないだ二人で行ってたのはデートなの!?」
「ホントのところはどうなんー」
「コウタロウお前! もうちょっとアタシ成分入れろや!! メガネだけは納得できんぞ!?」
聖徳太子が如く至近距離で詰め寄られ、それでもコウタロウは冷静さを崩さない。不自然なほどに。
まあ待て落ち着けと手で制し、こほんと息を一つ。
「ウソだぞ」
その唐突過ぎる言葉に、一瞬ぽかんと間が空いた。
「だからな、全部ウソだったんだ。ほら今日何月何日?」
「「……へぁ??」」
いまだに目が点状態から抜け出せない二人に向け、今度はあおいがスマホの画面と共に説明した。
「今日はな、4月1日。エイプリルフールや」
「「え、エイプリルフール……」」
「そう。企業なんかもウソ企画やってたりする、一年に一回堂々とウソをつける日やで」
「ま、犬山には途中から気付かれてたっぽいけどな」
ホラを吹くことに関しては一家言あるあおいに言わせれば、なんならいつもよりぶっ飛び方がずれていた時点で疑っていたくらいである。
ようやく理解が追い付てきたなでしこが、安堵の息をこぼす。
「な、なんだぁ……。じゃあお姉ちゃんがタイプって言うのもウソだったんだね……?」
「そもそも俺見た目で判断しないしな」
「そっか、そうだよね……よかったよぅ」
若干涙目のなでしこが、もう離さないとばかりにコウタロウにひしとしがみついた。
やれやれと優しく頭を撫でる。
「ま、まああたしも最初から気付いてたけどな!」
「バレバレのウソつくんやめえや」
と。
唐突に、「そういえば」とあおいが口を開いた。
「コウタロウくん。こないだの告白の返事やけど、OKやで」
「「「え?」」」
「末永くよろしくなー」
「「「えっ……!?」」」
へやキャン△
なでしこの場合
「私の好きなタイプはね、優しくて、温かくて、頼りになって……」
「あ、もういいです」
「なんでぇっ!?」
「そんな一点を見ながら言われてもなあ……」
(なでしこの周りにそういう男がはびこらないように気を付けよう)
千明の場合
「あたしのタイプかー」
「あ、もういいです」
「何でだよっ!! もっと興味持とう!?」
「えー? 大垣の好みなんてどうせイケメンとかだろ?」
「ち、違わい!」
「あきちゃんのタイプかぁ……あおいちゃん知ってる?」
「話の合う人」
「「ほぉ……」」
「ガチの奴やめろや!!!」
あおいの場合
「イヌ子の場合は何言ってもホラで済まされそうだからな……」
「「確かに」」
「失礼な。私かて好きなタイプの一つ二つあるよ」
「どんなのどんなの??」
「せやなぁ……うーん……」
「もったいぶらずに教えろよー」
「うーん……。……私のことをずっと好きでいてくれる人、かな」
「「「……っ」」」
「えっ、ちょっ、何なん三人とも!?」