「もう日が暮れ始めてるよっ!?」
「キャンプ場まではどのくらいあるんだ?」
「大体一キロ!」
「結構ある…!!」
休憩所で寝過ごし、大幅に遅刻した四人。
慌ただしく、ほったらかし温泉からキャンプ場へと向かう。
そんな中。
「おんたま揚げ揚げたてだよー。買ってって~」
『……』
ぴたりと動きが止まる。
顔を見合わせる四人。うむと頷き合う。
そして。
「まいどー」
「急ぐぞお前らっ!!」
「「「おーっ!!」」」
☆
ほったらかし温泉を後にして、富士塚通りへ戻り、イーストウッドキャンプ場への道を進む一行。
辺りの道路脇には木々が生い茂り、山肌が直に覗く。足元の舗装路もおぼつかない。
辛うじて道、路…?と呼べなくもない有様だ。
「なーあきー」
「なあ大垣」
「ねえあきちゃん」
三人が口をそろえて言う。
「「「こっちで合ってるの?」」」
加えて、ほっとけや温泉から出た時は登っていたのに、先ほどから道は下っていた。
三人が不安を覚えるのも当然と言える。
「んー、地図ではこっちになってんだけどなぁ……」
先導しスマホの地図アプリとにらめっこしながら、千明が自信なさげに答えた。
「日も暮れてきたし」
「ちょっと暗いね……」
「黄昏時ってやつだな」
夕方と呼ぶには薄暗すぎる山道。
四人の他に人気は無く、時折木々のさざめきと野生動物の鳴き声が聞こえるのみだ。
「「……」」
心細くなったのか、なでしこは、千明の隣でスマホを覗き込むコウタロウと少しだけ距離を詰めた。きゅ、と袖口をつまむ。
あおいは千明の方に寄ろうとして少し逡巡して、やっぱり千明に近寄った。
「私、暗い森って苦手なんだよね……」
「林間キャンプ場全部NGじゃねえか」
おっかなびっくりと言った様子のなでしこ。
寿司屋に行ってさあ食べるぞという時に「自分魚介ダメで……」と言うようなものである。すかさず千明がツッコんだ。
「なでしこは森に限らず暗い所苦手なんだよな」
「コウくん! もう、あえて言わなかったのにー…」
変に意地を張ったなでしこが頬を膨らませる。
その反応が既に肯定してしまっているようなもので、あーと頷き納得する千明とあおい。
「なでしこちゃんホラー映画とか苦手そうやもんなぁ」
「んで夜トイレ行けなくてコウタロウについてきてもらってそう」
うんうんと頷きあう二人に、コウタロウは笑顔で答える。
「二人とも……正解!」
「「やっぱり~」」
「もう! コウくんっ!!」
「「「ハハハハハ」」」
なでしこが憤慨する様が全然似合ってなくて、またどこか可愛らしくて。三人は思わず声をあげて笑った。
「……って。もしかしてあれじゃね?」
千明が前の方を指さした。
つられてその先を見る。
【イーストウッド キャ…】
随分と古ぼけた看板で、後ろの方は掠れて文字が読めない。
その有様を見た一行は口をそろえた。
『ンプ場だ(や)』
☆
作務衣のナイスミドル管理人に遅れたことを謝り、チェックインを済ませた一行は、キャンプサイトの中を予約した場所に向かって進んでいた。
「あきちゃん、どこにテント立てるの?」
「ふ…こっちだ。ついてきな! 各務原隊員!」
「了解であります! 隊長!」
小走りで駆けていく二人の後を、普通に歩きながらついていくあおいとコウタロウ。
なお二人の荷物はコウタロウが持っている。
「管理人さんのリビングスペースめちゃ良かったよな」
「なー。余生はあんな感じでゆったり過ごしたいわー」
「不労所得憧れる」
「なら、将来野クルの皆でキャンプ場造って暮らさへん?」
「そういうのもいいな」
「約束やで」
「気が早え……」
妙に確信をもって言うなあとコウタロウ。
と、前方でこちらに向かって大きく手を振る先行二人の姿が映る。
どうやら景色を見るのを一緒に楽しむため待っているらしく、しきりに手が揺れる。
あおいとコウタロウは顔を見合わせると、二人して駆けだした。
そして。
「待たせたなお前ら! ここだーーっ!」
「「「おーーーっ!!」」」
三人から感嘆の声が上がる。
眼下に広がる笛吹市の景色。辺りを山で囲まれる市街と、それを縦断するように走るJR中央本線。
空気が澄んでいるため遠くまではっきり見ることができる。流石に富士山は見えないが。
「最高やないのー!」
「ちょっと高い方が見晴らし良いと思って、二段目にしたんだよー」
「ナイスと言わざるを得ない。悔しい! 大垣相手なのにっ!」
「あたしのことなんだと思ってんだよ」
「オデコメガネ」
「お前もメガネだろうが!」
「俺のは度入ってないから」
「何で掛けてんだよ!? そう言えばメガネ無くしたって言った時も普通に歩き回ってたな!! もう外せそれ!」
なんだとうと取っ組み合う(互いの眼鏡を外し合う)二人をよそに、なでしこはカシャカシャとスマホで景色を撮影することに余念がなく、あおいはスルーを決め込みテント設営のために準備にかかっていた。
なでしこも手伝うためすぐにあおいに続けば、一度立てたという経験もあっててきぱきと野クル激安テントが組みあがっていく。
「二人とも、じゃれ合ってないでテントとか準備せな日暮れてまうでー」
「「はっ、そうだった」」
その言葉に互いに手を止め、準備に取り掛かり始める二人。なでしことあおいが一つテントを立てているので、残る彼らはコウタロウのテントを協力して設営することに。
「とは言っても、テント立てて荷物中に突っ込んだらもう終わりだけどな」
「何も道具無いもんな、あたしら……」
通常であれば、テントを立てて、その後で寝袋マットを敷いたりチェアやテーブルを組み立てたり屋外ランタン用のポールを立てたりと、小道具や火起こし、料理に時間を割くが、われらが野クルは万年金欠。
今回のキャンプにおいてイスやテーブルなど用意できるはずもなかった。
そして、今回一行が持っているテントは野クルの激安テント一つと、コウタロウが先日購入したテントの二つ。直ぐに準備は終わると予想された。が……
「これがしまりんのおすすめテントかー。…ん?」
「どうした?」
「なんかこれ、あたしらのテントと違くないか?」
「テントに違いなんてあるのか?」
「ほら見てみろこれ。ポール通す穴が無い」
「はあ? そんなわけ……ホントだ」
コウタロウのテントを広げていざ設営しようと思った矢先である。二人にはポール破損事件でのテント設営経験しかなく、従って野クルテント――スリーブ式でないものも初めてなのだ。
「どうすんだこれ。テント立てらんないぞこれ」
「オイオイオイ、死ぬわ俺」
二人の様子に、野クルのテントを立て終えたなでしことあおいも何事と寄ってくる。
「どうしたのコウくん?」
「ああ。もしかしたら俺、そっちのテントにお邪魔するかもしれない」
「四人も入らんわ。吊り下げ式テントごときで大げさやで…」
「「「吊り下げ式?」」」
聞きなれない言葉に三人が三人とも首をかしげる。
やっぱ知らんかったか…とあおいはこめかみに手をやると、こほんと一つ咳払いをして説明を始めた。
テントには、主に本体をフレームに吊るして設営する「吊り下げ式」と、本体のスリーブにポールを通して設営する「スリーブ式」の二つがある。
本当にざっくり違いを説明すれば、強度が高いが設営がめんどくさい「スリーブ式」、設営、撤収が楽だが低強度「吊り下げ式」といったところ。
「……って感じやな」
キャンプ雑誌やウェブサイトなど、人知れず知識を蓄えていたあおいによって二種のテントの違いが説明される。伊達にビバークの新刊を借りてきていないのだ。
その博識ぶりに、おおと三人は色めき立つ。
「なるほど。それにしても、犬山は何でも知ってるなぁ」
「何でもは知らんよ。知ってることだけ」
「イヌ子がいれば、一先ず安心だな!」
「ね。早速テント立ててみようよ!」
「じゃあ犬山えもん。吊り下げ式の立て方教えt――」
「あ。知ってるだけやから立て方とか実践的なとこは分からんで」
「「「えぇ……」」」
結局、探し出した説明書を見ながら立てた。
へやキャン△
【こーたろー】
【あーやのー】
【見てよこれ】
【写真】
【え、バイクじゃないですか。どうしたよこれ?】
【へへ、こーたろのに憧れちゃってさ】
【ほー。それで、買っちったわけですか】
【買っちったわけです】
【そうかー。写真見せただけだけど、よもや買っちゃうなんてなー】
【これで一緒にツーリング行けるじゃん?】
【そうだな、楽しみだ】
【今度の冬休み帰ってくるでしょ? その時行こ。来ないなら私がそっち行くから】
【当然帰るって。じゃあ俺はバイク乗って浜松戻ればいい訳だな?】
【うん。約束ね】
【おうともさ】